107章 遺跡探検
源は、ロック、リリス、エリーゼ・プルとバーボン・パスタポ、ボルア・ニールセン。そして、ローグ・プレスを呼んだ。それらが集まって源は現在の深刻な状況を話す。
「サムエル・ダニョル・クライシス戦士長は、生命数値600を超えているらしい。その数値は10年前のことだ。今のところ俺たちの力では、太刀打ちできない。ここに揃っている俺以外のメンバーは生命数値は50を下回っているからだ。俺も150程度しかない。それでも、実際にドラゴネル帝国を退却させたことは間違いがない。ということは、俺たちは、今でもそれなりの力を持っているのに、まだ伸びしろが沢山あるということだ。一緒に、強くなって、今後のみんなのために戦ってくれないか?」
ボルア・ニールセンとローグ・プレスは言う。
「「もちろんです!」」
今回は、この7人と新しい仲間、物質モンスターのミカエルを加えたメンバーで、遺跡探検にいこうと思う。
ミカエルは、挨拶をする。
「皆様。よろしくお願いします。わたしはミカエルと申します」
ボルア・ニールセンが、聞く。
「よろしくお願いします。あなたが最近、噂になっているセルフィ様が造られたミカエルさんなんですね」
セルフィが答える。
「正確には、物質モンスターではないんだ。俺たちが持っている剣や鎧のような道具が、ミカエルだと思ってくれればいい」
「道具?ですか?」
「そうだな・・・説明しずらいけど、しゃべることができる道具というところなんだ」
「そうなのですか・・・」
源は、ミカエルに命じた。
「分裂しろ」
ミカエルは、5cm四方の300個のソールに分解して、地面に広がった。源は、その1つを手に持って、説明する。
「これがミカエルの体のソースで、このソースという道具が、集まったものが、今みせたミカエルの形なんだ。人型の形をしているだけで、本当は、この小さい黒い箱が、ミカエルなんだよ
まだ戦えるためには時間がかかるけれど、みんなを守るぐらいなら出来る。だから、ミカエルは、みんなを守ってくれる動く道具の盾だと思ってくれればいい。生命として生きているわけじゃないんだ。わかったかな?」
「そうなのですね・・・本当に不思議です・・・」
「どうしても、危険な場合は、このミカエルが囮になって、時間を稼ぐから、俺たちはその間に逃げよう。ミカエルが可哀そうとか思わなくていい。このミカエルのソースは、ミカエルの一部でしかなくて、300個どころではなく、2万個のソースがあるんだ」
「分かりました。ミカエルは、道具なのですね」
「そうだね。遺跡に行く前に、俺はあまり遺跡のことを知らないんだ。だから、遺跡のことに詳しい冒険者のエリーゼ・プルとバーボン・パスタポに遺跡とは何なのかを教えてほしいんだけどいいかな?」
エリーゼ・プルは、答える。
「はい。もちろんです。セルフィ様
遺跡は、神々がこの世界を造られた時から存在していた生き物を生み出すものだと言われています
特に女神が深く関わっていると言われています
ですから、ドラゴネル帝国やボルフ王国などはメーゼ神教が信じられているのです
あらゆる神々がそれぞれの遺跡を造られていると考える学者もいます
何を生むのかも神々が決めていると言われています。人間も生み出すこともあれば、モンスターも生み出します。世界にいる生き物は、遺跡から生まれたと考えられています
そして、冒険者たちは、街をモンスターから守ろうと昔からしてきました。昔はすべてのモンスターと人間との戦いだったと聞いたこともありますが、今は人間に害を及ぼしたりするモンスターを倒すことが、冒険者の仕事の1つになっています
人間とも共生できる知的モンスターなどがいることが今は分かっているので、危険なモンスターだけを倒すことになっています。ですが、モンスターを倒すためには、自らを鍛えなければいけません。そのため、戦いの訓練が可能なモンスターを生み出す遺跡に冒険者がもぐるのは昔からの常例です
