ep.03-2
02
「陽陰……さん」
私は呟く。
この人が、白陽陰の元リーダー。女だったのか。
「もう一度言おうか?敵ならば去れ。っつーか、敵陣地で敵以外あり得ねーから、去れ」
「俺は白陽陰名莉海。こっちは白陽陰名木風。そんでちっこいのが死色」
名莉海が陽陰さんに言う。すると、陽陰さんは目を見開いた。
「えっ……白陽陰?真面目に?」
「そうなんだよ」
「……あー。敵とか言ってごめんね、許して。うん、ありがとう」
何も言ってない……。
「で、君らは何しに来たのだろうか」
腕を組んで、私達に問いかける。なんということだろう、すんなり名莉海や私の言葉を信じた。嘘だとか疑わないのだろうか……。
まあ、いいけれど。
「天崎兄ちゃんに、指輪を」
「まじでー!?うわー、来なきゃよかったっ!私が無理して来ることなかったんじゃん!んだよー、それならそうと言えよー。じゃ、そういうことで」
「えっ!?」
陽陰さん、自分勝手なんだよ!人の話聞こうとしない!
窓枠に手をかけ、出て行こうとするーーーけど。
「相変わらずですね、陽陰さん」
「あ……」
「天崎っ!」
窓から唐突に出てきた天崎兄ちゃんに、陽陰さんは一歩引いて、叫んだ。天崎兄ちゃんは、陽陰さんがいること、知っていたのだろうか。それとも遅いから様子を見に来ただけだろうか。
「懐かしいなあー!でかくなった!たぶん?いや、きっと!五年前だっけ?いやー、大人になったなー」
「積もる話もあるでしょうけど。とっとと指輪取って帰りましょうよ……こっちだって眠い」
「……帰るってどこに」
陽陰さんは怪訝そうに言う。
「名莉海や名木風の住んでるマンション。ね、ふたりとも」
「え……場所が」
「ベッド二つしかないんだよ」
「ノリ悪いなぁ……」
「しーたんでしっ!お話がちんぷんかんぷんでしっ!!」
死色、空気読んで黙ってるのかと思ってたのにそういうわけじゃあなさそうだった。そういえば、特に言わなかったけど、死色の名字は言った方がいいのだろうか。
……やめておこう。
「じゃあ、帰ろうか」
「やっぱ私も行かなきゃ駄目か?」
「当たり前です」
「……ちっ」
露骨に陽陰さんは舌打ちをして、窓際から離れ、ショーケースを割った。
「そういえば、陽陰さん」
「ん?何だ?えーと……名前」
陽陰さんは指輪を手にとりながら言う。どうやら名前を覚えてないみたいだ。
「名莉海だよ。階段のところの黒闇陽を殺ったのは、あんた?」
「名莉海な。そうだよ、私。邪魔だったからさ。私をただの泥棒だと思ってたみたいだよ、馬鹿だよなー」
指輪を少し眺めてから、彼女は指にはめた。
「よし、帰ろう」
「早くしましょうよ……」
天崎兄ちゃんが呆れたように肩を竦めて、私達はビルから出た。
マンションに帰ると、とりあえず寝る、と天崎兄ちゃんは名莉海のベッドを占領し、陽陰さんには私のベッドを提供した。私はソファで寝て、名莉海と死色(死色は自分で希望したのだけれど)床で寝ることに。
それから、翌日。
リビングに、私と名莉海、天崎兄ちゃんと陽陰さん、そして死色が集まった。死色は眠そうに目をこすっている。
「さて、僕らの目的は黒闇陽を倒すことなのは明確なんだけど」
私達は頷く。
「ええっ!黒闇陽倒しちゃうんでしかぁ!?しーちゃんも倒されちゃうんでしか!えええぇ!」
「何でしーちゃんが倒されちゃうんだ?」
陽陰さんが首を傾げる。そういえば、黒闇陽死色なのだと伝えていない。
「しーちゃん、黒闇陽でし!」
「は?」
「黒闇陽といえばしーちゃん……なんでしけど……今は名莉海くん一途でしよっ!」
「名莉海一途って何だ……?名莉海一筋ってことか?惚れられてんのか?モテモテなのか?リア充とかいう奴か?」
「質問多いっす……」
名莉海がうんざりしたようにため息をつく。
