100章 祈り
40万のドラゴネル帝国連合軍とレジェンドは戦い抜き、10万もの敵を減らしている中、ボルフ王国・ペルマゼ獣王国・ワグワナ法国の三国同盟が15万の軍勢で、ドラゴネル帝国連合軍の後ろから襲い掛かり、これで勝利したかに思えた時、ドラゴネル帝国連合軍の後続軍20万がさらに後ろから現れた。三国同盟軍は、帝国に勝てると考えていて、戦うことに夢中で、気づいているのは、源ぐらいだった。
源率いるレジェンドの戦士たちは、その20万の軍勢が到着する前に、出来るだけ目の前の30万のドラゴネル帝国連合軍を倒そうと、全勢力でレジェンドの壁から出て、戦いを挑んでいた。
源も炎弾などを駆使して、戦っていたが、炎弾は、誰かに消されてしまった。
そして、現れたのは、ただならぬ気配を持つ、青い鎧を着た戦士だった。
その戦士は、頭にサークルのような被り物を付けていたが、兜は被っていない。
男は、源に質問してきた。
「お前が、セルフィか?」
こいつ・・・もしかして・・・
源は質問を返した。
「あなたが、サムエル・ダニョル・クライシス戦士長か?」
「ああ。よく知っていたな。俺がドラゴネル帝国騎士団最強騎士団長サムエル・ダニョル・クライシスだ。お前、ミステリアスバースとして、生まれたばかりだろ?」
何を根拠にして聞いてきたのか分からないが、相手の能力を見極めるスキルなどを持っているのかもしれない・・・
何も答えない源に、話を続ける。
「生まれたばかりで大暴れしているようだな。昨日も20人の猛者と対峙して、勝利したそうじゃないか。お前、悪魔族なのか?」
どうする・・・。俺はこのサムエル・ダニョル・クライシスを足止めできるのか?だが、俺は20人の精強な戦士たちを倒すことが出来た。俺の攻撃を受け止めることが出来たのは、透明戦士だけだった。受け止めたといっても、透明戦士さえ吹き飛ばされた。リトシスは、法則を書き換えるパワーを引き出すからだ。
法則の中にこの戦士長だって存在しているはずだ。その法則を破るリトシスなら、通用するはずだ!
源は、想いを奮い立たせる。
「サムエル・ダニョル・クライシス戦士長。あなたを倒せば、この戦いも勝利できるかもしれない。勝負してもらおう」
リリスは、フレーに乗って、ドラゴネル帝国連合軍の兵士を氷つかせる攻撃を繰り返していたが、ただならぬ気配を感じて、目を向けた。そこには、セルフィがいて、その前には、その気の持ち主らしきものがいた。
通信で源に言う。
《セルフィ!そいつは誰!?そいつは、異常よ。そいつとは戦わないほうがいいわ!》
《ああ。俺も同じことを思ってる。こいつが例のサムエル・ダニョル・クライシス戦士長らしい。でも、こいつを倒せなくても、時間を長引かせることができれば、それだけでも、意味がある。俺が負けそうになったら、みんなは、すぐに退却して逃げてくれ》
この混乱している戦場の中でも、リリスは、この男が異常だということに気づいた。妖精族の勘か何かがそう感じたのだろう・・・。やはりこいつは、ただ者じゃないと源は思った。
俺が今作れる最高の強度を持つ剣は、このロングソードのグラファイトだ。このグラファイトよりも硬い装備をしているものには、出会ったことがまだない。
『頼む。愛。どうか集中して、あいつを分析してくれ。どれだけ強いのかは不明だが、この世の法則を超えているのはリトシスだけじゃなく、愛。この世界の外側にいるお前もそうなんだからな』
源とサムエル・ダニョル・クライシスは、戦場の上の空中で、静止している。サムエル・ダニョル・クライシスは、マナを使っているのか、空をも飛べているのだ。
源は、集中した。そして、背中に一本だけ忍ばせているナイフをサムエルに、投げつけた。リトシスの効果を持ったナイフは、すごい勢いで、正確にサムエルに投げられた。
源は、手加減せずに、投げ飛ばした。ナイフは、空間に穴を開けるかと思えるほどの威力を持ってサムエル・ダニョル・クライシスに襲い掛かる。
しかし、サムエル戦士長は、いつ抜いたのか分からないが、剣でそのナイフを弾き飛ばした。
あれを簡単に弾いた!?
