ep.01-5
06
「ありがとう」
そう言って渚鉈兄ちゃんは笑い、立ち上がる。
「今日話そうと思ってたのはこれだけだ。私はおいとまさせてもらうよ」
「うん。わかったんだよ」
「あー、ちょっと待って、兄ちゃん」
帰ろうとしたら渚鉈兄ちゃんを名莉海は呼び止めた。
「俺らが前の任務でさ、盗もうとしてた……『ある物』って何なのか教えてくれない?俺らには見ればわかるとしか言わねえじゃん」
この言葉に渚鉈兄ちゃんは少し困ったような笑みを浮かべる。教えようかどうしようか、悩んでいる感じだ。
「……指輪」
やがて口を開いた兄ちゃんは、そう言った。
「指輪?」
「そう。ある人が大事にしてた。……その中にあの人の手がかりがあるんだよ。だから必要なんだ」
あの人とは誰なんだろう。指輪の中に手がかりがあるというのは、どう意味なのだろう。
兄ちゃんはじゃあ、と言って帰って行った。
天崎兄ちゃんは紅茶を飲み干してから帰った。
「創土兄ちゃん暇なの?」
「暇って……言い方」
いや、だって暇そうなんだもん。テレビ見てるし。
「休憩ちうー」
「何の……」
最近創土兄ちゃん任務してなくない?気のせいかな。
疑いの眼差しを向けていると、創土兄ちゃんがため息をついて立ち上がった。
「え、いや。ごめんなんだよ。どうぞお休みくださいませ」
私のせいかと思って急いで謝ったが、そういうわけでもないらしく、創土兄ちゃんは苦笑して言う。
「いや、そろそろ戻る。早く完成させなくちゃならねえし」
「完成って?武器?」
ティーカップを洗っていた名莉海が訊くと、創土兄ちゃんは頷いた。
「俺の?」
「俺のっていうか、お前らの」
「いえーい」
「いっえーーい」
私と名莉海はハイタッチした。
最近使っていたのはそこらへんで売っていたやつなので、あまり使い勝手は良くなかったのだ。創土兄ちゃんが作るとなったら、そりゃもう威力は抜群だし、軽いし、使いやすいいし。何よりタダだ。
「楽しみにしとけよ。最高の出来にしてやる」
「楽しみにしてるんだよー」
「期待しまくってるってねー」
創土兄ちゃんは手をひらひらと振って、家から出て行った。
「……白黒戦争ねぇ」
あっという間に私達だけになって静かになった部屋で、名莉海が意味深長な口ぶりで呟く。
「どうかしたんだよ」
「いや。別に」
「……んー」
よくわからない。含みのある言い方をしたくせに。
「とにかくさ、名木風。もうすぐそんな大層なもんが起こるって言うなら、準備だけは万端にしておこうぜ」
「うん、そうだね。もしかしたら……また死色とかと戦うかもしれない」
勝つことは難しくても、せめて相打ちにくらいはしたいものだ。
「そういえば天崎兄ちゃんに学校行けって言われたんだよ」
私が名莉海にそう言うと、名莉海は面倒くさそうな顔をした。
「まじでか……」
「休みすぎだって」
「……仕方ねえ。明日からはちゃんと行くか……」
行きたくねえけど、とため息をつく。
私も正直、勉強より訓練や任務をしたいところなのだが、天崎兄ちゃんに言われてしまっては仕方が無い。穏やかだけど、怒るとたぶん、このアパートのこの部屋の電気だけが止まる。生活できなくなる。
それだけは勘弁願いたいものだと思いながら、私達はその日一日を過ごした。
07
ある学校の屋上。
太陽が真上に来る頃に、二つの影。
明るい中に目立つ、闇色のポンチョを羽織った二人は嗤う。
「強くなってるといいなあ」
ひとりが呟いた。
「でしね」
もうひとりも頷く。
「舞台は整った」
「準備万端!」
「最高で最良で最低で最悪の天獄を」
始めよう。
歴史に残る、白黒戦争を。