3. 思い出した記憶
気になる点等ありましたら、ご指摘よろしくお願いします。
薄暗くなり始めた部屋で目覚めたボクは軽い頭痛と眩暈を感じて頭を押さえる。倒れた後にここに運ばれたのだろう。
周囲の状況を確認しようとしたところで、部屋に控えていた侍女が続き部屋への扉を叩き、向こうの部屋の相手にボクが目覚めたことを伝えた。その後すぐ部屋に入ってベッドに駆け寄ってきたのは両親のようだ。
「シア、大丈夫かい。園遊会の会場で突然倒れたんだ」
「…はい、覚えています。父様、母様、心配かけてごめんなさい」
「それはいいのよ、気にしないで。どこか痛むところや違和感のあるところはないかしら」
「強いて挙げるなら少し頭痛がする程度でしょうか。ところで、その…、ボクはどの程度気を失っていたのでしょう。あと、ここは何処なのですか?」
「王城の客室よ。貴女が倒れたのは昼前だったから半日くらいかしら…。きちんとした場所で寝かせた方が良いという医師の判断もあって、来客に使う予定がなかった部屋を急遽開けて貰ったの。今日は大事を取ってここに泊めて頂くわよ」
「少しだけ起き上がれるかな、薬師に薬湯を用意して貰ったからまずはこれを飲んで気分を落ち着けなさい。
それと僕たちも屋敷に戻らなくていいように続きの間を借り受けている。少しでも拙いなと思ったら声を掛るように、まずはゆっくり休むといい」
「わかりました。ありがとうございます」
両親はボクが薬湯を飲んだのを見届けると、カップを侍女に下げさせ、自分たちも部屋の出入口とは別の扉から借りているという隣室へと戻っていった。
ボクにも若干の混乱が残っていない訳でもないが、折角訪れた一人になれる時間だ、薬湯を飲んで落ち着きを取り戻しつつある頭を働かして溢れた記憶を整理しよう。
◇◆◇
深夜、ボクはこの時間まで記憶について考えてはみたものの、ボクが八年間生きてきたこの世界が、前世の記憶に存在した婚約者のすれ違いと浮気を主題とした「とあるゲーム」の中の世界であるという結論しか出せなかった。
園遊会で出会った王女様、学友とされたボクら三人の貴族令嬢、親子ともども嫌味なほど美形な金髪翠眼の侯爵父子。細部ついては曖昧な箇所もあるが、ボクらが参加した園遊会はゲーム中で思い出として語られた主要人物の出会いのエピソードではなかっただろうか。薄くセピアで彩られたスチルも覚えている。そしてボクら女性陣四人は、あの親子にとっての攻略対象という事実を記憶が告げている。
ゲーム本編は学院を卒業した後の話だが、将来に繋がる細々とした出来事が在学中にも存在していることはわかっている。そして、ゲームの主題が主題だけにしょうがないのかもしれないが、物語の結末は十以上も存在しているのに、物語の期間後も波風の立たないだろうと思われるエンディングは主人公のアズベルト侯子と第二王女であるエルフィリシーナ殿下が無事に結ばれた場合、俗に言うトゥルールートの一通りしか存在しないのだ。
他の結末を迎えてしまった場合は一部の人物は幸せになれるかも知れないが、残されたものには禍根が残ってしまうような話となる。
極め付けに酷い状況になるのが裏ルートに入ってしまった場合だ。
秘密裏に侯爵に飼われて身体と人生を好き勝手されてしまう結末、そのようなものに万一にでも入ってしまったらと想像したときに感じる危機感と言ったら、いっそ死んでしまう方がマシというものである。あんな不幸に歪んだ未来を歩む人生なんてボクは絶対にお断りだ。
ボクは勿論のこと、他の令嬢たちにとっても不遇な状況となる一連の結末を回避するため、今後はできることを少しずつでも探して不要なイベントを排除しようという方針を結論付けたボクは、結局治まらない頭痛に悩まされながらも今夜は眠りにつくことにした。
