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僕は宮廷魔導師  作者: ゆうき
裏返った現実
19/20

19話(改) 僕とドラゴンスピリットと

 3バカやほかのメンバー達が戻ってきてから、僕達はこれからの方針を決める為に各々の意見を出し合う事にした。


「私は新しくドラゴンフォースの流れを受け継ぐクラン立ち上げたいと思う」


「そうね~。私も愛着があるし~潰したくはないわ~」


「だけどさ、マスターも居ねぇしよ…無理があるんじゃね?」


「だよなぁ、どっか大きなクランにまとめてお世話になるってのが現実的だと思うがなぁ」


 当然、意見は割れる。


 このままマスター不在のクランに在籍しているよりは、明けない夜やその他のクランに入れて貰おうと言い出すメンバー。現状維持で、同盟が解散になったとしても、ドラゴンフォースのクランを残したいというメンバー。そして、新しくクランを立ち上げるのはどうかと言うメンバー。様々だ。


「……ドラゴンフォース、解散するんですか?」


 今の僕が有るのは、ガルドをはじめ現状維持組、エレナやアンジェラ、そして3バカ達のおかげだ。他のメンバーに関しては、元からあまり交流があった訳ではないし、それほど別れが惜しい訳でもない。他のクランに併合されたら、少なくとも今の関係は大きく変動する。新しいクラン立ち上げに関しても同上。新しいクランを立ち上げたら、当然新規参入者が現れる。ドラゴンフォースはそれなりに有名だから、そのメンバー達が新規クラン立ち上げをしたという情報が流れたら、加入したいというプレイヤーは続出すると思う。 そしたら、いらぬ軋轢が生じて人間関係がギクシャクするのは容易に想像できるし、下心満載のプレイヤーとの交流なんて以ての外だ。


「ま、俺としてもこのクランがなくなるのはイヤだなぁ」


「でひゃひゃひゃひゃ! つか此処なくなったら俺らホームレスじゃん!」


「おいおい、ゲームで路頭に迷うなんてマジ勘弁だぜ」 


 ……3バカ達も持ち直したみたいだ。いつもの調子に戻っている。


「お金があるプレイヤーはマイホームが有るから大丈夫だけど~。私はマイホームが無いから困っちゃうわ~」


 と、頬に手を当てて眉を寄せるアンジェラ。



 このゲームは、一定のゴールドを支払えば郊外にマイホームを建てる事が出来る。


 もちろん、それなりの値段はする。僕が持っている家は2~3人が生活するのが限界だし、倉庫にしたってそんなに大きい物じゃない。ホームのランクとしては、下から数えた方が断然早い。それでも僕が購入した物件は100M以上した。


 最上級のランクにもなると、100人単位で生活出来るレベルの豪邸になる。ここまでくると個人で購入する物ではなく、クランメンバーでお金を持ち寄って購入するのが現実的だ。


 ドラゴンフォースのたまり場も、そういった経緯で出来上がったらしい。となると、このクランが解散すると、このたまり場は更地になってしまう。


 クランの解散については、マスター権限、もしくは一定の権限が与えられたクランメンバーの4/5以上の決議が必要になる。


 今の所権限持ちは僕を除いたほぼ全員だ。


 つまり、僕はこの件に関して口を出すことは出来るけど手を出すことは出来ない。ドラゴンフォースが解散することになっても、指を咥えて見ている事しか出来ない。お世話になったクランが解散の危機に瀕しているのに、それが歯がゆくて仕方が無い。


「それによぉ、新しくクランを作るったって、溜まり場作る為の金が無いとなーんも出来ないぜ?」


 そう。クランを立ち上げても、ベースキャンプを作るための資金が必要だ。果たして幾ら必要なのだろうか。


「……確かに、それが問題よね。20人入れる溜まり場だって、200Mは必要だわ。クランの資金はガルドが管理してたし……作るとしたらポケットマネーを集める必要があるわ」


「そんな金もってねーよ。ガルドもいねーしさ、諦めてどっか大手クランに入れさせてもらおうや」


 ドラゴンフォースがバラバラになって行く。マスターが居ないクランっていうのは、こんなにも脆い物なのか。状況が状況だから仕方ないけど、昨日まであんなに笑いあって狩りをしたり酒を飲んで騒いでいた連中が、こうまで変貌を遂げてしまった現実を見て、僕は居たたまれなくなってしまった。


 そもそも、何故解散という極端な発想に辿りついたかと言うと、マスター権限の存在が大きい。


 マスターが居ないと痛手が大きすぎるのだ。職位の変更だけならまだしも、ギルドで管理している資金や装備はマスターしか引き出すことが出来ない。解散すれば装備や資金は戻ってくるけど……


