7話(改) 僕とPT狩り
とりあえずエレナにWISを出すことにした。時間ギリギリになってPT一杯で入れませんとかなったら困るしね。
『あ、あの、こんにちは』
『あ、ログインしたのねカズキ。どう? 来れそう?』
『えと、今準備してます』
『分かったわ。一枠開けておくわね』
必要最低限の会話だけこなして、僕は準備を始めた。
樹海。ダンジョンとしては特殊な扱いで、階層の扱いは無く、広大なフィールドで形成されている。奥にいけば行く程強いモンスターが出てくるって訳。
予めプログラムされているらしく、一定の範囲でしかモンスターは行動しない。つまり、危なくなったら入口に向かって逃げれば問題ない。だけど油断は禁物。このフィールドは視界が悪い為、PKに適しているんだ。逃げている最中のPTが襲われたなんてことはよく耳にしている。恐らくガルドもそれを見越して偵察を入れているはずだ。
ここのモンスターは殆ど土属性で形成されてるから、今回もイフリートの腕輪のお世話になるかなぁ。一応、ミラージュティアラも持っていこう。
普段行かないMAPだから詳しい事は知らなかった。今MAPの詳細を調べて判明した事実がある。最奥のエリアはボスがいる。名前は樹木の王……捻りが無いなぁ。
その名の通り、樹海を統率する王様だ。エルフは相性が良いからこちらから攻撃しない限り襲いかかってくる事は無い。だけど、他の種族に対しては執拗にちょっかいを出してくる困ったちゃんだ。
それも、樹海にいる妖精やら動物やらも樹木の王に同調して襲いかかってくるって言うんだから質が悪い。最悪、聖職者のワープゲートが必要になるかも。……エレナ達、全員竜人族で来るって訳じゃないよね? さすがに今回は回復役がいないと狩りにならない。
HPポーションとMPポーション、解毒薬に万能薬を99個巾着袋に詰め込み、回復役の準備はできた。一応、ユグドラシルの雫(蘇生薬)も2~3個持っていくかぁ。
時計を確認すると、長針が9を回っていた。そろそろ行かないと間に合わないな。急ごう。
僕は帰還の羽を天にかざし、ミッドガルへと飛んだ。
◇
「おそいわよカズキ! 20時集合って言ったじゃない!」
「これで揃ったな。皆準備は良いか?」
「カズキくん時間ギリギリよ? 悪い子にはおしおきを……」
「キリアちゃん~鞭と蝋燭以外に何使う~?」
「あ、あの、え、鞭……?」
ドラゴンフォースの溜まり場に到着すると、既に皆準備万端で後は出発するだけとなっていた。ううむ、申し訳ない。てかキリアとアンジェラが危ない。最近変な絡み方をしてくる様になったからすこし注意しておこう。色んな意味で食われそうだ。
けど、僕だって大変なんだ。ほんと無所属だと勧誘が酷いね……。一時的にドラゴンフォースのお世話になろっかなぁ……。
つか、良く見たらドラゴン姐さん達竜人族じゃないな。セカンドキャラかな?
「あの、竜人族じゃないんですか……?」
エレナのメインキャラは竜人族の騎士、竜騎士。もうちょっと熟練度が上がればドラゴンに乗れるらしい。
キリアは竜人族の弓手、ドラゴンハンター。普段はでっかいボウガンをもってたはず……。
アンジェラは竜人族の聖職者、ドラゴンビショップ……竜人族はMP少ないのに、良くこんな組み合わせをチョイスしたもんだ……。
対して、今はエレナがエルフの古代魔導師、エルブンウォーロック。キリアは鬼の魔導師、祈祷師。アンジェラだけは変わることなく竜人族の聖職者、ドラゴンビショップのままだった。しかしこれは……
エレナは僕と同じく金髪で、髪を膝裏まで伸ばしたストレート。服は……エルフのローブか。うん、いいチョイスだ。正に森で暮らしているエルフって感じだね。
キリアは腰まで伸ばした黒髪ストレート。これだけ見れば大和撫子っぽいけど、額から生えている一本の角がそれを否定していた。服は艶やかな着物、って! 胸の谷間見えてるよ! くそっ、刺激が強すぎる……!