◇◆◇
翌朝、普段よりも早い時間に目覚めたボクはベッドの中で昨夜の考えを反芻する。
ゲーム開始より前の時期、学院在学中にボクたちが侯子に惹かれていく理由となるのは学院在学中の他愛ない出来事だ。
ボク以外の二人も侯子に変に好意を抱かないように立ち回ればシナリオの分岐点の回避は可能ではないだろうか。
令嬢たちは親しい同年代男性が少ないがために、日常の積み重ねから紳士的な侯子に少しずつ好意を積み重ねていく心情も描かれていた。だからこそ作中に語られた代表的なエピソード以外にどれくらいの量があるのかわからないのが大変ではあるが、そこは割り切ってボクがなんとかしてみよう。
ゲーム本編の流れについてはそもそも王女と侯子のすれ違いの多い生活が元凶だということは分かっている。
令嬢たちの悩みの解決というものもあるにはあるが、それらをボクの方で何とかできれば自ずとトゥルーエンドに進むだろう。シナリオ通りであればお膳立てがあればなんとかできるはずだ。
普段の起床時間になった時、部屋の扉が叩かれる。睡眠時には傍に控える侍女も居ないため自らで応じると、そこに居たのは母様だった。
「返事が無ければ入らせて貰うつもりだったけど、起き上れるということは昨日に比べて随分良くなったのね。気分はどうかしら」
「おはようございます、母様。普段通りとまではいかないですけど、昨夜に比べれば全く問題ないですね」
「それは良かったわ、では着替えを済ませて。
そうしたら朝餐をいただいた後にご迷惑をおかけした国王様や王女様たちにご挨拶に参りましょう」
母様は一緒に部屋に入り控えていた侍女にボクの着替えを頼むと、隣室の父様のところへと向かう。身支度を済ませ、合流後に来客用の食堂へと赴き朝餐を家族でいただいた。
食後、国王様への先触れを出して謁見の可否、その場への第二王女の同席の可否の二点のお伺いを立てたところどちらも問題ないと返答が得られたため、国王様とエルフィリシーナ殿下に謁見させていただくこととなる。場所は儀式や大規模な謁見で使われる謁見の間ではなく、執務室の一つとなった。
「おはようございます、陛下、殿下。昨日は御前にて不覚を取ってしまい申し訳ありません」
「気にせずともよい、どうやら身体に大事は無いようだな」
「昨日は突然の事で驚きましたが、お元気そうで安心しました。
あの後私たちだけで決めてしまったのですが、園遊会ではあまりお話ができませんでしたから、後日改めてお茶会など行う機会を設けたいと考えているのですが如何でしょうか」
「ご配慮いただきありがとうございます、茶会の方も喜んで参加させていただきます」
園遊会の場で倒れたボクを心配してくれたのも含め、あまり親睦を深める時間がなかった事もあって茶会を企画してくださったらしい。
ボクを思っての事でもあるので断るという選択肢など存在しないが、折角の機会なので入学前にエルフィリシーナ殿下や令嬢たちと仲良くなっておくのもありだろう。
事前に領地の館へ招待状を送ってくださるとのことなので、今回は両親と供に引き揚げる旨を伝え、宮廷を辞することにしたのだった。
どうもありがとうございました。
これで目次ページのあらすじの主要部分が終了になります。
ここから徐々にシナリオが狂い始め…るかもしれません。
次回の舞台は領地の屋敷になる予定です。
※以下無駄に長文、読み飛ばしても何の問題もありません。
◇◆◇作中では多分触れられない蛇足的なコト◇◆◇
■記憶の中の「とある創作」について
はっきり言ってしまえばギャルゲーっていうかエロゲー。
ゲームの主人公は侯爵家の子息アズベルト。
