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「深沢篤、27歳。うわー、今までの中ではピカイチ若いね」


 履歴書を見ながら、お茶をすする。

 干し柿の中に芋が入ったこの菓子は素朴な味わいでありながら、ブランデーがふわりと香り洗練を感じさせる。

 姫様が気に入るわけだと納得した。奈良に行ったらぜひ買ってきたいと思うお菓子だ。


「そうですね」

「えー、大卒じゃん。ってことは、山城さんと同じ明階だね」

「ですねぇ」


 姫様は、僕らの話にたいして興味がないようでさきほど献じられたばかりのいつもの梅香堂さんの饅頭を嬉しそうに食べている。まだ温かい蒸したてなのだ。


「実家が神社とかじゃないのかなぁ?っていうか、大学まで入っておいて継ぐ神社がないってあんまりないよね」

「ないですよ」


 今時、神道学科なんかを選ぶのは神社の子供くらいのものだ。かくいう僕も高校卒業後は神道学科を専攻することになるだろう。都内に神道学科のある大学は一つだけなので進路はもう決まったも同然だ。


「……姫さまのせいかな?」

「いやぁ、うちに姫様がいるのはもう当たり前のことですし本庁も知ってることですから……最も、宮さまがおいでになるまではほとんどお出ましにはなりませんでしたが……」


 戦争中、曽祖父が作ったお札は弾除けのありがたい霊験があったと言われている。そのせいで、戦後の混乱期もうちの神社はその資産をほとんど減らすことなく乗り切った。

 曽祖父は終戦後、さほどたたぬうちに亡くなり、シベリアから帰ってきた祖父が神社を継いだ。祖父が帰って来る事が出来たのは、姫様が道案内してくれたからだそうだ。

祖父は「斎主」ではなかったので、それっきり姫様はずっと眠りっぱなし。以降、僕が五歳で姫様と出会うまで誰も会ったことはなかったのだという。

「でも、うちみたいな田舎の神社にこんなぴかぴかのエリートが来るんだから、他には考えられないけどね」

 神職は、『階位』と『身分』と『職階』で区分されるんだけど、この中で一番重視されるのは職階……つまり、役職の順位。

 だから、宮司である僕が一番えらい。階位は正階だけどね。

 身分っていうのは年功序列みたいなもの。これは正装の服装の区別くらいであんまり重視されてない。だって、宮司の袍の色が何色だって別に一般の人にはわからないしさ。

 身分で言うなら僕と山城さんは最低の四級。でも、深沢篤は三級だ。27歳で三級ってすごいことだ。しかも明階。普通だったらどこかの宮司として務めているのが当然だ。


「異能があるのではないか?」


 不意に姫様が言った。


「異能?」


 異能と言うのは普通とは違う力があるということだ。


「そう。……じゃが、誰かの愛し子ではなかったの」


 愛し子というのは、僕のような存在を言う。神の特別な寵愛を受ける人間……僕は姫様のお気に入りだ。

 だから、姫様や姫様の眷属たちはさまざまな力を貸してくれる。別に僕自身の力ではない。

「考えられるのは神の血を帯びているということでしょうか?」


 山城さんの言葉に姫様は同意する。


「で、あろうな。もしくは呪われたか」

「祝福ではないんですか?」

「さて……呪いと祝福はよく似ているゆえに、よく視もせずに区別することはできぬよ」

「……そういうものなの?」

「そういうものじゃ」


 姫様は力強くうなづく。


「……まあ、案ずるな。妾がおるゆえに」


 姫様に敵はない。


「よろしく御願い申し上げます」


 山城さんは姫様に深々と額づく。


「この間、高木酒店がもってきたスパークリングワインとやらを1ダースほど買ってくるが良い」


 姫様はにっこりと笑った。姫様はかなりの酒飲みでもある。

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