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ep.02-2

 02


 社会の授業中、俺はなんとなく窓の外を見ていた。

 白黒戦争……というのは、そりゃあ壮大だろうけど、また白陽陰が負ける可能性のが高い。あれだけ黒闇陽に会ったら逃げろとか散々言っておいて、黒闇陽の接触から一ヶ月そこらで俺達を戦わせようっていうのが少し疑問だ。

 そもそも黒闇陽が俺らに戦争を仕掛けるとかあるか?

「……ねーよ」

 俺は小さく呟いた。

 下の奴らにちょっかいだして、もし負けたらってなったら。それに勝ったとしても被害の方が大きいだろう。

 それともただ単に戦いたいだけか?

「白渚君」

 不意に隣の席の女子が声を潜めて話しかけてくる。

「何?」

「さっきから難しい顔してるけど、何考えてんの?」

「まじで、難しい顔してた?別に何も」

 考えてない、と言おうとした時。ガシャーンという大きな音に遮られた。

 ガラスの破片が教室に飛び散る。

「黒闇陽のあーいどるっ!自称っ!しーたんでしぃぃ!」

「自称かよ」

 うっかり突っ込みをしてしまった。

 いや、でも自称って。

「な、なんだ君は」

 先生も教室内の生徒も死色を見ている。

「だぁーかぁーら、しーちゃんでしってば。頭からからなんでしか?空っぽでしか?」

「…………」

 先生は呆然としている。

 死色はきょろきょろと教室内を見回した。たぶん、俺を探しているんだろう。

 一瞬目があった。あってしまった。

「はっーーーけぇぇええんっ!!」

 俺は咄嗟にしゃがむ。周りの人達は死色がぶん回した剣によって切断された。

 しかしそれで全員が死んだわけではない。一般人は恐怖のためか悲鳴を上げることもできず、ただ愕然としていた。

「あ、そうでしたそうでした。でし」

 死色は思い出したように言う。そして。

「全員殺せっていうめーれーが出てましたでし!なのでぇ、ていっ!」

 次の一撃で、教室に残っている人間は、俺と死色だけになった。

 教室のあちこちに血が飛び散る。

「きゃはっ」

 何が楽しいのか、死色は笑う。

 結構狂ってるんだな……死色って。

「あとはぁ、名莉海くんだけでしね?」

「こっちに死色ってことは、向こうは朱色か?ってね」

「向こう?向こうってどこでし?」

「……名木風のとこ」

「名木風?……あーあー、えーうー。セーラー服のおねぇちゃんでしか!」

 話が通じづらいな……。

「そうそう、セーラー服の」

「そーでしよ、朱色くんが行ってるでしよ!」

 何故か得意げに胸を張る死色だった。

 まあ何にせよ、これが少しやばい状況であることには変わりない。俺は今ナイフしか持っていない。

「でしぃっ!!」

「うわっ!」

 いきなり剣が飛んできた。あいつ投げやがった!

 辛うじて避けたけれど、危なかった。

「しまったでしぃ!これじゃあ攻撃できないでしっ!」

 アホか。いや、馬鹿か。死色は急いで剣を取りに来る。その隙に、俺が攻撃ーーー

 するつもりだった。

 振り下ろしたナイフは、金属音を響かせて防がれたのだ。死色が既に拾った剣によって。

「くっ……」

 すぐに後ろに退き、窓の側に寄った。

 やっぱり弓じゃないと調子が狂う。俺は窓から高さを確認して、飛び降りた。

「なぁ!?自殺でしかっ!許しません!」

 死色がそう叫んだのが聞こえる。俺は無事に着地し、同時に走る。弓道場に俺は向かった。そこなら弓と矢があったはず。

 途中、名木風の教室に朱色がいるのが見えた。心の中でがんはれ、と呟く。

「まつでしっ!」

 少し離れたところから死色の声がする。追いかけてきたのだろう。

 そのまま全力で走ると、すぐに弓道場に着いた。

「意外に近かったな……」

 あまり死色との距離を稼げなかった。

 弓を取り出す。が、矢が見当たらない。

「で、でし……走るのは苦手でしぃ……」

 仕方ない。

 俺は死角を見つけ、そこで死色が来るのを待った。

 闇色が見えた。瞬間、ナイフを弓で放つ。

 それは布を切り裂いた。しかし。

「不意打ち、でしか?無駄でしっ!」

 切り裂いた、だけだった。

 舌打ちをしつつ、身を翻して倉庫に向かう。

 矢はたぶん、そこにある。

 倉庫の入り口を蹴って開け、薄暗い中を探る。

「ゆらあ……こんなとこに逃げてぇ。行き止まりでしよぅ?」

 手元がよく見えないが、たぶん……。

「学ランのおにぃちゃあん。詰みでしよ、罪でし。チェックメーイトでーしよ。袋のネズミとはこのことでしねぇ。ふひひっ」

 きり、と俺は弓を引く。

 死色はまだ来ていない。

 息を飲んで待つ。これを外したら本当にやばい。

 ゆら、と倉庫の入り口に立つ影が見えた。

 ーーーまだだ。これじゃあ俺が出れない。

 死色は少しずつ中に入ってくる。

「ふひひ……」

 入り口との間が少し空いた瞬間。

 俺は矢を放つ。

「ふぇっ!?」

 当たった。

 俺は入り口に向かって走る。死色を押しのけて外に出た。手には矢を何本か持っている。

「うぅ……酷いでし……掠ったでし。カスタードでしぃぃ」

 弓道場を出たところで、もう一度構えた。

「でしっ!」

「うわっ」

 出てくるの早っ!

