当直開始
8月下旬になると、俺が当直の日がやってきた。
つまり、学校に泊りこんで、雑務を行うと言うことだ。
「これが、学校の正門のカギ。で、これが、教室のマスターキー。校長室には、緊急事態以外入らないように」
教頭先生が、俺に職員室でいろいろと教えてくれる。
「緊急事態とは何ですか」
「誰かが銃を乱射しながら学校に入ってきたような場合だ。その時には、校長室に入ってもよろしい。だが、それ以外の場合は、守衛に告げなさい。このトランシーバーを使えば、すぐにつながる」
「分かりました。それで、見回りは1時間に1回でいいんですね」
「そうだ。それ以上でもそれ以下でもいけない。とはいっても、ここじゃめったに犯罪は起きないがね」
「そうなんですか」
マスターキーを受け取りながら、俺は教頭先生にいう。
「それも、この土地の治安がいいっていうことですね」
「そういうことになるかな」
そう言いながらも、教頭先生はなにかそわそわしているように見えた。
「今日は、なにかあるのですか」
「いや、娘の誕生日でな。今日で16歳になるんだ。ただ、今は留学していてアメリカにいる」
「そうなんですか、おめでとうございます」
「ああ、ありがとう。では、そういうことだから」
教頭先生が職員室から出て言ってしまうと、残されたのは、俺だけになった。
実際には、正門には常時守衛さんがいるのだが、学校の建物の中には入って来ない。
校長先生は、最初に出会ったきり、顔も見ていない。
なにはともあれ、こうして俺の長い夜は始まった。