18. 御前試合
2015年初更新ですね。一話一話完結目指して進んでいきます。
読者の皆さまどうぞよろしくお願いいたします。
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年が明けたからと言っても、別段ボクたちの生活が大きく変わるわけではない。けれど、一年で一番盛大に夜会の開かれる時期ということもあるのか、宮廷内の空気もどことなく浮き足立っているように感じられる。
デビュタントを迎えておらず参加できない身としては少なからず漏れてくる雰囲気を楽しむくらいしかできないのだけど、大人たちはここぞとばかりに楽しんでいるようだ。普段領地に引きこもっていることが多いうちの両親――特に母親――も、ボクがどうせ宮廷に居るならと年明け早々王都へやってきて、久しぶりの夜会を堪能すると言っていた。
昼間には各家がそれぞれ当主だけだったり家族総出だったりは様々だが、王室の面々との新年の挨拶を行うために謁見の間にて行列ができていた。
ボクの家では例年だと父親だけが来ていたようだが、今年からは一家総出で挨拶をすることになりそうだ。列を成して謁見受付と挨拶をする様は、前世の記憶でいう限定品の販売列や、アイドルか何かのサイン会や握手会の行列を彷彿とさせたが、あながち遠いものでもない気がした。
長時間の待ちがある割に、挨拶を交わす時間は本当に短いものだ。これなら時間制にして、列など作らずに指定時間に訪問させてもらう方が楽なのになどと思ってしまう。
ただ、普段あまり見ることのできない父様のしっかりと決まった姿を見ることができたのは貴重な機会だったな。
そんな日々の中、ウェド殿下は王室と貴族との面会時間が終わるなり早々に訓練に入っているということを知った。
何故訓練で鉢合わせないのに知っているかというと、午前中から訓練をしているボクにダイナスピア団長がこっそり教えてくれたからだ。当然相手にもボクが午前の時間に毎日のように訓練をしていることは伝えてあるらしい。
どうやら本気で手合せをすることになりそうで、少々気が重い。それはどうやらエルさまも同じらしく、ウェド殿下の訓練を知った時には一緒にいたため、頭を抱えてため息をついているのを見てしまった。
エルさまに対しては、個人間の問題にすればいいと陛下は言ってくださいましたので気にしなくてもよいと思うことを伝えたのだが、兄君とボクが模擬戦でも戦うということに抵抗があるらしかった。
◇◆◇
そして年が明けて一週間。とうとうウェド殿下とボクの模擬戦を行う日がやってきた。
退屈を持て余した貴族たちの余興として陛下がこっそり話をしていたらしく、気づけば手合せの場は王都の闘技場になってしまっており、観客も貴族だけでなく彼らに随伴してきている護衛騎士たちまで含まれていた。
「陛下、こんな余興にされるなんて聞いてないですよ。目立つのがボクは苦手なのに……」
「そうだぞ、僕も近衛の訓練が終わった後にでも修練場でやればいいと思っていたのだから」
「そんな事を言ってもなあ、既に話をしてしまっている上に、人も集まっているのだからやるしかないだろう」
「父上は我が子を見世物にするのですか」
「我らを慕う民を楽しませるのも王室の務めだと思ってくれ」
「そういえばこの話を出したときに、途中から妙に話がスムーズだと思ったのだ。父上が折れてくれたものだと思っていたが、もしかしてその時から画策していたのか」
「見抜けなかったウェドにも責任があるからな、諦めるのだな」
「……うう、ボクの意見は……」
「まあ、ベルサフィア嬢も諦めてくれ」
「ああ……」
どうやらボクの意見は何も通らないらしい。それもそうか、相手は王室なんだから死活問題でない以上意見を通されても仕方がないかな。
「はい……、わかりました」
「父上、今回は乗るけど、次回は騙されないからね」
「まあ二人だけにやらせるのもかわいそうだから、前座として普段腕を見せる機会の少ない近衛たちにも手合せを披露してもらうからな、そこで溜飲を下げてくれ」
「近衛が前座……ですか」
「より洗練された動きの近衛を先に出すとか残酷ですね、父上」
「おお、そういえばそういう見方もあったな……、まあ、許せ」
結局どうにもならないことを知った殿下とボクは諦めて闘技場の控室近くにある出場者用観覧席で待機することになった。
それにしても即興で企画されたとは思えないほどの人の集まりだ。
よほど皆さん暇を持て余していたのだろうか。それとも、時期的なもので王都に集まっている貴族が多かったせいだろうか。多分どちらもなんだろう。