遺跡以外でも、モンスターや人を倒せば、その倒したものの100分の1の能力数値が手に入るといわれているので、効率よく強さを求めるのなら、やはり遺跡探検でしょう
遺跡は探索探検されることを望んでいるともよく言われています。魔法の力やスキルを与える封印の珠や宝石などもなぜか遺跡に存在しているのも、遺跡に世界の秘密、神々の秘密が隠されているのではないかという考え方の後押しをしているのです
龍王もまた遺跡に何度も入っては遺跡の秘密を知ろうとしたと言われています。ですが、遺跡の秘密は未だに公開されず、入ったもの本人たちでしか分からない謎の施設なのです。神々の秘密はむやみやたらに口外しないというのも暗黙のルールです」
源は質問する。
「遺跡にいけば、この世界の秘密にも近づけるということだね?」
「そうだと言われていますが、わたしも何度か遺跡に行きましたが、それらしいものは発見することはできませんでした。ですが、地下深くにもぐればもぐるほど、遺跡は、色々な恩恵や秘密の答えを与えてくれると言われています。もちろん、強いモンスターの牙や爪、核なども高価なものになっていきます」
「核をモンスターが持っているということか?」
「核とは、すべての生き物のマナを宿すもので、体内のどこかに核が必ず入っています。人間はもちろん、動物や植物にさえ核はあります」
うーん・・・核と聞いて色々聞きたいことがあるが、俺が遺跡探検の時間を遅らせることもできない。
「なるほどね・・・。あと知りたいのは、遺跡には危険ではないモンスターもミステリアスバースとして生まれるとは思うけれど、そういった者は、攻撃しないんだよね?」
「はい。その通りです。あくまで出会ったモンスターがこちらに危害を加えようとした時に戦うのが常例です。しかし、暗闇で相手を恐れて攻撃してしまったなど、やもえない場合は、特に問題とはされません
遺跡では生き死にの場所だけに、黙認する国のほうが多いでしょう。人によっては、なりふり構わず、相手が危害を加えないモンスターや人であっても、攻撃する冒険者もいます・・・そういった輩を処罰する法律などは、ボルフ王国でも、他の国でも聞いたことがありません」
「遺跡という危険な場所だけに自分たちのいのちを優先させるというルールがあるということか・・・。ただ、俺たちは、むやみやたらに手を出すことは禁止だ。危害を加えてくるモンスターだけを倒して、なるべく地下深くを目指して、恩恵を手に入れよう
そして、封印の珠を手に入れたら、順番にみんなが封印の珠を使用して、能力の向上を測っていこう
あと、相手の能力数値の100分の1与えられるというのは、確実に与えられる割合なのかい?」
「いえ、あくまで目安です。それぐらいではないかと言われているだけで、ある時には、それ以上の能力数値を手に入れられますし、逆に入らない場合もあります」
「なるほどね。よし。遺跡探検にいこう」
龍王やサムエル・ダニョル・クライシスなどの強者の強さの秘密も、もしかしたら、遺跡に隠されているかもしれない。遺跡に挑戦していくことは、一石二鳥にも三鳥にもなるのだ。
遺跡の場所は、ユダ村の司祭様に聞いていた。さすがに、遺跡内には、フレーは連れていけないので、リリスは、いつもの動物のメンバーを連れて行く。
ボルア・ニールセンは、司祭様の後継者でロー地区の地区長だ。将来は司祭様のように世界を旅して龍王の意思を探ることになるので、力をつけなければいけない。回復マナを持っているので怪我をしても大丈夫だし、リトシスを使えば怪我を違う形で形成できる。
ローグ・プレスは、コボルト襲来の農民兵のリーダーだったが、今はその農民兵の戦士長として力を蓄えはじめている。
エリーゼ・プルとバーボン・パスタポは、リリスのボディーガードとしての仕事を遂行しているが今はレジェンドにも力を貸してくれる冒険者なので、共に成長を望む仲になっている。
正直、レジェンドは農民兵で構成された戦士なので、エリーゼ・プルとバーボン・パスタポのような本当の戦士とはまだ言えないので、レジェンドに滞在して戦士を育成してくれるのはありがたい。
