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3話


 窶れた顔で街へと戻ってきたランドは、さっさと報酬を受け取り、夕飯を食べて寝てしまいたい気分だった。


「報酬をくれ」

「あ、お疲れ様です! 珍しいですね、大分窶れてますけど……」


 持ち前の営業スマイルを見せ、あざとい表情で小首を傾げる受付嬢だが、今のランドにはそれが全く通用しない。元々通用してなかったのだが。


「オークが見事に発情中だったんでな」

「あー……なるほど、それは嫌な時期に当たっちゃいましたね」


 少し顰めっ面を見せ、嫌悪感を表す受付嬢。


「まぁお陰で難なく倒せたからな。報酬を」

「あ、はい。こちらで……銀貨10枚ですね」


 差し出された袋を手にし、中身を確認すると納得したように頷いた。


 因みに、この国の貨幣は銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨、光金貨となっている。


 それぞれが10枚で1つ上の金額に上がり、ゴブリン討伐は1匹銅貨5枚、報酬としては大銅貨1枚程度であまり多くはないが、ステーキを食べられたのは上位種のホブゴブリンが1匹銀貨1枚程だからだ。なお、ステーキは銀貨1枚程する。


 対してオークは1匹につき銀貨1枚。実入りとしては此方の方が良い。

 ゴブリンよりも高いのは当然依頼の難易度と魔物の強さの違いから来るものだ。

 なぜわざわざ稼げる事をしなかったのかと言うと、聞き耳を立てている間にオーク討伐の依頼が無くなっていたためだ。


 ゴブリンのはうじゃうじゃと沸くので依頼は常に貼られており、同じように繁殖力が高い筈のオークが常に貼られていないのは、成長速度と言う違いがあり、優先度が違うのだ。


 ゴブリンの子供は成長がとても早く、1ヶ月ほどで大人になるのだ。無論、そのような成長速度なので、知能の方は対して育たない、故に頭が悪いのだ。

 対してオークは半年程かかる。おまけに子を成すと、親のオークは隠れてしまい滅多に見つからないのだ。探す手間も踏まえるとオークの方は優先度が低くなる。


「うん、やっぱり金は良いな。帰ろ」

「あ、ランドさん。ギルドマスターがお呼びしてたの忘れてます?」


 一瞬固まり、呼び出されていた事を思いだし、さらにげんなりとし、ランドは肩を落とす。


「……退職金は大金貨5枚で頼む」

「退職金なんて冒険者にあるわけ無いじゃないですか」 

 