それにしても、舞台に出てくる近衛騎士たちはある程度の若手であるとはいえ、入団四年から五年は経過していそうな人たちばかりだ。もしかしたらこれ、昇進試験みたいなものも兼ねられていたりするのかな。
実力も伯仲していて、剣技にも冴えがあって、見ていてとてもすごいと思うと同時に、この後にボクが立っていいのだろうかという疑問も沸々と沸いてくる。
「殿下、この手合せ、今回だけにさせてくださいね」
「ああ、勿論だ。こんな大勢の前でやることになるなら言い出さなかったさ」
「お互いに無様を晒すことの無いようにだけ気を付けましょう」
「そうだな、それだけは勘弁だ」
何組かの近衛騎士たちの試合が繰り広げられた後、とうとうボクたちの出番になったらしく伝令が呼びにやってきた。
二人して観覧席を立つと、舞台へ向かう。ボクの得物はいつも使う長さの杖、殿下の得物は片手剣らしい。急所だけを覆う簡易防具をそれぞれ身に着け、円形の舞台の袖で殿下と二手に別れると、お互い真逆の階段から舞台に登る。
見知らぬ人たちの注目がボクと殿下に向いているのが嫌でも分かるために変な汗が出そうだ。殿下は晒し者にされるのが嫌なだけで注目されるのは慣れているのか、涼しい顔をしている。
「それでは両者、礼っ」
立会人の合図でお互いに礼をする。身体を起こすと合図の鐘が鳴った。
「始めっ」
開始の声がかかる。
お互い離れていても勝負にならないので武器を手に距離を詰める。初手は殿下有利な状況だ。体格差もあるためか、やはり攻撃に対して速度や体重の乗りが違う。
無理に打ち合わず、重心をずらして杖で攻撃を払う。
できた隙に対してボクは杖を打ち込むが、直後に攻撃を払ったその先の方向に間合いを取られ、こちらも払った直後の攻撃であるため勢いが乗らずに避けられる。
続いて突きで追い討ちをかけるが、体勢の整いきらない殿下は武器を持たない方の腕で強引に払われてしまう。
当たりはしたものの勢いは逸らされているので有効打とは言えない。
構え直したところに横薙ぎの攻撃がやってくる。上手く払える状況でないが殿下も攻撃を受けた直後、初手のように体重が乗っている一撃でもないため構えた杖でしっかりと受けた。
お互いに衝撃による反発力で飛び退き間合いを少しとる。
そこからは打っては防ぎ、防いでは打ち込んでと繰り返す。当然一所に留まってのことではないので少しずつお互いに息が乱れ始めた。
直前に訓練を数日していたとはいえ、しばらくは訓練から離れていたという殿下だが、思った以上に動ける人だ。少なくともボクが勝てた近衛騎士よりも強いだろう。
それでもどうにもならない相手じゃないということで、だんだん楽しくなってくる。
殿下もそこは同じなのか、笑顔ではないものの楽しさを感じる表情だ。
再度の接近。今度は距離もさほどではないため速度が乗った攻撃にはならないのでしっかりと打ち合った。そして衝撃をも利用しながら再度振りかぶり打ち合いを繰り返す。
少しずつ打ち筋を変えながら、隙を狙いつつも、打ち込ませない。
攻防一体のやり取りを何合か行ったあと、埒があかないと後ろに跳び、間合いを取る。
図らずも不意を打たれた形になった殿下が軽く体勢を崩した。
そこを好機と見て間合いを詰めつつ、死角側に回り込み一撃を放つ。
「そこまでっ」
反応をしたものの、防ぎきれなかった殿下の肩に攻撃が当たり、立会人が終了を宣言する。
固唾を飲んで見守っていた観客たちから歓声が沸いた。
「「ありがとうございました」」
再度殿下と近づくと、手を求められたため、握手を交わす。
「いや、思った以上に強いね。さすが団長が目をつけるはずだ。僕も以前は王族でなければ近衛でいいところまでいけるのではないかって言われたこともあったのだけどな」
「今回はたまたまですよ。殿下が日常から訓練をされていたのであれば勝てなかったと思います」
「それでも結果は結果さ、おめでとう」
「どうもありがとうございます」
言葉を交わし舞台を降りた後、それ以上他の貴族たちに捕まって話しかけられないうちにボクたちは急いで退散するのだった。
そんな気はなかったのに気づいたら見世物扱い、無い話ではないと思うんですよね。今日の会社の新年会で抱負を述べる際に何故か笑われてしまったり、ううっ……。
注目を集めそうな時にはちゃんと周囲に気を配るのも大切かなって思ったりします。
ところで、今回は生まれて初めてバトルシーンっぽいものを書いてみました。
視覚的表現なしに文字だけで動きを説明するのってすっごい難しいですよね。
しっかり書ける人を改めて尊敬してしまいます。
さて、次回は一応まだ舞台は宮廷の予定です。
見世物にされたウェド殿下とシア、本当にそれだけだったのでしょうか。
それでは、ご読了どうもありがとうございました。