アンジェラはピンクのフワフワとクセのついた髪を肩口まで伸ばしていて、なんていうか、眠気をこっちまで貰ってしまいそうな雰囲気を纏わせている。服装は完全にシスター。装備の名前も「聖職者の服」まんまだね。でも、ドカンと飛び出た二つの膨らみが聖職者っぽくない。実にけしからん。
しかし……エレナがエルフか。おしとやかなキャラじゃないだろう。
「エレナさんがエルフ……ですか」
「何がおかしいのよー。私がエルフだっていいじゃない」
「あ、いえ、そういう意味で言ったんじゃ」
「それじゃーどういう意味で言ったのよー。ほらお姉さんに教えてみなさい、うりうり」
「ちょ……やめ、止めて下さい」
エレナが僕をからかって遊んでいると、キリアが僕に話しかけてきた。
「カズキ、わらわの服装はどうじゃ? 似合っているか?」
「キリア……さん? ごめんなさい、僕、そういうプレイはちょっと……」
「「「「「「………………プレイっ………ぶはっ」」」」」
―――溜まり場に大爆笑が響き渡った。
「でひゃひゃひゃひゃひゃ! イメクラか? イメクラなのか姐さん! ぶははははは!」
「あっははははは!! キリア姐さんの鬼っ子プレイだ!」
「カズキ……それはちょっと酷いわ……ぷくくっ……あはははは!」
「あはは~カズくん面白いこと言うんだね~」
「そういうプレイって……確かカズキ君はまだ中学生だろう」
「むぅ、ひどいわカズキくん! でも、カズキくんが望むなら私は一向に構わないわよ? とりあえずお近づきのし・る・し……あなた達にはこれをあげる、わ!」
キリアは笑っている男共(僕を除く)にストレートをぶち込んだ後、僕にクラン加入要請を飛ばしてきた。
「カズキくん、狩りの間だけで良いからクランに入って貰えないかな? そうすればお城のポータルゲートからダンジョン直通便が使えるのよ」
キリア曰く、今週はクラン対抗戦で相手の城の陥落に成功して城主になったから、特別転送ゲートが使えるらしい。なるほど、そういう事か。
よし、ガルドには悪いけどちょっと聞いてみるか。
「あの、ガルドさん。……一時的で良いんで、クランに入れてもらえないですか?」
「ん? ああ構わないぞ。それの方が俺達も連絡が取りやすくて助かるしな」
「わぁ! カズくん入ってくれるの~!? 早速職位決めなきゃ~」
「アンジェラ、狩りが終わったら一緒に考えるわよ」
「……職位?」
そう、僕は今まで一度もクランに入ったことがないからクランの仕様については全然分からない。調べようとも思わなかったしね。
キリアからの加入要請を受諾して、忘れ物が無いか確認しながら僕はクランについての説明を受けた。
なんでも、職位って言うのは二つ名とか自分を面白おかしく紹介する物らしい。このクランでは互いに職位を決め合っているから、自分で決める事はあまり無いそうだ。
ちなみにガルドの職位は「2.1枚目」だった。ガルド……。
僕の職位は暫定的に「お客様」という称号が割り当てられた。まぁ間違いじゃないからいっか。
と、皆にクスクスと笑われながらもクランについての説明を終えたガルドであったが、今一度皆に忘れ物がないか確認をし始めた。そういや今回はどうやって狩るんだろう。聞くの忘れてたなぁ。
「……今回はどうやって狩りをするんですか?」
「カズキ君には言ってなかったか。今回は完全固定狩りだね。ベースキャンプを作って、支援職と火力は待機。前衛がモンスターをベースキャンプまで引っ張ってきて、そこで抱える。それを火力の人達が殲滅するって訳さ」
なるほど。エレナとキリアが殲滅、アンジェラが支援、ガルドと僕はベースキャンプの護衛、そのほかの前衛達は敵を引っ張ってくるってことね。
「あ……回復剤持って行きます」
「ああ、巾着袋に余裕があるなら持っていってもらえると助かる」
どうやら前衛の人達は、食材をしこたま袋に詰めているらしい。
食材の中には、ポーション程ではないけどHP回復効果があったり、解毒作用がある物が存在する。食材に関しては個数制限がないから巾着袋が一杯になるまで詰め込めるらしい。千個単位で入っているそうだ。というか、食材以外は殆ど入れてないってさ。
「殲滅はまかせるぜ姐さん達! ドンドン持って来てやるよ!」
「殲滅が間に合わないくらい持ってきてやんよ。楽しみにしてな!」
「お前もうちょっとで99になるんだろ? さっさと上げちまおう」
やる気満々だ。というか僕のためか……。ありがとう、皆。
「あ、あの、ありがとうございます!」
◇
そんなこんなで出発直前で時間を食っちゃったけど、僕らは一週間限りのドラゴンフォース城に赴いて、NPCの執事に話しかけた。
『これはこれは、お疲れ様ですドラゴンフォースの皆様。本日はどの様なご用件でしょうか?』
恭しく挨拶をするNPC。さすがNPC、全然体がブレてないや。
「樹海まで飛ばしてくれ」
ガルドが執事にそうお願いすると、執事は全員のスキャンを始めた。
『……はい。平均レベルが96ですので、最深部一つ手前のエリアに転送いたします』
「分かった。早速頼む」
例によって、視界は粒子をまき散らしながら立ち上がる光の柱に包まれた。
◇
やってきました樹海です! なんかすっごく力がみなぎってくる。横に居るエレナはこの充実感に戸惑っているみたいだ。
月の光に照らされ、ざわざわと風に靡く草木の音や、鼻腔に飛び込んでくる花の甘い香りが、何故か分からないけど僕の心をやけに落ちつかせてくれる。
エルフにだけ特別な効果でもあるんだろうか。いやしかし空気が気持ちいい。
そこかしこからこちらを伺う気配を感じる。この階層のモンスターは、エルフが二人も居るから迂闊に手を出せないみたい。でも最深部一歩手前だから油断したらアッサり死にそうだな。いつでも戦闘に入れる様に構えておかなきゃ。
何回か来た事はあるけど、最深部まで行くのは初めてだなぁ。主食のモンスター情報を見ておくか。
名前:シルバーウルフ
HP:20500
MP:????
