立話
日本国内で誰か死んだ場合は、死亡届けを出す義務となっている。
俺が今いるところが日本国内なのは、日本語が標準語として通用できているところから推測しても、そうなのだろう。
ならば、自分が死んでいるのかどうかを調べるためには、役所へ行けばいいことになる。
とうぜん、数万人規模の人口を誇るこの市には、役所だってある。
それも、市役所だ。
ただ、整備が行きとどいていないらしく、肝心の市の名前のところはかすれている。
俺はすぐに目的の戸籍課のところへ向かうと、応対してくれた職員に印紙をつけた申請書を提出した。
職員は上から順に確認をして、不備がなかったようですぐに取り寄せてくれた。
「個人事項証明書です」
「抹消手続きはされてないんですか」
「ええ、されていませんね」
役所の人が言ってくれると、間違いがないだろう。
戸籍が抹消されていないということは、俺はまだ死んでいないということだ。
少なくとも、現時点では。
死んでいないのに、なぜ、もう死んだ祖父が見えたのかという問題にたどり着く。
とはいっても、俺は死んでいないわけだから、やはり霊感がついたのかということだろうか。
「おや先生、考え事ですか」
道を歩いていると、たまたま教頭先生に出会う。
「ああ、教頭先生、こんにちは」
立ち止まって、コンビニ前で立ち話となる。
「何か悩み事があれば、相談に乗りますよ」
「いえ、些細なことなので、大丈夫です」
「そうですか、何かあれば、気軽に話しかけて下さいね」
教頭先生は、コンビニから出てきたところで、袋を持ちながらどこかへと歩いて行った。
俺はちょうどのどが渇いていたところなので、コンビニへと入る。
ピンポーン、ピンポーンと2階チャイムが響いて、俺が入ったのを、コンビニ中に知らされた。
「いらっしゃいませぇ」
気の抜けた声で、店員が挨拶をする。
「あれ、先生じゃないですか」
そこには、俺の教え子の一人が、店の制服に身を包んで、品出しをしていた。
「バイトか」
「ええ、バイトですよ。なんといっても、お金がいろいろと要りますからね」
「何か、妙な物に手を出してるんじゃないだろうな」
「そんなことしませんよ」
笑いながら、彼女は俺に話しかけてくる。
「そういえば…」
「どうしたんですか、先生」
手を止めて、俺を向く。
「ここに来た時の記憶ってあるか」
「この街に来た時…そういえば、不思議なんですよね、そのこと」
「不思議?」
「友達と遊んで自転車で帰っていたところまでは、記憶がはっきりしてるんですけど、それから病院で目が覚めて、気付いたらこの街にいたんです」
「ということは、今は一人暮らしか」
「ええ、成り行きでそうなっちゃいました」
彼女はそう言って笑っていたが、寂しそうだった。
俺は、500mlのお茶のペットボトルを買って、コンビニから出た。
そして、俺は確信していた。
ここにはなにか秘密があることを。
その時には、俺は不幸にも気づいていなかった。
誰かが、じっと俺を観ていることを。