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8. 学院へ入学して

誤字、脱字、不備等気になる点がありましたら、ご指摘よろしくお願いします。

 季節は流れ、いよいよ学院の入学時期がやってきた。学友の皆とも都合五回の茶会を通し、随分仲良くなれたとも思う。


 入学の数日前には学院の寮の部屋も振り分けられることとなっていたけれども、ここにも便宜が図られているのかボクたちの部屋は女子貴族寮のうち、一棟の最上階に四つ並んで用意されていた。

 部外者の立ち入りが難しいように配慮されての最上階なのかもしれないけど、ミリーさまが部屋に上るのが大変そうで少しかわいそうに思えてしまったのはここだけの話。リーネさまは思ったよりも健脚の様子。意外にもエルさまは広いお城の敷地の中で慣れていたのか、最上階でも全く苦では無さそうだった。


 寮の部屋は貴族向けに作られているだけあってそれなりに広く、一人とはいえ従者を随伴して滞在することを前提とした作りの部屋になっている。

 部屋に入ってすぐは小規模ながらも来客を迎える場があり、そこから多目的に利用できる部屋に続いている。その奥には住人用の寝室が用意されているようだ。寝室にはウォークインクローゼットを兼ねた衣装部屋や化粧室等もあるようで、領地と王都を往復する際に立ち寄るような、ちょっとした豪華な宿よりよほど作りは立派であることが見てとれる。

 また、部屋の入口の脇にはもうひとつ入口があり、従者用のワンルームが用意されていた。エントランス側にも目立たない出入口があるらしい。主人の世話をする事と、個人として休息をとる事のそれぞれに不便の無さそうな間取りだ。

 部屋に備え付けの調度品も丁寧な作りで、派手すぎない学生らしい質素なもので統一されており、落ち着きがある部屋で良かったと思う。衣装部屋には領地の屋敷からあらかじめ送ってあった何着かの衣装が丁寧に展開されていた。

 もしもこの寮の部屋が時折見かける貴族というものを何か勘違いしたようなド派手部屋だったら、エントランスから奥には入らずに相部屋上等で従者部屋で過ごしていたかもしれないが、これなら快適に過ごせそうだ。


 従者として屋敷からついてきた侍女のフォナリーテに部屋の中のことは一任したボクは、寮の周辺でこっそり鍛錬ができる場所を探しに外に出てみた。


 寮の敷地内での鍛錬を早々に諦めて学院側の敷地も周ってみたが、上級生の戦技の講義で使いそうな訓練設備くらいしかまともに身体を動かせそうな場所が学内には見当たらない始末。そしてそれ以外にもどこもかしこも学生の姿が見える。いっそ早朝か日暮れ後に学院を抜け出して街中で鍛錬をする方が人目につかず実施できるかもしれないくらいだ。

 これは本当に室内限定の鍛錬とするか学院から抜け出すかを検討しなければと思案しながら寮に戻ることにした。


    ◇◆◇


 この国の学院の入学者はそれぞれ入学資格を満たすと判断された上で入学が決定されるが、判定された試験は必ずしも同じとは限らない。貴族の場合は同じ年の園遊会参加基準の試験は共通となるが、年が違えばその限りではないし、選抜された平民や他国の者も当然基準はそれぞれ異なる。

 そのため、入学して最初に試験が行われることになっており、その結果を踏まえて面接が行われた上で、教養学のクラスが振り分けられるらしい。


 学院の一年目と二年目については、全員に共通して学ぶ教養科目がまず存在するため専門的な科目は存在しない。

 それ以後の上級生は選択によって、戦技学科、政経学科、文芸学科、数理学科の四学科が存在しており、個々人で学科を選択して卒業まで各々の学科の特色ともいえる内容を重点的に学ぶことができるということだ。

 まるで前世にあった高校と大学が一緒になったみたいに感じる。

 他に、これらの四学科とは別にそれら全てを包括して学ぶ事になる特別学科が存在しており、一握りの者だけがそこには所属しているという話だが、とりあえず一年目については考慮外でいいと思う。他の目的もあることだし、できることなら学習面ではのんびり過ごしたいものだ。


 事前に学院での学生生活についての話は先達である両親にも聞かされていたのだが、ボクら四人には試験も面接も免除が伝えられ、専用の控室に通されてしまう。そのまま時間だけが過ぎ、どうしたものかと思っているところに職員が呼びに来た。