そして、ロックとリリスだ。ウオウルフはシンダラード森林に残しているので一緒に遺跡にいくことはできない。このメンバーで遺跡探検へと向かう。
源は、リトシスの範囲を広げてみた。愛ほどではないが、数mの範囲を確保できた。そして、みんなに触れることなく、リトシスで空を飛んだ。
以前までは、グラファイロープなどでつながっていなければ、出来なかったが、前回の戦いで、出来ることも増えていた。
ユダ村の近くの遺跡は、巨大な岩山に入り口があった。その入り口は、赤色の扉があり、2mもの大きな扉が立ちはだかる。扉には、鍵はかけられていない。自由に出入りできるところが、また不気味だ。外の景色自体が、赤色なので、なんだか血で土地が染まっているかのようにみえなくもない。
この世界にきて、目を覚ました時には、遺跡の中だったが、それから他の遺跡には、俺は行ったことがなかった。ロックやリリスは、俺がミカエルを作っている間にここに入ったというが、油断はできない。気合を入れなおす。
ロックが力を入れて、赤い扉を「ガコン!」と開けた。普通の人間なら5・6人はいないと開けられない重さだ。中に足を踏み入れた。中に入るとやはり、真っ暗な状態だった。
「ミカエル。ライトをつけてくれ」
ミカエルのソースの中でライトを持っているものは、光りで遺跡内部を照らしだす。遺跡内部は、とても広かった大きな空間があり、10個ほどの階段がその奥に並んでいた。
「この先の探索をしてきてくれ」
ミカエルのソースは、100個ほど分裂し、遺跡内の捜索をはじめる。
「みんなも油断しないようにね」
リリスも、虫たちを放って、遺跡内の探索をはじめる。
ミカエルの電波が届くように、ソースを一定距離で待機させていく。電波が届かなくなったソースは5時間後、自動破棄されてしまうからだ。
遺跡の奥までミカエルを送り出したが、モンスターは一匹もみつからない。
「10個の階段が下に続いているけど、どれにする?リリス。決めてくれ」
「わたしが決めるのね・・・・前回は一番左側の階段にしたから、一番右側の階段にするわ」
捜索では安全なようだったので、源たちは、地下一階に突入した。
そして、奥へ奥へと進んで行ったが、まったくモンスターは現れなかったことにリリスは違和感を覚える。
「おかしいわね。前回は、ロックさんたちと遺跡に行った時は、すぐにモンスターが出てきたんだけど・・・」
「ミカエルに捜索させているけど、かなり奥までモンスターはいないみたいだな。その時々によって違うのかもしれないね」
地下3階にいってから、やっと感知した。地下4階だと思われる場所に、モンスターが相当数、たむろっている。
リリスが、皆に教える。
「地下4階に、かなりの数のモンスターがいるみたいよ。みんな気を付けて」
源も感知した内容を教える。
「42体の巨体のモンスターだ。手には、こん棒らしき武器を持っている。その先に、封印の珠が1つあるな。各自、お互いをサポートして、戦うように」
「はい!」
4階に行く前に、そのモンスターが何なのかが感知によって分かった。トロールだ。トロールの42体が、ミカエルのソールを追い回して、叩きつけている。
ミカエルのソースは小さいが1つ1つは、カーボンナノチューブで造られているので簡単には破壊することはできない。
トロール42体は、青色で、まるで相撲取りのように太ってはいるが、足は異様に細い。何を食べたらあのような脂肪だらけになるのかは分からないが、パワーはありそうだ。
42体もの巨大モンスターを戦うにしても、7人は少なすぎる。
普通なら遺跡探検は中止にするところだが、そうもいってられない。短期間でなるべく基礎能力を高める必要があるからだ。特に主力の7人にはそれを率先して目指さなければ、後の戦士たちが続いていかない。倒せるモンスターの数が多いのなら今は試練として喜ぶべきだ。
危険を乗り越えて、やるしかないのだ!
