8話
目的のダンジョン、ソルトに到着したランド達はダンジョンへと入るところだった。
「その前に1つ良いかしら?」
「んぁ、何だ?」
後方を歩いていたルーチェの一言で全員がその場で立ち止まる。
「集合場所では他の冒険者の方々は連携の確認をしていらしたのですが、わたくし達は確認はしないのかしら?」
連携はとれるかとれないかで生存率は変わるのだ。ルーチェの発言は正しいだろう。
だが、ランドの意見は違った。
「勇者様方には勇者様方の練習してきた連携があるだろ? そこに俺が1人でも加わればズレが出てくる。そうなると余計に危ない目に会うかもしれないからな、止めておいた方が良いだろう」
ランドか引率するのは恐らく今回のみだ、今後は四人での攻略が基本となる。
短時間でも作り上げてきた連携に、今手を加えると元の形に戻すのはまた時間がかかる。
ランドとしては反対だった。
「確かにそうですわね、愚問でしたわ。何も考えてないようでしっかり考えてらしたのね」
「酷い言われよう……まぁ、そう言うことだ。あとダンジョンに入ったら俺は時間が経つに連れてサポートに回る。ぜひ、有意義な訓練にしてくれ」
そう言うとランドは天馬達を先導しながら、ソルトへと入っていく。
◇◇◇
「はあっ!」
「グギャア!」
迷宮型のダンジョン、ソルト。
その通路にて遭遇した魔物へと、天馬の剣閃が光る。
一撃のもとに屠られた魔物、ゴブリンは為す術もなく地に伏せた。
「やっぱゴブリン程度に遅れをとるほど弱くはないか……」
後方から武器すら抜かずにただ天馬の戦いを見ていたランドは勇者の実力を図っていた。
チラリと横を見れば、他にもアゲハ、ルーチェ、玲華が他のゴブリンを倒している最中であった。
現在ソルトの第3層ほどまで潜ったところで、ここまでは初心者が入り実力をつける程度の階層だ。
勇者である天馬達がここで手こずる様なら落胆は隠せないがこの階層で訓練させようと思っていたが杞憂だった。
「実力的にはまだまだ下に行けそうだな。短期間だけでここまで行けるってのはやっぱり勇者ならではか」
天馬達に聞くところによると、召喚されて2ヶ月ほどと言ったところらしい。
その間は、王国の騎士団と共に基礎の訓練などをして過ごし、ほんの少しだけ魔物と戦う機会があったくらいだと言う。
「これからまだまだ伸びるっぽいし、五大ダンジョンは魔物は問題ないだろう。でもなぁ……」
実力は申し分ない。
だが、致命的に罠にかかりやすい傾向にあったのだ。
この階層に降りるまで、それはもう罠のフルコースを過ごしてきた。
大岩が転がってきたり、槍や弓矢が飛んできたり、毒ガスが噴射されて天馬が餌食になったり、それを見たアゲハ達が戸惑ったり、さらにそれを見たランドが笑い転げたりと色々あった。
とまあ、危機管理能力がない──ダンジョン初心者なので当たり前なのだが、天馬達にはまず罠の見分け方を少しずつ教えていったのだ。
まだまだ見分け方が分かっていないものの、それは時間の問題だろうとランドは考えていた。
ふとランドが顔をあげると、深く息を吐きながら天馬達が戻ってくる。
「やっぱり、命を奪うって躊躇うな」
「うん、私達生き物を殺したことなんて無いもんね」
「何を仰いますのアゲハ、私達はマシな方ですわ。天馬様と玲華は直接手を下さないと行けないんですもの」
「あ、ごめん。天馬くん、玲華ちゃん」
「ふっ、気にすることは無いさ。これからの戦いにおいて、こうなることは分かっていたからね」
生き物を殺すことになれていない天馬達、特に人形の生き物を殺すことには躊躇があるらしい。
この世界の人々は、たとえ村人でもわりとゴブリン位なら躊躇わず殺すことが出来るのだが、天馬達が来た異世界と言う場所では生き物を殺すことはあまり無かったようだ。
