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僕は宮廷魔導師  作者: ゆうき
裏返った現実
18/20

18話(改) 僕と打ち合わせと

 手詰まりに陥ってしまった状況を打破するだけの情報を得ることが出来ず、僕達は溜まり場へと戻った。


 現状を把握するだけで精いっぱいだった……。今まで以上にPKが増える可能性もある、安心して動けるだけの情報が圧倒的に足りない。




カラン カラン




 ドアを開けると、そこにはキリアとアンジェラしか居なかった。話を聞いてみると、他のメンバーも僕と同じ様に町をブラついているらしい。3バカ達もある程度落ちつきを取り戻したらしく、僕だけに任せて居られないと情報収集を始めたとか。


 彼らが何か有益な情報を持って帰ってきてくれればいいんだけど……。


ドラゴンフォースのメンバーは、1/3近くがログインしていない。恐らく、ログインする前にニュースか何かで事件を知って、ログインしなかったのだろう。


 もうクランどうしで競り合っている状況じゃない。それにガルドが居ない今、誰かがドラゴンフォースのかじ取りをしないと、僕達はバラバラになってしまう。


 それに、GMコールが無くなってしまった今、町で問題が起きても咎める存在が居ない。これはかなりまずいと思う。悪質なプレイヤーに騙されたり脅されたりして、ゴールドを奪われる可能性も出て来た。


 そもそも何でログアウトが不可能になったんだ? メンテナンスをした位じゃここまで致命的なバグなんて起きないはずだ。誰かが不正アクセスをして、データを改ざんしない限り、こんなことは起きないと思う。


 今まで不正アクセスがあったなんて事は一度も無かった。アースガルドオンラインのサーバーのプロテクトは強固なはずだ。


 ……凄腕のハッカーが気まぐれでこんなことを? でも、ハッカーって自己顕示欲が強い人が多いって聞いている。自分の腕を確かめる為に、何万人もの命を掌握したりするだろうか。


 ……駄目だ、どれも推測に過ぎない。誰がやったか分かったところで、外に知らせる手段なんて無いんだ。


「さて、と。とりあえずこれからどうするか考えなくちゃね。アンジェラ、キリア! ちょっとこっちに来て!」


 エレナが残っている二人を呼ぶ。アンジェラは現状を理解してこれからどうするか判断出来るレベルまで持ち直しているみたいだけど、キリアは深刻そうだ。


「は~い」


「……うん」


 4人掛けのテーブルに座って話しあう事にする。エレナは僕の横に、対面にはアンジェラが、そしてアンジェラの横にキリアが座った。


 さて、それじゃあこれからどうするかについて話しをしますか……と行きたい所なんだけど、キリアのダメージが思った以上に深刻だ。このままじゃ会話に参加することすらできないかも。


「ちょっと大丈夫キリア? つらいなら奥で横になってなさいよ」


「うん、ごめんね。ちょっと一人にさせて……」


 キリアには決定事項を後で伝えるしかないな。ていうか3バカも他のメンバーもいないし、3人で決めて良い事ではないんだけど、せめて方向性だけでも決めないと……。


 今にも消えてしまいそうな雰囲気をその身に纏いながら、ヨロヨロと奥の部屋に向かうキリアの様子は、傍から見ているととても不安になってくる。うん、キリアは何もおかしくはない。むしろ僕の方が異常なんだ。


「さて、とりあえず私達だけでもある程度の事は決めないとね。……先ず、これからどうするか」


 現状が把握し切れていない今、最も大事で、最も厄介な問題。基本方針の決定だ。今の状態では自力で脱出、つまりゲームクリアの方法は分かっていない。むしろ有るのかどうか怪しいもんだ。


 自力で脱出を図るに当たってどういう方針を取るか。それを決めてから細かい方針を決めて行かなければならない。


 とりあえず、僕とエレナはさっき集めた情報をアンジェラに全て話した。死ぬとレベルが下がる事、回復剤はそのまま使える事、NPCが軒並み撤去された事、PTチャットとクランチャットが使用できなくなったこと、そして世界間移動はヴァルキリービショップしか使えないという事。


 全てを伝え終わると、アンジェラは目を瞑り、腕を組んで何かを考え始めた。


 組んだ腕のせいで、溢れんばかりに持ちあがったアンジェラの豊満な母性の塊が何とも……そろそろ止めておこう。横から、そこはかとなく威圧感を感じる。


「……この状況でよくもまぁ」


 エレナは掌で顎を支え、眉をひそめながらしっとりとした視線を僕に送ってきた。だって、目の前であんなになっているのを見ないなんて、逆にアンジェラに失礼だ。うん、そういう事にしておこう。


