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11. これって、解決なの?

誤字、脱字、不備等気になる点がありましたら、ご指摘よろしくお願いします。

 エルさまに了解を得た翌日から、ボクは日課の訓練後、講義棟の廊下に忍ぶ日々を過ごしている。表向きは寮の部屋でする事があるからという事にしているが実際に部屋に居るが、実際には人気の少ない時間のうちに講義棟の方に向かっているのだ。


 人が居なければ開けられることはないため、朝早くても講義棟の中は無人と言うわけではない。だが、人が居ると言ってもそんな朝早くから居るのは講義の準備をする教導員くらいで、それも講義棟の上層に個別に用意されている控え室に滞在している程度であるため、実際に学生たちが講義で利用する講義室にはまず人気はない。建物は廊下の両端に階段がある構造であるものの、使われているのは専ら建物入口に近い側ばかりなので奥の階段は潜むのに最適な場所だ。

 それにしても、ここしばらく不審な手紙が鳴りを潜めているのは何故だろう。折角動きやすいように男性用制服も誂えたというのに、今日も何の手がかりも見つからないまま講義の時間となってしまった。


「不審な手紙がここの所しばらく途絶えているのはいいことなのですけど、結局どなたが原因となっていたのか不明瞭なので何とも言えない不気味さがありますね……」

「まあ、何もないならないでいいじゃない。あたしはもうこれでいいかなって思い始めてるよ」

「きっと相手のお方もあのようなことが不毛であると気が付いてくれたのですわ」

「そうであればいいのですが」



 悪いことではないのかもしれないが何故なのかがわからない。疑問に思考が流されるばかりで午前の講義もろくに記憶に残らないまま、気がつけば昼の休みとなっていた。


「シアさん、今日はずっと上の空でしたけど、何か気になることでもありましたか」

「いや、やっぱり手紙が急に途絶えた理由がわからなくてね……。始まった理由は内容から察することができたけど、急に終わるなんてやっぱりおかしいと思うし、別の何かが起こらなければいいなと考えてたんですよ」

「こんなこと気にしててもしょうがないさ。シアさんが気にしてくれるのは嬉しいが、わからないことはわからないと割り切るしかないと思うよ」


 食堂棟に向かいながら話をしていると、目の前に三名の女子学生が待ち受けるように立っている。確かこの方たちは時折ボクたちの方に意味深な視線を向けていた学生たちだった。

 とうとう何らかの実力行使に出るつもりなのだろうか。ボクが三人の前に出て身構えようとしたところ、急に頭を下げられる。


「エルフィリシーナ様、並びにご学友の皆様。ご迷惑をおかけし、申し訳ありませんでした」

「えっと……。突然謝罪をされてもよくわからないのですが、どういうことか説明をいただいても良いですか」


 頭を下げさせたままというのも外聞がよろしくないので、一先ず姿勢を正してもらい、落ち着いたところで説明を再開してもらう。


「ここしばらくの間、差出人不詳の手紙が主にモルクガニス様に届けられていたかと思うのですが、その差出人は私たちなのです」

「どうして謝られているのかはわかりました。でも急に謝罪に参られた理由が判りかねるのですが……、ご説明していただけますか、グロシェリア様、スフェーニア様、スオリアティス様」


 謝ってきたのはやはり手紙の件であったらしい。ただ状況が変わったと思えないのに突然どうしたというのだろう。


「最初は私たち皆、エルフィリシーナ殿下の学友に選ばれなかったことで、ご学友の皆様に恥ずかしながら嫉妬心を抱いておりました。今にして思えばなんと狭量なことでしょうか……」

「しかしながらこのままではいけないと思ったのです。先日からのベルサフィア様を見て、私たちのエルフィリシーナ様への思いは、単なる憧れに過ぎないことに気が付いてしまったのですから」

「…………、えっ」


 何か後半部分の理解を脳が拒否している。もう一度聞きたいようなそうでないような……。


「ベルサフィア様の凛々しくもお可愛らしい姿を見て、私たちは心を入れ替えました。ベルサフィア様と、いえ、貴女様方との間に溝などあってはいけないのだと。是非ともお近づきにならせていただきたいと思ったのです」