 でも、僕が何か言う事で事態を改善できるのなら、やってみたいと思う。


「……この溜まり場って、再契約するのに幾ら必要なんですか?」


「どうだろ、数か月前にこの大きさに改築したけど、その時は皆数M出し合った記憶があるわ」


「あれは痛手だったよなぁ。強制じゃないって言ってもよ、出さない訳にゃ行かなかったからな」


 ……てことは、200~300M必要って事か。よし。


「ひゃ、100M出します!」


「「「「100M!?」」」」


 今現在、100Mを手放す事がどれだけの痛手なのかは重々承知しているつもりだ。相場も目まぐるしく変化しているから、どれだけお金があっても困ることはない。


 それでも、僕は……短い期間だったけれど、お世話になったドラゴンフォースの溜まり場に消えて欲しく無い。


 クランの名前が変わってもいい。


 でも、出来る事なら、この場所とお世話になったメンバーには消えて欲しく無い。


 ひょっとしたら、この場所は僕の心の拠り所になりつつあるのかもしれない。


「カズキ……分かったわ。それなら私も30M出すわ。他に出せる人はいない?」


「おうカズキ太っ腹だなぁ! そんじゃ俺も10M出すぜ!」


「ぶひゃひゃひゃひゃ! カズキの大盤振る舞いだ!! 勿論俺も出すぜ……5Mだけどな」


「私も30M出すわ~。これなら資金も集まりそうね~」



 同盟は恐らく破棄になってしまうだろう。そして、メンバーも有る程度居なくなってしまうと思う。だけど、少しずつ、少しずつではあるけど、復興の兆しが見え始めた。



「そうか……残念だ」


「出来ればカズキ君にはどちらかのクランに来て欲しかったんだがね」


 あれから暫くして、影月とKing’s Swordのマスターがドラゴンフォースの溜まり場を訪ねて来た。話題は勿論、ドラゴンフォースの併合について。


 あちらさんは、どっちのクランが誰を引きとるか、予め決めていたらしい。


 最終的に僕をどっちが引きとるかで揉めたらしいけど、そんなもん取らぬ狸のなんとやらだ。僕はどっちのクランにも行くつもりは無いのだから。


「それじゃあ、君達は新しく「ドラゴンスピリット」というクランを立ち上げる、という事で良いんだね?」


「ええ、マスターには私がなるわ。サブマスターにはカズキが」


 先程の打ち合わせで、ドラゴンフォースの流れを受け継いだクラン「ドラゴンスピリット」というクランを立ち上げる事になった。マスターはエレナだ。んでもって何故か僕がサブマスターを務める事になった。まぁ、エレナがマスターなら困ることは無いだろう。


「分かった。それじゃあ、俺達はこれで失礼するよ。困ったことが有ったら遠慮なく相談してくれ」


 彼らはそう言い残すと、後は特に何も言わずに立ち去って行った。でも、あれは諦めていない目だ。きっと近いうちにまた訪ねてくるだろう。


 だけど、無傷だった訳でもない。明けない夜とKing’s Swordに加入したいというメンバーが彼らと共に立ち去って行った。残ったメンバーは、僕、エレナ、キリア、アンジェラ、そして3バカだ。


こうして見ると、随分と減ってしまった。ガルドが居たからドラゴンフォースに在籍していたって言うメンバーが、ごっそりと他のクランを求めて移動してしまったからだ。


 エレナはその事をかなり気にしていたけど、マスター不在ではいずれクランは崩壊してしまう。溜まり場を守る為には仕方の無い事だった。


「あ、あの、エレナさん。これから頑張って行けばいいじゃないですか」


「そうね~。キリアちゃんも持ち直したみたいだし~これから頑張って行けばいいのよ~」


「まぁ、前衛、後衛火力、支援ってバランスは問題ないしな。PKもあるしよ、しばらくは一緒に狩りしようぜ」


「でひゃひゃひゃひゃ! ……ふぅ、いい加減笑い疲れた」


「……お前、いっつも笑ってるよなぁ。お、姐さん大丈夫か?」


 後ろを見やると、キリアがアンジェラに支えられて戻ってきた。現状を受け入れる事が出来たのだろうか?


「……エレナ、ドラゴンフォース、解散しちゃうの?」


「私が引き継いだわ。それに、名前も決まってる」


 エレナは、メンバーが居なくなる前にクラン解散の決議を取って、4/5以上の賛成を貰ってドラゴンフォースを解散した。だから、今現在此処に居るメンバー全員が一時的に無所属になっている。


「そっか、ならいいわ」


 ほっと胸を撫で下ろしながら残ったメンバーを見渡すキリア。その目は何処か寂しげだけど、ドラゴンフォースを引き継ぐメンバーも居るし、リア共であるエレナも居る。恐らく、直ぐに回復するだろう。


