傷跡
僕はもうすぐ死ぬだろう
僕はもうすぐ死ぬだろう。
枯れ果てて、耐えきれなくなった木葉のように地面に落ちて。
人に踏まれて、グシャグシャになってバラバラになって、地面と一緒に同化。するかもしれない。
この17年間でこれといった未練はない。多分。
ドラマみたいに、一途に思い続けてくれる彼女なんていない。
愛し合った女なんてゴミの数ほどいる。
性欲を吐き捨てるだけ吐き捨てて、あとはポイだ。
心から愛し合った女はいない。
体の相性が合うか、合わないか。
性格が合うか、合わないか。
そんなのはもうどうでもいい。
僕はきっと、この人生を諦めていたんだと思う。
「だから、大事にしてやれなかったんだ」
記憶の片隅に、もしかしたら愛していた女がいたかもしれない。
そうじゃないかもしれない。
けれど、記憶の片隅に。
誰かがいたはずなんだ。
「何を大事にしてあげられなかったの?」
「さあ……出会ってきた人間すべて、かも」
「それはウソだよ、おにいちゃん」
「……どうして?」
病院のベットの上。
薬品の匂いがする病室。
窓は凍るように冷たい風に吹かれて揺れる木々。
そして僕の目の前には〝女の子〟。
しかも小学校低学年ぐらいの。
「おにいちゃんは、わたしに優しいもん。だーいじにしてくれたもん!」
「……そっか。僕は、君のことを大事にしていたんだ」
この病院に入院してきて、独りぼっちだった時にしゃべりかけてきた女の子。
血の繋がった兄妹?
そんな兄妹僕にはいないさ。
勝手にしゃべりかけて勝手に現れて勝手に消える。
ただの、同じ病人。
「おにいちゃんは、病院から出たら何したい?」
「さあ……考えてもなかったや」
「わたしはね、看護婦さんになりたいの!」
「君にはお似合いの職業だね」
そう言ってあげるとにへらと笑った。
(何、この生き物。ちっさいな)
「みんなを笑顔にしてあげられる看護婦さんになるのー!」
「……じゃあ、僕はそんな看護婦さんを見守る〝木〟になるよ」
僕みたいな人生を送った人間や真逆の人生を送っている人間を。
ずっとずっと眺めていたい。
「……人は、木にはなれないんだよ?」
「生まれ変わったら、なれるんだよ」
死んだら、みんな神様のお願いを聞かなければならない。
神様が、海になっていろんな生命のあるものを癒してあげなさい。
そう言うのなら、死んだ人間は海になる。
虫になって自由に生きていい。
そう言うのなら、死んだ人間は虫になる。自由になる。
すべては神様が決めること。
「だけど、僕は生まれ変われるかな」
「どうして?」
「……僕は今までたくさんの人を泣かしてきたんだ。そんな奴、神様が許してくれると思う?」
「おにいちゃんは、生まれ変われるよ!カミサマは、やさしいんだもん!」
意地になって反抗する小さな女の子を抱き上げる。
「おにいちゃんは優しくて、優しすぎるからみんな泣いちゃうんだよ」
「良いこと言ってくれるね、君」
「……だ、だって、わ、わたしも……おにいちゃん大好きだから……泣く、んだもん……」
触れるだけで壊れてしまいそうな小さな女の子。
このまま大人になったら、きっと純白のドレスが似合うんだろうな。
―――ああ。
「僕……もう少し遅く生まれていたら、人生変わってたかもれないな」
壊れそうな女の子を抱きしめた。
鼻水と涙でぐしゃぐしゃになる女の子をぎゅっと抱きしめる。
気が付けば涙が出ていた。
(おかしいの。こんなので泣くなんて……。僕らしくない)
「おにいちゃんは……優しいから、カミサマはっ……願い事をきいてくれるもん!」
「神様は、優しいからね」
「きっと、また。……新しく……おにいちゃんをキレイにしてくれるもん!」
「そうだね」
生まれ変わったら、こんな純粋で真っ直ぐな奴を守ってあげたい。
木でもいい。虫でもいい。なんでもいいんだ。
(生まれ変わりたい……)
「だから、泣かないでぇー……っ!」
「泣いてなんかないよ」
神様に、この願いが届くなら。
僕は、こんなちまっこい生き物を守れる〝人間〟になりたい。
もっと遅く生まれて、〝コレ〟と出会っていれば。
きっと僕は、君に恋をしていたことだろう。
いや、もうしているはずだ。
誰かを愛することは初めてだから、これは恋と呼べるのかは分からない。
だけど、とても死にたくないと願っている自分がいる。
はやく死んで、この世を絶ちたい自分がいる。
(こんなのは、初めてなんだ)
―――――――――――――
僕はもうすぐ死ぬ。
でもきっとすぐに、生まれ変わるだろう。
なんでもいい。
ただ、アイツを守れれば。
―――貴方は、生前色々な人を泣かせ、最後に小さな女の子までも泣かせました。
―――よって、貴方は泣かせた人を笑顔にさせないといけません。
―――生まれ変わったら、愛していた人。愛してくれていた人に笑顔を届けなさい。
―――人間となって。
―――――――――――――
「初めまして、お嬢さん」
「……え?」
「生まれ変わる前、あなたを愛したものです」
(きっと僕は、何度も君に恋をする)
―――END
シリアスラブ。
冷めた青年と純粋で真っ直ぐな少女が恋に落ちる……そんな短編小説です。
年の差ラブ……好きです……でへ