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ep.02

 ep.02


 01


 私は今、四時限目の数学の授業をしていた。

 名莉海とはクラスが違う。双子だというところは隠していないけど、前も言ったとおり、白渚という名字で過ごしている。

 授業中ぼーっとしながら、名莉海が昨日不思議そうな顔をしていたのを思い出す。

 あいつ、あれでも頭いいから、私なんかよりことの重要性か何かを考えていたのかもしれない。

「この問題を……白渚」

 私には白黒戦争は、単に白陽陰殺陣と黒闇陽殺戮衆の戦いとしか考えていないから、よくわからない。

「白渚ー」

「んえ?」

「この問題。答え」

 ……どうしよう、わかんない。

「わかりませ」

「しつれーーしマース」

 私の言葉を遮って、教室の前のドアがひらく。

「ーーーっ!」

 黒闇陽ーーー!

 闇色のポンチョを羽織った彼は、きっと朱色だ。まさか学校にまで来るなんて。

「何だ君は」

「初めまして、黒闇陽朱色でーすっ」

 そう言った瞬間に、先生の頭が、取れた。

 一瞬遅れて血がどくどくと湧き出る。

「きゃ……!」

 クラスの人達が悲鳴を上げる。まさに阿鼻叫喚と言ったふうに。人々は朱色を避けるように教室の後ろに逃げる。そんな中私は席に座ったままだ。

「な、名木風ちゃん!逃げ」

 私に逃げろという優しい女子の言葉は最後まで紡がれない。

 何故なら彼女も、否、彼女達もまた、頭が取れたからだ。

 頭がなくなった体は、それぞれに倒れる。

 私は真ん中の方の席なので、教室に散る血飛沫を被ることはない。

「皆で後ろに固まってくれてありがたいね。殺しやすい。ねえ、名木風ちゃん?」

 朱色はにこっと笑う。

「……何しに来たんだよ」

「何しにってもちろん、あれだよ」

「あれ?」

 彼は嗤う。

「戦争」

 私は息を飲む。

 まさか昨日の今日で、始まるなんて。覚悟をしていなかったわけではない。だけどこんなに早く。

「ま、どちらにせよこの学校は壊滅だね。残念無念、あはは」

「……壊滅」

 ぴちゃぴちゃと血が溜まった床を歩きながら、朱色は私の前に立つ。

「他の生徒も先生も、殺しちゃった」

 手についた血をペロリと舐めて、朱色は当たり前だという風に言う。

「ま、名莉海君のところの生徒は殺してないけど。僕の仕事じゃないし」

「……死色か」

「うん、そうそう。死色の仕事」

 私はナイフを、服の袖からするりと取り出した。

「やるかい?演るかい?殺るかい?」

「言葉遊びは要らないんだよ」

 私はナイフを構えた。

 創土兄ちゃんの作ったものではないけれど、それなりに役に立つはずだ。

 朱色は私を見ている。

 緊迫した状況の中、私は動いた。

「……っ!?」

「残念無念」

 動いた、が、足に切り傷が出来ている。

 何かが引っかかった……?

「これねー、テグスなんだよ。ほっそーーいテグス。触れただけでも手が切れちゃうくらい、鋭くもあるんだよ」

「テグス……!」

 細すぎるためか見えないが、これじゃあ身動きが取れない。

「教室中に張ってみたんだ。どうかな?」

「生徒とかもこれで……!」

「だいせいかーい。さて、どうする名木風ちゃん」

 朱色はにやりと笑った。

 私は考える。細いと言うなら切るまでだ。所詮は糸なのだから、切れないということはないだろう。

 ナイフを見えない糸へ振るう。しかし。

「……な」

 確かに糸がある感じはした。

「残念。切れません」

「くっ……」

 どうすればいい。これじゃあ攻撃も出来ない。防御すら出来ない。

 ーーー死ぬしかないの?

「時間切れ。んじゃ、処刑開始。まずは手からいこうかな?」

「……っ!」

 死にたくない。

 左手首に糸が食い込む感触がする。

 死にたくない。死にたくない。

 糸に私の血が伝う。

 死にたくない。死にたくない。死にたくない!

