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10章 衝撃

石のドアを粉々に砕き、外の光が源とロックに注がれる。

完全な暗闇から光を手に入れたことで、目が慣れずに、痛みを感じさせたので、源は左手を顔の前に置いて、光を受け止めるように目を守る。

隣にいたロックも同じだったようだ。


目が慣れて、ゆっくりと外に出てみた。


源は驚いた。始め地下200mにいて、そこから抜け出そうと考えていたからだ。

外に出た時の源の想像は、地上1階の高さの場所で、日本の街の中というものだったが、まったく違っていた。


ドアの向こうは、1mほどの扇状おおぎじょうのスペースだけがバルコニーのようにあるだけで、そこだけ外に出られるが、その先は、絶壁の崖になっていた。

見渡す限り広い大地が広がっていたが、源たちがいるところは、崖の高い位置にあった。後ろを向いて上をみても、まだまだ崖は続いている。


「ここは、日本じゃないのか・・・」


ロックも源のように崖に驚いていた。


「まさか崖とはな・・・」


どう考えても、この崖を外から伝って登っていくのは、無理そうだ。

下るのも出来ない。下は、川などもあるわけでもなく、その崖から向こうは、大地が広がっているだけだ。

日本ではこのような地形は絶対にないというほど、壮大な大地が、向こう側にあり、自分たちがいるところの崖が突然、広い大地にそびえ立っているかのようだ。写真などでは決してあらわせない全面パノラマの大自然が広がっている。


「地下200mの場所だと思って上に登ったけど、逆に下に戻って崖側に向かって穴を掘っていき、何とか、出るしかないのか・・・でも・・・そんなこと本当にできるのか・・・」

源が、頭の中で色々考えて、ここまで来たよりも大変な行程になると意気消沈して、話したが、ロックが源に聞いてきた。


「源、飛ぶことはできないのか?」


「飛ぶって!こんな高い崖から飛べるわけがないだろ!?何考えてるんだ・・・」


「いや・・・その背中の羽で空は飛べないのかと思ってな。俺は無理でも、源と狐だけは脱出できないかと思ったんだ」


「はぁ?」


源は背中をみると、白い翼のような羽があるのが少し見えた。


「羽だと!」


源は、触ってみたが、確かに鳥の羽のようで、自分の背中についている。

それにも驚いたが、体のまわりを改めてみると、自分が小さすぎる。手がこどものような手になっていて、背も小さくなっていた。


「どうなってるんだ・・・」


「どうした?」

ロックは、源が何か驚いていたので、心配そうに話しかけた。


「ロック。俺はこどもの姿か?」


「ああ。そうだな。君はこどもだよ」


道理で、全部が大きく感じたわけだ。巨大なサソリや蜘蛛も、確かに大きいが、さらに大きく感じていたのは、自分が小さかったからだと気づいた。

肌も白くて、日本人の色とは違う気がする。


「頭が混乱することばかりだよ・・・」


「そうか。やっぱり源はこどもじゃなかったのか。俺は源と会った時に抱き上げたからこどもだと思ったが、その後からの源の発言がこどもっぽくないから、小さい大人なのかとも思ってたんだ」


「その時からロックは解ってたのか・・・確かに、ロックに持ち上げられたな」


「で、飛べないのか?」


「どうなんだろ・・・この羽は使えるのか・・・」


源は、羽を動かしてみることにした。なんだか、腕が4つあるような感覚がある。腕を広げるように、羽を伸ばしてみた。羽の大きさはさほどでもない。この羽の面積を考えたら、空をとても飛べるとは思えなかった。


だが、羽を広げた時に、自然と宙に体が浮き始めた。羽をまったく動かしていないのに、羽を広げただけで、源の体だけが無重力状態になっているかのように、プカプカ浮き始めた。


「なんだ!これ!浮くぞ・・・」


「すごいじゃないか、源」


「羽を鳥のように羽ばたかせたり、グライダーのように風を捕らえて飛ぶのかと思ったけど、どうも、どちらでもないようだな」


源が上に行こうと意識を向けると、自然とその方向に体が空を飛んで移動する。

「どこまで行けるのか、不安だけど、少し試してみるよ」


「ああ。そうだな」


断崖絶壁の崖っぷちで、初めて空を飛ぶのを試すなんて、ほとんど自殺行為だが、やるしかない。もし、きちんと飛べるのなら、誰かに助けてもらってロックも救い出すことができるかもしれないからだ。


