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ep.02-3

 03


 体育館を後にした私は、名莉海を探していた。教室……にはいないだろう。外かどこかだ。

「あ、名木風!」

「あ、なり……え?」

 何で死色が名莉海の後ろにいるの?

 私のそんな疑惑の目に気がついたのか、名莉海は困った顔で言った。

「……成り行き」

「ふーーーん」

 成り行きでどうやったら死色がついてくるハメになるのだろうか。甚だ疑問だ。

「セーラー服のおねぇちゃん!」

「なんだよ」

「しーちゃんは名莉海くんのふぇっ!」

 名莉海が死色の口を塞いだ。

「死色は名莉海の……?」

「気にするなってね!」

 うわあ、すごい気になる。

 後で死色に聞こう。たぶん、すぐ答えてくれるだろうな。

「朱色は?」

「ああ……体育館」

「……勝った?」

「ぎりぎりね。危なかったよ」

 そっか、と名莉海は頷いて、体育館に向かうようだった。とりあえず私もついていく。

 そういえば死色は狂っているけど、果たして朱色が死んでいるところを見て泣いたりするだろうか。

 私を殺しに来るかもしれない。そう思うとナイフを握る手に力が入る。

 名莉海達が体育館に入る。私も入って、入り口付近で立ち止まった。もう一度朱色の死に顔を見たいとは思わない。

 少しして、名莉海達が戻ってきた。

「よく勝てたな。本当に死んでると思わなかった」

「失礼な。まるで私が殺したことないみたいに言うんじゃないんだよ」

「だって黒闇陽だぜ?互角に戦えるかどうかも怪しいし」

 体育館を出たところで、死色が足を止めた。

「死色?」

「……しーたん」

 心なしか死色の身体は震えている。

「しーたんは、朱色くんとは、本当の家族じゃなかったでし……でも」

 顔を上げた死色は、大粒の涙をぽろぽろと零しながら言った。

「しーたんにとって、朱色くんは家族みたいなものだったんでしぃい」

 声を上げながら泣く死色に、私は近づいた。そして、そっと抱きしめる。

「……たぶん、朱色もそうだよ」

 朱色もきっとそう思っていたよ。私が渚鉈兄ちゃんや天崎兄ちゃんや、創土兄ちゃんを家族だと思っているように。

「ごめんね」

 敵だから仕方のないことだ。戦争なんだから、誰かが死ぬのはしょうがない。

 だけど謝らずにはいられなかった。


 あの後、泣き疲れた死色を名莉海が背負って、校内を見回った。けれど生きている人は誰一人としておらず、朱色の言ったとおりだとわかった。

 私と名莉海、そして死色は私達がいつも生活しているマンションに着く。

 それを見計らったかのように電話がかかってきた。携帯の画面を見ると、天崎兄ちゃんからの電話だったので、私はすぐに出た。名莉海は先にリビングに向かう。

「もしもしなんだよ。」

『お疲れ名木風。怪我は?』

 お疲れ、ということは見計らったかのようにではなく見計らったのだろう。天崎兄ちゃんなら私達の場所なんてすぐ分かるだろうけど。

「ん、ちょっとあるけど。大丈夫なんだよ。どうしたの?」

『大丈夫なら良かった。……訃報と朗報どっちから聞きたい?』

 どきりとした。

 訃報……なんて、聞きたくない。けど、そういうわけにもいかないだろう。私は震える手を抑えて、答える。

「どっちでも……いいんだよ」

『じゃあ訃報から。渚……渚鉈が死んだ』

「え……」

『不意打ちの上に大人数。さらには暗黒色もいたようだから、まあ勝ち目はないね』

「そんな……」

 そんなあっさりと。

 私は確かに嫌がってはいたけど、本心ではなかったし、嫌いなわけがなかった渚鉈兄ちゃんが、死ぬなんて。

『次。渚鉈や創土のおかげで黒闇陽も結構壊滅的だから……後は目立たない雑魚共と、暗黒色を殺せば、殺せれば、僕たちの勝ちだ……出来るかい?』

「…………渚鉈兄ちゃんの、仇、なら討つ」

『うん、わかった』

 正直勝てるのかはわからなかったけど、最後まで頑張りたい。例え死んだとしても、逃げるよりはよっぽどいい。

『君達の不利なようにはしない。大丈夫だ、きっと勝てる』

「……うん」

『今日はゆっくり休みなさい』

 私は何も答えなかった。

 天崎兄ちゃんとの会話はこれで終わって、私はリビングに行く。死色はソファーで眠っていて、名莉海は弓を片付けていた。

 名莉海にも伝えなければならないのだ。

「あ、名木風。何だって?」

 私に気づいて、何も知らない名莉海が訊く。

 私は、ゆっくりと口を開いた。

「渚鉈兄ちゃんが……死んだって」

「……まじかよ」

「向こうも人数は減ったみたい……天崎兄ちゃんは、私達が不利なようにはしないって」

「……そっか」

 私達はしばらく沈黙した。

「創土兄ちゃんは死んでないんだよな?」

 と、やがて名莉海が静かに訊いた。

「そうだと思う。天崎兄ちゃん何も言ってなかったし、それに……武器を渡しに来たし……」

「名木風のところもか。俺の方も来たってね」

「生きてるって、信じたいけど……」

 可能性は、どっちもどっち、というところだと思う。創土兄ちゃんも強いけど、渚鉈兄ちゃんのように卑怯な手を使われたら勝算はほぼないだろう。

「……ま。暗くなってても仕方ねえ。俺達が仇を討てばいいだけだってね」

「うん」

 私は頷いた。

「幸いなことに死色もいるんだ。黒闇陽の奴を……仲間に出来た。あ、いや、死色が協力してくれるかはわからねえな……」

 その言葉を聞いて、ふと私は思い出す。どうやって仲間にしたんだろうという疑問だった。

「あんな狂った奴、どうやって仲間にしたんだよ名莉海」

「…………な」

「成り行きとか言わせないんだよ。どうやったら成り行きで仲間になるんだよ」

 図星だったようで、困ったような顔をする名莉海。

「えっとな……褒めたおした」

「はぁ?」

「褒めまくったらなった」

「……なんじゃそりゃ……」

 なんだかまだ隠しているような気もするけれど、そこまで追求しなくてもいいかな、と思った。

「と、とりあえず、天崎兄ちゃんから連絡なり作戦なりが来るのは明日だろ?名木風」

「そうだと思うんだよ」

「だったら今日は休もうぜ。風呂入ってさってね」

 私は素直に頷いて、名莉海の言ったようにした。疲れていたのか、まだ夜ではなかったけれどぐっすり眠れた。



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