学校
俺の赴任先は高校だ。
新居に越してきた翌日にはあいさつしに行くことにした。
「ここかぁ…」
古くからある高校のようで、正門の名前は風化してよく読めない。
だが、名前は知っている。
守衛が立っているので、俺は学校名を聞いてみる。
「すいません、ここは陽則高校ですか」
「そうですよ。えっと…」
「ああ、ここに新しく赴任することになった、平多憲三です。今後とも、よろしくお願いします」
「そうですか、守衛です。みんなは守衛と呼んでますので、ぜひともそのように」
「分かりました守衛さん」
俺は握手をして、それから再び尋ねた。
「校長はどこにいますか。先に挨拶をしたいのですが」
「それなら呼びましょう。今は春休み期間ですので、学年の切り替わり作業中だと思います」
守衛は腰につけている無線機で、校長を呼びだしてくれた。
やってきたのは、まだ40代そこそこの、若い女性だ。
「平多さんですね。委員会から話は伺っています。こちらへ来ていただけますか」
校長は、俺をそう言って案内してくれた。
「構内図は、一通り頭に叩き込んでいてくださいね。それと、あなたにはあらかじめ通達が行っていると思いますが、物理学を教えていただきます。物理教室は第1が物理、第2が化学、第3が生物、第4が地学となっています。あなたが使用することができるのは第1の身で、ほかの第2から第4までの物理教室は、私からの許可がない限り、授業で使うことはできません」
校長が指さしたのは、3つの建物の真ん中のところだ。
あそこにあるらしい。
「ここからみて右側にある建物が学科棟、真ん中と左側が特別教室棟です。職員室と教員用玄関は真ん中の建物の一階にあります。それぞれ名札が振られているので、確認していてください。それと、生徒と教員の共通掲示板が教員用玄関入ったすぐのところにあります。毎日の行事予定はすべてそこに掲示されますので。教員会議は朝の8時15分から10分間。遅刻しないようにお願いします。場所は職員室で。全体朝礼が月に1回。平多さんは今回は担任をしないので、クラスごとの朝礼については、その時にお教えします。さて、ここまでで何かございますか」
「いえ、大丈夫です」
歩いている間に、教員用玄関へとたどり着いた。
中棟と書かれた看板が、妙に威圧感がある。
ここでの生活は、中々にハードになりそうな気がした。
俺が靴を履き替えている間も、ノンストップで校長の説明が続く。
「では、授業について。教科書は、学校指定の物を使ってください。教員用として机の上においてある者があります。予備がいくつかありますので、汚損した際は、私に一言いってください。用務員へは、私から伝えておきます。事務関連は一括して教頭が行います。週に一度の報告書は教頭に提出してください。授業の進行スピードについては、あなたが決定してください。生徒がきつそうだと思ったら落としてもいいですし、逆に速めてもいい。ただし、委員会が下した決定については、決して逆らわないようにしてください」
委員会というのは、きっと教育委員会のことだろう。
確かに逆らったらいろいろと嫌がらせをしてくるだろう。
逆らわないのが得策だ。
「分かりました」
こうして、校長のレクチャーが終わると、学校の構内図を印刷してもらい、今日のところは帰ることになった。
7日から、本格的な授業が始まると言うので、それまでの2週間ほどで、教育指針を決め、校長に報告するようにという指示が下った。
さっそく家に帰って考えてみよう。