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ショートショート タイムマシン


森の中にある小さな研究所では、深夜にもかかわらず窓から小さな灯りが漏れていた。

「博士、お呼びでしょうか?」

「うむ、助手N君。たった今研究が完成したのじゃよ」

「おお、ついに・・・では、そこにある小さな装置が?」

「うむ・・・タイムマシンが、まあ完成してしまったのじゃよ」

「なんと人類の夢!博士ついに・・・あれ?あまりうれしそうではありませんね?」

「わしの考えが間違っておるようにと思わんでもなかったからのう」

「それはどういった・・・」

助手Nが聞き返そうとしていたところ、そこに窓から片手にピストルを持った男が侵入してきた。


「聞いたぞ聞いたぞ? 悪いが博士、その装置は我がS国のために役立たせていただく」

「や、なんと。我が国と敵対するS国のスパイか。我々をみくびるな。命に代えてもこれは守って、」

「別にかまわんよ?」

「「博士!?」」


意外な博士の言葉に助手とスパイはそろって驚きの声をあげるが、博士は気にした風もなく。

「愛国心なんぞ一文にもならんしの。持っとってもお偉いさんが高笑いしながら利用するだけのもんじゃ。

 それがどこの国のお偉いさんかの違いでしかないわい。N君もそんなものに君の命をかけるなぞ割に合わなくて馬鹿馬鹿しいぞ」

「博士しかし」

「ふむう、、言う事はわからんでもない。我々スパイの命とて、使い捨てされるものではあるしな」


「装置を持っていくなら説明書もつけようか?」

「やけに親切で逆に怖いな。なにか狙っているのではないか?」

「誓って嘘ではないぞい。ただ、注意点としては跳べるのは精神だけということじゃ」

「体は駄目なのか?」

「質量保存の法則に反するわい。」

「むう、それは過去にも未来にも飛べるのか?」

「過去も未来も、大した違いはないんじゃ」

「ほう。何かよくわからんがもっともらしい話だな」


スパイはピストル片手に考える。

「ふむう、精神だけとはいえ、過去に隠された埋蔵金の位置がわかれば、大金持ちになれるかもしれん。

あるいは未来技術を知れば、それはそれで大金持ちや長生きできるようなことに・・・あるいは俺が権力者になるような道があるかもしれん。

よしわかった。これは国にもって帰るより自分で使ったほうがよさそうだ」

「好きに使えばよい。わしは研究費用ならともかく、権力なぞなんで欲しいのかわからんがの」

「科学者というのは浮世離れしているというが・・・まあ都合がよい。本当は二人とも殺すか我がS国に連れて行くかというところなのだが、

そんなことはもうやめだ。博士、あんたは長生きして好きな研究をつづけてくれ。俺が埋蔵金を手に入れたらば、研究費用でも贈ろう。さらばだ」




そういうと元スパイは装置と説明書を抱えて、入ってきた窓から出て行ってしまった。

あとに残されたのは博士と助手のN君である。

「期待しないでまっとるよ」

「博士、よろしいのですか?貴重なタイムマシンを」

「ふむ、そのことだがまあ、N君。君は時間とは何だと思うね?説明してみたまえ」

「ええと?い、いきなりですが、それは・・・なんでしょう。我々の認識できるのが三次元空間だとすれば、四次元目にあたる方向でしょうか。

 時空間とかいいますし」

「うむうむ、そう。確かに時間は空間と同じようにまとめて考える事が出来る。だが、我々は三次元のどの方向にも行き来できるのに、

 時間に関してだけは逆らって過去の方向に行く事が出来ない。未来に関してもまあおおむね然りといえよう。何故だと思うね?」

「それはたしか定説とかなかったですよね?、まあ自分の考えで言えば、ぼくたちが例えば二次元世界の住人で、薄っぺらい紙の中に住んでいるようなものだとすれば

 紙を上から下に落としているようなものじゃないかなあと思ってました。上下方向はあるんだけど、下に移動してるんだけど、戻れないみたいな。なんとなくですけど」

「うむ、面白い考えだ。ともかく時間は不可逆な流れのようなものじゃと考えているわけだ。」

「違うんですか?」


「話は変わるが、さっきの話じゃが、ホントは我々は未来にはちょっとだけ行く事が出来るという定説があるな?」

「相対性理論ですね?物体が光の速さに近づくほど、その物体にとって時間の流れは遅くなり、結果として運動してない、運動が遅い物体より少し未来にたどり着く事が出来る」

「そう、じゃからわしは、ビッグバン以来光速度よりも速く膨脹する宇宙という物体の時間は、どんどん遅くなっていると考えた」

「え?」

「この宇宙の時間自体が、まあビッグバンの一瞬だけなのじゃな。その一瞬だけが無限に引き伸ばされてゆく。宇宙の無限の膨脹にあわせて」

「それはなんというか、その、・・・そうすると時間というのは流れているのではないということですか?」

「そう、過去にも未来にも移動できないのは納得じゃな。無限に引き伸ばされていく一瞬、つまり現在しかないんじゃから。

 これを Time Act is TranceSelf Unit仮説。略して『TATSU(タツ)仮説』という!!m9(^Д^) ドーン」

「どっちむいて喋ってるんですか博士? …なるほど、聞いた事無い斬新な仮説ですね」

「論文書いたんじゃが相手にされなくてのう」


「多分内容どうこうより博士の英語が下手すぎたんじゃないでしょうか? しかしなるほど。納得できるような。あれ?そうするとあのスパイに渡したタイムマシンというのは?」

「わしゃ嘘ついとらんよ? 自分で使ったわけじゃないからわからんが、いまごろ宇宙の始まりの前という過去か、宇宙の終わり以後の未来とでもいおうか・・・なんか変じゃな、

 とにかく時間の外から宇宙全体を眺めてたりするのかもしらんな。そうじゃな、さっきの君の話のように我々を二次元の存在のように考えれば、薄っぺらくてタテヨコに

 どんどん広がっていく水溜りを外から眺めてる感じじゃろうか。もちろんその水溜りの厚みは『現在』という時間の厚みじゃ」

「それって『騙された!』とか怒ってやってきませんかね?」

「ないない。まあ、たぶん。考えてみたまえ、宇宙の始まりと終わりを見た者がいまさら金じゃの権力じゃの・・・君は動物園のサル山でボスが権力争いやってるの外から眺めて、

 拳銃片手に乱入したいとか思うかね?」

「それは、まあ、ないですかね」

「じゃろ?」


「そうですかー、あー、でも、残念ですね博士。せっかく作ったのに使えない機械で。考えてたようなタイムマシンなら、あの元スパイのいい様じゃないけど、もう研究費用になんて困らなかったでしょうに」

「まあそこはそれ君、物は考えようじゃよ」



 その後その装置はタイマー付き簡単解脱装置「さとるくん」として宗教関係者を中心にそこそこ売れ、研究所はそれなりに潤ったという。

 おわり。


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