3話(改) 僕はインファイト派
ふわああぁぁぁ……良く寝た、のか?
この世界の睡眠って半分夢みたいなもんだからなんかふわふわしてるなぁ。
よいしょ、ちとステータス確認しておくか
名称:カズキ
職業:魔法使い
種族:エルフ
レベル:98
HP:4500
MP:22480
STR:1
AGI:800
INT:999
VIT:1
DEX:50
LUK:1
状態異常:酔い(小)
装備
武器:スタッフオブグリント+4
防具
頭:三角帽子+7
鎧:マジシャンの服+7
盾:なし
肩:星屑のケープ+7
靴:エルブンシューズ+7
アクセサリー:知恵の女神のピアス
……あれ、二日酔い?
「あ、みんなー! カズキがおきたわよー!」
「うぐっ……」
現実世界の二日酔いってなったこと無いから良く分かんないけど、これは結構きついな……。っと、19時になったら強制AFKするように設定してたんだっけか。いま何時だろ。
「あ、おはよーカズキくん。もう夜だけどね」
「そうそう、良く寝てたわよ~? ログアウトしなくていいの~?」
時計を見やると、短針は7の数字丁度を指していた。……そういや親は明日から旅行に行くって言ってたっけ。一応顔だけは出しておくかぁ。
「んー……AFK(Away From Keyboard)します」
僕はそれだけ告げると、コンフィグ画面を呼び出してAFKモードに設定した。
◇
はい、現実世界おしまい! ん? 現実世界なんて見たくないでしょ? まぁ、気が向いたらそのうち。
ヘッドギアを装着してAFKモードを終了すると、一瞬ノイズが走った後アスガルドの世界に再び僕は降り立った。
のだが。はて、なんで天井が正面にあるんだろうか。
「あ、おかえりカズキくん」
「AFKでも街中で3m以内だったら動かせるの知らなかった?」
ああ、そういやそうだった。
アースガルドオンラインでは、迷惑な位置にAFKをしても問題が無いように、街中に限って道のはじっこに寄せる程度の移動なら許可されている。
アイテムウインドウを開いて万能薬を呼び出すと、僕はそれを使って状態異常を治した。……さてと、そろそろレベル上げでもしようか。
「……じゃあ、帰ります」
「あら、泊って行かないのカズキ?」
現実世界とアースガルドの世界はリンクしている。このヘッドギア、自分で設定した時間にきっちり起こしてくれる為、この世界で寝るといった動作も可能なのである。いやーさいきんのぎじゅつはすごいなー。
「……レベル上げ、してきます。その、ありがとうございました」
それを聞いて皆は何やら苦笑していた。こうやって皆に心配して貰えるのは嬉しいけど、やっぱり僕は一人の方が好きだ。気苦労も無いしね。
その後、クランリーダーのガルド、姐ズのキリアとアンジェラとフレンド登録をした。その際姐ズが「悩み事が有ったら遠慮なく連絡してね~」と手をひらひらと振りながら言っていた。
そして外に出るとドアの向うから「また来てね~!」とキリアとアンジェラの声がした。ついでに「遠慮しなくていいのよー!」とエレナ。……ありがとう。でも、やっぱり僕は一人で居るのが……。
今日はそこそこ楽しかったなぁ。でもそろそろレベル上げしなきゃ。
◇
翌日、僕は一人で時計の迷宮の最下層一歩手前に足を運んでいた。残り30%……頑張れば5~6日で終わるな。99になったら隠し職業でも探そうかなぁ。
っと、標的発見。
相手は機械仕掛けの鳩時計。その名はクルッポ。筋肉質の手足が生えててとても気持ちが悪い。……せめて、もうちょっと名前どうにかならなかったのだろうか。
この敵、物理防御が高いから近接職のソロには向かない。しかも一度接敵を許してしまうと一気にラッシュをかけてくるから、魔法職だとほぼ逃げられずそのままデスペナルティ一直線だ。だからここはPT狩りがメインの狩り場。PT狩りの場合どっかに固定して狩りをしている事が多い。だから僕はそこから離れて、なるべく他PTとカチ合わない様に狩りをしている。