リューティミシアはゲーム中も非常に活発な田舎娘設定。実は立ち振る舞い等は園遊会参加時は作中と違ってギリギリの及第点です。男性の記憶がある本作品中のシアの方が女性として振る舞わなければならないと考えている部分がある為おとなしい可能性もなくはないです。
学院を卒業してデビュタントを迎えた後、婚約者であるエルフィリシーナとの成婚までの期間が物語上のメインの期間のお話。メインヒロインはエルフィリシーナ。政略的な部分もある婚約者とはいえどもお互いに想い合う仲であるが、忙しい日々にアズベルトとエルフィリシーナはすれ違いの多い生活を送る。
婚約者との会えないすれ違い生活の中、王女の学友三名は婚約者である王女当人よりも職務の都合上アズベルトと出会う機会が多くなってしまいます。在学中から王女とともに居たため頻繁に出会っていた関係であり憎からず思っていた令嬢と、仕事を通してお互いを知っていくことによって、更に親しみを覚え親交を深めます。そして状況によってはそれ以上の関係となってしまう…そして状況によっては修羅場という、「忙しくなりすれ違いの多くなったヒロインと逢えない中での出会いに引かれて…」という某ゲームのオマージュな部分も含む浮気ゲーという設定。
ちなみにディアミナティスの貴族社会は一夫一妻制なのです。
アズベルトは学院入学前の園遊会で四人と出会っており、王女の学友の令嬢三名は立場上アズベルトとも数多くの接点あるため過去の記憶スチル等もゲーム中には盛り込まれています。王女が婚約者であるために徐々にそれに気付きつつも忘れようとしていた恋心が徐々に芽生えてくる様を語るエピソードもあります。
学院を卒業し、それぞれ優秀な成績であったためそれなりの立場で仕事をする中、訪問先の選択で出会う相手を、選択肢で会話の流れを進めていくというものになります。期間のスケジュールをまとめて決める上に、先に進めていないとその場所で発生しないイベントがある等、なかなかシビアなスケジューリングが必要なゲームです。
ゲームには裏のルートが存在し、裏の主人公は侯爵アドレクスティ。表のルートでノーマルエンドもしくはバッドエンドを迎えたキャラの裏ルート解禁が発生します。内容はアズベルトのイベントの情報を元に弱みや情報を握ってヒロインを脅して手籠めにするという鬼畜な流れ…。但し裏ルートにはエルフィリシーナルートは存在せず、弱みを握れるのは息子とイベントを進めてしまった令嬢だけです。
エンディングはアズベルトで王女と純粋に結ばれる俗にいうトゥルーエンド一つ。令嬢との関係が進み、立場を捨てて駆け落ちし、他国で結ばれる幸せになるハッピーエンドが三つ。令嬢と浮気して気持ちが近づくも姫を捨てられず最終的に令嬢との関係を捨てることになるノーマルエンドが三つ。令嬢との関係が進み過ぎつつも、王や王女に知られて責任を取らされ更なる罰を与えられることになるバッドエンドが三つあり、アドレクスティで令嬢一人を秘かに囲う結末が三つ、令嬢二人(略)が三つ、三人とも(略)が一つ存在する。
王女との純愛を育むもよし、令嬢との浮気の背徳感に溺れるもよし、裏ルートで鬼畜な所業を楽しむもよしな一粒で何度もおいしいゲーム…だと思われます。
ということで、作中での主人公のイベント回避や記憶の設定もある以上、頭の中に前世ネタ的なゲームのシナリオの流れはある程度作ってみたのですが、あまり詳しく書こうとすると風呂敷が広がりすぎて完全に別作になってしまう上に破綻しかねません。大まかなプロットくらいなら何とか…と言ったところでしょうか。どなたかこの設定で夜(略)、無茶ですよね…。
視点事態は自由に考えられるのでどこかで時間ができたら誰かの視点で短編でも書いてみたいところです。