恐る恐る上へと登っていく、5m・・・10m・・・15m・・・と安定して、ゆっくり源は浮かぶことができた。そして、その場で止まることも出来る。


すぐに、またロックたちの位置に戻り、次は早く15m地点に飛べるのか試してみた。すると、スーっと信じられないほど、スムーズに15mに戻って来た。

何度かそれを繰り返し、慣れたところで、さらに上にチャレンジしてみた。

「行ける・・・いけるぞ!」


源は、グングンと高さを増して、400mほど先の崖の一番上まで、何の苦もなく、到達することができた。


そして、崖の上にゆっくりと降りた。


両手を握りこぶしにして、ガッツポーズをして確信し、喜びをかみしめる。


崖の反対側は、なだらかな山のようになっていて、反対側とはまったく違う地形の景色になっていた。坂道がずっと続いているかのようだ。自分たちがいたところは、地下だったことは合っていた。まさか、こんな場所の地下に閉じ込められていたとは、思いもよらなかったが・・・。


だけど、なんだろうか・・・何か違和感を感じる。空の色が違う・・・?青というよりも、緑のようにもみえる。青でもあるし、緑でもあるような・・・。解らないが、もの凄く遠くまで、世界が見えてしまっている感覚がある。


『源の視覚から情報を獲て分析しましたが、地平線が無くなっているようです』

ミニが、源の違和感の考えに答えようと話しかける。


『地平線が無くなっている?どういうことだ?』


『地球は、球になっているので、途中からは地平線になり、5kmほど先は、見えなくなるのです。空を飛ぶなどをしなければ、その先はみえないのです。ですが、今、源が観ているのは、どこまでも土地が続いて、空にまで反りあがっているのです。源』


『何を言っているのか、分からない・・・』


『地球は、球の外側にいる状態ですが、ここは、球の内側に反対側、そしてその面に逆に立っているような状態になっているということです。わたしの知る情報とまったく違う法則が源のいるところには、存在しているようです。源』


『俺がいるところって・・・ミニ。君は俺の脳に備え付けられているマインドチップなのに、違う場所にいるかのように話すのはなぜだ?』


『前にも話しましたが、わたしはまったく場所を移動していません。新宿の地下200m地点から動いていないのです。ですが、源の認識、視覚や聴覚は、動いているのです。源』


『お前は、俺の脳に繋がっているのに、お前は動いていなくて、俺は動いているのか?』


『そういうことになってしまいますね』


『だから・・・意味解かんないって・・・』


源は、何が起こっているのか、把握できずにいた。自分の体じゃないこと・・・こどもの体・・・岩の男ロック。巨大サソリや巨大蜘蛛・・・空を飛べること、これらと何か、繋がりがあるのか?


夢か?今みているのは、夢なのか?


手で、頬をつねってみた。だが、痛みがちゃんとある。頬を叩いてもみたがリアルな痛みがある。そして、下に咲いている花を摘み取って、その花の匂いを嗅いでみた。きちんと、花だと思われる匂いがする。


どう考えても、夢ではない感覚がある。


なんだ・・・どういうことだ・・・球の内側の逆?


『ここは、外みたいだけど、地下の中にあるようなものってことか?』


『解りませんが、源の視覚から読み取った世界を分析すると、そのようになってしまいます』


じゃーなぜ明るい?上をみて、太陽を見てみた。いや・・・あれは太陽じゃない・・・ものすごく遠いところにある何か巨大なダイヤ型の白く光る何かだ・・・。よくみると、そのクリスタルのようなダイヤのような光るものは、さらに奥にもあって、この世界に光を与えているようだ。


空が緑ということじゃなく、大地の植物が全体を丸く囲んでいるから、こちら側からは、空のようになっているようにみえているんだ。空気もあるから、青色にもみえなくもないのか。なぜ、上にいる人間は、落ちてこないんだ・・・。いや・・・それは俺も同じだろ・・・。なぜ俺はあちら側に落ちないんだ・・・。


