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僕は宮廷魔導師  作者: ゆうき
日常と非日常と
12/20

12話(改) 僕とルーン魔術と

 四度抱きかかえられた僕は、ブリュンヒルデに指示を出しながら自宅を目指した。他のプレイヤーの視界に入らない様に高度を維持しながら、僕らは空の旅を続ける。


「これでカズキは私と戦友になるという事か……。よろしく頼む」


 どうやら僕は種族こそ違えど、ヴァルハラ所属の戦力としてカウントされたみたいだ。まぁそれはそれで嬉しいんだけどね。一つ心配なのは、緊急クエストでヴァン神族の討伐とか出てきそうな事。無期限で何回も出来るクエストとかだったら良いなぁ。ヴァン神兵の色んな装備手に入りそうじゃん。


 となると、暫くの間は独占市場を確保できたと言う事になる。まぁ、クエストの頻度にもよるんだけどさ。ヴァン神兵もそれなりの経験値を持っていたみたいだし、アース神族とヴァン神族の領土ギリギリ辺りのフィールドがレベル上げの狩り場としても役に立ってくれればなお嬉しい。


 などとこれからの展開に思いを馳せていたら、僕の家が見えてきた。既に高度はかなり下がっているが、ここならプレイヤーはほぼゼロ。バレる可能性は無いに等しい。


 と思ったんだけど、僕はドラゴンフォースの行動力を甘く見ていた。うん? 行き成りどうしたんだって? 家の入口の前にふわふわとした雰囲気が特徴的な竜人族のおねいさんが居るんだよ。


 ヴァルハラを出た時に、ガルドにクエスト終わったと伝えたのがまずかった。こいつら、メンバーを散会させて僕が行きそうな所をチェックしてたな……!


「……ん~……ここにくるかなぁ~?……あっ、カズく~ん!」


 アンジェラは僕とブリュンヒルデを見つけると、内股気味で飛び跳ねながら手を振りだした。それに合わせて上下する母性の塊に目が行ってしまうのは、男として仕方が無い事だと思う。


「カズキ、私は一度ヴァルハラに戻る。有事の際はこの指輪を装備して念じるんだ」


「あ、はい」


 他のプレイヤーが居るのを良しとしないのか、着陸してすぐにブリュンヒルデは僕に二つの指輪を銀の鎖に通したアクセサリーを手渡して、アンジェラなどまるでこの場に居ないかの様に振舞うと足早に飛び去って行った。


「カズくん転職おめでと~! わぁわぁ、格好良くなったね~!」


アンジェラもアンジェラで中々強かだ。ブリュンヒルデに無視された事など全く気にしていない様子で、僕の前で屈むと、ペタペタと僕の体を触り始めた。……あの、くすぐったいです。


「ん……ありがとうございます」


『みんな~、カズくんが戻ってきたよ~。これから溜まり場に戻るわね~』


 アンジェラがクランチャットで皆に声を掛けている。そういえばドラゴンフォースのクランに入ったままだったな……今回はガルドだけじゃなくてメンバー皆に声を掛けるべきだったか。


『やっと終わったのね……もう3時よ? 一目カズキを見たら私は寝るわ』


『おめでとうカズキくん、早く溜まり場に戻ってきてね?』


『お、やっと終わったか! 早く戻ってこいよカズキ!』


『でひゃひゃひゃひゃ! おせーってカズキ!』


『さっさと戻ってこいよ! 皆待ちわびてるぜ!』


『転職おめでとうカズキ君』


 あ、キリアの口調が元に戻ってる。てことは鬼から竜人に戻ったのね。


『……ありがとうございます。今からそっちに行きます』


 どうやら、防具の精錬は後回しになりそうだ。


 僕はミッドガルに向かう為帰還の羽を振りかざそうとしたのだが、アンジェラがどうやって此処まで来たのだろうか気になった。もしアンジェラが飛んで此処まで来たのだとしたら、帰還の羽を持っていない可能性がある。


 アンジェラはかなり天然が入っているおねいさんだ。一応現実では看護師をやっているとか言っていた気がするが、まぁ、僕はあまり気にしていない。だから支援職ばかり作っているのだろうか? まぁいいか、とりあえず聞いてみよう。


「えと、アンジェラさん。此処までどうやって来たんですか?」


「ん~? 勿論飛んでだよ?」


「帰還の羽は持ってますか?」


「ちょっと待ってね~。……あ、忘れてきちゃった!」


 てへっ、と自分の頭を叩きながら舌を出すアンジェラ。……実際に目の前でやられるとかなりアレな感じがする。そこまで違和感を感じなかったのは、アンジェラがこの動作を行ったことに起因するだろう。……ああ、認めるよ! ちょっとだけ可愛いって思っちゃったよ!