源は、空中で自分が出来る最高速度で、サムエルとの距離を縮めて、ロングソードを上から一文字切りで、おもいっきり振り下ろした。一切の手加減はない。
サムエル戦士長は、その剣に反応して、剣をかざした。
源は、「よし」と思った。相手は、こちらを舐めているようで、俺のリトシスの効果が乗った攻撃を受け止めようとしてくれたからだ。
源のロングソードは、勢いよく振り下ろされ、もの凄い音とともに、サムエル戦士長を襲った。
だが、源の攻撃をサムエル戦士長は、その青い剣で受け止めた。
グワシャン!という爆音がした。そして、空気も爆発したかのように弾ける。
受け止めた!?
源は、驚いたが、もう一度、次は、右側から思いっきりロングソードを振り込んだ。
それを戦士長は、またその剣で受け止めた。源とサムエル・ダニョル・クライシスの剣がぶつかると、もの凄い衝撃波がまわりに広がった。
サムエル・ダニョル・クライシスは、言った。
「おいおい・・・お前・・・このパワー普通じゃないぞ。その生命数値でそれはないだろ?」
2度もロングソードを受け止められ、源は、かなり驚いた。リトシスの剣を受け止めるなんて、この男・・・何というパワーだ・・・。
サムエル・ダニョル・クライシスは、さらに質問する。
「お前、悪魔族以上のランクなのか?ありえないぞ、その賜物は・・・」
サムエル・ダニョル・クライシスが言っていることの意味は分からないが、とにかく、ドラゴネル帝国最強戦士の名前は、伊達じゃない・・・。
「よし、次は、俺の攻撃だ。お前は、俺の攻撃を受け止められるか?」
そういって、サムエル戦士長は、青く光る剣を右から源の体めがけて、振り下ろした。
その動きはスムーズで、無駄がない。話しながら振ったはずのその剣は、綺麗な軌道で源に襲い掛かる。源は、意識を集中して、その動きのすべてを解析認識し、ロングソードをかまえ、固定させた。感知し反応できるギリギリの速度で攻撃してきた。
ズゴーン! というすごい音が鳴り響いた。そして、また空気が爆発するかのように破裂する。
いける!確かに凄いパワーだ。この音や周りの振動から分るのは、異常すぎるパワーだ。だが、そのパワーもリトシスを使って、受け止めることができた。
勝てないかもしれないが、リトシスがあれば、負けることもない。源は確信を持てた。
サムエル・ダニョル・クライシスは驚きながら言った。
「俺の攻撃を受け止める奴は何年ぶりだ・・・。そこら辺の20人じゃ勝てないわけだ」
無駄のないサムエル戦士長の動きをまた、無駄のない動きで、カバーしながら、源も攻撃を真上から打ち込む。
それをまた受け止めた。
サムエル・ダニョル・クライシスは、少し顔を歪めた。
「お前のそのパワーは異常だな。この俺のパワーでも、響いてくるぞ」
話しかけてくるということは、まだまだサムエル・ダニョル・クライシスは、余裕を持っているということだ。
源は、連続して、サムエル・ダニョル・クライシスに、ロングソードを打ち込んでいく。その打ち込みの数だけ空気は振動し、まわりに波紋が広がる。
巨大なパワーとパワーのぶつかり合いによる空気の爆発のあとの振動だ。
その戦いが、異常すぎて、戦場内でも、空の戦いを見る者たちまでいた。ボルフ王国サムジやペルマゼ獣王国の王マゼラン・パテ・アガなども、様子を見守っていた。
サムジは、笑っていた。
「みろ!セルフィ。あいつサムエル・ダニョル・クライシス最強戦士長と互角に戦っているぞ!いや・・・セルフィならサムエルを倒すことさえも出来るかもしれない・・・」
サムジの隣にいたペルマゼ獣王国の国王マゼラン・パテ・アガはいった。
「まさか!あのセルフィとはそこまで強いというのか!?」
サムジは答える。
「ああ。セルフィは異常だぞ。常識では測れない。言ったろ。今回のゲームは、こちらが負けるのではなく、帝国に勝てるチャンスがあるってな」
源とサムエル・ダニョル・クライシスの戦いの異常さは、戦場の多くの者の注目を集めた。
上空で戦いながらも、すごい衝撃波が一撃一撃に下へと響いて、振動が戦場にも広がって伝わっていた。
