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2話

少し長めです。

 この日のランドの気分は最高潮であった。


「フンフフーン」


 先日、たまたま偶然遭遇したホブゴブリン共のお陰で、良い稼ぎが出来、夕食はその金を全て注ぎ込み、ステーキを食べたのだ。それも2枚。


「凄い、最高の気分だ。今なら困ってる人を銅貨5枚で助ける自信がある」


 それでも金はとるランドであるが、この男がたかが銅貨5枚、1ゴブリンで人を助けるなどそうそう無いので、これはかなり機嫌が良かった。


「たった銅貨5枚で助かるとかあっちもハッピーこっちもハッピーだろ」


 スキップ混じりで街中を歩くランドは、不意に立ち止まる。

 今の台詞、どこかで言ったような……と言う感じで顎に手をやり、暫く考える。


「あぁぁぁぁぁ! あの野郎から金とってねぇ!」


 道のど真ん中、膝から崩れ落ちたランドは人目も憚らず叫び出す。

 道行く人達は、驚いて二度見したり、子供が指を指して親に注意されたりなど様々な反応を示す。

 だが、ランドはそんなことは気にしない、今はどうやって金をむしりとるかを考えていた。


「くそ、あのときはステーキでいっぱいだった……あの野郎の存在を半分忘れてたし、はっ、もしや俺がステーキに行くように誘導したのか!? 許せん!」


 身勝手な勘違いをしたランドは早速とばかりにあの少年を見つけ出し、袋叩きにしてやろうと考えるが、またしても膝を着いた。


「名前……知らねぇ!」


 自分の不甲斐なさに絶望する。そして、自分の欲望にまっしぐらなところは本当に自分で尊敬している。

 これからしらみ潰しに探すことも出来るが、ランドは不確定な出所の無いものは信用しない質だった。

 それは、少年が大した金を持っていない仮定し、そして次あったときにせびろうと言う考えに落ち着く。


「まずは今日の銭だな」


 直ぐに気持ちを切り替えたランドは、そのままギルドへと向かっていった。



◇◇◇



 ランドは依頼ボードの前でのんびりと依頼書を見ていた。

 普通、そんなことをすれば次々と依頼書が他の冒険者にとられて良い依頼が無くなって行くのだが、あまり気にしていない。


 ランドはある情報を待っているのだ。


「おいおい、聞いたか、勇者はやっぱり召喚らしいぜ?」


 誰かが言った。


 それは昨日も昼間から酒を飲んでいたおっさんなのだが、今日も今日とて酒を飲む。

 このおっさん、いつ働いているのかは誰も知らない。

 ランドも毎日ギルドへやって来るが、おっさんはずっと酒を飲んでいる。


 ギルドの不思議の1つ『ずっと酒を飲むおっさん』だ。


「マジかよ、召喚ってあれか? たまにいる魔物とか呼び出すみたいな」

「あんなもんとは比べ物にならねぇらしいぞ、なんでも宮廷魔導士が総掛かりでやるらしい」

「へぇ、あんなお偉いさんがねぇ……召喚される方は堪ったもんじゃないな」

「勇者たちは可哀想だな、俺ならやってらんねぇわ」


 本来、金に繋がらない事には興味が無いランドだが、暇潰しにはうってつけな勇者の情報は、わざわざ聞き耳を立てていた。



「それと、もう1つ……」

「あん?」

「実は勇者は既に召喚されてるらしいぜ?」

「はぁ!? それならもっと気づいてる奴がいるだろ!?」

「声がデケェよ! それは多分、勇者を鍛えるために秘匿してんだろ、勇者と言っても一般人らしいし、素人だ少しでも強くしとかねぇと他国に抱え込まれるかもしれないだろ?」