源は、先行して、素早く42体のトロールの奥に移動した。こどもの体は小さいということもあるが、トロールたちの動きを正確に把握できる愛の能力があってこそ、トロールの壁をすり抜けていく。トロールが反応して、移動していった源の方へと体を向け、叫びだす。
「グオオオオ」
トロールたちは、いっきに源に攻撃をしかけるが、後ろからエリーゼ・プルとバーボン・パスタポと大型犬タークが、トロールに攻撃をしかけた。
エリーゼ・プルは、魔法剣士だ。カーボン製の剣を素早くふりきると、裸同然のトロールの背中を骨ごと簡単に切裂いた。そして、心臓めがけて、お腹から深く剣を突き刺すと、一体のトロールが倒れた。
バーボン・パスタポもカーボン製のアックスを振って、トロールの腕を両方、斬り落とし、最後は首を斬った。
タークは、低い位置から鎧につけられたウィングソードでトロールの足を狙って攻撃を繰り返す。倒れたところをローグ・プレスが、とどめをさしていく。
倒れたといっても、さすがはトロールだ。ローグ・プレスは、捕まり、凄いパワーで握りつぶされそうになるが、そのトロールの腕をエリーゼ・プルが鋭い剣さばきで斬り捨て、助けた。
ロックは、カーボンアックスを一本だけ持って、上から下へと薪割をするかのように振りぬくと、トロールの巨体を一撃で真っ二つにした。その勢いで次々とトロールを倒していく。太ったトロールの動きよりもロックは、素早く動くことができる。それだけではなくパワーでも負けていなかった。
リリスは、タークやビックボアを使って、攻撃を繰り出す。タークは、トロールの足を狙って、5体ものトロールを地面に倒し続け、ビックボアは、トロールに体当たりをして、鎧の角を体の深くまで差し込む。
トロールたちは苦しみの声をあげた。
ローグ・プレスはカーボン製の武器をもって、攻撃をするが、さきほどの脅威とトロールの巨体に臆したのか、斬り込みは浅くなってしまった。トロールは、怒りの顔で、ローグ・プレスに大きなこん棒を振り下ろすが、バーボン・パスタボが、深く斬りつけ助けた。
ローグ・プレスと後衛のボルア・ニールセンを守る形で、トロールを14体倒している間に、源は、28体のトロールの攻撃をすり抜けながら、躱し、左手を前に出して、丸い円を描いた。すると、源の前の空間に穴が開き、28体のトロールの真上にもそれぞれ1つの空間の穴が開いたと思うと、源が、グラファイソードを自分の目の前の空間に突き入れると、28体のトロールの頭に、同時にグラファイソードを持つ源の手が28本出てきて、突き刺し、トロールは一斉に倒れた。
愛がみせてくれた映像をみて、源は愛がやったことを再現したのだ。空間と時空への干渉攻撃だ。
これぐらいのモンスターなら少しのリスクぐらいでクリアできると源は確信を持った。
グループとして遺跡にはいると、その総合的な倒した時に得られる恩恵は、平等にみんなに流れていくようで、一斉に7人と動物たちの生命数値をあげた。
体が熱くなった感覚になり、能力値があがっていくのが分かる。モンスターを倒すとそのモンスターの100分の1の能力が、倒した人やグループに恩恵として増加されるという。その状況や倒した相手によって違いはあるが、解かりやすく100分の1程度だとされている。ひとりで、100体同じモンスターを倒せば、1体の能力値をそのまま自分の力に出来てしまうということだろう。もちろん、状況やモンスターの個体差、自分たちの性質によって得られる恩恵の差がある。
だが、42体ものトロールの集団の経験値はひくくはない。
ロックは、この遺跡で手に入れたスキル鑑定で、また源の能力値をみてみた。
ここに入る前の能力値は
生命数値157
力:18016∑
体力:17766∑
熟練:12606∑
早さ:11576∑
魔力:--∑
魅了:3600∑
だったが、トロールを倒したあとの能力値は
生命数値157
力:18116∑
体力:17863∑
熟練:12704∑
早さ:11676∑
魔力:--∑
魅了:3720∑
と上がっていた。あれだけのトロールの集団を倒しただけあって、グンと能力値をあげていた。
他のメンバーも同じように、違うところの能力値が上がっていたのでロックは皆にその内容を報告した。
源が話す。
