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幾千の焔

作者: エーゲの炎使い

 俺の名前は発音(タツオト)(ジン)。 普通に学校に通い、現在を楽しんだ人生を送る名字の間違われやすいごく一般人だ。

 いや、強いて言えば生まれつき『哀しい』という感情がない。理由はよく分からない。ただ、俺は涙を流したことが一回もないんだ。



「ジ~ン。学校行くよ~」



 俺の幼馴染、藍原時未に呼ばれて俺は普通のカバンを持って出る。

 玄関に出ると妹の深紅ミクと一緒に時未が俺を待っていた。彼女達2人は学校外でも人気で、影ではファンクラブが出来るくらいの美少女。俺は苦笑しながら2人を連れて学校へ向かう。






 ―――――これが、いつもの俺の光景だ。2人の美少女を侍らせて、他の男子に嫉妬と殺意の視線を向けられて、美少女の幼馴染に過激なスキンシップを取って、殺意の塊みたいな自称・親衛隊に追い掛け回されて―――――




 だから、この光景がなくなるなんて、まったく思わなかった。













 学校が終わって周囲が太陽のオレンジに染まった頃、深紅に電話で屋上に呼ばれた。とりあえず時未も見当たらなかったから時未にメールだけして屋上に向かった。

 俺が屋上に着いた時には深紅はグラウンドの方を向いて先についていたから、俺に気付いてないと思って俺から話しかける。



「深紅、一体何のようなんだ?」


「お兄ちゃんにとって、わたしって何?」



 いきなり何を言い出してるんだ?