レジェンドの壁から司祭様も、心配してみていた。
「セルフィ様・・・」
源は自分の攻撃はまったく相手にダメージを与えていないこともないと確信していた。その証拠に、サムエル・ダニョル・クライシス最強戦士長の顔には、受け止める時に苦しさを確認していたからだ。
逆にこちらは、確かに凄い攻撃だとは分かるが、ダメージを受けるということはない。
これを続けて行けば、退散させることも可能だと源は考えた。
「おい。セルフィ。お前、生まれたばかりで、経験値をあげていないだろ?」
俺を混乱させようとしているのか、やたらとサムエル・ダニョル・クライシスは、話しかけてくる。
「お前は確かに強い。だが、それはお前が神からもらった賜物によって守られているからだ。お前自身が、強いわけじゃない。そこを分かっているのか?」
源は、話す余裕などない。サムエル・ダニョル・クライシスの動きには、本当に無駄がなく、その動きに反応するだけで精一杯だからだ。だが、向こうが攻撃をいくら繰り出しても、こちらにはダメージにはならない。
源は、何度も、ロングソードをぶつけ、その衝撃の積み重ねでサムエル・ダニョル・クライシスを追い込もうとする。
サムエル・ダニョル・クライシスは、左手の武器の剣を下に下げた。それだけではなく、右手を不用意に顔の前に出した。
「例えば、この手だ。この手1つにしても、訓練次第では、こんなこともできる」
源は、勝手に話しているサムエル・ダニョル・クライシスを無視して、そのチャンスを見逃さない。顔の前に出した手を狙ってロングソードを振りぬいた。油断したサムエル・ダニョル・クライシスが悪いのだ。
しかし、何と・・・サムエル・ダニョル・クライシスは、その右手だけで、源のロングソードを摘まむかのように受け止めた!
「何ぃ!!」
源は驚いて、ロングソードをすぐに引き寄せた。衝撃もすべて受け止められたかのようなことをされて驚愕する。
「今、何をしたんだ!?」
「な。こんなことも出来るようになるのさ。セルフィ。お前は確かに強い。だが、強さの種類が違うんだ。お前はスキルや賜物によって強いだけで、自分の努力などによって強いわけじゃない。お前、自分は傷つけられないとでも思てるのだろ?」
こいつ・・・リトシスのことを知っているのか?!
「でもなー。それも思い込みなんだぞ。俺はお前のような能力の奴らとも数多く戦ってきた。その打開策だって当然知っている。見れるものなら、見てみろ」
サムエル・ダニョル・クライシスは、ゆっくりと源の方へと飛んで移動してきた。
源は、サムエル戦士長に、ロングソードを横から振りぬこうとしたが、次の瞬間、顔面に、衝撃を受ける。
源は、鼻に痛みを感じて、左手を鼻に持っていった。
手をみると、血がついていた。鼻血を流しているようだ。
攻撃・・・・されたのか!?
俺は今、ゆっくりとこちらに来たあいつにロングソードを最速最短距離で振りぬこうとしていた。その瞬間の間に、何か攻撃されたのか?
源は、意識を集中して、リトシスを発動させる。
防御は完璧だ。俺は敵からの攻撃を無効化できるリトシスを持ているんだ!今のは、偶然だ。
源は、右手にロングソードを持ち、左手にグラファイソードを腰から抜いた。両手攻撃を繰り出し、サムエル・ダニョル・クライシスの首を狙ったが、次の瞬間、吹き飛ばされていた。
源は、10m以上も吹き飛ばされ、地面へと落ちた。地面に源の体がぶつかると、隕石で土がえぐれたようになる。
「ぐはッ・・・」
い・・・息が・・・・できない・・・
何が・・・何が起こった??
源は、苦しく、息ができない状況で目を歪ませたが、その目を開いて、自分の体をみると、グラファイトで作った鎧の胸の部分が内側にへこんでいた。
すぐに、胸を前に出してリトシスで鎧のへこみを前に押し戻して直した。
「ぐあ・・・はあ・・はぁ・・・」
鎧を直したので息は出来るようになったが、源の口から血が流れだした。胸に傷を負ったようだ。だが、鎧のおかげで、即死はまぬがれた。
一体・・・・何をされたんだ・・・?