 話を聞くと既にクラスは決まっているとかで、講義室に案内されることになった。戸惑うボクらだが、エルさまだけは何故か落ち着いている。


「なんであたしたちは試験無しでクラスが決まっているのかね」

「どうしてなのですかね。エルさまは落ち着いていらっしゃるようですが、何かご存じなのですか」

「聞かされていたのはわたくしだけだったのでしょうか。基本的に王族とその学友のクラスが離れないようにする措置らしいですわ」

「まあ、それは知らなかったですわ……」

「ボクも始めて聞いたよ」


 職員に先導されて教養学科棟の階段を一フロア上り、その並びにある講義室の一つに入ると、そこには何人もの先客が居た。


「(げっ……なんで奴がここに……)」


 声を抑えたために誰にも聞かれなくて安心したが顔は少し引きつっていただろう。講義室の中に見覚えのある少年の顔がある。エルさまの婚約者であるアズベルト・クリンベル侯子がボクらに気づき声を掛けてくる。できる限り学院内で会うことは避けたかったのだが、これも王女の婚約者だからなのか、何かの強制力でも働いているのか。

 他にも何人か居た面識のある学生たちにそれぞれ挨拶をしてから、案内に従って空いている席について待っていると、一人の正装した人物が入ってきた。


「国立学院へようこそ。僕がこのクラスの教導員のアトメリアルです。よろしくお願いします。

 エルフィリシーナ殿下の所属するクラスの教導員ということで少々緊張もありますが、どうぞこれからの二年間よろしくお願いします。まあ、講義はそれぞれ専門の教導員が教鞭を取りますので、担当講義以外で会うことはあまりないのですが……」


 年若いアトメリアル教導員は少々どころではなく緊張しているのがカチカチの動作から見て取れ、茶会を繰り返しているうちにすっかりエルさまと陛下に慣れてしまったボクは微笑ましく感じてしまう。


「さて、気を取り直して学院に関する説明となりますが、まず皆様には、一年目と二年目は教養科目を修めていただきます。それとは別に上級生になった際に特別学科を選択する気ある方は、講義後の時間に特別学科棟で追加講義を行いますので参加するようにしてください」


 今後アズベルトと令嬢たちの間で起こりうる出来事を考えて物思いに耽りつつ思考の片隅で話を聞きながら、追加で講義って大変なんだなぁ……と、他人事のように考えていると、不意打ちが入る。


「そして、殿下とご学友の皆さんは追加講義は指定参加となります。お気を付けください」


 それを聞いて思わず立ち上がりそうになったのを踏みとどまったボクを褒めたい。特別科目の参加が特別学科希望者で、ボクたちは特別科目に参加指定ということは、ボクたちは選択の余地なく特別学科を選択することになるのだろうか。のんびりと学院生活を送りたいと考えていたのにと内心がっくりとする。


 他にも学院生活を送る上での諸注意等、教導員が口頭で終えたところで初日は解散となった。

 初日だけでも既に不安要素盛り沢山な気のする学院生活だが、これからが人生を賭けた勝負の本番になる……。

前回分までの台詞の書き方を変更しました。気になったところに多少の微修正も入れましたが話に変更はありませんのでご安心ください。

今話は前回の反動か地の文が多めかも。できれば今話も昨日のうちに更新したかったですね……。


それでは、ご読了どうもありがとうございました。


◇◆◇今回初登場の人物◇◆◇

■フォナリーテ

 シア付きとして、領地から学院についてきた侍女。

 唯一に選ばれるだけあり優秀なはず。今後の出番どうなるか……。

 ちなみに身分は平脈なので姓はありません。

■サベルゲイト・アトメリアル

 シアたちの教養学科クラス担当教導員。

 要するに担任の先生。身分は男爵。


◇◆◇作中では多分触れられない蛇足的なコト◇◆◇

■ディアミナティス王国の教員・教育の事情

 アトメリアル教導員に限らず基本的に学院の教導員は爵位持ちが多い。学院で教鞭を取るには大学の教導学科卒の必要があるため、平民には敷居がやはり高いのです。

 平民向けの初等教育機関の方であれば学院卒者であれば教鞭を取ることができるため、各領地で次世代の教員にと貴族に見出された優秀な子供が援助を受けて学院に通って教員になったりもします。

 それ以外にも戦技学科や政経学科に優秀な子供を支援して入れて将来の領地経営の為に……とか。

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