表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
先輩、コロシです!ver.4 マル暴編  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/10

第2話「名前はまだ早い」

 張り込み二日目。

 昨日と同じ車、同じ缶コーヒー、同じ建物。


「先輩、今日も“何も起こらない”任務ですか?」

「うん。何も起こらないのが一番いい」


 先輩は相変わらず淡々としている。

 俺は相変わらず落ち着かない。


「先輩、あの……ひとつ聞いてもいいですか」

「どうぞ」

「なんで俺のこと、名前で呼ばないんです?」


 先輩の手が、ほんの一瞬だけ止まった。

 でもすぐに、またメモを取り始める。


「後輩だからだよ」

「いや、それはそうなんですけど……名前、ありますよね?」

「あるだろうね」

「“あるだろうね”って!」


 先輩は窓の外を見たまま、静かに言った。


「後輩。マル暴は、人の名前を軽々しく呼ぶ場所じゃない」


「……どういう意味ですか?」


「名前を呼ぶということは、相手の素性を晒すということだ。

 この仕事では、名前を知られた瞬間に“弱み”になることがある」


 先輩の声はいつもより低かった。


「だから俺は、必要になるまで名前を呼ばない。

 呼ばないほうが、お前を守れる」


「守る……?」


「そう。お前はまだ、ここがどういう場所か分かってない」


 先輩は缶コーヒーを指で軽く叩いた。


「それに、名前を呼ぶのは“信頼”の証だ。

 信頼は、時間をかけて積み上げるものだよ」


「じゃあ、いつか呼んでくれるんですか?」

「どうだろうね」

「どうだろうねって!」


 先輩は少しだけ笑ったように見えた。

 いや、気のせいかもしれない。


「後輩」

「はい」

「名前を呼ばれたいなら、まずは“静かに観察する”ことを覚えなさい」


「またそれですか……」


「またそれだよ。昨日より静かに、昨日よりよく見る。

 それができるようになったら、名前を呼ぶかもしれない」


「……先輩、もしかして俺の名前、覚えてないんじゃ……」

「覚えてるよ」

「ほんとですか?」

「たぶんね」

「たぶん!?」


 そのとき、建物の前に黒い車が止まった。


「先輩、あれ……」

「後輩、声を落とせ」


 先輩の目が鋭くなる。

 空気が一瞬で変わった。


「……兆しだ」


 昨日と同じ場所なのに、

 昨日とはまったく違う緊張が走る。


「後輩」

「はい」

「今日の任務は“何も起こらないこと”だったけど……

 どうやら、そうはいかないみたいだ」


 先輩は静かにシートベルトを締めた。


「名前を呼ぶのは、まだ早い。

 でも――お前には、ちゃんと見ていてほしい」


 俺は息を飲んだ。


 マル暴の世界が、ようやく動き始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