「よし!ロックの鑑定スキルのおかげで、自分たちの能力値の上げ幅が解りやすい。狙い通り、順調にみんな生命数値をあげられてる。だけど、ここからが本番だぞ。壁にはまっている封印の珠を取ると、モンスターが出てくるかもしれない。どんなモンスターが出るのか分からないから気を引き締めてくれ。取るぞ?」
皆は、武器を構えて、返事をする。
「「「はい!」」」
源は、封印の珠に手を伸ばして、ガコっと壁から抜き取った。
ゴゴゴゴゴという壁が崩れる音がしたと思うと、4階の前方方向のどこかから、ズドンズドンという足音が聞こえてきた。
エリーゼ・プルは、「何?」と声をもらす。
「10m級のトロールだ!」と源が叫ぶ。
「ビックトロール」とリリスが、名前を出す。
ビックトロールは、源たちの前の大きな柱をその体で壊して突っ込んできた。
大きな太い柱をも、ぶつかるだけで破壊するその突進力に、巻き込まれれば、ひとたまりもない。みんなは、トロールの突進に身構える。
ロックはビックトロールの生命数値をスキル物質判定で鑑定した。
《ビックトロール》
生命数値58
力:4350
体力:4100
熟練:40
早さ:305
魔力:0
魅了:300
明らかにパワーがある。
だが、その突進を簡単に止めたのは、セルフィだった。
ビックトロールは、手をバタバタさせて前に進もうとするが、まったく前進できない。ロックは、それをみて、トロールの足を狙ってカーボンアックスを思いっきり振りぬいた。
トロールの足は綺麗に吹き飛んで、かたひざをつく。
ビックトロールは、まるで丸太のような右手のこん棒をロックに振りぬくと、ロックは、攻撃を受けて、倒された。ロックを横に倒すとは、かなりのパワーだ。
そして、ビックトロールは、叫び出す。
「グアアアウワアア!」
またズガガガガガという音が鳴り響いたと思うと、トロールの集団が大量に湧き出した。
ローグ・プレスは大声で叫ぶ。
「何だぁ!!??」
遺跡内のすべてのトロールがここに集まって来たかのような数がビックトロールが現れた方向から出てきたのだ。
その数、200匹以上!
しかも、何か分からないが、先ほど戦ったトロールたちとは雰囲気が違い何か血走ったような目つきで大暴れするように突進してきている。
源は、ロックに言う。
「ロック!ビックトロールをまかせていいか?」
「ああ。分かった。俺がこいつを倒す!」
源は、大量に押し寄せてくるトロールの集団の道の真ん中で、リトシスで宙に浮きながら、その場所に固定して迎え撃つ。
トロールたちは、なんだか、普通ではなく、狂ったように暴れながら、走り込んできた。そして、こん棒を振り込んでくるが、源は、グラファイソードでそのこん棒を持っている腕ごと斬り落として、通過させる。
源が狙ったのは、トロールたちの武器を持っている利き腕だった。
走りぬいていこうとするトロールの腕を斬っては、後ろに通過させた。武器もないトロールを迎え撃つのは、リリス、エリーゼ・プルとバーボン・パスタポ。ローグ・プレスとボルア・ニールセンだ。
エリーゼ・プルは、リリスを守る位置にいながら、トロールの首を狙って斬っていく。
バーボン・パスタポは、後衛のボルア・ニールセンを守るように前に立って戦う。
利き腕ではなくても、トロールに掴まれば、握りつぶされるかもしれない。
リリスは、大型犬タークを中心にして、トロールの細い足を狙って倒していき、その倒れたトロールにとどめを刺すのは、ローグ・プレスの役目になった。42体を倒した時のように、次は捕まらないように注意しながらとどめを刺していく。
武器を持たないトロールなら、捕まらなければダメージを負わされることはない。
源は、トロールの首を狙える時は狙い倒していく。
大量のトロールの集団を倒していくが、ビックトロールと戦っているロックは苦戦していた。ロックは確かにパワーはあったが、このビックトロールはその上のパワーを持っていた。装備でロックのほうが上だったが、その装備の上からこん棒などの攻撃を当てられて、巨体のロックを弾き飛ばし、そのロックの腕を持って、動けないのようにしようとしたりと、パワーありきの戦いをビックトロールはしてきていた。
もともと、同じパワータイプのロックからすれば、パワーが自分よりも上のモンスターには、弱い。
だが、先ほどビックトロールの足を片方斬り落としたことで、ビックトロールは、立ちあがることができずに戦っていた。なので、ビックトロールの武器のこん棒を狙ってカーボンアックスを振りぬいて、武器を使えないようにした。