「なるほど、強けりゃ威嚇にもなるしおいそれと手は出せねぇな」

「あぁ、そうなると軍事利用じゃないかってのが俺の予想だ」


 あくまでも予想だがな……と苦笑いしたおっさんは酒のおかわりを注文する。


「でもよぉ、そんな強くなる奴らが黙ってねえだろ?」

「だから、城では裕福な暮らしをさせて濁してるんじゃねぇかって噂だ」

「噂の信憑性高くね?」

「俺の知り合いが城にいるからな、情報ならお手のものよ」


 今度は得意気に笑うおっさん。

 笑いのレパートリーが多いなと思ったランドは、めぼしい情報がその後、手に入らなかったので依頼書を剥がし受付へ持っていく。


「ランドさんおはようございます! 依頼ですね?」

「頼む」

「はい、確認します……今回はオークですか。オークも危険な魔物ですので十分お気をつけて」


 受付を終えたランドはそのままギルドを出ると言うところで受付嬢から呼び止められる。


「忘れてました、ランドさんはこの度Bランクへの昇格試験が受けられるようになったので、受ける場合は手続きをしてくださいね!」

「マジでか」


 冒険者というのはランクが存在する。

 ざっと言えばF~Sだ。


 Fランク。

 登録したての冒険者、素人若しくは毛が生えた程度で、調子にのってゴブリンやスライム程度に殺られるレベル。


 Eランク。

 駆け出しの冒険者、油断さえしなければゴブリンとかに負けることはない。ホブゴブリン等に運悪く出会うと死ぬ。


 Dランク。

 一人前の冒険者、Fランクの様に、このランクの冒険者が結構多い。いかに早く抜け出せるかで才能が別れる。パーティーを組始める者もいる。


 Cランク。

 腕の立つ冒険者、いわゆるベテラン。ランドは現在このランクである。依頼の難易度も上がっていく。


 Bランク。

 優秀な冒険者、Cランクの厚い壁を突破し、さらに難易度の高い依頼が増える。


 Aランク。

 天才な冒険者、一般的に見るとここが限界とされる、たどり着けば十分に化け物。ドラゴン程度なら殺れると称される。


 Sランク。

 伝説の冒険者、人類の最高到達点とされている。到達点とは言うものの、完全に人間辞めてる怪物だ。世界に二人しかいない。


 このように、上に行けば行くほど受けられる依頼の難易度が上がる。

 だが、ランクが上がるのはメリットだけではない。

 自分のランクよりも2個以上したのランクは受けることが出来なくなり、上の者ほどその命を危険に晒すこととなる。


 特に目標がない、のんびり稼いでいきたい冒険者はC、もしくはDランク辺りで落ち着くものが多い。

 安定して稼げるのがその辺りだからだ、ランドも例外ではないが、やはり当初は高い志を持って冒険者になったものだ、稼げるうちに稼いでおきたいと言う思いもある。


「それと、ギルドマスターがお話があるそうなので依頼終わりに来てください」

「……Bランク目前にしてクビか、世知辛い世の中だな」

「ち、違いますよ! 詳しくは分かりませんがきっと大丈夫ですから!」


 なにやらギルドマスターからの呼び出しを食らってしまったらしい。

 面倒だと思いつつも、ランドは一先ず依頼をこなす事に集中する。



◇◇◇



 先日も訪れた平原を、ランドは散歩をするように歩いていく。


 隣街まで延びた街道を外れ、今回の討伐依頼であるオークは森のなかにいることが多い。こちらも繁殖力が高く、強い。

 進化して漸く強くなるゴブリンとは違い最初から腕力や知能などが高いオークは種族的には上位互換と言っても良い。


 この討伐依頼のランクはD、普通ならオークは単体で戦う相手ではない。

 持久力も高いオークは長期戦になると荒々しくなり、より厄介になる。なので普通はパーティー等を組んで素早く倒すのが定石である。


 だがランドはパーティーを組まない。


 それは一重に、パーティーを組むと報酬が山分けになり、取り分は減るからだ。

 普通ならばそれは命や安全を買ったと言う事を甘んじて受け入れるのが常であるが、ランドはそれを受け付けなかったのだ。


 そうこうしている内に森の奥までやって来たランドは、キョロキョロと辺りを見回し、オークを探す。

 こういう要り組んだり、足場の悪い森などは先に敵を見つけた方が有利に事を運べる。


「あ、いた」


 草むらをかき分けた先に2匹のオークを発見する。しかし、そのオーク達は様子がおかしい。


 1匹のオークがもう1匹のオークの後ろから覆い被さるようになっており、荒い息を吐く……覆い被さられている方も同様に、いや、それ以上に荒い。


「フゴォォォォ!」

「フゴ、フゴ、フゴォォォォン!!」


 そして覆い被さっている方は激しく動き、鳴き声は更に増す。

 

「……どう見ても発情中だな」


 かなり冷たい眼差しで行為に及ぶオーク達を見ているランドは、手に持った剣を肩に置き、何となくボーッと見ていた。

 殺ろうと思えばいつでも出来るのだろうが、手出ししないのは卑怯だと考えるからか。


 否、実際にはバレたらどんな反応をするか気になったので試してみることにしただけだった。

 オークは繁殖力が高いとは言ったが、それと比例もしくはそれ以上に性欲も強いのだ。

 そしてゴブリンとは違い、平気で女性を襲うのたが、狙ってる訳じゃなく、ただ発情中に見かけた者を発散するために襲うのが通説だ。


 例えそれが男であろうとも、他の魔物であろうとも例外ではない。見境が一切無いのだ。

 なお、これはオークの雄雌関係なく性欲がかなり高い。


 ランドのしゃがんでいる位置は、ちょうどオークが横を振り向けば直ぐに視界に入る場所だ。

 そんな場所で待つこと数分、漸く気がついたのか1度ランドを見る。そして視線を反らした後シンクロ率高めな2度見をする。

 

 だがなおも止まらない腰の動き、そして見られたことの興奮か、より一層強まったことに、ランドは「もう殺して良いかな。良いよね? 殺そう」と考え始めた。


 だが直ぐに天元を突破したのか、ビクビクと軽い痙攣を起こし、息を荒くして離れる。

 そしてランドに向き直り、「いざ勝負!」とばかりに槍やこん棒を持ち始めたときには、脳みそから血を流した他のオークがいた。

 それに気がついたときには体に軽く衝撃が走る、その箇所を確認すると心臓目掛けてランドの持っていた剣が刺さっている所を確認した所で絶命した。


「……やっぱさっさと倒せば良かった」


 嫌なものを見せられたと手で顔を覆い、ため息を吐く。

 しかし、まだ仕事は残っておりさっさと終わらせることを心に誓った。



◇◇◇



 その後は、見つけ次第待たずに速攻で首を刈り取り、あっという間に依頼を終らせたランド。


 本来こんなに早く終わるはずも無いのだが、ランドの実力と言う部分も大きい。だが、それ以上にオークがアホだった。


 なんと出会うオーク全てが発情中であり、もれなくペアで存在し、全くランドに気がつかなかったのであっさりと終わらせる事が出来たのだった。


「なんかあれだ。スッゴい疲れた」


 少々窶れた顔で、素材の入った袋を引きずりながら街へと戻っていくランドだった。

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感想など、軽くでも良いので欲しいです!

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