「……どうしましょうか」


「ん~……あ、そうだぁ! こうすればいいのよ~」


 ……アンジェラはニコニコと微笑みを絶やさずに僕に近づいてくる。嫌な予感、いや、

もう確信に変わった。


「ち、ちょっと待って下さいアンジェラさん。帰還の羽じゃなくても転送の―――」


「勿体無いわよ~。えいっ」


「うぁ……は、放して下さい……」


「そんな事言って~。実は嬉しいんでしょ~? うりうり」


 正直すんごく恥ずかしい。嫌だ。……でもさ、僕の腕に当たるやわっこい感触とどっちを取るかって言われたら、男として当然の事だろ!? リアルじゃ体験できないんだ! 照れ隠しになったって良いじゃないか! 何言ってるか分かんなくなってきた!


 もう此処まで言ったら分かるだろ。またお姫様だっこさ。はっ、笑いたきゃ笑ってくれ。この時間なら人も少ないからもういいよ。今までと全然違う格好だし、空を飛んでるのが僕とアンジェラだって気づく人も少ないだろう。バレても別に構わないし。ていうか明日になったら絶対話題になるし。持ち切りになるだろうし。詰め寄られ……そろそろ止めよう。


 後で分かった事なんだけど、男から女へのあからさまなタッチはセクハラ認定されるんだけど、逆のパターン、つまり女から男へのタッチはかなりセクハラ判定が甘い。


 運営も男心が分かっているってことだ。畜生。


「それじゃ~溜まり場目指してレッツゴ~!」


「……ぉ、ぉー」


 アンジェラが飛び立つ。僕はなるべく腕に当たる感触を意識しない様にして、これからの事を考える事にした。



 さて、先ずは新しく手に入った防具の仕様確認だ。


 オーディンはティアラとサンダルは変更しても良いと言っていた。つまり胸を保護する宮廷魔導師のローブと宮廷魔導師のマントを外すと、宮廷魔法を撃てなくなると推察できる。……これはかなり痛い。


 ローブとマントは、物理耐性はそれなりで魔法耐性もそこそこ。回避性能は、星屑のケープ程ではないが高めに設定されている。状態異常への耐性は特に付与されている訳ではない。……クラン対抗戦やPVPフィールドならクロックマスターのソウルがあるから問題ないけど、通常マップでこの装備に固定されるのは、かなり辛いな。沈黙を食らったらひとたまりもない。……状態異常耐性装備を作らなきゃ駄目だな。


 ティアラには詠唱時間が短くなる効果が付与されていた。……僕にとっては無用の長物だな。スタッフオブグリントがあるから、完全に長所が死んでいる。


 サンダルは、見る限りだと優秀な汎用装備だ。防御力も高いし、最大HPとMPが僅かだが上昇する。


 とりあえずはとんがり帽子に変わる新しい装備を探さなきゃ駄目か。それまでは宮廷魔導師のティアラで行くしかないな。


 確か防御力は低いけど沈黙耐性を持っているティアラを落とすモンスターが居たはずだ。ソロで狩れるかどうか調べなきゃ。


「あらあら~? 考え事かしら~?」


 おっと、集中しすぎてアンジェラの存在をすっかり忘れていた。……そして蘇る胸の感触……っ! しまった、せっかく自分の世界に入れていたというのに……!


「あ、はい。新しい装備があんまり使えないんで……」


「やっぱレア装備じゃないと駄目なのかしら~。クエストで貰う装備って弱いのばっかりよね~」


 うんうん、と眉を寄せながら同意するアンジェラ。


 基本的にクエスト達成で貰える装備は弱い物、つまりランクが低い物が多い。 高ランクの装備程、強いモンスターのレアドロップでしか手に入らない。


 ただしこれには例外があって、ユニーク装備なんて物がある。


 アースガルドオンラインで一つしか入手できない装備。それがユニーク装備だ。オーディンが持つ神槍グングニルや、スルトが所持している魔剣レーヴァテインがそれに該当する。


 もちろん、それ以外にもユニーク武器は存在する。僕が持っているスタッフオブグリントがそれだ。


 どうやら期間限定のクジが終わりを迎えたらしく、僕以外に誰も当たらなかった為、そのままユニーク武器になってしまったのだとか。ガルドが休憩中に公式HPを覗いた時、ユニーク武器一覧にスタッフオブグリントの名前が新しく記載されていたのを発見して僕に教えてくれた。なんともお粗末な結果だ。


