凱鋼機士の日常。
4/6 一部修正。
世界最大の大陸、イステリア。かつて、広大なこの大陸を統一しようと野望を抱いた帝国があった。 元々は大陸北部に位置する小国に過ぎなかったが、強大な軍事力を背景に周辺諸国を次々と侵略し、瞬く間に大陸の四分の三までもその支配下に治めた。抵抗する国は皆殺しにして滅ぼし、下った国は属領として奴隷同然に扱い重税を課し、支配力を更に強めていった。
主だった大国は滅ぼされ、あるいは属国と化し、残すのは大陸南方に点在する小、中規模の国だけとなっていた。大陸統一は時間の問題。当時の誰もがそう考えていた。
しかしただ一人だけ。そう考えていなかった男がいた。
男の名はトリスタン・リフェルド。かつて帝国に滅ぼされた国の、ただ一人逃げのびる事の出来た王子。彼は、僅か十五歳で南方に点在する小中国をまとめ上げ、一大連合軍を起こした。
彼と彼の作った連合軍は、所詮南方諸国の最後の足掻きに過ぎない、と言う帝国の冷ややかな反応を余所に、次々と帝国軍を打ち破って行き、挙兵より僅か二年で有史以来最大の領土を誇った強大な帝国を撃ち破る事に成功する。
この奇跡的な出来事に、帝国に征され虐げられて来た人々は狂喜し、トリスタンと彼の率いた連合軍の中核を担った五人を指し『六英雄』と称えた。そして――
特に中心人物であったトリスタンを英雄の中の英雄、『英雄王』と称えた。
巨大帝国イブロスが、トリスタン率いる通称六国連合との大戦に敗れ、滅んでから三年。六国連合は六国同盟と名を変え、帝国の属領となっていた国々も旧国再興、あるいは新興国として独立し、世界は六国同盟を中心に急速に再建しつつあり、平穏な世界を謳歌していた。
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大陸東部に位置するゼスター王国も数ある新興国の一つだ。帝国時代は最東端の辺境領でしかなかったが、現ゼスター王の英断により、劣勢を示唆されていた連合に早くから協力し、帝国に反旗を翻してトリスタンに協力した事から――結成当初こそ加入していなかったが――今では立派に六国同盟の一つに名を連ねる国として知られている。また――
『六英雄』の一人、オルトルス・ゼスター第四王子の住まう国としても知られている。
☆☆☆
朝靄を切り裂き、剣が唸りを上げて向ってくる。それを全身黒色に塗られた無骨な装甲で覆った鎧武者が手にした盾で受け止めた。耳障りな金属音と火花が周囲に飛び散る。
盾で斬撃を受け止めた鎧武者は、衝撃を受け止めきれなかったのか、大きく体勢を崩す。
「クッ……この程度で崩れるな……っ!」
彼女――イクスフェス・ティアードは忌々しく舌打ちすると、体勢を保とうと両脚に力を込める。一瞬、足に抗議をする様な微振動が伝わったが、直ぐに力強く地面を踏みしめた。
「ええい……一々反応が鈍いっ!」
手早く微調整を施し、改めてグリットを握ると、左手を軽く突き出す。再び振動が伝わるが、それも一瞬だけで直ぐに左腕が盾で受けていた剣を押し返した。
弾かれた相手――こちらは白い鎧――の武者は、だがしかし体勢を崩す事無く、押された反動を利用して身体を回転させて切りつけて来る。
「チッ、相変わらず嫌らしい動きをする!」
悪態を付きながら、今度は剣で斬撃を受け止めると、左手の盾で殴りつけようとする。だがそれよりも早く、滑らかな動作で後ろに退き、イクスフェスから距離をとった。
追いかけて距離を詰めようとも思ったが、踏み出そうとした瞬間、やはり足から振動が伝わり、やむなくこちらも一旦後ろに下がる。
「このっ……整備不良でもあるまいに……何だと言うのだ!」
先程から何度も感じる一瞬の抵抗感がイクスフェスを苛立たせている。
白い鎧武者の身体が僅かに沈み、次いで勢いよく剣を付き込みながら距離を詰めて来る。