その話はランドとしては興味が尽きないのだが、依頼である護衛を優先した。
何よりも金なのだから。
「ゴブリンごときに躊躇っていたら先が思いやられるな」
「……このダンジョンには他に何かあるんですか?」
「まぁ、あるが、そう言うことじゃない。アンタの目的は魔王の討伐だろ? となると魔国まで行くまでに魔族を殺すわけだ」
「っ!」
「魔族って見た目はあんまり人間と変わらないからな、ゴブリンでダメなら魔族はもっと無理だろ? それに、旅をする上で盗賊に襲われる事もある。盗賊は完全に人間だからな、お前ら殺せるわけ?」
いずれぶつかるであろう問題を今のうちに叩きつけるランドは、冷たい目をして天馬達を見ていた。
「……ま、それはまだ先の話しだし気負う事もないだろ。時間はまだあるし、慣れておけよ」
そう言うとランドは天馬達を通りすぎ先へと進んでいく。
少しだけランドの背中を眺めていた天馬達もすぐにあとを追った。
◇◇◇
その後も順調に歩みを止めずに進んでいくランドと天馬パーティー。
現在は第5層前の大きな扉に立っていた。
「ここは?」
「ダンジョンには1つの区切り毎に階層ボスってのがいるんだ。ダンジョンボスを最後の敵とするなら中ボスって奴だな。今までの奴より強いがそれでも大したことはないし、勇者様方なら行けるだろ」
「用心はした方が良さそうですね」
「天馬くんなら大丈夫! 私もちゃんとサポートするよ!」
不安そうな顔を見せる天馬へとアゲハは励ましの言葉をかける。
「いいえ、わたくしの攻撃魔法にて天馬様のサポートをしますわ」
「聞き捨てならないね、ここは私が天馬の背中を守る。君達はそこで見ていると良い」
「私が!」
「わたくしですわ」
「私だね」
ぎゃあぎゃあと騒ぎだし、緊張感の欠片も無くなったその場で、喧嘩をみていた天馬は思わず吹き出す。
「ははは、これじゃあ緊張してたのが馬鹿らしいや。……よし、もう大丈夫だ。皆、サポートを頼む!」
「「「任せて!」」」
先程までの緊張は無くなったようで、天馬はしっかりとした顔つきになる。
その光景をみていたランドは自分は空気になった気分に陥っていた。
「さっさと行くぞ」
もう既に終わらせて帰りたいと感じているランドは扉を開く。
次いで、天馬、アゲハ、ルーチェ、玲華と扉をくぐると、そこにはただの空間が広がっていた。
石畳の床に壁、そして上を見上げるとどこまでも続いている暗闇だ。
そして不意に部屋の角に設置されている松明に火が灯り部屋を照らす。
「来るぞ」
「へ?」
──ヒュゥゥゥゥゥゥ。
まるで口笛のような音がランド達のいる部屋へと流れ込む。
訳のわからない天馬達はキョロキョロと周りを見るが何もいない。
ただ、ランドは一人だけ天井を見上げていた。
ふと気づいた天馬もランドの視線を追おうと上を見上げると。
──ズダァン!
何かが上から落下し、石畳の床に重量を感じさせる爆音を鳴らし着地する。
着地の衝撃で砂埃が舞い、その者の姿を影だけにする。
「グギャァァァ!」
埃を払うように乱雑に腕を振る、すると砂埃が吹き飛び、その者の姿を確りと目にする事となる。
その姿はただのゴブリンだ。
だが、おかしいのはその大きさだった。
明らかに通常の胸辺りまでしかない体格のゴブリンよりも大きい。
それも段違いにだ。
と言うのも、ランドよりも遥かに大きく、まるで普通のゴブリンをただ大きくしただけの様だった。
「ゴブリン!? 大きすぎる!」
「あぁ、ダンジョンの階層ボスは何故か異様にデカイ。実際強さも段違いだから、普通のゴブリンとは思うなよ」
「了解です! みんな、やるぞ!」
天馬達の階層ボスへとの挑戦が始まった。
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