ビー玉と初恋
俺はビー玉をつまんで目の前にかざして覗き込んでいた。
「ラムネの瓶からビー玉なんて取り出してどうしたの。何か面白いものでも見えるのかしら?」
「いや。というか、今は瓶じゃなくてプラだろ。容器は」
「そうだけど気分はねえ」
「まあそうか」
「それで、どうしたの」
俺はビー玉から視線を外した。
「昨日さ、初恋の彼女と会ったんだ」
「え~、ずるい。私も会いたかった」
その言葉に俺は笑った。
「そのうち会えると思うぞ」
「どうだか」
軽く睨む彼女に俺は笑みを深くする。
「それでな、別れた後、いろいろ思い出していたんだ。そうしたらあの曲が浮かんできてさ。で、丁度寄ったところにラムネが売っていたから買ってきたわけだ」
「あー、失恋決定したのがあの歌詞通りだったっけ」
「歌詞どおりってわけじゃないけど、同じような場面は見たけどな」
「雨のバス停だったかしら」
「ああ。偶然にも雨が降り出してきて、俺は雨宿りできるところを探すか、家まで走るか考えていた時だったな」
「違うのは彼女が家庭教師として現れた時から指輪はしていたのよね」
「そうなんだよ。雑談の半分以上は惚気だったし。多感な中学生に何を話すと思ったことが何度あったことか」
そう言ったら彼女がフワリと笑った。
「きついわね、それは」
「ああ。だけどあの日、あれを目撃したおかげでお前と会えたし」
そう言って見つめたら彼女は頬を赤く染めた。
「だって、雨に濡れたまま立っていたのですもの」
「小さい体で傘をさしかけてくれたのが可愛かったよな」
「あの時は・・・成長期前で少し背が低かっただけです。あなたの背が高すぎだったのよ」
「そこは2歳差がものをいったんだろ」
そういったらなおさら赤い顔をしてそばを離れようとした。
その手を掴み引き寄せて膝の上に座らせる。
「ねえ、重くない」
「全然重くないよ。今までが軽すぎたくらいだから」
彼女の身体に手を回し、ついでに腹部をやさしく撫ぜた。
「それにしてもあの時は驚いたよな」
「何が?」
「あの小さかったお前が俺に恋してたなんてな」
「もう~、言わないでよ」
恥ずかしそうに身をよじる彼女に俺は言った。
「それでな、彼女と会った時、彼女も妊娠してたんだ」
「ええっ!」
「第3子なんだってさ。家もここから近いし同じ病院らしいから連絡してみたらどうだ」
そういってポケットからメモ用紙を取り出した。
それを受け取った彼女はとてもうれしそうだった。
さて、これも何の曲がモチーフかお判りでしょうか?
クイズじゃないですよ。