「は、はぁ……」


 いったいどうしたというのだろう。ボクの男装は彼女たちの開いてはいけない扉を開いてしまったのだろうか……。


「謝罪をしたばかりでこのようなお願い、厚かましいのを承知で申し上げさせていただきます。リューティミシア・ベルサフィア様、どうか私たちと友誼を結んでいただけないでしょうか」

「…………、あっ、はい。……ワカリマシタ」


 目の前でゲームの記憶には絶対に存在しなかった展開が繰り広げられている。ボクはどうしてこのような事態になったのか意味が分からず頭が真っ白になってしまった。怒るにも怒れない。なんだこの気持ち。勢いに負けて了承してしまったのもしょうがないことだろう。

 思わず後ろを振り返ってみるも、エルさま、ミリーさま、リーネさまのお三方も突然の状況に唖然としたままこちらを見て硬直していた。目の前の三人はボクの返事を受け、どことなく嬉しそうにしているが、少々気まずいものもあるようで、動きがない。場が完全に停滞してしまっている。


「あ、あの……、このままここに居てもお昼のお時間も限られておりますし、皆で食堂棟へ参りませんか」


 気の利いた発言もできずに無難な方向へ逃げるのが精いっぱいだったけど、さすがにこれについてボクは悪くないと思う。


    ◇◆◇


 夕刻、寮の居室に戻ったボクはフォナに昼間の出来事を告げ、とりあえず今後は廊下の状況に強いて気を配らなくても大丈夫であることを伝えたところ、楽しそうにフォナが言う。


「それはシア様の良さが理解され始めたってことだと思うんです。お嬢様然としたお可愛らしい恰好もお似合いですが、シア様はどことなく少年的な雰囲気を纏っていらっしゃることもあるので、男性の衣装を着用されていても非常にお似合いなんですよ。お気づきになってませんでしたか」

「そんなこと初耳だよ。どこからそんな話が出てきてるの」

「数年前よりお屋敷の使用人の中でも陰ながら評判だったのですよ。特にシルビノア様のご指導を受け始められて以降は着用されている訓練用の装束も相まって、まるで少女でありながら少年であるような……、そうそう、中には天使のようだと語る方もいらっしゃいましたよ」

「…………、父様と母様はそのことはご存じなのかな」

「ええ、勿論です。むしろその日のシア様の給仕の役割を賭けさせるなどして、使用人のやる気を煽るために積極的にご利用になってましたね」


 そんなこと気づかなかった。むしろ、知りたくなかった。


「ちょっと手紙の用意をしてもらっていいかな」

「どちらへ宛てて書かれるのですか」

「父様と母様に決まってるでしょう。今の話を聞いて抗議したくなりました」


 早急に手紙の用意をさせて感情の赴くままに手紙をしたためると、実家宛てに送るようにフォナへ指示をした。


 確かにゲームのスチルではボクの容姿はエルさまやアズベルトさまに並んでも見劣りしない程度のものはしていたと思う。でも、あれは学院を卒業した後の成長した姿のはずだ。二次性徴期すら迎えていない今のボクではどう贔屓目に見ても少女のそれではないか……。周囲からそんな目で見られるなんて想像もしていなかった。

 今まで気づかなかったことは幸せだったのかもしれない。知ってしまった事実に思わず頭を抱えてしまうのだった。

活動報告にも記しましたが、将来的に少しは今回のような方面にもっていこうと思っていたんです。ただ、予想以上に展開が早くなってしまった上に周りのキャラクターが暴走した感があります。

初登場の三人娘を反省させる回だったはずなのに、気づけばシアを愛でる雰囲気が広がった上に実家の内部事情まで少し出てしまうし……。

どうしてこうなったんだろうかと疑問に思いつつ、少しくらいはいいかなって割り切って書いてしまいましたが、シアの視点で書いている都合上作者の感情もシアに重なります。これは不機嫌にもなりますよねぇ……。


それでは、ご読了どうもありがとうございました。


◇◆◇今回初登場の人物◇◆◇

■アロミニティ・グロシェリア

グロシェリア侯爵令嬢。シアの魅力に絆されてしまった人その1。

■サリティエラ・スフェーニア

スフェーニア伯爵令嬢。シアの魅力に絆されてしまった人その2。

■エミテーナ・スオリアティス

スオリアティス伯爵令嬢。シアの魅力に絆されてしまった人その3。

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