「惚れられてるかとかよくわかんねーけど、戦略で仕方なくというか……成り行き……」
「へー、はあん。成り行きねぇ。ふーうん」
陽陰さんは納得いかないようだったが、それ以上は何も言わなかった。興味がなかったのかもしれない。
「後で教えろよ?名莉海」
「……………………」
そんなことはなかったみたいだ。
「暗黒色の周りに黒闇陽の奴らがいるとしたら面倒だから……掃討を陽陰さんにお願いしたいんですが」
ちらりと天崎兄ちゃんは陽陰さんを見た。彼女は何だか不服そうだ。
「なーんか、地味っ」
「地味にやって下さいよ」
「陽陰さんは派手なのが好きなの?」
呆れる天崎兄ちゃんを他所に、文句を言う陽陰さんに訊いた。陽陰さんはイタズラな笑みを浮かべて、おう、と頷いた。
「なんつーか、どーん!みたいな奴が好きだぜ私は!」
「へえ……」
……アバウトだなあ。人を押しているのか、それとも爆弾なのか。派手さから考えると爆弾だろうけど。
「陽陰さんは何で戦うの?銃とか?」
「ん?全部だよ、全部。周りにあるものなら何でも使うぜ」
例え人でもな、とまた笑う。恐ろしい人だ。確かに、自由な人っぽいことは何となくわかった気がする。
「陽陰さんは基本的に前線に出ないで下さい、面倒なんで。だから、名木風と名莉海……と、死色が頑張ってくれれば」
「でもよー兄ちゃん。俺らで暗黒色に敵うか?勝算薄いぜ、正直」
「いざとなれば僕も戦うし、陽陰さんにも参加してもらう。それに……呪いの対策を取れば幾らか楽になるとは思う」
「呪いに対策出来るかな」
私は呟く。オカルト的なことに詳しくない私には思いつかない。天崎兄ちゃんなら調べられるのかもしれないけど、それが本当に効果があるかどうかまではわからないのではないだろうか。
「しーちゃん、ぐるぐるぐるでしよ……何のお話でしかぁ……?」
「ああ、そうだしーちゃん。暗黒色の弱点とか知らないかな?」
陽陰さんが死色に問う。死色は何回か瞬きした後、首を捻った。
「リーダーの弱点でしか……弱点……」
うーん、と唸って、少しして閃いたようにぱっと顔を上げて満面の笑みで言った。
「殺せば死ぬところでしね!!!」
「あー、なるほどなるほど……ってそれは皆同じだから!」
陽陰さんの見事なノリツッコミ。
死色はとことんボケる。ただバカなだけだけれど。黒闇陽にいても朱色とか、それなりにまともだったのに。
「死なない人だっていまし!しーちゃんとかっ!」
「お前は不死身なのか!」
「不死鳥でし!」
「ストップ。話が逸れてるってね」
「「あ、はい」」
話が逸れているというか、何の話でそうなったのか。
「えーと、とりあえず対策は考えてあるよ。それに従えばたぶん平気だし、陽陰さんがいればほぼ平気」
「暗黒色って、武器使わないの?呪いだけ?」
私が言うと、天崎兄ちゃんは首を横に振った。
「銃……だったかな。昔すぎてよく覚えてないけど」
「五年前ってそんなに昔じゃないんだよ」
「昔だよ。その時僕成人してないし」
そう言って肩を竦める。成人してない天崎兄ちゃん……想像はつかなかった。きっと小さかったのだろう。陽陰さんが大きくなったなって言っていたし。
とにかく、暗黒色は銃を使って戦うらしい。呪いと銃か。結構やりづらそうだ。
「戦争を終わらせるのは……早い方がいいだろう。今だったら確実にこちらが有利だから」
「そうだな。明日にでも暗黒色のところに行くかってね」
いや、と陽陰さんが名莉海の言葉を否定した。
「名莉海、頭使え?早い方がいいって言われてんだろ」
「今日とか言わないで欲しいんだけど……?」
「今日だよ。なあ、天崎」
天崎兄ちゃんは静かに頷いて、ノートパソコンを開いた。名莉海は大げさにため息をついて、立ち上がる。
「何時だよ、兄ちゃん」
「一時間後、十二時。それまでに準備を。作戦は後で伝える」
私も立ち上がった。
そして、戦いの場所へ。