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12. 理想と現実のギャップ

誤字、脱字、不備等気になる点がありましたら、ご指摘よろしくお願いします。

 グロシェリア嬢たちからリーネさまへの嫌がらせに関する謝罪とボクへの想定外の告白を受けてから、妙に熱い視線がボクに対して学内のいろいろな場所で向けられるようになったような気がしている。表立って話し掛けてくるのは先日のグロシェリア嬢たちだけではあるのだが、視線を向けられる頻度が日に日に増えているようで落ち着かない。


 少なくともリーネさまへの嫌がらせや、ボクたちエルさまの学友に向けられた嫉妬が絡むような視線は消えたし、ミリーさまやリーネさまは視線を感じなくなったらしいので、事件自体は一応の解決をみたと言えるのだろう。

 ただ、ボク個人に向けられる視線は減ってはいない。いや、むしろ増えた。ボクに謎(敢えてこういう言わせて欲しい)の視線を向ける人があからさまに何人も存在するのだ。嫉妬の視線が向けられていたときは視線の主と目が合うということは皆無であったが、今回ボクに向けられた視線は目を向けても逸らされず、何故か頬を染められて見つめ続けられるという有様で、慣れない状況に背筋のむず痒いような唐突に叫びたくなるような日々を送る羽目になっている。


 学生たちの視線が気になりだしてから、実家の頃が気になり、不本意ながらも屋敷で景品にされていたときの使用人たちの振る舞いはどうだったのかをフォナに聞いてみたところ、『一流の使用人は仕えている相手には必要時以外気取られない技術を持っているのだ』と答えになっているのか、なっていないのか、よくわからない返答を貰うこととなった。更に詳しく聞き直したところ、つまりは学生たちとあまり変わらず、見ている人は見ていたのだということがわかり、ショックを受けた。

 知りたくなかった実家の事実に関して、父様や母様に手紙を送った返事も『使用人たちがそれでやる気を出して精一杯働いてくれるならそれでいいじゃないか』というものだったし、本当に気づかなければよかった事実というものは存在するのだなと思ったものだ。


 あれ以来早朝の訓練の時間に楽しみを見出すことが増えてきた気がする。立場を偽っているのは相手に対して心苦しくもあるが、視線は気にしなくてもいいし、ボク自身としては一番素が出せる場所であるし、市井で知り合った人たちとの仲も良好だ。

 さすがに日の出前という時間というだけあって人は多くはないが、多くはないなりに挨拶を交わす人も増えてきたし、足を止めて話をすることも増えてきた。それで訓練になるのかと言えば微妙なところではあるが、気を抜いて話をすることができる相手は学院にも多数いるわけではないので、部屋で寛ぐ時間と同程度の癒しの時間になってきていることに気づいたときは思わず一人で笑ってしまった。



 学院での生活は入学当初と同じ平穏なものになっていると言ってしまえば、それは間違いではない。間違いではないのだが、段々ボクに対する周囲の扱いが変わってきている気がする。それは学友の皆も感じているようだ。


「相変わらずボクに対する視線は変わらないですが、何も被害が出ていない分だけ以前より随分いいですよね」

「シアさまがそういうならあたしたちには問題はないし良いんだけど、本当に大丈夫なのかい。時折悪寒を感じているような素振りをしているけど」

(わたくし)は見られ慣れてはいますが、シアさんに向けられている視線のそれは何か雰囲気が違うみたいなのですよね」

「よくわかりませんが、エルさまを見ている方々は王族に対する畏敬や憧れのようなものだと思うのです。

 しかし、シア様を見ている方々はどうにも憧れというよりは、何か愛でるみたいな雰囲気を感じてしまいます。まるで幼い子供や小動物を見るような……」

「……、うん。ボクもそんな感じなのではないのかなと思っています。ボクの背丈が皆さんに比べて低いことも関係しているのでしょうか。だとしたら早いところ成長したいものですね……」

「好意的な目といえばそうではあるんだから一先ずは置いておいてもいいんじゃないかな」


 結局のところ、対策をとるにも方法がないということで、とりあえず放置することになった。近くにやってきて変なことをされることもないし、遠巻きに見られる方がまだ良いということだ。


 学院でも生活に悪影響が出る訳でもない。ちょっとしたことで弟や妹にするように気を使われている気がしなくもないけれど、エルさまの学友として過ごす上で、環境が快適になるのは良いことであって悪いことでは決してない。ボクが視線を我慢すれば良いのであればそれでいいではないかと割り切って生活することにしてみた。


 手法や出来事の流れは大きく違うが、学友の中で唯一子爵家という下位貴族であったリーネさまへの嫌がらせがなくなり、将来につながる彼女の心労は一応取り除かれたことになる。


 通常の講義も特別講義も難易度的なものはボクたちが困難と感じるほどのものではないため、大きな問題にはならなかったが、心労が重なった状態で講義が難しいものになっていくとやはり学院内での成果も落ちてしまうだろうし、そうなってしまえば更に精神的な負担は増してしまう。

 ゲーム中であれば、もっと後の時期、更に巧妙にエスカレートした嫌がらせを受け、心労とともに少しずつ成績を落としつつあるリーネさまの状況に気づいたアズベルトさまが原因となる令嬢たちや、彼女らに唆された男子学生に対して対処することになるということを思えば、全く負担にもなっていない時期に原因がごっそりと取り除かれたことは喜ぶべきことではあるだろう。当然ながらフラグもなくなったことではあるし……。

 アズベルトさまの代わりにボクが対処できるようにということも含めての訓練は一部無駄になってしまった気がして残念な気分が二割、リーネさまが元気を失わなくてよかったと思う気持ちが八割といったところだろうか。


 今後の学院生活の中にはエルさまやミリーさまに関する出来事は勿論のこと、ボク自身に対してもイベントは当然存在するし、リーネさまにもまだ存在するかもしれない。

 ほとんどの出来事は学院三年目以降、ある程度の成長をしてからだったはずだ。一年目、二年目は学院内での座学による講義のみであるが、それ以降は学科や講義内容によっては実習を伴うものや、校外に出ての物が出てくる。そうなれば、当然ながら講義室での座学とは異なり、事件や事故が起こらないとは言えない。


 学院に入学してまだ一年目。学院在学の期間はまだまだ長いし、学院を卒業してもエルさまとアズベルトさまの婚姻までは気を抜くことはできないだろう。

ゲーム期間に向けて積み重なる事実は今の時点でどこまで変わるのか想像もできない。現状を考えると、既にボクの知っているゲームの記憶から少しずつ乖離している。ゲームの中のリューティミシアは訓練なんてしていなかったし、男装なんてしていなかった時点でそうとも言えるのだけど……。

 望む結末に向けてボクは進めているのだろうか。そしてこの愛玩的な扱いをされる今の見た目から本当にゲーム中に出てきた令嬢の姿に成長できるのだろうか。

少しずつシアが愛玩対象になっていますね…。

エスカレートさせたい反面、そうさせるとシアがムスッとしてしまいそうな感じもあってどうしようかと悩みます。


それでは、ご読了どうもありがとうございました。

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