サムエル・ダニョル・クライシスは、ゆっくりと空から降りてきて、源の目の前に立つ。
『源。解りません。何をされたのか、すべての感知をめぐらせても、捉えることはできませんでした』
俺はリトシスを解除した覚えはない・・・なのになぜ攻撃を喰らったんだ・・・。
源は、リトシスでスーっと不自然に立ち上がった。
分からない・・・分からないが・・・こいつを倒さなければ、レジェンドのみんなも助からない・・・・それだけは確かだ・・・
吹き飛ばされたが、それでも両手の剣を放していなかった。認識できていなかっただけに、地面に倒されるまで剣を握っていたからだ。
リリスのモンスターのフィーネルが、風を巻き上げ、土煙を作った。
源はいけると思った。こちらは視覚が失なわれても、相手の位置が把握できる。だが、突然の視覚を奪われたサムエルは、どうなんだ・・・。すぐには反応できないはずだ。
素早く、リトシスで何の空気抵抗もなしで、サムエルの後ろに回り込み右手のロングソードをその首を狙って後ろから振りぬきながら、左手のグラファイソードで、サムエルの胴体に突きを入れる。
リトシスで宙に浮いた源の移動速度は200km/hを超える速度で、最初の加速さえも必要とせず、一気にトップスピードで動くことができる。自分の足で移動するよりもリトシスを使った移動のほうがあきらかに早い。空気抵抗なども除外されるので、煙さえも源の動きに変化を及ぼさずに近づける。
首と胴への同時攻撃をして、剣1つしかないサムエルの不利をついた。
ズガアン!!
という音と共に、空気がはじけ土煙もいっきに吹き飛んだ。
源の右手のロングソードとサムエルの剣が打ち合った衝撃波だ。
リリスは、煙が消し飛んだあとの状況をみて、ショックで目をつぶった。
サムエルの胴体へと突きを入れたはずの源の左腕は、無くなっていた。
「ぐああああ!」
源は、自分の左腕がないことに気づいて叫ぶ。
叫ぶとともに、源の左腕から血が噴き出した。血さえも噴き出す前に綺麗に切断された左腕を脇に、持っていき痛みを我慢する。
腕が・・・いつの間にか、斬り取られている・・・?。
『まったく感知ができません。源』
俺の右手のロングソードと打ち合う前に、俺の左腕を斬り落としたというのか・・・!?
源の腕は、地面に落ちていた。
源は、「ガー!!」と声を出し、回転して、右手のロングソードをありったけの力でサムエルを攻撃したが、そのロングソードは、サムエル戦士長には、届かなかった。
サムエル・ダニョル・クライシスが、源のロングソードを斬り落とした。
まさか!グラファイトで作った分厚いロングソードを斬り落とした!??
ダイヤモンドとほとんど強度が変わらない素材なんだぞ!
それを斬り落とす・・・サムエル・ダニョル・クライシスのあの青い剣が異常なのか、それともサムエル・ダニョル・クライシスの技が凄いのか分からない。
ロングソードは、ギザギザになっていて、斬ったというよりも、砕かれたようだった。
普通の剣と同じ程度になったロングソードを持って、右手に炎弾の熱量をロングソードに集めマナ力を利用した攻撃を繰り出す。
しかし、次の瞬間、攻撃したはずの源の右腕とロングソードをサムエルは、手に持っていた。
源は、右腕をみると、右腕も斬られて、無くなっていた。
「ぐあああっ・・・」
それをみて、レジェンドの兵士たちが、「セルフィ様!!」と叫ぶ。
「お前が強いのは分かる。だが、俺には通じない。お前はドラゴネル帝国に牙を向いた。その罪は、これだけでは終わらないぞ」
源とサムエル・ダニョル・クライシスの戦いが行われている間に、ドラゴネル帝国連合軍の後続軍が、到着し、合流していた。三国同盟軍は、背後から攻撃をしかけられ、逆に追い込まれ始めた。
ボルフ王国第三王子サムジは、青い顔になっていた。
サムエル・ダニョル・クライシスを唯一倒せるかもしれなかったセルフィがあの様で、さらに20万の援軍がドラゴネル帝国に来たことは、ほとんど敗北を意味していたからだ。
サムジは、ペルマゼ獣王国とワグワナ法国に連絡して、レジェンドの兵士を攻撃するようにと作戦を変えてきた。
「三国同盟軍は、あのセルフィに脅されていたのだ!!すべて悪いのは、セルフィとレジェンドの村だ。レジェンドの兵士を皆殺しにしろ!!我々は、あの悪魔から解放されたのだ!」