その動きはイクスフェスも予め予測していた。身体を半歩引かせ盾で剣を受け流す。しかし、相手の姿勢を崩す事は出来ず、続けざまに斬撃を繰り出して来る。
その攻撃をイクスフェスは全て盾で受け止める。防備の固さに攻めきれず、白い鎧武者は大きく横薙ぎの斬撃を繰り出した直後、再びイクスフェスから距離を取る。
猛攻をしのいだイクスフェスが一息つく間もなく目の前の武者がブルッと身を震わせ、全身から熱気の様な物を吐きだした。
「っ……!ここで仕掛けて来るのか!」
相手の脚絆に嵌められたクリスタルの様な物が輝き、足を薄明るく染める。途端に目の前の鎧武者が地響きを上げて飛び出してくる。
「また、地味な鎧技を!」
誰しもが初めに覚える、突進力を爆発的に高める移動補助の技――霊洸脚。黄色い鎧武者は十数メートルの距離を物ともせず、一気に間合いを詰めて来る。
無論、イクスフェスは相手が鎧技を使ってくる事は最初から警戒していた。だが、予想外のタイミングで使われ反応が遅れた。加えて――
「またか!」
続いて来るであろう斬撃を防ごうと盾を動かそうとするが、先程と同じく振動が腕の動きを一瞬だけ遮り――盾を持つ左腕が動いた時には既に眼前に鋭い切っ先が迫っていた。
☆☆☆
「クソ……またアルスタに負けたか……」
裏手にある建物に移動しながら、イクスフェスは悔しそうに下唇を噛む。勝敗は呆気なさすぎる程、呆気なくついてしまっていた。
アルスタとは先程まで闘っていた相手で、この二年と三ヶ月、何度と無く対戦してきたが、結果はイクスフェスの全敗と言う屈辱的なものだった。
と、彼女の足元を数人の小人が通り抜けて行く。身長は彼女の膝辺りまでしか無い。
《また負けたらしいぜ、アル相手に。全敗だぜ全敗》
《あんなにあっさり負けて。あれで『六人目』の配下だってんだから笑えるぜ》
小人達はチラチラと彼女を見上げながらそう囁き合っている。小声で話している様だが、その声はキッチリと彼女に丸聞こえだ。
「……お前等だってアルスタには一度も勝って無いだろうが!」
小人を見下ろしながら忌々しそうに呟く。ただのやっかみだと解っていても、尊敬する『六人目』の名前を出されて侮辱されれば、このまま踏みつぶしてやろうかと言う気にもなる。
流石に行動に移す訳にも行かず、殊更乱暴な足取りで彼等の頭上を通り過ぎて行くだけにとどめた。それでも小人達にとっては目の前で山が動いた様な物で、大分アワを食った様子で逃げ出したので、少しばかり溜飲がさがった。
そのまま少し先の、大きく扉が開けられた建物に入り込む。中では彼女と同じ様な鎧姿の武者と、先程見かけた小人達が多く存在していた。
否、周囲の構造物と比較してみれば、彼等は小人で無く平均的な身長の人間とわかる。
大きいのは彼女、鎧武者達の方だ。とは言え、イクスフェス自身が巨大な訳ではない。
確かに今の彼女は鎧を着ている様に見え、挙動も生身のそれと酷似している。しかし、全ての大きさが人間を遥かに凌駕している。身長は四・二メートルに届き、手にした剣や盾も優に人間とほぼ同じ大きさを誇る。
だが、これは彼女自身の姿では決して無い。この世界で主力と目されている陸戦用機動兵器――鎧鋼機兵。人が乗込みて操る、機械仕掛けの巨人兵だ。
イクスフェスは鎧鋼機兵を所定の位置まで移動させると、機体に乗降姿勢を取らせる。
全体的なシルエットは人間に酷似している鎧鋼機兵だが、特徴的な脚部構造をしており、四足動物の脚部に近い形状で脹脛部分に細い補助脚を左右二脚ずつ有する、いわゆる多脚構造だ。
その補助脚を展開させて脚を地に固定し上半身を水平に寝かした、一種独特な姿勢が乗降姿勢で、これにより地面との高低差を減らし乗降を簡便化させている。
胸部を覆う装甲が丸ごと前に迫り出し、出来た隙間から滑る様に降りたったのは、無骨な鎧鋼機乗服を着こんだ、女性としても鎧鋼機乗り(ライダー)としても比較的身長の高い人物だった。