こいつは中々倒しにくいけど、その代わり経験値がべらぼうに高い。ここ最近の大型アップデートで更に上がったみたいだ。なんか3時間で5%も上がったし。
これには僕も驚いた。体感、経験値が3倍以上になってる。運営側が救済措置でもだしたのだろうか……
「ウボアアアアアアアアア!!」
っといけない。気づかれちゃった。
でも問題なしっと。幸いあいつは足が遅いし、普通だったら詠唱中に追いつかれてボコボコにされちゃうけど、こっちは回避性能が高いから、クルッポの攻撃を簡単に避けれる。その上移動詠唱が出来るんだ。サックサク行きましょうかね。
こいつは無属性で弱点がない。その代わり、どの属性攻撃もまんべんなく通る。
相手の弱点を突いて効率よく倒すのが魔法使いの鉄則だけど、僕からしてみればそんなもん関係ない。MPって自然回復するし、100発連続で撃ってもいくらか余裕あるしね。
詠唱を開始しながら、僕はクルッポ目がけて突撃した。
相手の射程距離に入ったらしく、クルッポは激怒し、顔を真っ赤にすると猛然とラッシュを掛けてきた。
クルッポから放たれる攻撃は僕の顔のすぐ横を通り抜け、風圧で頬が揺れる。でもこれ位なら問題ない。溜めに溜めた魔法をクルッポの弱点目がけて零距離でぶちかましてやる!
全てのモンスターには弱点部位が存在する。
そこに魔法なり攻撃なりをぶち込んでやると、クリティカル扱いになって通常の1.5倍のダメージを与える事が出来る。僕は全体重を乗せた拳をクルッポの弱点目がけて振り抜き、拳が当たった所で魔法を発動してやった。
さらに、魔法は射程距離が長い代わりに、攻撃対象との飛距離によって威力が減衰する。つまり僕がクルッポに放った魔法は最大限の威力を発揮すると言う事だ。
「ウボアアアアァァァァ……」
射程距離ギリギリからの攻撃だと2~3発かかるクルッポだけど、この通り至近距離かつ弱点部位を狙ってやれば一撃で落とせる。この狩り方を発見してからという物、SPの節約が出来る様になった為狩り場の滞在時間が一気に長くなった。
なす術もなく倒れて行くクルッポ達。こりゃー良い狩場になったもんだ。運営さんGJ!
うっほほーい! たーのしくなってきたー!
◇
「さて、掲示板の情報によると後30分程でMVPが湧く。一歩手前のフロアで待機するぞ」
ドラゴンフォースの面々は、時の迷宮のMVPモンスター「クロックマスター」を再び討伐する為に現地に赴いていた。
「ここって確かー……カズキくんが籠ってる狩場じゃなかった?」
「そうよ。カズキはいっつも最下層一歩手前でソロ狩りしてるわね」
「下位職がおいそれとソロできる様な狩場ではないんだが……」
キリアとエレナの会話を聞き、ガルドは顔を引き攣らせる。噂では聞いていたが、よくよく考えてみたらドラゴンフォースのメンツでも長時間ソロするのはなかなかつらいものがある。クルッポは足こそ遅いが、一度インファイトになってしまうと急激に怒り狂い、怒涛のラッシュを仕掛けてくるのだ。
「ねぇねぇ、エレナはカズキ君が実際に狩りをしている所見たんでしょ? どんな感じなの?」
「まぁ、噂通りではあるわね。ラッシュを仕掛けてくるモンスターを紙一重で掻い潜って、拳に乗せた魔法を至近距離で弱点部位ぶちかますのよ。どのダンジョンでも、9F手前のモンスターなら一撃で落ちると思うわ」
「それもこれもスタッフオブグリントの恩恵か……いやはや、カズキ君は途轍もない物を手に入れたんだな」
「それでそれで、クルッポ一体倒すのにどれくらいかかるの?」
キリアは、というか他の面々も耳がダンボになっているのだが、その様子をみてエレナは苦笑しながら答えていた。
「だから一撃よ一撃。カズキはINTを限界まで上げてるからね」
「ア、アロー系でか……」