三国同盟軍まで、レジェンドの兵士たちを攻撃しはじめた。帝国側もなぜかそれを受け入れ、三国同盟軍には攻撃しなくなっていった。攻撃しなかったのは、貧民地の農民兵だけだ。1万6000対60万の戦いに切り替わっていく。
三国同盟軍は、すべての責任をセルフィとレジェンドに押し付けようとしはじめたのだ。
ペルマゼ獣王国の黒い軍団までもが、レジェンドの兵士を攻撃しはじめた。
戦場全体を把握していた源は、それを認識した。やはりボルフ王国は裏切ったのだ。すべての策略を企てて、レジェンドに戦争をさせ、負けるとわかると、すべての責任をレジェンドに負わせるという筋書きだったのだ。
負けても自分たちは助かるという裏の交渉がされていたのだろう。
源は、両腕を失いながらも、リトシスで立ち上がるが、サムエル・ダニョル・クライシスは、その源の顔面に攻撃を繰り返す。
殴られているのか、何をされているのか分からないが、顔を何度も攻撃されている。
リトシスの効果が発揮されないのなら、源はただのこどもでしかない。源の顔は、腫れあがり、血だらけになっていく。
両腕も斬り落とされ、顔が血だらけになったセルフィをみて、レジェンドの女戦士たちが叫ぶ。「キャー!セルフィ様!!」
源は、通信で指示を出した。
《みんな・・・・バラバラの方角に退却しろ・・・俺が何とか、時間を稼ぐ・・・レジェンドを捨てて、各地に逃げ、ユダ村に一カ月後に集合しろ。後を追われるな!》
レジェンドの戦士長となっているローグ・プレスは返答する。
《そんなことは出来ません!!セルフィ様》
源はリトシスで何とか立っていたが、何度も顔に衝撃を受けて、フラフラになっていた。
レジェンドの戦士たちが、「セルフィ様ー!!」と叫んでいる。
何度かサムエル・ダニョル・クライシスに攻撃されて理解した。
そうか・・・リトシスとはそういう能力だったのか・・・リトルジェネシスは、確かにこの世界の空間をプログラミングし直し、俺の意思によって変えることができるが、それは俺の認識があるからであって、俺が認識していなければ、発動しないのだ。相手が、俺の認識できない攻撃を繰り出せば、俺はそれを認識できないから、プログラミングで無効化できないというわけだ。こちらの認知が無効化の条件だということだ。愛によってあらゆる認知機能、センサーで分析していたから、リトシスは最強だったが、その愛でさえも何も感知できないのなら、リトシスは、役に立たないのだ。サムエル・ダニョル・クライシスが何をしているのかは分からないが、戦いの熟練度のようなもので、俺を完全に上回っているのだろう・・・何をしても、捉えきれない動きで、その片鱗さえも感じることもみることもできない。予想できるのは、早すぎる攻撃だろう。認知できる攻撃なら1万の矢がバラバラに放たれたとしても愛は認識できるから、リトシスで無効化できていたのだ。
だが、リトシスさえも通用しなくても、みんなが逃げるまでは、戦い続けなければいけない。
源は、腫れあがった顔で、サムエル・ダニョル・クライシスに話しかける。
「ぐふ・・・サムエル・・・」
「何だセルフィ」
「・・・・」
「声が小さくて聴こえないぞ?」
サムエル・ダニョル・クライシスは、セルフィの最後の言葉を聞こうとしてか、近づいて、自分の耳をセルフィの口元にまで持っていく。
源は、その瞬間、全力の炎弾を発動させて、肘からない腕でマナ攻撃を繰り出す。腕が無くても攻撃できるものといえば、マナだけだったからだ。自分が消し飛んでもいいと思うほどの想いで、炎弾を生成しようとする。
しかし、次の瞬間、吹き飛ばされていて、炎弾は、発動すらさせてくれなかった。
サムエルは、ゆっくりと源に近づいて歩いていく。
そのサムエルの後ろからロックが、ロングアックスで攻撃をしかけようとする。
「源は殺させないぞー!!」
サムエル・ダニョル・クライシス最強戦士長は、巨大な岩モンスターのロックを蹴り飛ばすと、ロックの体の半分が吹き飛んだ。
ロック・・・。逃げろといったのに・・・。
サムエルは、また源に近づいていく。
《みんな!頼む・・・にげろ!》
リリスは、追い込まれていた。唯一、正義を示してくれたレジェンドとセルフィが、滅ぼされるその状況をゆるせなかった。リタからは、危険になったら逃げるようにと言われていたが、自分の存在よりも重要なはずのセルフィが、殺されるのは、ゆるすことはできない!
