ep.01-4
05
あれから約一ヶ月、黒闇陽殺戮衆と関わることはなかった。
私達は普段の任務に加えて訓練を真面目にやった。
今は、前より強くなっているとは思う。黒闇陽に対抗できるかどうかはさておき。
「ナキも強くなったねー。感心感心」
「天崎兄ちゃん……あんま子供扱いしてほしくないんだよ」
私は今日、天崎兄ちゃんと任務だった。今日というか、最近はずっと天崎兄ちゃんとペアだった。名莉海は文句を言っていたけど。
「仕方ないよ。かわいい妹だからねー、子供扱いしちゃうんだ」
「意味わからないし、本当の妹じゃないんだよ」
私と名莉海以外、血が繋がっている者はいない。白陽陰はそれなりに人数(三十人くらい)がいるけれど、兄妹は私達だけ。
「本当の妹だったら良かったのにねー」
天崎兄ちゃんはしみじみと言う。
「……そうだね」
苦笑混じりに言って、家のドアを開けた。
「おかえり名木風っ!」
「うわっ嫌な奴いるんだよ!」
待ち構えて抱きついてきたのは渚鉈兄ちゃん。最悪だ。
「久しぶりー久しぶりー!」
「離れろ変態!死ねっ!」
「おかえり名木風ってね……襲われてるし」
名莉海が出てきて渚鉈兄ちゃんを引き剥がす。私は渚鉈兄ちゃんを一回本気で蹴ってからリビングに行った。
「あれ、創土兄ちゃん。どうしたの?来るなんて珍しいね」
ソファに座って寛いでいるのは創土兄ちゃんで、白陽陰の鍛治士だ。よく私達の武器を作ってくれている。創土兄ちゃんはあまりうちには来ないのだけれど。
「ん。ちょっとね」
それだけ言って創土兄ちゃんはテレビに視線を移した。テレビでは特に何でもないニュースが流れている。
「名莉海、名木風。ちょっといいかな?」
天崎兄ちゃんがリビングに来る。
「うん」
「天。別にここでいいんじゃねえの?誰に聞かれてるわけでもねえしよ」
創土兄ちゃんが言う。天崎兄ちゃんは少し考えて、そうだね、と言った。名莉海と渚鉈兄ちゃんもリビングに来る。
「名木風、お茶」
「えー」
「よろしく」
「……はいはい」
天崎兄ちゃんに言われて、私は紅茶をいれる。天崎兄ちゃんは紅茶しか飲まないので、少し面倒だ。
「さて、話をしよう」
紅茶を入れ終わり、テーブルに並べていると渚鉈兄ちゃんが言った。渚鉈兄ちゃんは手招きをして隣に私を座らせようとしたけど、天崎兄ちゃんの隣が空いていたのでそこに座った。
「………………」
「何だよ」
渚鉈兄ちゃんが肩を落とす。
「渚、遊んでる場合じゃねえだろ」
創土兄ちゃんに言われて渚鉈兄ちゃんはソファに座り直す。
何だか今日は創土兄ちゃんがよく喋るなあ。
「確かに遊んでる場合じゃなかったね……私としたことがついうっかり」
「話って何だよ。ってね」
名莉海が訊く。
「『戦争』のことさ」
「戦争……?第二次世界大戦?」
「いや、違う」
「じゃあ第三次世界大戦なんだよ」
「違う違う」
第三次世界大戦なんて起こっても私達にはどうしようもないので、まあ違うよね。わかってて言った。
「まあ大惨事色殺大戦みたいなものさ」
「ひでえネーミングだ……」
「というか、ほぼ白陽陰と黒闇陽の諍いなんだがな」
と、創土兄ちゃんが付け加えた。どうやら色殺全体ではないらしい。まあ、色殺全体が戦争なんかしたら大変なことになりそうだ。
「通称『白黒戦争』。五年前に起きた戦いだ」
「五年前ってことは……天崎兄ちゃん達もいたよね」
「うん。僕らはその生き残りだから」
「へえ」
名莉海が口を挟む。
「けどよー、兄ちゃん達。それを何で今話すんだ?そりゃあ白陽陰にいるんだし、後々聞くことになっただろうけどさ。でも今必要か?俺達まだ14歳だぜ?ーーーもうすぐその『白黒戦争』ってのがもう一度起こりそうだっていうならまだしも……」
「名莉海は頭がいいなー。というか、察しがいいね。実はそういうことなんだ」
「……だろうと思ったよってね」
え?今なんて?
「それで、えーと」
「ちょ、ちょっと待つんだよ!せ、説明……!」
慌てる私に、創土兄ちゃんが落ち着いた声音で言った。
「つまり五年前に起こった白黒戦争が近いうちに起こるかもしれないんだよ、名木風」
「そんな……」
「五年前の……白黒戦争のことを話そうか」
渚鉈兄ちゃんが言った。
白黒戦争ーーー白陽陰殺陣と黒闇陽殺戮衆の戦いをこう呼んだ。色殺の中でも序列一位と二位の衝突は、壮絶なものとなった。
白陽陰は生き残りは四人。
黒闇陽も相当な数減ったらしい。
最終的には黒闇陽殺戮衆が勝った。
「ん?四人?渚鉈兄ちゃんと……天崎兄ちゃん、創土兄ちゃんだろ?あと誰だよ」
「白陽陰の元リーダーさ。今はいないけれど。きっと何処かにいる」
「元リーダー……」
つぶやく私に天崎兄ちゃんが呆れたように言う。
「あの人は放浪癖があってね……連絡しようとしてもガードが硬くて僕でも無理」
「天崎兄ちゃんでも無理なの?」
私が問いかけると、天崎兄ちゃんは頷いた。うーん、さすがは元リーダーというべきか。
「なんて名前なの?」
「陽陰さん、だよ」
「……どうせ戻っては来ないだろ。あいつのことだし。天が連絡も取れないんじゃ応援にも呼べない」
創土兄ちゃんは肩を竦める。
「なあなあ、何でその戦争は始まったわけ?」
「名莉海は興味津々だなあ」
「そういうわけじゃねえけど。普通に考えて自分らより強いところと戦いと思わないだろ、と思って」
「んー、まあ始まりは陽陰さんのせいだったんだけどね……」
「……まじかよ」
名莉海はなんとも言えない顔をした。呆れてるような、苦笑いのような。
「陽陰……さんは強かったの?」
「うん、強かった」
私の問いに兄ちゃん達は頷いた。
「あれはなぁ……強いし負けず嫌いだし」
「自分勝手だし」
「面倒臭がりだったよね。まあ要するに」
三人は異口同音で、「困った人だった」と言った。こんな風に言われているけれど、いい人だったんだと思う。兄ちゃん達は少し嬉しそうだから。殺人鬼でいい人っていうのもどうかと思うけれど。
「……とまあ、陽陰さんは置いておいて。名木風、名莉海。戦争に参加できるかい?」
渚鉈兄ちゃんが真剣な顔で私達に言った。
私達は、少なくとも私はまだ弱いと思う。役に立てるかわからない。無駄に死ぬだけかもしれない。だけど。
戦争の話を聞いた時から、答えは決まっていた。
「「もちろん」」
黒闇陽に、勝ってやる。