スラリとした肢体に、東方人には珍しい透き通るような白い肌に金髪をショートにし、気難しそうにつりあがった眉に切れ長の碧眼。色気の無い機乗服に身を包み、唯一のアクセントとして首元に銀色の首飾りが光っている。
美人と呼ぶに相応しい美貌を持つこの女性こそが、イクスフェスその人だ。しかし、無骨で堅物な気質と一八二センチの高身長は男性から敬遠されるには十分であったし、女性鎧鋼機士という立場は更に彼女を近寄り難い女性と周囲に見せている。
現に鎧鋼機兵から降りたイクスフェスに誰も近付こうとせず遠巻きに彼女を眺め、ヒソヒソとささやき合っているばかりだ。
耳を澄まさずとも彼等が何を囁いているのか、イクスフェスには十分解った。
『何故あんな奴が……』『大して技量も無いくせに……』『上司に取り入って身分不相応な地位を手に入れやがって……』と、恐らくこの辺りの悪口を言っているのだろう、と彼女は思う。
彼女は今年初めに機士の任を受けたばかりの新人機士で、ここは訓練生や彼女ら新米機士が鎧鋼機を用いた訓練を行うゼスター国の練兵所だ。
機士とは鎧鋼機士の中でも特に人型の鎧鋼機兵の操縦者を指して言う。戦場の花形が鎧鋼機兵である現在、騎士よりも上位に位置すると言ってもよく、簡単に言えばエリートだ。
とは言え彼女自身にエリートと言う自覚は無い。元帝国属領で他国よりは比較的戦死者が少ないが、それでも大戦で多くの機士が命を落としており、二年前の建国に伴い戦力の象徴である鎧鋼機士の増員は急務とされ、急遽訓練生として集められた内の一人でしかない。
周囲にいる者も殆ど彼女と同期で多くの者が二十歳未満、イクスフェスにしてもまだ十九歳、この国での成人を迎えて一年足らずだ。
ゼスター国の規定では、鎧鋼機士になるには本来四年以上の訓練が必要で、卒所以降も短期育成の彼女達は定期的に練兵場で訓練を行うのが義務になっている。従って周囲にいる機士の七割は同期生で、残りは自主訓練に来た先輩機士と指導教官だ。
何故イクスフェスが周囲から陰口を叩かれているかと言えば――主に配属先が問題なだけだ。
「何故あんな弱い奴が『六人目』……英雄オルトルス様の配下なんだ?」
その半数の内の同期騎士の一人が聞えよがしの大きな声でそんな事を言う。それは紛れも無く、この場に居る大半の者達の疑問であり不満である。
その不満は解らなくも無い、とイクスフェスは思う。『六英雄』の一人、オルトルスの名はゼスター国、いや東方地域に住む者にとって特別な意味を持っており、東方人の誇りだったから。
今でこそオルトルスの名は大陸全土に知れているが、大戦終結後までは殆ど知られておらず、『六英雄』も当時は五英雄と呼ばれ、オルトルスの名前は含まれて無かった。
裏方に徹し連合の維持や英雄達のサポート役に回っていた為、連合内でも名を知らない者の方が多く、あまり評価されていなかった。だが、大戦後にトリスタンを始めとした五英雄が彼の功績を称えて以来、人々はオルトルスを含めて『六英雄』と呼ぶ事となる。
この自ら功績を誇った訳でない奥ゆかしさと、英雄が認めた英雄と言う立ち位置が東方人に好意的に受け入れられ、彼を指して『六人目』と呼び敬う様になった。
ゼスター王国では英雄王トリスタンがオルトルスを親友として認めていると言う話が伝わり、彼の人気は爆発的に上がり、多くの鎧鋼機士達が彼の下で働きたいと願っていた。
だが、何故か今年の人事でオルトルスの下に配属されたのはただ一人、イクスフェスだけだった。その事が他の機士達の神経を逆撫でした様で、それまで仲の良かった同期や先輩騎士達から、有形無形の嫌がらせをして来る様になっていた。
