第1話 『僕より良い人みつけます」
大学1年の春、私は人生で初めて恋をした。
そして大学2年の今、私は初めて失恋した。
お相手はサークルの一個上の先輩。お世辞にもイケメンではないけど、いつも明るくて誰にでもきさくに話しかけてくれて、子供みたいに無邪気に笑う人。時折見せてくれる優しさに私は惹かれていった。恋をするのは初めてで、自分の中にあるこの未知の想いを抱えたまま、どうすればいいかも分からず、出会って何もないまま1年以上が過ぎた。このままじゃいけない。ただの「先輩・後輩」のままで終わらせたくない!
大学2年の夏。私は先輩たちがサークルを引退してしまう直前に告白する事を決意した。
そして今。告白直後。
結果は惨敗。いつもニコニコ眩しい笑顔で私を見てくれる先輩が、すごく辛そうな顔で「ごめんね…。」と私に告げた後、俯いて動かなくなった…。
「いいんですいいんです!先輩が私の事『女』として見てくれてないなぁってのは薄々気づいてたんで…!覚悟してましたから!先輩が引退しちゃう前に言えて良かったです!スッキリした〜。だからそんな申し訳なさそうな顔しないでください〜」
振られた時の為に用意していた言葉を口から出そうと思っても声が出ない。あれ?私振られた後どんな態度をとってどんな言葉を言う予定だったんだっけ?振られても今後気まずくならないようにって、昨日いっぱい考えたのに。あれれ…。
そうか。これが失恋か。そう思った途端、一粒、また一粒と涙が溢れ始め、それは壊れた蛇口のように止まらなくなった。ダメだ、先輩を困らせてしまう。早く泣き止まないと。早く立ち去らないと。そう思った矢先、先輩の口から信じられない言葉が飛び出した。
「僕より良い人見つけます!」
「…はい?」
どうやら私はとんでもないない人を好きになってしまったようだ。
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「ごめんねぇ。悟志くんの事『友達としては好き』なんだけど、それ以上には思えないかな…(笑)」
また振られた。中学の頃から大学3回生の現在まで、振られた回数はとうとう2桁に達した。決まって言われるセリフは『友達としては好き』。
なんだそれは。好きなら付き合ってくれ。
「成人してるのに彼女ができた事がない。」、「片思いで振られた回数が2桁。」こうなるともう自分に自信が無くなってくる。家族や友人の前では明るく振舞っているけどかなり心を病んでいる状態だ。ウチの母はあまりにも彼女ができない僕を心配してか、最近親戚各位に電話してお見合いをセッティングしようとしている。やめてくれ母ちゃん。余計虚しくなるわ。
彼女ができないまま、恋愛への理想は膨らむばかり。好きになっていく女性の容姿レベルは年々高くなってゆき、大学に入学した頃には取り返しのつかないほどの「面食い」になっていた。
しかし面食いは面食い故に、綺麗な女性とは緊張してまともに会話ができない。しかも僕はチビで童貞だ。チビで童貞で理想の高い奥手の恋愛が上手くいくわけがない。
もうダメだ、俺は一生誰にも愛されぬまま生涯独身で死んでいくんだ…。そう思っていた矢先。
「好きです!付き合ってください!」
失恋続きで自分への自信を失い、人生に絶望していた時。僕は生まれて初めて女の子に告白された。
本当に嬉しかった。こんな僕でも誰かに愛してもらえる。それだけで今まで白黒だった僕の世界はカラフルに色づいた。今まで深い暗闇の中にあった僕の心が暖かな手の平に乗せられ、光が当たる場所に運ばれたような、そんな気持ちになった。嬉しい。人から愛されるという事はこんなにも幸せなのか。
だが、違う。僕はこの子の想いには応えられない。先に書いたように、度重なる失恋の中、恋愛への理想が高まり続けた僕は「重度の面食い」という悲しきモンスターになっていた。もはや僕が愛せる女性は全盛期の長澤まさみだけだ。そもそも僕は年上好きだ。年下の子はちょっと恋愛対象にならない。
「ごめんね…。」
君の想いに僕は救われた。辛くて暗かった毎日に光が射したんだ。でも、ごめんね。君の想いに僕は応えられない。僕を救ってくれた君に僕は何もできない。ごめんね。ちょ、泣かないで。こんな女性を見かけで判断するクズのために泣かないでくれ。罪悪感で死にそうだ。やめて、それ以上泣かないで!どうすればいい??君に幸せになって貰いたい。でも僕じゃ無理だ。君には僕よりも良い男がいるはずだ。僕よりも君を幸せにできる良い男が!僕よりも、僕よりも…!!
「僕よりも良い人見つけます!」
「…はい?」
……あれ?俺何言ってんだろう…。