セルフィは、予言の天使なのだから!
それをリリスを守る任務を持ったエリーゼ・プルが止めようとする。
「リリス!ダメよ。あんな化け物にあなたが敵うわけがないわ。もうここは、セルフィが言うように、逃げるしかないのよ!」
「そんなことダメよ!セルフィは、死んだらだめなの!もうピーターの時のような想いはしたくない!」
リリスは、すべての動物たちに、レッドアビリティへの移行を示した。
65万の軍勢に、追い込まれていたウオウルフやアイスドラゴンのフレーギガントウルフたちも、体の奥底から熱いパワーを感じはじめ、赤く光りはじめた。
自分たちの限界を超える能力が開花しはじめた。ウオウルフたちの速度は増し、あらゆる攻撃をかいくぐっては、攻撃をしかけ、1万のウオウルフ軍は、60万の軍勢さえも押し返し始めた。レジェンドの空襲部隊が乗っているドラゴネットも騎馬も能力が向上し空の機動力や脚力を増した。
サムエル・ダニョル・クライシスは、その戦場の状況を認識していたようで、源に話しかける。
「おい。セルフィ。お前が死ななければ、あいつらは止まらないようだぞ?」
みんな・・・逃げろと言ったのに・・・
サムエル・ダニョル・クライシスに一匹のウオウルフが飛び掛かった。リリス・パームのレッドアビリティで強化されたウオガウが、サムエルに飛び掛かったのだ。
ウオガウのウィングソードが、サムエル・ダニョル・クライシスの首を後ろから斬り落とそうとする。
源は、愛の認知能力でそれを明確に、把握していたが、それはサムエル・ダニョル・クライシスも同じだった。
「やめ・・・」
源が止めるまでに、サムエル・ダニョル・クライシスは、ウオガウの攻撃を避けて、その青く光る剣で、飛びついたウオガウをカーボン製の鎧ごと、上から振り下ろし、真っ二つに背中から腹に切裂いた。
ウオガウ・・・
ウオガウの体は、上半身と下半身に切裂かれ血を噴き出して、地面に体2つが転がった。
「せ・・・セルフィ・・・さ・・ま・・」
ウオガウが・・・あのウオガウが・・・俺を助けるために・・・・逃げろと言っただろ・・・ウオガウ・・・
源は戦場を認識していたので、分かっていた。ウオガウだけではなく、レジェンドの兵士たちが、次々と殺されていった。
ギガントウルフたちもその大きさから恰好の標的とされ、その目を狙われて矢がささっていた。
レジェンドで俺を抱きしめてくれたウィルおじさんも、兵士として戦っていたが、ボルフ王国の騎士によって斬り殺された。助けようとしたボルフ王国の騎士にレジェンドのみんなが次々と殺されていく。
リリスは、100匹ほどのレッドアビリティで強化されたウオウルフとフレー、そして大勢の動物たちを連れて、サムエル・ダニョル・クライシスに、戦いを挑み、その間に、セルフィを逃がそうとした。どれだけ強くても、数で押しきって隙を作れば、セルフィを助けることぐらいは、できると思った。リリスは自分のいのちをかけて、ウオガウやロックのように、セルフィを救おうと全身全霊で立ち向かった。
しかし、その動きにサムエル・ダニョル・クライシスは、察知して、「止まれ!!」と叫ぶと、リリスに従うすべての動物が、動けなくなった。
「どういうこと!!??みんな攻撃するのよ!!」
リリスが、何をいっても、また思念を送っても、動物たちは、動くことが出来なかった。フィーネルたちでさえも、動けない。
どうしてなの・・・あの男は、妖精族のわたしよりも動物たちを強制させられるというの??全身全霊で挑んでいるわたしの意思をも上回る・・・!?