「名木風、ヘイパス」

 突然、どこからか創土兄ちゃんの声がして、手首を締めていた糸が緩まる。

「あん?」

 朱色は疑問そうな声を上げた。

『それ』はブーメランの如くくるりと旋回し私の方へ向かって来た。私はそれを手に取る。

「遅くなっちまって悪いな。ま、後は精々頑張れや。……死ぬなよ、名木風」

 それは、透き通るような翠のナイフ。

 まるで木々の葉のような。

 強く流れる、風のような。

 私のための、武器。

「今更そんな新しい武器だなんて……馬鹿馬鹿しい。どこから奴が現れたのか知らないけど……白陽陰なんて僕らの敵じゃない!」

 朱色はもう一度テグスを引いた。

「え……?」

 私がナイフを振るうと、はらりと、いとも容易くテグスは切れた。

「創土兄ちゃん、凄すぎ」

 私は笑った。

 さっきまでびくともしなかったのに。

「くそっ……何でっ」

 朱色は次々とテグスを私の方へ操って攻撃を試みているようだが、私はそれを全て切り払う。

 見えないはずのテグスは、朱色の操るスピードのせいで空気を切る音がしている為になんとなく分かってしまうので、切るのは簡単だった。

「……覚悟するんだよ」

 私はナイフを握りしめ、朱色に飛びかかった。

「…………使いたくなかったんだけどね!」

 朱色は叫ぶ。同時に私のすぐ横を何かが通り過ぎた。

 朱色が手に持っていたのは、銃。

 ということは、さっきのは銃弾か。

「くっ……」

 もう一発撃つ。銃声が鳴り響いた。

 すんでのところで躱すが、狭いところでは避けにくい。

 私は身を翻して、窓から飛び降りた。

 ここは二階、飛び降りたところで怪我にはならない。

「あっ、おい!逃げるなよ!」

 朱色も追ってきたようだ。

 私は無事に着地し、そのまま体育館に向かって一直線に走る。

 学校の中は静かだった。目の端に見えたグラウンドの赤色には、匂いには、目を背けた。

「どこだこらー。弱いくせに逃げてんじゃねーですよ、面倒なんですよ。しかも二階から飛び降りてちょっと足挫きましたしぃ?」

 朱色の声は、静かな体育館に響く。

 私は息を潜める。

「いや、足を挫いたっていうのは嘘なんですけどね?出てこいやー」

 足音。気配。

 私の攻撃がとどく範囲に彼が来た時。

「うわっ!?」

「ちっ……」

 攻撃は当たらなかった。体を切り返し、再び攻撃する。

 ナイフが風を切る。けれど、朱色のことは切ることができない。

「っばーん!」

 銃弾が肩を掠る。痛みが走るが、耐える。

 ヒュン、と音が鳴り、朱色に刃先が触れた。

「危なっ!」

「大人しく殺されてるんだよ、朱色」

 休まずにナイフを振るう。

「嫌だっつーの!」

「うあっ」

 後ろの方に蹴り飛ばされ、距離を取られる。そういえばこいつ、体術が得意だって名莉海が言ってた。

「あんたが弱いって聞いてたからさ。さっさと片付けて名莉海君と遊びたいんだよね。いや、名莉海君も別に強くなかったけどさぁ」

「……は?」

「ま、今頃死色に殺されてるかもね。なーんちゃっ……」

「死ね」

「ーーーてっ?」

 朱色の頬から血が伝う。

「何?」

 わかった。もうわかった。ナイフの使い方。

 風を使えばいいんだね、創土兄ちゃん。

 もう一度勢い良くナイフを振ると、空気を切り裂く、鎌鼬。

「いてっ」

 鎌鼬は朱色に当たる。彼は何が何だか、わかっていないようだった。

 その隙に、私は朱色に突撃した。

「ちょっ、タンマ!」

「避けても無駄なんだよ!」

 転がるように避けた朱色に向かって鎌鼬を放つ。それは服と共に皮膚も切り裂いた。ポタポタと血が垂れる。

「……っ!」

 私は朱色の首筋にピタリと刃を当てた。

「……な、んだよ。殺すなら殺せよ」

 息をきらせ、言った朱色は苦し紛れな笑みを浮かべた。

「殺すよ。でも最期に言う」

 私のことは弱いって言ってもいい。だけど。

「名莉海のことを悪く言うな。あいつは弱くない」

 それだけ言って、私はナイフを横に引いた。





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