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 学校から家に帰る時、一番近いのは現在は国道になっている旧街道を通り、表参道を抜けて正面鳥居から入るルートだ。これだとまあ15分くらいで家につく。

 行きはクロウのせいで暴走しているから10分で着くけど、帰りは普通の早さだ。これは僕の帰宅時間がクロウのお昼寝タイムにあたっているからで、飛脚の格好の小さなクロウが手枕で寝てる姿がふよふよ浮いてるのを見ると心が和む。


「昌文、今、帰りか?」


 駐輪場のそばの渡り廊下に杉江がいた。


「うん、そう。スギは部活?」


 この先はクラブ棟で主として文化部の部室が並んでる。運動部はプールわきのクラブハウスだ。


「おう。次号の編集会議。あ、そうだ。もう申し入れしてあるけど、火曜日は学校の許可もおりたから節分の写真撮りに行くから」

「へえ」

「昌文は、火曜日休みなんだろ?」

「そう。五時起きだよ、五時起き!」

「なんでまた」

「禊<みそぎ>をするんだよね、儀式の日って。で、日の出に最初の儀式があるから」

「みそぎ?何だそれ」

「奥殿の滝で水浴び」


 いろいろと儀式的な説明をしてもわからないだろうから、わかりやすく言ってみた。


「……二月だぜ?」


 杉江が目をしばたかせる。


「……毎年の事だから」


 雪が降ったこともあるが不思議と風邪をひいたことはない。


「写真とか撮れる?」

「ごめん。うちは神事は取材不可。写真が欲しければ山城さんに聞いてみて。もしかしたら撮ってるかも」


 別にもったいをつけるわけでないんだけど、禊は神事の一部だし、他の人間がいると気が散るからね。


「わかった……そういや、神社に新しい人来たんだって?」

「あ、うん。今日あいさつにくるはず……一応、2月1日からだけど」


 今日から勤務だって言ってたような気がする。


「変な時期に来るんだな」

「前の人が転勤になったからさ」

「神社で転勤って何だよ」

「うちの権宮司ってのは神社本庁からの派遣なんだよ。神社本庁は全国の神社の総括してるところだからね。本庁勤務の人ってきっと全国転勤あるんだと思うよ」

いや、僕も詳しくは知らないけどさ。っていうか本庁の人って毎日何やってんだろう?そんなに派遣の人必要としてる神社がたくさんあると思えないんだけど。

「なんか、普通の会社みたいだな」

「っていうか、体質はお役所だね」


 融通きかない人多いんだよ。うちの歴代の権宮司の半数以上が健康上の理由……主に胃潰瘍で転勤していくのはそのせいだろう。子狐さんにちょっと遊ばれたくらいで逃げ出すのは根性なさすぎ。


「でも、昔は役所だったんだろ?」

「そう。……でも、地方の神社はあんまり関係ない。うちは事情があって本庁とちょっと関わりはあるけど、独立した宗教法人だから別に本庁の指導に絶対従わなきゃいけないってわけでもない」

「そうなの?」

「だって、うちの神様は別に本庁のものじゃないからね」


 じーさまにさんざん言われた。うちの神様はうちのもので、本庁の支配下にあるものじゃないって。

 僕もそう思う。だいたい、人間が神様の格付けするのはおかしいんだよね。確かに神様の間に格はあるんだと思う。だからこそ白狐様は姫様のお使い狐なんだし、七福さん達も姫さまの下働きなのだ。けど、それは僕らが決めたことじゃなくて、姫さま達の間で自然に決まってることで僕らがどうこうすることじゃない。


「……ごめん、もう行かなきゃ。今日も準備なんだよ」

「御札書きだっけ?」

「そう。じゃあ、またね」

「おう。頑張れよ」


 互いに軽く手をあげて別れる。立ち話してたらちょっと冷えた。うちに帰ったら何かあったまるものをもらおう。



 帰宅して簡単に身を清めると、僕は袴に着替えた。袴の色は普段着の場合は白袴……世間一般の男子高校生として普段着が袴だっていうのは珍しいだろうが僕はもう慣れっこだ。

「おかえりなさい、昌文さん」


 社務所の台所に現われる白い影……この丁寧な口調は白狐さまだ。


「ただいま、白狐さま。……珍しいね、どうしたの?」


 白狐さまは、僕と同じように白袴姿をしている。だいたい、白狐さまは人形の時はその格好でいる。一応、目立たぬ為の配慮らしいが、髪の色が見事な銀髪なので白狐様のその気遣いは役立ってるとは言い難い。それに、その髪の色じゃなかったとしても、白狐さまは恐ろしく整った容姿をしているので目立つに決まってる。


「いや、隆正がシンジンケンシュウとやらで手が空かぬようなので、姫様に昌文さんの手伝いをするように言われたのです」


 新人研修ですね、白狐さま。たぶん白狐様には字面がわかってないだろう。

 姫様は大変俗世に詳しいが、白狐さまはあまり詳しくないのだ。白狐様が詳しいのは格ゲーだけだ。ゲームに詳しい神様もどうかと思うけど、エロゲーじゃなくて良かったと心底思う。


「ありがとう、白狐さま。……じゃあ、これ飲んだら、本殿で御札書きするんで、そうしたら朱印押ししてください」


 僕は手元のマグカップをもちあげる。中身は生姜湯だ。鳥居前のジンジャーというカフェで作っているものを分けてもらったものだ。甘くて辛くて何て言っていいかわからない味だけど、僕は嫌いじゃない。冬はホットで、夏はアイスで飲む。体が芯からじわっとあたたまる。


「わかりました」


 白狐様は真面目な顔に笑みを浮かべてうなづいた。

 姫さまと違い、白狐様は引きこもりだ。お使い狐としてその引きこもり状態はいかがなものかと思うが、姫様が許しているのだから僕がとやかくいうことじゃない。


 ちなみに白狐様がひきこもっているのは自分の社ではなく山城さんの部屋。山城さんの部屋は神社の拝殿裏の母屋にある。僕や千鳥さんやそれから姫様の衣裳部屋もここにある。

 山城さんの部屋は二間続き。奥のオーディオルームに白狐様はいつもいて、50インチの大画面でゲームをやってる。

 僕と姫さまも時々遊びに行くが、いつも新しいゲームが増えている。山城さんは白狐様を甘やかしすぎだと僕は思う。まあ、僕も姫様にさんざん甘やかされてるから何か言えた義理じゃないんだけど。


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