 今の所公式HPに載っているユニーク武器とその効果は



ダーインスレイブ・・・装備しているとHPが減り続けるが、相手の防御力を無視する

グングニル・・・必中範囲攻撃スキル「神槍グングニル」が使用可能に。HIT大幅上昇

レーヴァテイン・・・唯一魔法職も装備出来る剣。INTが大幅上昇する

ミョルニル・・・全武器中最高の攻撃力を誇る。範囲攻撃「トールの雷」が可能に

ガンバンテイン・・・自分への魔法を無効化できる

ミスティルテイン・・・攻撃が当たった際、一定の確率で相手を即死に追い込む

スタッフオブグリント・・・移動詠唱、二重詠唱が可能に



 の7個だ。


 上から順に、剣、槍、剣、槌、杖、剣、杖。


 こうして見ると、存外バランスが取れている。スタッフオブグリント以外のユニーク武器の入手方法は、恐らくアースガルズのクエストをこなしたら手に入るのだろう。その内誰か手に入れるだろうさ。願わくばレーヴァテインやダガンバンテインが欲しい所だけど、それは贅沢すぎるだろう。


「カズくん、そろそろ溜まり場に着くわよ~」


 とまぁそんなことを考えていたら、もはや第二の我が家と言っても過言ではない、ドラゴンフォースの溜まり場に到着した。ドアの隙間から明りが漏れ、中からは酒盛りをしてるであろう騒ぎ声が聞こえてくる。全く、こいつらはいつも酒盛りしてるなぁ。


「それじゃ~はいろっかカズくん」


「……エレナさんとキリアさんの反応が怖いなぁ」


 まぁ、逃げても仕様が無い。もう3時を回っているんだ。


 ここはさっさとお披露目を済ませて、続きは明日にするのが得策だろうさ。


 3バカや他のメンバーは酒盛りしているみたいだから、まぁ放置してもいいだろう。





 カランカラン





 ドアを開けると、部屋の中からは相変わらず臭いだけで酔える程の濃密な酒の臭いが漂ってきた。どうやら、こいつらの話しだと現実の酩酊感とあんまり変わらないから、タダで酒が味わえるこの世界で飲みをする事が多いのだそうだ。実際、宴会専門のキャラとかいるらしいし、ほんと人間ってこういう幸せを見つける事に関しては上手だよなぁ。


「あ、やっと来たわねカズ」


 一番最初に気付いたのはエレナだった。だけど僕の姿を確認するや否や、名前を最後まで呼ぶことも出来ずにフリーズした。……そりゃこんな格好してたら驚きもするか。


「これまた随分と攻撃的な格好をしてるわねカズキくん。……誘ってる?」


「お帰りカズキ君……それが新しい職業か。何ていう名前の職業なんだ?」


「……ただいまです……えっと、宮廷魔導師、かな。ヴァルハラ宮殿に仕える魔導師の……」


 僕が「ヴァルハラ宮殿に仕える」と言った瞬間、皆が光の速さでこっちを向いた。……な、何だよ。


「……カズキ、それはヴァルハラの魔法を使えるって考えで合っているかい?」


「カズキ! 早く教えなさいよ!」


「ああん、カズキくんのいけず~」


「カズくん、早く教えてよ~」


 一人変なのが混じっていたが、仕方ない、このメンバーになら教えてもいいか。


「あ、はい。えっと、系統的にはルーン魔術っていう魔法らしいんですけど……」




 先ずは基本となるルーン基礎修練。これは始めから習得してある。


 後は別の系列で、聖属性のアロー「ディバインアロー」や聖属性の範囲魔法「ルナライト」がツリーに現れている。ディバインアローの熟練度を一定値上げると、ルナライトが使用可能になる。



 ルーン系列には、以下の種類がスキルツリーに存在していた。ディバインアローと癒しのルーンは既に使用可能だけど、ルナライトとルーン魔法は救いのルーンと癒しのルーンを覗いて



救いのルーン・・・状態異常解除

癒しのルーン・・・HP回復

敵のルーン・・・一定確率で相手の武器を破壊する(町の鍛冶屋で修理可能)

矢止めのルーン・・・一定時間自分を対象とした飛び道具を無効化する

呪返しのルーン・・・魔法を吸収する盾を展開、吸収した魔法を相手に纏めて反射する

守りのルーン・・・個別にHPを持った盾を複数展開。盾の数は習得レベルで変化

知識のルーン・・・一定時間INTが増幅する

最後のルーン・・・???




 最後のルーンは???としか記述されていない。実際にスキルを取ってから試せって事か。


 と、皆にツラツラと説明した。つまり、攻撃はマジシャンの時のアローに加えて、ディバインアローとルナライトに頼るしかない。何ていうか補助的な役割が多いみたいだね、ルーン魔術って。


「なるほど、これはますますカズキ君にはクラン対抗戦に出て貰わなければならなくなったな」


 とガルドが言っていたが、このスキルを見るとそれも仕方ないと思う。だって、対人戦を意識したスキルばっかりなんだもん。


 その後、僕の眠気もいい加減限界に来ていたので、今日はドラゴンフォースの溜まり場でログアウトすることにした。さて、明日は熟練度を稼ぎに行こうかなぁ。


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