別れ
「不安なこととは」
校長が俺の質問を、そのまま返す。
「はい、これまで教えてきた生徒たちは、どうなるのでしょうか」
「それについては、あなたと同じように、目が覚めると決されるまで、ここで生徒として生活するでしょう」
「では、目が覚めないとされた場合は」
「……それはできるだけ避けるつもりです」
校長が、言葉を選んで話す。
俺はそれ以上聞かないことにした。
「あ、そうそう忘れるところでした」
校長がそう言って、テーブル越しに、木の箱を渡してくる。
縦横高さ、どれを取っても3cmあるかないかといったところだろう。
「これは?」
「あなたの魂です。魂は、あなたがあちらに帰るための鍵の代わりでもあります。これの蓋を開けず、校門で待っているタクシーの運転手に渡してください。あとは彼の指示通りにすれば、病院で目覚めます」
校長が言い終わると、全員が立ち上がり、校長だけが述べはじめた。
「あなたを、帰還させます。今後、天寿を全うするまで、こちらへ来ないことを、願っています」
それから拍手だ。
「ありがとうございます」
俺は両手で箱を持ち、そのまま一礼した。
それから守衛さんに従って、会議室を、そして学校を後にした。
「それでは、お元気で」
守衛さんが手を振って見送ってくれる。
「ええ」
また会いましょうと言いかけ、俺は止める。
“また”は無いためだ。
「それでは」
握手を交わし、俺は守衛さんと別れた。
タクシーに乗り込むと、勝手に発進する。
すでに手荷物はタクシーの座席に積まれている。
どうやら荷物の類は、ここに置いていくということになりそうだ。
手荷物だって、おそらくはそれが自然だからという理由であるにすぎない。
「……お客さん、現世に戻るということでいいですか」
「はい」
俺は、簡単に返事をする。
手には、校長から渡された木の箱がある。
「では、その箱を開けて下さい」
タクシーが道を走りつつ、運転手さんが指示をする。
軽く押すと、先ほどまで無かった切れ目ができ、そのまま押すと外れた。
「白いのが出てきたら、吸いこんで下さい」
ぼやけた霧状の何かが、ゆっくりと上がってくる。
俺は言われるままに、その霧を吸い込む。
途端に、水の中にいるような圧迫感を覚え、さらには窒息した。
「それでは、よいお目覚めを……」
最後に運転手がそう言ったのは覚えている。




