1. はじめての王都へ
生まれて初めて物語に類するものを書いてみました。
処女作とでもいうのでしょうか。
拙い部分も数多くあると思いますので、
おかしなところがあればご指摘いただけると嬉しく思います。
ちまちま残業だらけの生活の中で書いているので更新ペースはお察しください。
唐突な話だが、ボク──リューティミシア・ベルサフィア──には自身と異なる人物の記憶がある。
成長するに従って今の生活とは明らかに異なる生活、文化、言語、国に暮らした青年の記憶、つまりは異世界で過ごした記憶や知識がボクのものとは別に滲むように浮かんできたのだ。
もう一人の自分とも言うべき前世の思考は当然ながら自意識の定まっていなかった現世の自分に多大な影響を及ぼした。
今でこそ、護衛を子守に領地の平民の子供たちと遊ぶボクのことを父様は笑い話のように来客の際にも話すこともあるが、思えばよく強引な矯正をされたり、修道院送りになったりしなかったものだ。
ボクは五歳の時に領地で屋敷から見張りの隙をついて抜けだして、領地の子供たちと時間を忘れて思い切り遊んだ。そして、泥だらけになった服のまま、私兵を招集して捜索隊を組織して指示を出している最中の両親の元へ帰宅したところ、母様に泣かれ父様に怒られという状況になったことがある。
けれども、今考えれば不思議なことにそれ以降でも外出を制限されるということは無かった。
その代わりに再度一人で抜け出されても困ると、両親に話を通した上での外出は許可されて、それに加えて動きやすい服が用意された。また、目立たないように変装はするものの護衛として専属の騎士つけられることとなった。
護衛を用意するとはいえ貴族の、それも年端もいかない子供を市井の子供たちと領地の山野で遊ばせる許可を出すということに、隠居していた祖父母たちと父様との間には喧々囂々のやりとりがあったらしいが、最後にはしっかりとした教育も行うことを条件に父様が押し切ったと聞いている。
こうして獲得することができた自由に過ごせる時間とは別として、家庭教師として招かれた先生から貴族として恥じないだけの教育に徹底的に割かれることとなった。
幸いにも教育が始まる頃には前世の青年としての記憶も定着してきており、年齢相応以上の落ち着きも持っていただけに性差のない部分のマナーについては比較的早く身に着けることができたと思うが、外でお転婆に遊んでいたためか、随分と厳しい教育をされた。
これらの複合的な結果として現在は姿勢の子供に負けないくらいの腕白さと運動能力を持ちつつも、猫を被ってしまえば一見すると落ち着いた雰囲気を持った辺境伯家の令嬢として振る舞うことができるようになったのだ。
余談だが、貴族身分にある女性として譲れない一線であるらしく、髪を切ることだけは最後まで許されることはなかったために、どのように動きやすく髪をまとめるかに後々まで苦労した。
◇◆◇
この国には、本格的な社交界へのデビュタントとは別に、ある程度のマナーを身に着けたとされる貴族の子供を王家や各貴族にお披露目する機会として、王城で園遊会を開催するという風習がある。
生まれて八年目を迎え、家庭教師の先生や母様からも立ち振る舞いについて合格点を頂くことができたボクは、この園遊会に参加するために両親に連れられて生まれて初めて王都にやってきたのだ。
「ほら、シア。王都が見えてきたよ」
父様が御者席に通じる窓から手綱を握る執事の向こう側を眺めながらボクたちに語り掛ける。周辺諸国と比べても大きいといえる規模ではない我らがディアミナティス王国ではあるが、王城の歴史と絢爛さは近隣随一であるとの家庭教師の話を思い出しながらボクも窓の外に意識を向ける。
「なんか思ったより大きくないんですね」
「古いお城だからね、今の技術を持ってすればもっと大きなお城が作れるだろうけど、国とともに歴史を刻んできた物を簡単に建て直すなんてできないのさ」
「先生のお話から想像する限りだと壮大なお城なのかと楽しみにしていたのに」
「ここからじゃ遠くてわからないけど、近くまで行けば八〇〇年を超える歴史があるとは思えないほどに繊細な作りをしているのがわかるわ」
「僕らも初めて登城させていただいたときの感動は忘れてないからね」
「父様と母様がそう言われるようならボクも楽しみにしています」
そうこう話しているうちに王都の外周門に到着し、随伴の執事が外周門の入場手続きを終えた。馬車はそのまま王都の屋敷のある貴族街の区画へと進む。
初めての王都の街並みを馬車から垣間見て好奇心を煽られるも、さすがに走っている馬車から飛び降りる訳にもいかない。母様の隣でおとなしくしていると、やがて一軒の屋敷の前で馬車が止められた。
ボクや母様は普段領地の屋敷で過ごしているけど、父様は辺境伯としての領主の仕事の他にも王都に滞在して王城で行う執務があるので、一年の三分の一は王都にいる。
そのため王都でも快適に過ごせるようにベルサフィア家の邸宅があるのだ。ちなみに維持管理のための使用人も領地の屋敷に比べると僅かな人数であるが雇われていて、その彼らが馬車で到着したボクたちを出迎えてくれた。
「さて、屋敷についたぞ。お前も久しぶりだろう」
「シアが生まれてからはずっと領地でしたからね」
「ああ、確かにシアは初めてだったな、彼らは王都の屋敷の管理を任せている専属の使用人たちだ。滞在中の世話もしてもらうことになる、折角なのだから挨拶でもするといい」
「はい、父様。
皆様はじめまして、ボクはディルトリート父様の長子のリューティミシアです。今回は王城の園遊会参加のために参りました。長い滞在ではないですが父様母様共々よろしくお願いします」
簡単な挨拶を使用人たちに対して行った後に屋敷の中に入ると、領地の屋敷と同じ人物による設計なのか似通った雰囲気の内装が整えられているのが見えた。
今まで領地から出ることが無かったためか、道中に立ち寄った宿ではなかなか落ち着くことができなかったが、ここで休めば問題なく園遊会を迎えることができそうだ。
どうもありがとうございました。
◇◆◇今回初登場の人物◇◆◇
■リューティミシア・ベルサフィア
この物語の主人公、少年顔負けの活発さ、猫被りも得意
■ディルトリート・ベルサフィア
主人公の父親、爵位は辺境伯
■リリティア・ベルサフィア
主人公の母親