「何って、深紅は俺の妹だろ。 それ以上でもそれ以下でもないぞ」


「やっぱり、お兄ちゃんにとってわたしってそんな存在なんだね」



 深紅はフェンスを強く揺らして俺の方を振り向いた。



「ッ!!!」



 深紅の姿を見たオレが息を呑んだのは悪くないと思う。なにせ、深紅の正面には確実に致死量を超えた血痕・・・・・・・・・が付着していた。



「深紅、それ、一体どうしたんだよ」



 もし深紅が出血したなら、明らかに血の気を失っているはず。なのに、深紅の顔色はいたって健康なピンク色の肌。なら考えられる可能性はもう一つ。

 ただ、そんな事が信じられなくて、口の中が乾いたように言葉を上手く発することが出来ない。



「……お…お前……誰か………殺……のか……?」


「うん♪ 殺したよ♪」



 深紅はとても嬉しそうで、楽しそうで、愉快そうな表情。俺はその表情を見れたことに嬉しく思ったが、同時に怖気や寒気も覚える。

 そして誰を殺したのか聞こうと思った瞬間、脳裏には時未の笑顔が浮かんだ。



「おい、まさか……」


「どうしたの、お兄ちゃん?」



 深紅が心配そうな表情で見つめてくるけど、俺には気にする余裕がない。 自分が思いついてしまった最悪な予想を否定することで手一杯だった。

 外れて欲しい。  違ってて欲しい。  そんな事がないで欲しい。   エゴだと分かりながら目の前にいる少女にもう一つだけ確認・・をする。



「時未を殺したのか?」



 ソ・ン・ナ・コ・ト・ナ・イ・デ・欲・シ・イ



「そうだよ♪ 時未お姉ちゃんを殺したんだ♪」



 そう言った深紅の表情は今まで我慢してきたものを解き放ったかのように艶っぽく、楽しそうで、嬉しそうだった。



「ほら、そこに死体も置いてるよ♪」



 深紅にそう言われて足元にあるあびただしい量の血に気付いた。どこにあるかをすぐに察して慌てて扉の裏側を見る。



「……あっ……あっ……あっ……」



 そこには、見間違えようのないほど慣れ親しんだ顔が血塗れで転がっていた。



「…なんで……」


「それはお兄ちゃんが一番分かっているんじゃない?」



 やっぱりそうなのか……  自分の浅はかさに強く後悔した。

 深紅が俺のことを男として好きだということは前から知っていた。だからこそ時未だけにかまった。



 深紅が俺のことを諦めてくれる事を願って。



「俺達は兄妹なんだ。その想いを遂げることは無理だろ」


「ウソ。嘘うそウそ !! お兄ちゃんが知らないハズないでショ」


「だからって!!」


「だからだよ。だから、お兄ちゃんを奪ったそこの泥棒猫が邪魔なんだよ」



 深紅はまるで子供のように叫ぶ。

 その光景が俺が曖昧な態度を取った代償だと分かってさらに悔しい思いをする。 だけど――――



「え?」



 俺は深紅の頬を叩いた。



「お前はやっちゃいけないことをしたんだ。 確かに俺が深紅の気持ちに気付いていたのに無視するような態度をとっていたのが悪い。

 だけど、人の気持ちを手に入れられないからって人の命を奪うなんて最低の行為だ」



 大切な幼馴染を失って、心の中からなにかこみ上げてくる気持ちがあったけど、それでも深紅の行動を拒絶した。

 後から思えば、俺は拒絶するべきではなかったのかもしれない。



「なんでそんな事言うの? わたしはただ、お兄ちゃんにちゃんと見てもらいたかっただけなのに」



 深紅はすべての感情をこらえるようにそこで止めて、残酷な言葉を吐いた。



「もう焼けちゃえ」


「なっ!!」



 深紅の言葉に従うまま、校庭が一瞬で火の海に包まれた。

 燃やすは、地獄から呼び出されたかのような黒くて禍々しく、そして怖気を感じさせる絶望の焔。その焔は焼けないはずのコンクリートの電柱さえ燃やして、さらに炎上する勢いを上げる。見ててもその焔の危険度が感じ取れた。

 燃えるは、すべて。校庭にいた人達は絶望の焔に焼かれるまま悲鳴や助けを求める声を上げて焔の手から逃げ出そうとする。しかしすべてを無と化すかのように焔の腕は人を呑み込んで死を振りまき、いともたやすく命を奪われる。



「深紅!!」



 深紅を怒ろうとして俺は駆ける。しかし、焔は俺の行く手を阻んだ。

 焔はまるで生きているみたいに俺の行こうとする先を封じて、深紅の元へ行けない。じれったく感じていると深紅の方が先に動いた。



「お姉ちゃんは邪魔だよね。燃え尽きて」



 深紅の手から放たれたのは無慈悲に近い、全てを焼き尽くすような炎。 こんな炎に焼かれたら、時未が死ぬ。それだけは本能的に理解できたから、咄嗟に時未の下へ駆け寄った。

 俺は、深紅のことも大切に思っているけど、時未のことだって大切に思っているんだ!!

 他の人から見たら、二股と思うかもしれない。だけど俺としては本当に2人とも大切に思っているんだ。



 ――――しかし、無慈悲な炎は俺の行動さえ許さなかった。



 深紅の放った炎は俺を焼かずに時未の体だけ焼く。そのせいで、肉の焼ける死臭が漂い、本当に骨しか残さないような炎と、焼けた後の元・時未だった白骨の死体だけが残った。

 コンナコトアッテハイケナインダ――――



「深紅、俺ハモウオ前ヲ赦スコトガ出来ナイ」



 今得た知識から、炎の扱い方を覚えて、俺も炎を放出した。しかし、俺の出した炎は大規模すぎてすぐに消える。



「お兄ちゃんもそうだったんだ。でも、もう時間だね」



 深紅はそう言って空気に溶けるかのように消え始めた。咄嗟に声をかけて、捕まえようとしたが俺が捕まえる前に深紅の姿は完全に消える。



「クッソオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!」



 炎に包まれる中、俺の慟哭は街中に響いて、世界の終焉の鐘を鳴らした。

 この事件は後に『大量の死者を出した不思議な放火』として報道されたが、すぐに埋もれてしまう。なにせ、この事件が翳むほどの大量殺人が、世界中で起こり始めたのだから。

感想が5件を超えたら連載小説にします

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