弱点:火
耐性:土
……HPだけ見ると、4発じゃ確実には落ちないな。でも今回は弱点を突けるから2~3発って考えたほうが良さそうだ。エレナとキリアがどんな魔法を使えるか確認しておいた方がよさそうだね。僕の魔法はターゲット魔法だから範囲指定出来ない。設置系の魔法は二人に任せるしかないんだ。
「あの、お二人はどんなスキルを?」
「そうねぇ……。私はメテオフォールを主軸に使うわ」
「わらわは鬼火を使わせて貰う」
キリア……もういいよ。
メテオフォールは中範囲にランダムに隕石を落とす火属性の大魔法だ。中心部は全ての隕石がHITするから、INTが低くてもそれなりに火力になるのが特徴。
鬼火……これは良く分からない。キリアに聞いてみよう。
「あの、キリアさん。鬼火ってどんな魔法なんですか?」
「ふむ、僭越ながら説明させてもらおう。鬼火は設置系の魔法でな、設置した鬼火をモンスターが通過すると、火属性のダメージに加えて小確率で状態異常「恐怖」を与えるのじゃ」
もうスルーすることにした。何か気に入ってるみたいだし。
「MP、大丈夫ですか? 僕、MPポーション持ってますから……」
「……ねぇカズキくん。そろそろ突っ込みを入れてくれないかしら。お姉さん悲しいわ」
「あんたが変なノリで話しかけるからいけないんでしょうキリア。まぁ、そういう「プレイ」もたまには良いんじゃないかしら?」
しくしくと泣き真似をするキリアを、エレナが茶化す。この二人はいつもこうなのかなぁ。
「ちょっとエレナ!」
ギャースカ騒いでる姐さん達はほっといて、僕に出来る事を探そう。
多分、アンジェラさんが戻ってきた前衛の人達にサンクチュアリ(一定時間物理攻撃無効の設置系魔法)をかけるはずだ。そこに予め詠唱していたメテオフォールと鬼火でまとめてドーン……僕は倒しきれなかったり、漏れたモンスターの処理でいいかな。
なんて狩り方を考えていたら、ガルドが皆を呼びとめた。どうやら、最深部に到達したらしい。
「さて、ここから2~3分歩いた所に開けた場所がある。そこをベースキャンプにしよう」
皆一様に頷いた。樹海の最深部は推奨レベル95の難関だ。油断していたら、それこそ僕みたいにHPが低い職のプレイヤーは一瞬で天に召されてしまうだろう。
再び歩き出してすぐに敵は現れた。シルバーウルフの群れだ。
夜にも関わらず、月の光に照らされて美しく輝く毛並みはとても美しい。しかし、その美しさと反して、シルバーウルフから放たれる殺気が尋常ではない。低く唸る声は「お前の喉笛を食いちぎるぞ」と言わんばかりに此方を威嚇しているのだと自覚させられた。
「さっそくおでましか! みんな迎―――」
ガルドが最後まで言う前に、ガルドを除く全員が動き始めた
「ぶひゃひゃひゃひゃ! こんなん食らっても痛くも痒くもねぇ!」
「とか言いつつお前HP結構減ってんぞ!」
「おいおい、行き成り肉食うとかないわー」
3バカ達も伊達に95付近まで育てて居る訳じゃない。この程度の敵だったら問題無く? 対処出来る様だ。
僕はイフリートの腕輪を装着し、エレナとキリアとアンジェラの護衛に当たる。シルバーウルフは土属性だから、至近距離で弱点である腹にファイヤーアローをぶつけてやれば一撃で落ちるだろう。至近距離じゃなかったとしても2発で落ちる。僕は片手でファイヤーアローを予約詠唱しながら、もう片方の手でファイヤーアローを普通に詠唱し、何時でも零れたモンスターを対処出来るように身構えた。
そこに、詠唱を完了したエレナとキリアの大魔法が落とされる
「「「「「「「「「「グアアアアアァァァァァァァ……」」」」」」」」」」