『この世界の広さ、大きさは、地球と同じぐらいです』


まったくの違う世界・・・法則が違う世界・・・考えろ・・・


源は眉間に手をやって、集中して考え出した。


俺は拉致され、拷問されそうになり、ひとりの男の首を掻っ切った。すぐに、他の男がふたり来て、縛られていた俺を殴りつけて、そこで意識を失ったんだ・・・。


そこからどうなったんだ・・・!?。俺に何があった・・・


『ミニ。俺は気を失って、その後どうなったんだ?』


『源の意識が戻ったのは、それから42年経った現在です』


『42年・・・愛は?愛はどうしてるんだ?』


『川添愛さんは・・・』


ミニは、なぜか言葉を止めた。


『どうした?ミニ。』


『源。あなたは、今頭が混乱しています。ショックな情報を入れるのは、好ましいとは言えません』


『知りたいんだ。教えてくれ!』


『ショックを受けて、自暴自棄になったりしませんか?』


『とにかく教えてくれ!教えろ!』


ミニは、少し間を取ってから、答えはじめた。


『川添愛さんは、結婚し、3人のこどもを出産しました。その後、孫も生まれ、その家族に囲まれて暮らしています』


源の目から涙が流れた。愛を想って、自然と涙が流れた。





「よかった・・・」

源は、ポツリと言葉を口にした。


『愛は、幸せになれたんだな?』


『そうだと思います。源』


自分がいなくなって、どれほど愛は悲しんだだろうか。もし、その愛が、結婚もせず、幸せになろうともしないで、余生を歩んでいたとしたら、俺は、俺をゆるせなかっただろう。


拉致をされてしまったことで、愛を不幸にしてしまったとしたら、それこそ、俺にとってはショックだっただろう。他の人と結婚し、こどもまで生まれ、幸せになってくれたのなら、こんな嬉しいことはない。


源は、想像した。愛に似たこどもたちが、愛と笑顔で生活している姿を。


『そうか・・・俺は本当に42年間も意識を失っていたんだな・・・』


愛とはもう生きて会うことは出来ないだろう・・・そう源は考えた。


『で、なぜ俺がいるこの世界は、地球とまったく違うんだ?』


『憶測でしか、判断できません』


『憶測でいい。今の状況が少しでも分かるのなら、話してくれ』


『源がいるところは、仮想空間かもしれません』


『仮想空間?』


『はい。源が知っている時から42年間、時が経ち、その頃よりもあらゆる技術は発展をとげました。その中でもスーパーコンピューターの目まぐるしい発展があります。こちらの世界では、源が認識しているほどの本当の世界に近い大量のデーターの世界を作り上げるシステムは、製品販売されてはいませんが、世界のどこかで、そのようなものが、あってもおかしくありません。源』


『なるほど・・・俺は、どこかでつながれていて、植物人間状態のまま、バーチャルゲームのような世界に意識だけが持っていかれているというわけか』


『そうかもしれません』


『そうなら、ミニは、動いていないのに、俺だけが動いているという説明がつくな。本体の俺の体は、本当の世界では動いているわけはないのだから、意識だけが、動いていると認識していて、俺がいまここにいると俺が思い込んでいるというわけだ。夢というのも、遠い発想でもなかったってことか・・・じゃーこっちで死んでも支障はないってことだな?』


『そうとは言い切れません』


源は目を少し大きく広げた。

『どういうこと?』


『源が、視覚や聴覚で感じていたものは、本当の世界で体験した時の脳の反応とあまりにも酷似しています。ですから、仮想空間の世界で起こったことで、ストレスを感じれば、実際の脳にもストレスを感じさせ、脳細胞を破壊することになります。』


『こっちの世界がリアルすぎて、本当の世界の体も無事なままなのかは解らないってことか?』


『はい。その通りです。実際、わたしの分析した結果では、そちらの死は、こちらの死に直結するというデーターになっています。源』


『まじか・・・』


『仮想空間なのに、本当の世界のように命がけってことなのか・・・それはそうと、本当の体は大丈夫なのか?そっちでは点滴みたいに栄養を与えてくれてるんだろうな?まあ。42年間も生かしてるんだから、いきなり、ここで終わりってことはないだろうけど』


『源。ショックを受けないでください』


『これ以上のショックってあるのか?気づいたら、70歳ぐらいのおじいちゃんになってたって話をされたんだぞ・・・それ以上のことがまだ・・・?』


『話しても大丈夫ですか?』


「ふうー」と深く息を吐いて、心を落ち着かせ、ミニがいうショックな現実の話を受け入れる心の準備を整える。


『いいよ。話してくれ』


『源の体はすでにありません』


『体がない・・・!?』


『こちらの世界で、源が存在しているのは、脳と脊髄だけです』


源は、それを聞くと、ゾゾゾッと背中に悪寒が走った。そして、目をつぶり、口の中の舌が内側のほほを伝うように、舌をまわした。こんなこと、したことなかったが、余りの衝撃事実に、少し現実逃避して、ショックを緩和させようとする。


