9話
「ゴギヤァァァ!」
通常のゴブリンよりも大きく、低い叫び声をあげながら、大木と言っても良いほどのこん棒を振り下ろす巨大ゴブリン。
地面に触れたと同時に凄まじい衝撃が床に響くのだが、一体どういう作りなのか、ただの石畳にヒビなどは入ることなく、振動のみを伝える。
「豪快な大振りだ……でも当たらなければ意味はないよ!」
1番身軽な玲華は、飛び上がると醜悪な顔をしたゴブリンへと渾身の蹴りを放つ。
鼻に直撃し、ズドンッと思い音がなり、ゴブリンはバランスを崩すものの、倒れるとまでは行かなかった。
「やっぱりいつも通りには行かないようだねっ!」
すぐさま立て直した巨大ゴブリンは横にこん棒を薙ぎ払い、牽制、玲華としては近づかなければ攻撃が出来ないので効果はある。
「そんな背中を空けていてはかわしきれませんわよ!」
そう叫んだルーチェの周りには幾つもの氷の礫が浮いており、それらが一斉に巨大ゴブリンのがら空きの背中へと突き刺さる。
「グギャァァァ」
悲鳴を上げたゴブリンは煩わしそうにルーチェを睨み付け、その巨体を活かした体当たりを繰り出そうとする。
「させるか!」
巨体ゴブリンと平行に走り、地面を蹴りつけてその巨体の足を天馬が自ら持つ剣で切りつけて、更に意識を逸らす。
だが意識を逸らすだけに留まり、次いでに機動力も削げればと思っていた天馬は舌打ちをする。
「浅いかっ!」
足元にいれば当然巨大ゴブリンの射程範囲内だ、爪を乱雑に振るう。
バックステップで回避を選択するものの、頬を切られる。
「天馬くん! ──[ヒール]!」
掌を天馬へと向け、回復魔法を放つ。
淡い緑色の光が天馬を包み込み、徐々に傷が癒えていった。
「ありがとう、アゲハ!」
「当然だよ!」
一瞬視線を交差させ、再び天馬は巨大ゴブリンへと肉薄する。
自身で戦う術のないアゲハは、出来る限り邪魔にならないように動いている。
他3名の戦いを見守っているアゲハにランドが話をかけた。
「お前は戦う手段を持ってないんだな」
「うっ……そ、そうです。攻撃魔法とかだけは随分威力が弱くて……剣も重たいし、玲華ちゃん見たいに拳もどんくさくて苦手なんですよ」
「なるほど、パーティーだから成り立つって訳か」
見ている限り、天馬達はそれぞれの不得意なことは他人に任せており、各々の持ち味をいかしフォローに回ると言う戦いだ。
しかしそれは人任せと言う裏付けでもあった。今は良いのかもしれないが天馬達は魔王討伐を目標とする為、一人一人が強くなければ勝ち目は薄いとランドは思っていた。
「それでもある程度は攻撃手段を持った方が良さそうだな。攻撃魔法の魔法陣改造とかな……無理か、あっはっは忘れろ」
何気なく適当なことを抜かすランドは冗談のつもりでそう言った。
魔法陣の改造は並大抵の者が出来るわけもない。そもそも魔法陣は魔法が使えるスキルを持っている人間からすれば勝手に構築されていくもので、魔法スキルを持たないものなら改造できる可能性はあるが未だに一人として成功していないのだから。
「魔法陣の……改造」
「本気にするなよ? それよりも回復魔法についてだが、範囲を絞ると良い」
「範囲を?」
「まぁ、出来るならって感じだな。天馬を包むように展開した回復範囲を傷を負った部分に収束させるんだ。そうすれば消費量もかかる時間も減ると思うんだが」
「良く思い付きますね」
「ただの妄想見たいなものだ。勇者なら出来ると思って話してる。できそうなら挑戦してみてくれ」
元来、勇者は常識を越えたことを軽々とこなしてきている伝説は結構存在する。
なのでランドも提案はしてみるがあくまでも可能性の範疇、出来れば儲け物と言う感覚で提案しているのだった。
「ランドさんは何もしないんですね」
「まぁ、引率だし……倒しちゃ駄目だろ」