 だけど、アンジェラのそれにたいして、エレナのは幾分か慎ましやかな……。


「それ以上余計な事考えたら、引っ叩くわよ」


「ご、ごめんなさい」


 テレパシー能力でもあるのだろうか。何で僕の考えている事がわかったんだろう。


「まぁ、あんたのむっつりスケベは今に始まったことじゃないか」


「……へ?」


「うちらのメンバーはそういう事はあけっぴろげなのよ。あんただけよ? 何も言わないでチラチラと私達の胸とか見てるの」


 なんという事だ。バレない様にこっそりと見ていたつもりだったのに、エレナ達には筒抜けだったみたいだ。今度からはもっと慎重に見る必要があるな……。


「す、すいませんでした。これからはバレない様に見ます」


 ぺこり。取りあえず頭を下げておこう。


「……。」


 エレナからは、ただただ、呆れた様な視線が送られてくるだけだった。気をつけるって言ったのに……。


「う~ん……。なんとかしてヴァルキリービショップになったプレイヤーと会う事は出来ないかしら~」


 と、此処でアンジェラが思考の渦から戻ってきた。隠し職のプレイヤーに会う、か。確かに、世界間移動が出来るのはそのプレイヤーだけだ。


「……そうね。他の世界に行けるヴァルキリービショップと仲間になれたら、色々と打開策が見つかるかもしれないわ」


「でも、行き成り行って会って貰えるんでしょうか」


 僕はそこが心配だった。


 アースガルドオンラインの世界に閉じ込められて、皆少なからず疑心暗鬼になっている。そんな状況下で接触を図ってきた人物が居たら、少なからず警戒心を抱くんじゃないかな。


「そこはほら~、カズくんも隠し職なんだし~、色々と他の人に比べて話しやすいんじゃないからしら~」


「そうね、少なくとも私達よりは話を聞いてくれるかもしれないわ」


「……ええぇ~」


 正直に言うと、直接会って話すのは苦手だ。というか嫌だ。


 はなっから不審者を見る様な目つきで見られたらたまったもんじゃない。それに、その人はソロじゃないだろう。恐らく、どこかのクランに入っているはずだ。最悪、クラン単位から不審者扱いをされる事になる。


「まぁ、あんたの考えていることはだいたい分かるわ。大丈夫よ、皆からOKが出たら私達も一緒に行くから」


「カズくん一人に、負担は掛けないわよ~」


「んー……それなら、良いのかなぁ……?」


「決まりね。それじゃあいつらが戻ってきたらすぐ探しに行くわよ。点滴が受けられるって決まった訳じゃないんだから」


「そうね~、私達は全員一人暮しじゃないみたいだけど~、プレイヤー全員が助かるって保証はないもの~」


 ……エレナもアンジェラもキリアも、誰かと一緒に暮らしているのか。それなら大丈夫だね。


 でも、僕の両親は何時帰ってくるか分からない。旅先でニュースを見て、病院に通報してくれれば良いんだけど……。こればかりは運に賭けるしかない、か。


「……どうしたのよ黙り込んじゃって。何か知ってる事でもあんの?」


 っと、危ない危ない。これを知られたらエレナ達は血相を変えて脱出方法を探し出してしまうかもしれない。今言う訳にはいかないんだ。


「……ヴァルキリービショップになったプレイヤーってどんな人なのかなぁって……」


「……変な人じゃ無ければいいんだけど」


「そうよね~。何か要求されでもしたら困っちゃうわよね~」




 コン コン コン コン




 目先の予定が決まって、とりあえず一息吐いた所でドアを叩く音が聞こえた。回数は4回。確か4回って、礼儀が必要な相手に対する回数じゃなかったっけ。


「すいません、ガルドはいますか?」


「ちょっと会って話したい事があるんだが……誰か居ないか?」


 ドアの向こうから聞こえてきたのは、二人分の声。


 一つはガッシリとした体型を想像させる、低く、それでいて威厳を感じさせる男の声。


 もう一つは、知的な印象を植え付けさせる、丁寧だけど凛とした男の声。


「こんな時に来客……? 私が出るわ」


「ぼ、僕も行きます」


エレナは腰に携えた剣に手を添え、ドアへと歩いて行く。町の中では攻撃は出来ないけど、剣や杖を相手に向ける事だけならできる。恐らく、警戒心をむき出しにしているという意思を相手に見せたいのだろう。


「……どちら様でしょうか」


「明けない夜のクラフトと銀次です。ドアを開けて頂いても?」


「なんだクラフトか。今開けるわ」


 エレナが警戒心を解いた。明けない夜は同盟クランだし、エレナも顔見知りの様だ。それなら大丈夫かな。


 ドアが開いた先には、古代魔導師のローブを羽織り、ご丁寧にフードまで被っている人族の男と、全身鎧フルプレートを装着し、大きな両手剣を腰に携えたガッシリとしたドワーフが立っていた。