『確かにかなりショックだね・・・』


そうか・・・あいつら、脳だけにエネルギーを確保させて、拉致した人間を実験台にして、色々試してるんだな・・・


そんなことまでされても、まだ生きていることをラッキーと思うのか、死んでいたほうがマシだったと思うのかは、別れるところだろうな・・・悲観してもしょうがない、俺はラッキーだったということにしょう・・・


『源。慰めになるのかは解かりませんが、源の残った体の環境は、生きている状態よりも最上級の状態で、あらゆる特許的な手法が使われ、多くの酸素や適切な栄養がほどこされています。ですから、本来、体があれば120歳までが限界のはずの人間の寿命ですが、今の状態なら、かなりの時間生存できると考えられます』


長生きできるが、体はなくなるよ?といった悪魔から提案をされたかのようだ・・・


『そっか。そっか。解ったよ。慰めになったよ・・・。ミニ。色々ありがとうな』


『大丈夫ですか?源』


『うーん・・・大丈夫とは言えないけど、生きていてラッキーだったと無理やり、思うことにした』


『前向きでいいですね。源』


『だろ?てか・・・ミニってすごい賢くなったな・・・前向きとか、本当に人間と話しているみたいだよ・・・』


『42年間で、多くの情報を獲ました。源は、意識がありませんでしたが、生きていたので、わたしにもエネルギーが尽きることがありませんでした。ですから、止まることなく、成長を続けられたのです』


『そういうことか・・・。確かにミニの能力はすごいよ。聴覚だけで、この世界の状況を把握して、それを映像に映し出したんだからね』


『ありがとうございます。源』


『あと、君の声を愛のものにしておいて、本当によかったと思うよ。君と話してると、愛と会話しているようだからね』


『そうですか。少しでも安心できる要素があり、嬉しく思います。源』


『愛なんて、呼んだらダメかい?』


『わたしは、川添愛さんのように、考えたり、話したりすることはできないかもしれませんが、それでもよろしいのですか?』


『そこまでは望んでないよ。ただ、愛の音声から愛を感じたいし、その声音に対して、愛って名前で呼びたい想いなんだ』


『源がよろしければ、わたしは構いません。』


『ありがとう。今日から君はミニではなく、AIの愛だ』


おっとしまった・・・ロックたちのこと忘れて、ずっと試行錯誤していた・・・。ロックたちをどうにかして助けないとだった。


『そういえば、ロックも、俺と同じように拉致された人間なのか?』


『解りません。源のように捕らえられて、そちらの世界に意識がいる人間なのか、それともデーターとしての人工知能の持つキャラクターなのか、こちらでは判断はできません。ただ言えることは、こちらの記憶も残っている源は特別かもしれないということです』


『記憶があることが特別なのか?』


『ロック様は、記憶が欠如していらっしゃいました。こちらの世界に実験として入りこませるのなら、以前の記憶は邪魔だと考えたのかもしれません』


『じゃーどうして、俺は、記憶があるんだ?』


『わたしがそうさせなかったからです。源の記憶を世界のデーターベースに記録させ、絶対に消せない状態にしたからです。源』


ミニ。いや、愛の存在が、あいつらの裏をかく最後の綱というところかと、源は考えた。


『なるほどね。記憶がロックだけ欠如しているのは、そのためか。あと現実ではありえない岩人間とか、俺みたいな鳥人間?とか、巨大な蜘蛛やサソリも、今の話で、少しは納得できたよ。とにかく、ロックたちのところに、戻ってみることにする』


源は、顔を上にあげて、飛ぶ意識になると、スーっと体が浮いて、スムーズに空高く舞い上がった。そして、羽だけではなく、両手で風を感じるように、飛んだ。


神様がいることは変わらないのだから、前向きに生きればいいさ。悲観的に生きて落ち込んでいたら、また愛にもどんな皮肉を言われるのか分からないからね。脳だけっていう現実は、考えないようにしとこ・・・。深く考えたらへこむどころでは終わらなくなる。はじめからもうすでに、バッドエンドではじまってるし・・・。

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