放火
俺が調理場へ駆けつけると、だれかがいた。
「誰だ!」
懐中電灯を向けて、その人を見ようとする。
だが、慌ててその人は逃げ去る。
「待てっ」
その人に飛びかかろうとしても、なかなかできない。
その後ろで火事は続いている。
「仕方ないか」
俺はその人を追いかけるのをやめて、火事を消すことに全力を注いだ。
5分後、初期消火が効いたのか、火はくすぶる程度にまで鎮火した。
「大丈夫ですか」
守衛さんがその時になって、やっときた。
「すみません、校長先生からの許可がなかなか下りなくて」
「非常事態ですから、そのあたりは事後承諾でもかまわないでしょう」
近くにあったボウルに水をためては、すぐに撒いていく。
くすぶっていた火も、徐々に落ち着いてきた。
遠くで消防車の音も響いてきた。
俺は消防車が来るまでの間、守衛さんに見たことをそのまま伝えた。
「しかし、誰だったんでしょうか。放火したのは」
「さて、火がついていたとはいえ、あまり明るくはなかったので、顔はよく分からなかったですね」
「とりあえず、警察も来てもらってますから、現場検証待ちですね」
その直後、小声で守衛さんが言ったことを聞き逃さなかった。
「委員会への報告書書かないとなぁ……」
「委員会?教育委員会ではなくて?」
学校の建造物の放火では、当然報告書を書く必要がある。
それは所管の教育委員会だったり、所管の地方自治体の長に対してだったりとさまざまだ。
「あー……」
守衛さんの目がくるくると回る。
「聞いちゃいましたか」
「ええ、聞きました」
そして問いかける。
「その委員会とは何なんですか。ここには何か秘密がある。それも重大な秘密が」
もしかしたら、俺は死んでいるのかもしれない。
それすらも可能性の一つとしてあり得そうだ。
守衛さんはため息をついて、俺に伝えた。
「では、現場検証が終わってから、校長室に来て下さい。委員会、ひいてはこの世界について、貴方が知らないであろうことをお教えします」