 先程のやり取りから、人族の古代魔導師がクラフトで、ドワーフの騎士が銀次だろう。……名前的にもそっちの方が違和感ないし、それで良いだろう。


「ガルドは居ますか? 彼に伝えたい事が有ります」


「……ガルドならログインしてないわよ。多分、もう来ないんじゃないかしら」


「むぅ、ドラゴンフォースはマスター不在か。……参ったな」


 どうやら、開けない夜の連中はガルドに用事があったみたいだ。今ドラゴンフォースは頭が居ない。しかもサブマスターも決まっていなかった。つまり、何事を決めるにしても多数決を取るしかないという事になる。


「そういう事だから、今うちらは戦力にならないわよ。メンバーも2/3近くログインしてないしね」


「いえ、むしろそれは喜ぶべきなのですが……銀次、一度戻って報告しましょう」


「……そうだな。エレナ、俺達は一度戻る。誰か溜まり場に残しておいてくれ」


「分かったわ。それじゃ、詳しい事が決まったら教えてね」


 ……さっきから、僕の存在を完全に忘れてるよねこれは。まぁ別に? 今まで会った事無い人達だったから、楽出来たからいいんだけどさ


「……どういう、事でしょうか」


「う~ん……ガルドが居なきゃ駄目ってことは、同盟の存続に関してかしらね」


「そうね~。前々から私達のクランは人が少ないって言われてたし~」


「この状況で同盟を解散するってこと? いくらなんでもそれは無いんじゃ……」


 皆が脱出方法を探しているっていうのに、同盟を解散するっていうのはあまりにも悪手だ。自慢になっちゃうかもしれないけど、これでも火力には自信が有るんだ。それを手放すとは思えないんだよなぁ。


「まだ決まった訳じゃないわ。どんなに考えても推測だし、とりあえずは此処で待機するしかない、か」


「それじゃ~……何か食べる物でも作りましょうか~。料理人じゃないから美味しく作れるか分からないけど~、ご飯を食べれば皆元気になれるわよきっと~」


 うん、それもいいな。ゲームの中とはいえ、味も分かるし、空腹感も満たされる。腹が減っては戦はできぬって言うしね。


「あ、アンジェラ! ご飯は私が作るからあんたはカズキとでも遊んでて!」


「え?」


 せっかくアンジェラが食べ物を作ってくれるって言うのに、何で邪魔するんだろう?


 と、今のやり取りを見て首を傾げていたら、エレナが僕を小脇に抱えて部屋の隅までダッシュした。


「ちょ、ちょと、何するんですか……」


「あんたは食べたことが無いから分かんないでしょうけどね、アンジェラのご飯はと・に・か・く甘くなるのよ!」


 料理は誰にでも作れる。だけど料理人はそれにズバ抜けた補正値がついて、適当に作ってもそこらの店に負けない位の美味しいご飯が作れるのだ。これは料理人のパッシブスキル「調理免許」が大きく関係している。


 一方、調理免許を持たない一般のプレイヤーは、最低限食べれる物は作れる。だけどプレイヤー毎にランダムの補正値がついて、とてもお金を取れる様な代物にはならないのだ。


 ……つまり、アンジェラにランダムで付与された調味料は、砂糖。それも、砂糖の補正値だけ飛びぬけて高いらしい。


「何を食べても甘いのよ! パンも! 肉も! 挙句の果てにはスープ類まで全部!」


 アンジェラには聞こえない様な小声だけど、エレナの声には確かな意思がやどっていた。絶対にアンジェラに調理をさせてはならないという意思と、あれはもう絶対に食べたくないという意思だ。


 あまりの剣幕に、僕は小脇に抱えられていることもすっかり忘れて、エレナの言葉に対して頷くことしか出来なかった。確かに、それは嫌だなぁ。


「二人とも~内緒話かしら~?」


「へ? ああ、なんでもないわ。それじゃカズキ、後は頼んだわよ!」


「あっ……」


 僕の解答を待たずして、ぴゅ~と効果音がついてもおかしく無い勢いでエレナは奥の部屋に消えて行った。……一体、僕にどうしろっていうんだ。


「あらあら~……カズくん、どうする~?」


「う~ん……チェス、とかどうでしょうか」


 ドタバタと忙しなく時間が過ぎて行く。でも、それが逆に良かったのかもしれない。今の僕達には気を紛らわせてくれる物が必要だ。


 3バカ達が帰ってきたら、この手で気を逸らしてみよう。


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