「そう言えば玲ですちゃん達はあまり強そうには見えないってぼやいてたんですけど実際はどうなんですか?」
「まさか影口叩かれてるとは……まぁ良いか。言うほどのもんじゃないぞ、せいぜいサルサを40層位だな」
「……それって凄いんじゃ無いですか?」
「そうでもないと思うんだけどな……ん、終わるぞ」
雑談を交えながら天馬達の戦いをみていたランド。
ルーチェ、玲華が巨大ゴブリンを牽制しつつ、天馬が力を溜めている様子だった。
「はぁぁぁ! ──[天斬]!」
右下から左上へと振り上げるように天馬は剣を振るう。
すると、光を纏って輝いていた剣から黄金の衝撃波が刃のように作り出され、巨大ゴブリンの胴体を両断する。
「グギャァァァァァァァァア!!」
断末魔を上げた巨大ゴブリンは、普通の魔物とは違い、光の粒子となり、消えていった。
階層ボスは何故かこのように消える。
「宝箱?」
天馬がそう呟く。
巨大ゴブリンが光の粒子となって消えたあとには、宝箱が出現したのだ。
「階層ボスは倒すと死体にならずに何故か宝箱が出てくるんだよ。ダンジョンって不思議だよなぁ」
「まるでゲーム見たいですね」
「ん? ゲーム?」
「いえ、何でも。それよりも空けて大丈夫なんですか?」
「ひとまずは調べた方が……あ」
「え?」
天馬とランドが話している間に、興味を持ったアゲハ、ルーチェ、玲華が宝箱を開けていた。
すると開いた宝箱から光が漏れ、周囲を照らす。
目を開ける事が出来ない光量に四苦八苦して数秒、宝箱は消えており、周りには何の変哲もない、先ほどいた場所とは対して変わらなかった。
「何だったんだ……?」
ポツリと天馬が呟く。
すると、いつの間にか消えていた四つ角の松明に再び火が灯る。
「松明が……」
「……まずい予感がするな」
「変な音聞こえない?」
「上からですわ」
「もしかすると、もしかするかも知れないね」
全員が上を見上げる。
ヒュゥゥゥゥと甲高い音を鳴らしながらなにかが落ちてきているのだろう。
そしてランド達の集まる場所は部屋の中央だ、ダンジョンの階層ボスは中心に落ちてくるわけで、
「ここは不味い! 急いで中心から離れろ!」
とき既に遅く、上空からの音は大きくなっており、今、移動を開始しても間に合わないと悟ったランドは告げる。
「許せよ! ──[回転]!」
自らに能力の[回転]を付与、その回転から生み出される突風にて、天馬、アゲハ、ルーチェ、玲華の4人を吹き飛ばすことに成功する。
そして間もなくして落ちてくる落下物、恐らくは何らかの魔物だ。
その魔物であろう落下物に、ランドは回転の勢いで下から上へと武器をぶつけ、威力を殺すと同時に着地地点を自らよりも少しだけズラすことに成功する。
そして壊れない石畳なのに何故か舞い上がる粉塵の中から、ランドが転がるように出てくる。
「死ぬかと思った! いやマジで!」
本当にそう思っているのか甚だ疑問ではあるが本人が言うんだから間違いない。
そして体勢を立て直したランドは天馬達と合流を果たす。
「これは一体……」
「端的に言うと第2ラウンドだな。でもおかしいな……こんなこと起こったこと1度も無いんだが」
ソルトには依頼などで何度もランドは足を運んだ事がある。それに独断で制覇もしているのだが、今までに階層ボスが2回も出てくる記憶も記録も無かったのだ。
そしてデフォルトの様に舞い上がる粉塵を払いのけたその魔物。
「ゴーレム?」
ゴーレムとは通常、石などで体が構成されており、人の形をしてはいるものの、全体的に不格好でちぐはぐ、そして左右の腕の大きさもバラバラと言うのが一般的だ。
だが目の前にいるものは、きちんと形が整えられており、全身鎧を着けた場合確実に人と遜色がない程洗練されたゴーレムであった。
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