 ふざけた事を言いつつもカウンターに入り、ギルドマスターの執務室がある場所に案内される。


「マスター、ランドさんをお呼びしました」

「……はいれ」


 促されるまま、ランドは執務室の扉を開き、中に入る。

 するとそこにはいかにも偉そうな人が座る椅子に腰掛け、机に足をのせ資料らしきものを読んでいる態度の悪い女性がいた。


「よぉ! やっと来たか!」


 ランドに視線を移すなり、不敵な笑みを見せ、立ち上がる女性。


 突然殴りかかってくる。


「またかコイツ!」


 拳を交わし、カウンターに脇腹へ掌底を叩きつけようとするものの、寸での所で避けられ距離をとられる。

 相対するランドと女性は次の攻撃に備え構えるが、お互いに動くことはせず、暫く。


「いやぁ、やっぱりお前は違うな! 流石は将来のギルドマスターだな!」

「アンタ、どんだけ代替わりさせようとしてんだよ」


 はっはっは、と快活に笑う女性、名前はイトヲカシ。

 ここ、王都のギルドマスターをしており、Aランク冒険者と言う実力者である。

 腰元まで伸ばした藍色の髪に切れ長の目、そして特徴的な泣き黒子の美人だ。

 その性格はわりと狂暴で、先程も戯れで攻撃してきたが、当たればかなり危険で、ランドも冷や汗をかいている。


「アタイだって冒険がしたいのさ!」

「知らん、さっさと用件を言え用件を」


 ブーブーと文句を垂れながらも椅子に座り、何度か回ったあと、真剣な顔をしてランドを見つめる。


「今回あんたに来てもらったのは他でもない。ちょいと依頼を頼みたくってね」

「……依頼ねぇ、あんたが直々に頼んでくるってことは厄介なんだろ? 俺よりも適任はいると思うんだが?」

「……ランクを上げようと思えば今頃Aにいる筈の奴が良く言うね」


 その言葉に視線を反らすランド。


「まぁ、良い。今回はかなり大変でさ、半端な実力だと無理なんだよ。そこお前だ」

「俺は器用貧乏なだけだぞ?」

「臨機応変に対応できる奴が欲しいんだよ。もちろん、お前だけじゃない。他にも色々と声をかけているから安心しな」

「そうか、じゃあ俺は要らないな」


 そう言ってドアへ向かおうとするランドを引き留める声がする。


「大金貨1枚」

「よし、依頼内容はなんだ。忙しいんださっさとしろ」

「清々しいほど金の亡者だな!」


 どうやってそんな早さを出したのか疑問に思うほどの速度でイトヲカシに接近していたランドに、イトヲカシは苦笑いする。


 そして落ち着いたランドへとあきれた顔をし、ため息を吐いた後に告げる。


「巷で噂の勇者は知ってるかい?」

「あぁ、飲んだくれ親父が喋ってたな」


 天井を見つめ、その時の光景をランドは思い出す。いつまで飲んでいるんだ、あのおっさん……と。


「でも噂は噂だろ? 面白い話だったけどな」

「いや、噂ではない。事実だ」

「マジか」

「マジだ」


 一瞬、沈黙が執務室を支配する。


「で、それが何か関係あるのか?」

「あぁ、勇者と言うのは世界に存在する魔王を討伐するために喚ばれた者達だ、だがその力はまだまだ弱い。よって実戦経験が必要なのだが、そこでギルドに依頼が来た。ダンジョンに連れていき鍛えろとな」

「そりゃまた面倒な……丸投げじゃねえか」


 王国も腐ってんな……とランドはボヤき、イトヲカシも口にはしないが心内では同じ様だ。


「ダンジョンならば冒険者の方が右左が分かると言う点もある」

「だから実力のある奴が勇者様のお守りって訳か」

「言い方は悪いがそうだな。だから実力者であるお前にも頼むんだ」

「それでも大金貨1枚って破格な訳ね。下手したら家が建つ値段だし」

「お前は金さえ渡せばどんな手を使ってでも依頼をこなすからな、この依頼は失敗が許されない」


 万が一勇者が死んでしまえば、ギルドの信用に関わり、下手すると潰れる。貴族の中には冒険者の存在を目障りに思うやからが少なからずいるのだ。

 失敗すればバッシングは免れず、国の違憲に関わる、よってギルドの解体が濃厚なのだ。


「おまけに失敗すればアタイの首が飛ぶしね……物理的に」


 首をトントンと叩き、ため息を吐くイトヲカシに、少なからず同情するランドは、この依頼を受けるつもりだったがより強く決心する。


「ギルドが無くなると俺も困るしな、やらせてもらおう。他にも冒険者はいるらしいしな」

「いや、引率はお前1人だぞ」

「は? どう言うことだ、勇者を複数人の冒険者で護衛じゃ無いのか?」

「……あー、良い忘れてた。勇者は1人じゃない、ざっと40人はいる」

「え、何それ。勇者ってゴブリンなの?」


 完全に1人だけだと思っていたのに、まさか40人も勇者がいるとは思いもしなかったランドは、空いた口が塞がらない。


「アタイだってそう思ったさ、何の間違いだって……でも事実らしいし、だから勇者の人数を分けて冒険者をそれぞれ割り当てることにしたんだよ」

「他も1人ずつなのか?」

「いや、1人なのはお前だけだ」

「何でだよ」

「自分勝手だから、お前」


 あんまりな物言いにさすがに我慢は出来ない。


「オブラートに包めよ独身」

「あ? 喧嘩売ってんのか童貞」

「ど、童貞じゃねぇし! 好い人がいないだけだし!」

「お前マジで童貞だったのか」

「と、とにかく何人か寄越せよ」

「逃げたな……まぁ、良いそれは出来ん! お前について行ける奴がいない! お前ソロ冒険者だろう? 1人の方が反って動けるだろ」


 大声を上げて力説するイトヲカシに何の反論も出来なかったランド、実際その通り立ったので、何も言えない。


「既に足手まといの勇者君がいるんだが……」

「安心しろ、ダンジョンと言っても浅い階層をうろうろするだけだ」


 だが、と続け……


「この依頼は本当に失敗は出来ない。ダンジョンの浅い階層と言えど油断はしないでくれ」

「さっきと言ってる事が矛盾してる気がするが……わかった、当然油断するつもりはない。死んでも勇者は帰すさ」

「はぁ、お前に抜けられるとアタイ達ギルドも困るんだ、お前もちゃんと帰ってこい」

「当然だ、大金貨1枚の為だからな」

「……変わらんな、お前も」

「そこまで長い付き合いじゃないだろ」


 いかにも旧知の仲のように話しかけてくるイトヲカシに呆れた顔をランドはする。ふっ、と笑ったイトヲカシは、椅子から立ち上がり背伸びをする。


「くぁーー、いつになく真剣に話し込んじまって体が鈍る。おい、ランド、ギルドマスター命令だ、訓練に付き合え」

「職権濫用かよ」

「いいから来い」


 ランドの首根っこを掴んだイトヲカシはずるずるとギルド裏手にある訓練所に連れていかれ、辺りがすっかり暗くなるまで戦闘をすることとなった。

 

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