 俺は後ろに跳ぶ。死色の攻撃をぎりぎりかわした。

「ぐるぐるぅぅぅううっ!!」

「えっ」

 突然死色がその場で回り始めた。剣を持って。

 これじゃあ近づけないし……矢も弾かれるかもしれない。俺は一度矢を打つ。が、やはり弾かれてしまった。

「……あのまま目を回したりとか、しないよな」

 いや、案外馬鹿そうだから回すかもしれない。

 どうするべきか、迷っていた時。

「名莉海」

「ーーー創土兄ちゃん?」

 唐突にどこからか創土兄ちゃんの声がして、だからと言って目の前に敵がいるのに周りを見回すわけにもいかず、そのまま動かなかった。

「遅くなった。ほら、完成したぜ」

 その言葉とともに、弓と、矢が目の前に落ちた。

 俺は素早く拾う。

 深海のような、蒼穹のような綺麗な蒼色の弓。

「がんばれよーーー名莉海」

「……おう、任せとけ兄ちゃん」

 俺は少し笑って、弓を引いた。

 まだ勢い良く回っている死色に向かって、矢を放った。

「……でっしっ!」

 矢は弾かれることなく死色に当たり、死色の回転が止まった。

 そこにもう一発、矢を放つ。が。

「無駄でしぃいっ!」

 剣で防ぎ、俺の方に突進してくる。

 ーーー速い。

 動きも速いし、重そうな剣を振り下ろすのも、速かった。

 俺は咄嗟に弓で防いでしまう。

 さすがは創土兄ちゃんの弓、こんなもんでは壊れないらしい。

 俺は死色に足払いをかけた。

「あぶっなぁぁああい!!」

 転びそうになったところを、死色は空中で一回転し、俺の背後に着地した。

「やば……っ」

 そう思った時には遅く、俺は死色に押し倒される。そして剣が俺の顔を掠り、地面に刺さった。

「ふひひひ……観念するでしよぉ。しーたんは強いんでし、最強なんでしよぉふひひひひひ」

 にやにや笑う死色。たぶんもう勝つと思ってる。

 いや、そりゃあそうか。この状況で負けるなんて思わないだろう。

 だけどせめて、悪足掻き。

「死色ってさあ……」

「なんでしかぁ?命乞いでしかぁ?聞くくらいならいいでしよぉ、しーたんは優しいでしからねっ!」

「かわいいよね」

「……………………………………………………………………………は」

 長い沈黙の後、死色は剣から手を離し、後ろに飛び退いた。

「はぁぁああ!?なに、なな、なになに言ってるでしかぁ!?かわっ!?」

 俺は起き上がりつつ、思った。

 かわいいって言われたことなさそうだな……。

 だって顔めっちゃ赤いもん。

「じょ、冗談はやめてくだしぃっ!学ランのおにいちゃん!!今そんなっ!こと!」

 照れてる照れてる。

 うーん、面白くなってきた。

「何言ってんだよ、死色。お前かわいいよ。アイドル(自称)なんだろ?かわいくなかったら皆から大ブーイングだよ。ってね」

「あう……あうぅ」

「俺、そんな死色好きだぜ」

 面白いって意味で。

「ぷ、ぷ」

「……ぷ?」

「ぷしゅぅぅぅうううう」

 いや、あの、勘違いしてるだろ。愛じゃないって、愛じゃ。

 loveじゃなくてlikeだよ?likeですからね?

「う、嘘でしよぅ…やめてくだしぃよぅ」

「……嘘だぽん」

「ーーーほえ?」

 噛んだあああああ!!!!

 嘘だよんって言って攻撃しようとしたんです!マジです!

 うがあ、何だよ、ぽんって!嘘だぽんってなんだよ!狸か俺は!

「……うそ、だ、ぽん?」

 復唱すんな!

 穴があったら入りたい。いや、なくても掘って入りたい。死にたい。

「うそ?でし?か?」

 ……やば。怒ってる。絶対怒ってるって。

 めっちゃ睨まれてるよ、怖いよ。殺されるよ。

「いや、えーと、それも嘘」

「……うそ?のうそでし?」

「そうそう。嘘の嘘の嘘の嘘の嘘」

 つまり嘘。

「え、え?うー?うぇ?」

 あー、わかってない。分からないようにしたんだけどさ。やっぱり死色は馬鹿だった。

「よ、よくわからないでしけどぉ。学ランのおにぃちゃんはしーたんのことす、す、好きなんでしか?」

 ここで違うって言ったらどうなるんだろう。殺されるかなあ。ちょっと興味が。

 ……やめとこう。

「うん、そうそう」

「で、でしでしっでしぃぃいっ」

 死色は挙動不審だった。頭をぶんぶん振っている。

 俺は色々予想外すぎて(噛んだことを含め)見ているしかできなかった。やがて死色が顔を上げる。

「う、うう……わかったでし。しーたん、学ランのおにいちゃんに一生ついて行くでしぃ」

「…………」

 重い!覚悟と気持ちが思いよ!

 死色は俺の横にある剣を拾い、言った。

「そうと決まったら朱色くんにぃ、ご報告しなきゃいけないでしね!お名前なんでしたっけ……でし」

「名莉海……」

 お前名前もわからない人の告白(嘘)を受諾するなよ……。

「じゃあ名莉海くんっ!」

「はい?」

「よろしくでしねっ!」

 死色は笑う。

 不覚にも、かわいいと思ってしまった俺だった。


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