正直に言えば勘弁してほしい、とイクスフェスは思う。確かにオルトルスの様な英雄の下で働くのは、機士を目指す者ならば究極の憧れでもあるし、任命を受けた当日は舞い上がっていたのも事実だ。しかし、配属されて三ヶ月。今ならばハッキリ言える。馬鹿だった、と。
『そんなに羨ましいなら、誰でも良いから今すぐ代わってやる。喜んで代わってやる。と言うか代われ。今すぐ人事に駆け込んで今日にでも交代してやる。願ったり叶ったりだ!』
と言う言葉が喉元まで出かかって来るのを、彼女はグッと堪える。
怒鳴り返したいのは山々だが、それをした所で『英雄の部下』と言う肩書に変わりはなく、彼らには何を言っても嫌味にしか聞こえないだろう。
そう取られる事こそ馬鹿々々しい限りだ。彼女の立場はそんなに良い物では無い。
「嫉妬で仲間を正当評価出来ない馬鹿共など相手にするなイクス」
その声は大して大きくは無かったが、広い鎧鋼機待機場に良く通り、ザワザワと騒がしくなりかけた周囲を沈黙させるには十分な威圧感を持っていた。
イクスフェスが声の方に振り返ると、東方人特有の赤みがかった肌と黒髪を短く刈り込んだ、イクスと同程度の長身の男が、精悍な顔を不愉快そうに歪めて立っている。先程の対戦相手、アルスタ・ガリルだ。
「彼女を選んだのはオルトルス様本人だと聞く。まさか我らの英雄が下した判断に異を唱える者がこの中
にいるのなら、その者達に鎧鋼機士の資格は無い。今すぐここから立ち去れ」
彼は彼女の同期で、訓練所時代から(教官を除けば)誰にも負けたことが無く、また面倒見が良く人当たりのいい性格の為、期待のルーキーとして同期達の纏め役兼リーダーとして一目置かれている。
「だ、だけどよ、アル……あいつがオルトルス様の直属だなんて納得できないぜ」
「そうだよ!訓練所の成績から言えば、どう考えてもトップのお前か次席のネルマンが指名されてなければおかしいだろ!」
「訓練所の成績なんか、配属後には参考程度にしかならないさね。所詮アタイらもアンタらも練兵所通いの身に変わりは無いさね」
「そうそう。英雄の部下だって結局は下っ端でやってる事は私達と同じじゃン!」
非難じみた事を口にしていた者の一人がそう言うのを遮ったのは、一六十センチ位の身長で美人ながらも少しキツめの顔の作りとイクスフェスを遥かに超える迫力のある胸をした女性メイリーン・ザシャと、愛嬌のある可愛らしい顔立ちで活発な印象のある、少し小柄なトーニャ・ハリスンだ。
共に彼女の同期で、同郷と言う二人は別々の隊に配属されているが、よく一緒に行動していて、イクスフェスには卒所後も変わらぬ態度で接してくれる数少ない友人と呼べる二人だ。
同期三人に言われたからか、口々に文句を言っていた同期達は口を閉じ気まずそうにし、それに釣られるように他の騎士たちも視線を逸らす。
「彼女達の言う通りだ。くだらない事で時間を取らせるな。それでもまだ愚痴を言い足りないのなら、俺が試合で聞いてやってもいいぞ」
同期に言うに見せかけ、その実周囲の先輩騎士達にも聞えよがしにアルスタが言う。新人機士にしては強気な態度だが、それを容認させる程の技量を彼は既に周囲に見せつけていた。
ほどなくして――不承不承である感は否めないが――イクスフェスの周囲から同期や先輩の機士たちが散り散りに去っていった。
それを見送った後、アルスタは苦笑を浮かべながらイクスフェスに近付き、声を掛けて来る。
「そう怒るな。英雄の部下と言う肩書はやはり魅力的だ。嫉妬しても仕方ない。実情を知らなければ、の話だが……」
「……別に怒ってなどいない」
「良く言うさね。思いっきり不満そうな顔してるさ、アンタ」
「そうそう。言い返さなくてもそこまで顔に出てたら一緒じゃン」
アルスタに続き、メイリーンとトーニャも声を掛けて来る。
「む……そんな事は……無い……筈だ」
言われて、思わず自分の頬を両手でムニムニするイクスフェスに、三人は思わずと言った感じでクスリと笑う。