「さてと、それじゃもう少ししたらこの建物も消えちゃうし、その前に色々と手続きと行きますか!」


 クランを立ち上げるに当たって、特に必要な物は無い。強いて言うなら、クラン結成時には無所属のプレイヤー5人以上の同意が必要ってこと位かな。


「それじゃ皆にクラン加入要請を飛ばすわね」


 エレナがコンフィグ画面を立ち上げて、何やら色々と小難しい操作をしている。頑張れエレナ、僕にはさっぱりだ。


「……Webを見れないのがどんだけ不便かって事が良く分かるわ」


 数分経ったけど、エレナから加入要請が飛んでくる気配が全くない。どうやら立ち上げ方が分からないらしい。そりゃそうか、今までそんな操作をする必要が無かったんだから。


「ちょっと、皆見てないで助けてよ。ああもう、こんなに複雑な操作だなんて聞いてないわよ!」


 苛立ち始めたエレナを見て、皆一斉にコンフィグ画面を立ち上げ始めた。


「ここをこうして~……あ、これで良いのかしら~」


 行き成りアンジェラからクラン加入要請が飛んできた。


 皆間違って加入しそうになっていたけど、発信源がアンジェラだと分かると慌てて加入要請を拒否していた。


「おっとと。アンジェラ姐さん、作るのは良いけど飛ばしちゃ駄目だぜ」


「ぶひゃひゃひゃ! 新しいマスターは機械音痴ってか!」


「おいやめとけって。あんまり姐さん達を弄ると後が怖いぞ」


「ごめんアンジェラ、詳しく教えて……」


 エレナは軽く涙目になっている。……ひょっとして、エレナって機械音痴なのだろうか。試しに僕もコンフィグ画面からクランの項目に飛んで、作成項目に立ち上げるクランの情報を打ち込んでみたけど、ものの1~2分で終わる作業量だ。


「えっと~先ずはコンフィグ画面を開いて~、そこからクランってタブに飛ぶのよ~。そしたらその中にクラン作成って項目があるでしょ~? そしたら―――」


 アンジェラがエレナとマンツーマンで講義をしている。心なしか、ぽわぽわした優しい家庭教師と、理解出来ないでうんうん唸っている生徒っていう構図が頭の中に浮かんだ。


……


…………


………………


 待つこと5分。


「よしっ、出来たわ! 今度こそ皆に飛ばすわよ!」





 プレイヤー:エレナ からクラン加入要請を受けました。受諾しますか?



       →Yes No





 勿論、Yesだ。これで、晴れて僕達はドラゴンスピリットの一員となった。さぁ、次は溜まり場の購入だ。


「行き渡った? 大丈夫よね? それじゃ溜まり場を購入するから、皆お金を集めて頂戴」


 あっ。そういや僕のお金は家に置きっぱなしだった。……こっから歩いて行くとなると少し時間が掛るなぁ。全部持っていればよかったか。


「あ……ごめんなさいエレナさん。お金、マイホームでした」


「そういや転送の羽使えなくなったんだっけ。いいわ。それじゃ皆にドラゴンスピリット初めての仕事を言い渡すわ。カズキを護衛しながら家まで無事に届ける事。勿論、往復ね」


「カズキくんの家ってアンジェラしか行ったこと無いんだっけ。うふふ、どんな家なのかしら。お姉さん興味津津」


「カズくんの家は~質素だけど手入れが行き届いていたわよ~」


「お、なんだカズキ。お前いっちょ前に掃除とかできんのか」


「でひゃひゃひゃ! お前あれか? 家政婦見たいに頭巾とか付けて掃除してんのか?」


「カズキの家政婦姿ねぇ……。ま、姐さん方には目の保養になるだろうよ」


「つ、つけてないです!」


 何を隠そう、このゲーム、一定時間何もしないと埃がたまって行く。無駄に細部に拘っているんだよねぇ……。


「まぁ、それくらいにしておかない? 余り時間もないし、さっさと済ませたいわ」


 ドラゴンフォースが解体されたから、今の溜まり場は買い戻さない限り、そう長い時間をおかないで消滅してしまう。皆のお金をかき集めたとして、恐らく200M弱だろう。今の溜まり場の大きさを維持する事は難しいかもしれないけど、この人数なら十分生活出来るクラスの溜まり場を購入出来るんじゃないかな。


「それじゃカズキくんのお宅を拝見と行きましょうか! ……えっちな本とかあったりして」


「そうね~キリアちゃん。取りあえずはベッドの下かしら~」


「姐さん達、それは違うぜ。俺は天井裏に有ると睨んでいる」


「あっははははは! おめぇこのカズキがそんな分かりやすい場所に隠してる訳ねーだろ!」


「裏を突いて台所っていう可能性もあるな」


「ほ、本当に何もないですから……!」


「カズキ、それは何か有るって言ってる様なもんよ」


 くそっ、バレてたまるか……っ! 秘蔵のコレクションは死守してやる!


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