竜人族は全体的にステータスが高いが、その中でも攻撃力が一番高い。彼らの最強スキルであるドラゴンブレスならクルッポを一網打尽にできるが、汎用スキルでそれをやれと言われたら、恐らく不可能だろう。
しかも、カズキはまだ下位職。転職する事により、まだまだ成長の余地が残されている。ここにいるドラゴンフォースのメンバーは全員95以上、しかも上位職だ。つまり、ほとんど成長の余地は残されていないのだ」
「カズキ……クラン対抗戦に参加してもらえないだろうか」
ガルドは割と真剣に考えていた。
「ま、その辺は今度カズキに聞いてみましょ。そろそろ行かない?」
「ああ、そうだな。さて、今回もPKが来なければいいんだが……」
ドラゴンフォースはダンジョン・ポータルを使い、一気に最下層手前まで来た。
ダンジョン・ポータルは、有料ではあるが、適正以上のレベルを持ったプレイヤーなら希望した階層まで一気に転送してくれる便利装置だ。今回の場合、ドラゴンフォースの平均レベルが96で有ったため、最下層一歩手前まで飛ばしてくれた、と言うわけだ。
殆どのダンジョンは、全10階層程度の作りになっている。PTメンバーの平均レベルを10で割り、そこから適正階層を選択する。というシステムになっている。
「さて、皆気を抜くなよ。クルッポはそこまで強い敵じゃないが、接近を許すと厄介だ。見つけ次第全力で叩き潰すぞ!」
ガルドの一声で、皆一気に気を引き締めた。
……のだが。
―――おかしい、クルッポが異様は速さで沸いてくる。
歩きだして10分は経ったであろうか、敵の配置変更があったかどうかは定かではないが、敵に出くわさす頻度が今までより遥かに多いのだ。たまに固定狩りをしているPTに出くわすが、彼らも固定している足元にクルッポが湧いて戸惑っている。
「ねぇキリア、ここって敵の配置変更あったっけ」
「んー……無かった、と思う、けど」
その時、爆音がそう遠くない距離から聞こえてきた。
その音を聞いて、ドラゴンフォース一同は全てを理解してしまった。
頻繁に沸くという事は、他の場所に沸いたクルッポが頻繁に狩られているという事だ。つまり……
(((((あいつかー!?)))))
◇
ん……MP尽きたか。ここいらに居るクルッポは粗方片付けたみたいだし、ちょっと休憩するかぁ。
おー……5時間狩って70%→85%か。恐るべし経験値変更、そして配置変更。
絶対これクルッポ増えたって。クルッポ10体に追い回される事なんて今までなかったぞ……? まぁ、僕以外にまともにソロできる人ってあんまいないだろうけど。さ、休憩休憩。たしかMP回復促進効果がついてるサンドイッチが……。
「あ、カズキ!」
……昨日の今日でこれか。おい神! アースガルドだからオーディンか! お前絶対狙ってやってるだろこれ!
「あ、カズキくんだー。クルッポ全部狩っちゃった?」
「あ……はい」
ま、ゲームだから時間が経てばモリモリ沸いてくるんだけどね。
「ちょっとカズキ~? 横沸きしまくって大変だったんだからね?……まぁ、クルッポはオリデライト鉱石落とす収入源だから嬉しいっていえば嬉しかったんだけど」
「すいません……で、でも僕もこの狩場で生計を経ててるから……」
……あれ?なんでキリアさんとエレナとガルドさん固まってんの? この場所は譲らないよ? ていうか近接系の職業じゃソロには向かないよ?
……なんだよ、そんなにしっとりと視線送ってくることないだろ。
「ね、ねぇカズキ」
「はい」
「ちょっと聞きたいんだけどさ、今日此処で何時間狩りして、何個くらいオリデライト鉱石手に入った」
「今日は5時間くらいです。オリデライト鉱石は……えっと、37個」
「「「「「37!?」」」」」
「一撃で倒せないときついと思います。その、MPの関係もありますし」
「……ギルド資金の調達は無理か」
「まぁカズキより効率は落ちるけど、資金調達は無理って訳でもないんじゃない?」
ええ~……僕の安住の地が……