ビックトロールは、ロックの攻撃を防ぐことはできない。
しかし、ロックの後ろから別のトロールがぶつかってロックのバランスを崩させると、ビックトロールは、ロックを掴んで、まるで抱きしめるかのように動きを封じ、ロックの首に噛みついた。
ロックの体は岩だったが、その岩をも、かみ砕いていくほど、パワーがあった。
「ぐあ!」とロックは声をあげる。
ロックは両手を塞がれ攻撃できなかったが、自分の顔の岩の形を変形させ、尖らせて、ビックトロールの目を攻撃すると、ビックトロールは、顔に手をやって、ロックを放した。
次は捕まらないように、ロックは腕を斬り落とした。ビックトロールは、地面に倒れた。
ロックはカーボンアックスを振り下ろして、ビックトロールの首を斬り落とす。
暴れ狂っていたようなトロールたちの動きが、普通になった。
ビックトロールの何かが影響していたようだ。それでも、トロールたちは、攻撃をしかけてきたので、7人で攻撃を続け倒していく。
ミカエルも個体となって戦うが、トロールを一体も倒すことはできない。動きはまだ、スローで、ぎこちないからだ。武器も何も持っていないのでトロールを殴ることぐらいしかできない。なので、トロールに逆に殴られ続けている。それでもソースは壊れることはない。
源は、先ほどの時空空間攻撃を使って、一撃で10体以上を次々と倒していく。
リトシスと人工知能の愛が作用していることで、強さを増している。
202体のトロールとビックトロールを何とか倒すことができた。
みな疲れていた。
「どうして・・・前に来た時は、こんなにモンスターは強くなかったのに・・・」とリリスは言った。
やはりこういった遺跡などでは、何が起こるかわからないと皆は、痛感した。
広間の中心の床が、白く光り出した。
「何だ?この光は・・・」
エリーゼ・プルは、言う。
「遺跡には何度も冒険してきましたが、こんな風に光り出したのは、はじめです!」
エリーゼがいうのだから、想定外の出来事が今起こっているのだろうと源は思った。
「みんな気を付けろ。ヘタなことをすると、どうなるのか分からないからな」
源は、そう皆に忠告する。
だが、その光はやむことが無く、源たちも、その場所を移動しようとしても、みえない壁のようなものがあって、先にも後にも戻れない。
以前、巨大サソリを倒した時と同じように閉じ込められた空間になってしまっている。前回は、モンスターを倒したら、この状況から解放されたが、今回は、ビックトロールを倒しても、正常なダンジョンには戻っていなかった。
「どうすればいい?」
リリスは答える。
「その光を調べるしかないんじゃないの?ずっと閉じ込められているわけにはいかないわ・・・」
源はみんなに言う。
「光を調べてみるぞ」
みなは、頷いた。
光りに近づいて、その光る床を手で触ろうと、光りの中に入ると、空中に文字が浮かびあがった。
《神々が造られし遺跡は、願いの量とともに試練が贈与される。試練の過酷さは、与えられる恩恵をも増し加える》
その文字は、皆が読むことができた。
その文字が消えると、光りも消えたが、それと同時に、皆の体の中に力がみなぎって来た。
「なんだ!?」
皆が異変を感じるほどの力が体の中から湧き出してくる。
ロックは、源の能力値をみてみた。
生命数値158
力:18816∑
体力:18746∑
熟練:13406∑
早さ:11976∑
魔力:--∑
魅了:3830∑
となっていた。その能力数値のトータルは、4500ほど伸びていた。
ロックは、そのことを報告する。
源は驚いて聞き直した。
「4500も、伸びてるのか!?」
「そうみたいだ。源だけじゃない。みんなの能力数値も同じだけ4500近く伸びてる」
「トロールはどれぐらいの生命数値だったんだ・・・そんなに高かったのか?」
「トロールは分からないが、ビックトロールは
生命数値58
力:4350
体力:4100
熟練:40
早さ:305
魔力:0
魅了:300
だったぞ」
「計算の仕方がよく分からないが、100分の1なら大体90ぐらいの経験値だろ。それが200匹だとして、18000で、これを7人で割れば、2500ぐらいの能力値のはずだ。トロールが、ビックトロールよりも経験値がいいわけがないから、2000ほどだとしてもおかしくはない。なのに、2倍ほどの4500もひとり上がったというのか?」