行き成り出鼻をくじかれて、何を言ったらいいのか分からないガルド。……ちょっとかわいそうだった。
◇
僕ら3人の魔法使いを守るように布陣し、PTはベースキャンプへと向かった。
その際何回かシルバーウルフと出くわしたんだけど、単体で奇襲をかけるおバカさんにはファイヤーアローをぶちかまして丁重にお帰り頂いた。出口はあちらになりまーす。
ガルドの言うとおり、2~3分歩いた所で急に景色が開け、キャッチボールをする位なら問題なさそうなスペースがぽっかりと空いていた。うん、ここなら丁度エリアの中心に近いし、満遍なくモンスターを集める事が出来そうだね。
「それじゃ、俺とカズキはエレナ達の護衛に当たる。お前ら、今こそドラゴンフォースの力を見せる時だ! 遠慮なくガンガン集めてこい!」
「「「おおおおおおおおおお!!」」」
やっぱガルドは戦闘になると豹変するな。それに今の音頭って、決まり文句なんだろうか……。
「まって~今支援魔法掛けるから~……」
アンジェラが速度上昇と被弾によるヒットストップ(一瞬動けなくなる事)を一時的に無効化する支援魔法を掛ける為に詠唱を始めた。何やらぶつぶつと小さな声で呪文を呟いているみたいだけど、ま、聞こえないからいっか。
「アクセラレーション!」
「レジストアーマー!」
「よっしゃあ! 待ってろよ、今敵をかき集めてくるからな!」
「カズキのレベルカンスト目指していっちょくせーん!」
「⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーン」
「ぶはははは! いってくるぜええ!」
……ドラゴンフォースの前衛達って、ほんと濃い人ばっかりだね。
さてと、前衛達が戻ってきても僕は暇だから座ってサンドイッチでも―――
と、巾着袋からサンドイッチを取り出した所で、先行して魔法の詠唱をしていたエレナに睨まれた。やっぱだめか、えへっ。しかし助け舟を出してくれる存在がここに、もちろんアンジェラだ。
「カズくーん、ほら、飴ちゃんあげるよ~」
「あ、ありがとうございます」
……ふざけている様に見えるかもしれないが、この飴は最大HPを一時的に上げてくれる効果があるのだ。決して、サボっている訳じゃないからね、うん。
アンジェラはいつもにこにこと微笑みを絶やさない。多分傍から見たら、優しい姉と斜に構えた弟みたいな構図に見えるんだろうなぁ。ほら、キリアがこっち恨めしそうに見てるし。
鬼火の設置が終わったキリアは、暇を見つけては僕に構ってくる。あ、エレナは常に詠唱してるよ? あれは設置系じゃないからね。
「アンジェラ、無闇やたらに菓子を与えてはならぬ。虫歯にでもなったらどうするのだ?」
あ、まだ鬼っ子プレイは続いてるんですね。気に入ったみたいで何よりです。でも僕を巻き込まないで下さい。
「大丈夫よ~ゲームなんだし~……ヒール! ヒール! ヒール!」
「へいお待ち! ……おっしHP全快だぜぇ! 支援さんきゅーな!」
「「「「「「「「「「グルアアアアアアァァァァ!!!!」」」」」」」」」」
シルバーウルフを大量に抱えて戻ってきた前衛はHPバーが緑から黄色に変わり始めていた。よくこんな持って来たな……。
「ちょ、持ってきすぎよ! 何この量は!」
「ぬっ……さすがにこれはわらわの鬼火ではいささか火力が……」
アンジェラがヒールを連続して唱え、エレナとキリアの魔法で殲滅する。
……なかなかいい組み合わせじゃないか。できれば、もう一人支援職が欲しい所だけど、無い物ねだりしても仕様が無い。僕はしばらく観戦モードに入ろう……。
「ちょっとカズキ! MP切れたから交代!」
あ、はい。溜まってたファイヤーアローをぶちかましてやりますかね!