源は意識が薄れていく。
俺は・・・また・・・同じことを繰り返すのか・・・今回は、助けたい人たちがみんな死んでいく・・・
逃げろといってもレジェンドの皆は、俺を絶対に見捨てないと助けに入ろうとする・・・
サムエル・ダニョル・クライシスは、源の鎧を掴みながら、顔に衝撃を与えていく。
みんなが殺されていくのに、何もできない事に、源は悔しくて、目から涙を流す。
レジェンドの兵士たちは、セルフィが殺されることを理解して、泣きながら戦い続ける。リリスは、まだ距離があるが、フレーの上から叫ぶ。
「やめてー!!」
サムエル・ダニョル・クライシスは、セルフィの涙や他の者たちから慕われている様子をみながらも、セルフィに言う。
「お前とレジェンドの村のことは、サネル・カパ・デーレピュース上院議員殿から聞いた。ボルフ王国に追い込まれ、帝国と戦わざる負えないようだな。皇帝陛下は、お前を生かしておけたら生かして置けと言われたが、お前と戦ってみて、それは出来ないと俺は判断した。そのサネル・カパ・デーレピュース上院議員殿が、俺をここに早く向かうように進言したんだ。」
サネル・カパ・デーレピュース上院議員が、後続軍20万とサムエル・ダニョル・クライシスをここへと向かわせたのか・・・やはり、政治家は信用ならない・・・
「お前は、強すぎる。生かして置けば、この先、手に負えない存在に成りかねない。帝国のため、世界の平和のために、お前はここで殺すしかない。だが、あの娘は、ケイト・ピューマ・モーゼスの子孫なんだろ。あの娘の戦場での活躍は確かにケイト・ピューマ・モーゼスを彷彿とさせる。そして、あの娘は、あとで帝国の役に立つかもしれない。だから生かして置く。そして、今、攻撃されているレジェンドの兵士たちも、お前が死んだら、すぐに俺の権限で、戦争を中断させ、生き残ったものは、生かしておいてやる。あの娘もレジェンドの村人も悪いようにはしない。お前が生きている間は、レジェンドの村人も戦い続けるだろう。だから、お前を殺して、お前の首をみせて、まわれば、レジェンドの兵士たちも争いをやめるだろう。あの腐ったボルフ王国たちは止めてやる。お前は確かに人望があるが、ドラゴネル帝国には、驚異でしかない。可哀そうだが、死ね。お前は、悪い存在だったということになるかもしれないが、世界の平和のためだと思ってゆるしてくれ。そのかわり、お前の守りたかったものは、皇帝陛下に俺から進言して、できるだけのことはしてやる」
このサムエル・ダニョル・クライシスは・・・理解してくれているようだ・・・。このサムエル・ダニョル・クライシスにとって帝国が家族であり、守るべきもの・・・。それに敵対した俺は驚異でしかない。俺も同じ理由で、帝国の兵士たちを殺した。家族であるレジェンドの村人や貧民地の人たちを守るためにだ・・・このサムエル・ダニョル・クライシスはボルフ王国の王族とは違う。皇帝もどうやら悪い奴ではなさそうだ・・・殺されるのなら、こういう人物たちに殺されたいとそう思える・・・。俺が死ねば、戦争もやめてくれるという話を信じたい。
源は一言いった。
「あり・・・・が・・とう・・・」
源は、何もできず、意識だけが薄れていった。
サムエル・ダニョル・クライシスは、左手でセルフィを掴み、光り耀く青い剣を右手に構えた。
リリスは、フレーを移動させ間に合わせようとするが、まだ距離がある。そして、手を前に出して、叫ぶ。
「お願い!セルフィを殺さないで!その人は殺したらだめなの!!」
すまない。みんな・・・リリス・・・どうか生きてくれ。愛・・・君と現世で会えるとは思っていなかったけれど、俺はここで完全に死ぬ。すまない・・・。現世でも、あいつらに拉致され、殴られ、何もできずに終わったように・・・この世界でも、何もできずに、死んでいく・・・。愛。どうか、君は幸せな人生を歩んでくれ・・・会えるのは天国でだ・・・神様どうか、あわれみを・・・
みんな・・・生き・・て・・・
源の意識は、レジェンドの民が殺され続ける中、暗い暗い闇へと落ちていった・・・。
サムエル・ダニョル・クライシスの剣は、振り下ろされる。