「……別に私に不満などない。私とて自分は恵まれていると思うからな」
口ではそう言ってみる物の、やはり他の機士達から妬まれたり嫌がらせを受けるまで、恵まれた待遇では無いと、内心では思ってしまう。
勿論オルトルスの事は尊敬しているし、あれ程の英雄に指名され、その下で働けるのは名誉な事だと理解はしているし、誇りも持っている。
だが『それでも』と言いたくなる時はやはりある。
「私だって、彼らの言い分に頷ける部分はある。実力的に言えばアルスタの方が私よりも遥かに相応しいと思う。オルトルス様が認めればお前と代わっても一向にかまわない」
「実に魅力的な提案だ。あの方の部下と言う立場はやはり俺でも憧れるから喜んで交代しよう」
多分に本音が含まれている彼女の言葉を、アルスタは敢えて冗談だと受け取った風を装い、
「と、思わず答えたくなるな。その『英雄の部下』の立ち位置の実情を知らなければ、だがな」
ニヤリとアルスタは意味あり気な笑みを浮かべ、その笑みにイクスフェスは嫌そうに顔をしかめ、そんな二人の様子にメイリーンが笑いを堪え――三人の様子にトーニャが首を傾げる。
「え?何?三人して変な顔して?オルトルス様の部下ってなんかあるの?」
不思議そうな顔の彼女に、アルスタは苦笑しながら、
「あー……俺はほら、配属先が配属先だから……色々と情報が入るからな、うん」
言いながら頬を指で掻く彼の配属先はこの国の中枢に近い部署で、この国の第一王子、オウガルスト・ゼスターが指揮する鎧鋼機兵隊だ。
国民の人気こそ弟のオルトルスの方が高いが、事実上の王位継承者、オウガルストの直属であるアルスタは新人ながら、立ち位置的にも実力的にもイクスフェスより上の立場と言える。その関係上『英雄の部下の仕事』の実情がどんな物なのか、他の物よりも詳しく知っている。
「アタイは別に情報なんか無くても大体察しがつくさね」
「……どゆことなン?」
訳知り顔のメイリーンの所属は輸送部隊だ。花形とは言い難い部署で、アルスタ程に情報が集まる立場ではない。それは警備隊に配属されたトーニャも同じだ。
「そんなん、アタイとアンタの境遇見てりゃ分かるさね」
二人は正規機士ではあるが、配属された部隊は建国に合わせて急増された隊で、まだまだ凱鋼機兵の数が足りず、一機の凱鋼機を数名で乗り回す状態であり、あぶれた機士達は練兵場での訓練に従事させられている。要するに無駄飯食う位なら訓練しておけ、と言う事だ。
「そんな、仕事無くて強制訓練通いのアタイらと頻繁に顔を合わせているさね。って、事はイクスの仕事も察しがつくって物さね」
「……ああっ!なるほど言われてみればそうね!」
言われて納得したようにトーニャはウンウンと頷く。
「英雄と言ったって、今は無役で静養中だもンね!アタシら以上に仕事が無くて当然か!」
「ぬぐっ……放っておいてもらおう」
図星を見事に指され、仏頂面で彼女が吐き捨てると、二人は愉快そうに笑う。と――
「ゴホンッ……あー、その何だ……この流れで言いにくいのだが、表にオルトルス様からの使いが訪ねて来ているぞイクス?」
わざとらしい咳払いと共にアルスタがそう言って入口の方を指し示す。その先に身知った顔を認め、イクスフェスはあからさまに渋面になる。
「クッ……朝に何も言われなかったからと油断した……」
「……まぁ……仕事が出来みたいだから、よかったじゃないか、うん……」
「……本当にそう思うか?」
「……ま、取り合えず頑張れ……」
軽く肩を竦ませながら言うアルスタに「他人事だと思って気楽に言ってくれる」と怨みがましい視線を向けるが、結局溜息を吐くことで諦め三人に別れを告げると、迎えに来た使いの者の下へ向かって行った。
いきなりちょっと長いですが……
キリの良い所が無かったもので……