「ああ。数値的には、そうなる・・・」
リリスが先ほどの文字のことをあげる。
「さっきの光りの文字には
《神々が造られし遺跡は、願いの量とともに試練が贈与される。試練の過酷さは、与えられる恩恵をも増し加える》
と書いてあったわ。それが関係してるのかもしれないわね」
源は疑問を口にだす。
「願いの量って・・・どういう意味だ?俺たち7人の強さを求める願いってことなのか?エリーゼ何か知らないか?」
「分かりませんが、確かに遺跡は、最初の時よりも生命数値をあげた時のほうが過酷になっていく傾向はあるようです。ですが、出てくるモンスターがこれほど多く発生するなども、聞いたことがありませんが・・・」
源は言う。
「分からないが、普通ではない量や強いモンスターが出てきた時は、この白い光りが出てきて、経験値を2倍ほど与えてくれるということなのかもしれないな。俺たちは、ドラゴネル帝国との戦いを終えて、自分たちの能力のなさを痛感したから、力を早く求めていた。だから、それだけの試練を遺跡は用意したということなのか・・・」
エリーゼは言う。
「そうですね。また例外の1つとしては、地下4階までまったくモンスターが出て来なかったことです。普通なら出てきていてもおかしくないのですが・・・」
どうやら、入り口でなのか、どこからなのかは分からないが、どこかでそのグループの能力をスキャンして、そのグループに適した試練を与え、効率よく遺跡探検ができるように設定されているのかもしれないと源は思った。願いの量などで測られては危険すぎるし、測る方法など考えられない。脳の反応でみるとでもいうのだろうか。
「こうやって遺跡探検をしていけば、それも分かって来るだろう。封印の珠は、ローグ・プレス。君が使えばいい。今はスキルもマナも持っていないんだろ?」
ローグ・プレスは答える。
「いえ。封印の珠は、セルフィ様が使うべきです。どう考えても、セルフィ様は、マナ力を大量に持たれて誰よりも有効に使えるのですから、セルフィ様が遺跡にいかれた時には、セルフィ様が使うべきでしょう。セルフィ様は、遺跡探検する時間がない場合が多いですが、わたしたちは、自分たちの意思で遺跡にはいけるので、その時に集めていけばいいことです」
リリスも納得して、勧めた。
「ローグ・プレスさんのいう通りよ。レジェンドやわたしたちのためにも、セルフィが使う方がいいわ。わたしもみんなも、時間があるから遺跡に封印の珠を取りにはいけるもの」
「なんだか・・・申し訳ない気にさせられるんだけどね・・・みんなの想いを受け取ろうと思う。俺もサムエル・ダニョル・クライシス戦士長に負けて一杯いっぱいなところがあるから、余裕がないしね」
ローグ・プレスは言う。
「4500もの、能力数値があげられたのは、わたしたちからすれば、封印の珠以上の恩恵ですよ。それにエリーゼ・プルがボルフ王国の冒険者組合にモンスターの核などを持っていきお金にしてくれますからね」
「これだけのトロールの核はかなりのお金になります。わたしが責任を持って届けます」
そうエリーゼ・プルが言うとトロールの体を調べるように手をかざして、核の位置を把握して、ナイフを突き刺し取り除いた。そして、トロールの脂肪を袋にいれる。トロールの脂肪は良質の油として取引されているという。
源は、みんなの意見に甘んじようと思った。そして、封印の珠を持つ。黄色の封印の珠だった。
両手で持って、息を吹きかけると、珠は黄色い光のように砕け散って、源の体の中に吸い込まれるように入っていった。
何かを習得したのを感じる。
「ロック。何を習得したのか鑑定スキルで分かるか?」
「いや。すまない。俺の鑑定スキルは1なんだ。ほとんど能力値ぐらいしか分からない。だが、源が使った封印の珠の属性は光だった」
「そうか。今回は、遺跡探検は、これぐらいにしておこう。結構、危険だった・・・。トロール200匹と戦わされるとは思ってなかったからね」
地下4階まで来たが、次は、この階段の地下5階と掘り下げていこうと思った。それにしても、思った以上の生命数値の上げ幅を増やすことができた。とはいえ、サムエル・ダニョル・クライシス戦士長に比べれば、まだまだ先は長いと思わされる。