表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
先輩、コロシです!ver.4 マル暴編  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/10

第6話「朝は静かに来る」

 翌朝。

 昨日の“ほころび”が頭から離れないまま、俺は署に向かった。


 マル暴のフロアは、いつもより静かだった。

 いや、静かなんだけど……空気が重い。


「おはようございます、先輩」

「おはよう、後輩」


 先輩はいつも通り淡々としている。

 でも、机の上には昨日のメモが広げられたままだった。


「先輩、昨日の“ほころび”……やっぱり何かあるんですか?」

「あるよ」


 即答だった。


「今日、動きが出る。

 ただし、まだ“事件”とは呼べない」


「じゃあ、何なんですか?」

「“予兆の続き”だよ」


 予兆の続き。

 そんな言い方があるのか。


「後輩」

「はい」

「今日の任務は、昨日より静かにすること」


「またそれですか……」

「またそれだよ。昨日より静かに、昨日よりよく見る。

 それができるようになったら、名前を呼ぶかもしれない」


「“かもしれない”なんですね」

「“かもしれない”だよ」


 先輩はコートを羽織りながら続けた。


「後輩。名前を呼ぶというのは、

 その人を“現場の中心”に立たせるということだ」


「中心……?」


「名前を呼ばれた人間は、振り向く。

 振り向いた瞬間、逃げ道がなくなる」


 その言葉が妙に重かった。


「だから俺は、お前が“逃げずに振り向ける人間”になるまで呼ばない」


「……昨日よりハードル上がってません?」

「気のせいだよ」


 気のせいじゃない。


 そのとき、課長がフロアに入ってきた。


「おい、お前ら。昨日のフロント企業、朝から動きがあるぞ」


 先輩は軽く会釈した。


「課長、どんな動きです?」

「幹部の一人が行方不明だ。

 家族から“帰ってこない”と通報が入った」


 空気が一瞬で変わった。


「……先輩、それって」

「三つ目の“ほころび”の続きだね」


 先輩は淡々と答えた。


「後輩、行くよ」

「は、はい!」


 署を出て車に乗り込む。

 エンジン音がやけに大きく聞こえる。


「先輩、行方不明って……」

「まだ“事件”とは言えない。

 でも、昨日の兆しと繋がる可能性が高い」


「繋がる……」


「後輩。マル暴の仕事は“点”を追うんじゃない。

 “線”を見るんだ」


 先輩はシートベルトを締めながら続けた。


「昨日の外部の男。

 急発進した車。

 裏口から逃げた幹部。

 そして今朝の行方不明」


「全部、線で繋がる……?」


「そう。まだ細い線だけどね」


 車が動き出す。

 朝の街はいつも通りなのに、胸の奥だけがざわついている。


「後輩」

「はい」

「今日、お前は“見ているだけ”でいい」


「えっ、俺、何も……?」

「何もするな。

 昨日より静かに、昨日よりよく見る。

 それだけで十分だ」


 先輩は前を向いたまま言った。


「お前はまだ名前を呼ばれてない。

 つまり、まだ“巻き込む段階じゃない”ということだ」


「……守られてるってことですか?」

「そうだよ」


 その言葉が、妙に胸に刺さった。


「でも後輩」

「はい」

「守られてるうちは、名前は呼ばない」


「やっぱり!」


 先輩は少しだけ笑ったように見えた。


「今日、何かが見える。

 でも、お前はまだ“見る側”でいい」


 車は静かにフロント企業の前へ向かっていく。


 ――朝は静かに来る。

 でも、その静けさの裏には、必ず何かが潜んでいる。


 俺はシートベルトを握りしめながら思った。


(名前を呼ばれる日は……まだ遠い。でも、近づいてる気もする)


 そんな曖昧な期待と不安を抱えたまま、

 俺たちは現場へ向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