第五話 約束を果たす
(もう朝か…)
朝日が窓を明るく照らし、俺は目が覚めた。
先日、サリーと名乗る女性にマッサージを受けていたのだが、気が付いたら寝てしまったようだ。
この宿にもうしばらく泊まりたいという気持ちもあるのだが、俺はあの破壊神に直接会って、早く借りを返したいのだ。
まあ、すぐにここを出るのもなんだし、挨拶くらいはしといた方がいいか。
俺は部屋から出て、すぐ二階まで降りた。すると、彼女は台所で料理をしていた。
「サリー、おはよう」
「おはようございます、キングさん。朝ごはん出来てますよ」
(朝ごはんか…)
俺はすぐに出発しようと思っていたが、朝ごはんという物を忘れていた。
そういえばここ最近は、鍛錬ばかりで、朝ごはんもろくに食べていなかったな。
俺は有り難く、朝ごはんを頂くことにした。
人の手料理を食べるのは何年ぶりだろうか。母が料理を作っていた時から、もう2年ほどは経っている気がする。
「いただきます」と言い、俺は机に置いてある皿の上から、お箸で卵焼きを口に入れる。
「うまいな…」
口の中に、卵のやさしい甘みが広がった。ほっとするような味で、毎日でも食べたくなるような卵焼きだった。
「ふふ、ありがとうございます。おかわりもあるので、どんどん食べてくださいね」
俺は無我夢中で食べ続けた。彼女も食事を口に入れながら、俺に尋ねた。
「ところで、キングさんはここからどこに行く予定なんですか?」
「俺は、破壊神一族のホエールと直接会って話をつけたいんだ」
すると彼女は驚いたような表情で言った。
「ホエールさんとお知り合いなんですか?」
「知り合い…まあそうかもしれない」
彼女は、ホエールのことを知っているような話し方だった。もしかしたら、彼女はあの少女の居場所を知っているのかもしれない。
「サリー、ホエールとどういう関係なんだ?」
「ホエールさんは私の命の恩人です…」
「命の恩人?」と俺は不思議に思ってそう尋ねた。
「私が家族を皆殺しにされた日…ホエールさんが助けにきてくれたのです。そこで私を四天王の一柱から救ってくれたのです」
彼女は、目に涙を浮かべながら言った。俺はしばらくの沈黙の間、黙々とご飯を食べ続けた。
その沈黙を気まずく思ったのか、彼女は涙を止めて、声を出した。
「キングさん…私、ホエールさんの居場所、知ってますよ」
「それは本当なのか?」
「ええ、私が助けられたあの日、ホエールさんがまた何かあったら呼んでくれと家の所在を教えてくれたんです」
まさか彼女から話してくれるとは思わなかった。まだ会って一日も経っていない俺にそんなに簡単に少女の所在を教えてもいいのか?と思ったが、俺も彼女に自身の情報を与えていたので、お互い様か。
「ホエールの居場所…教えてくれないか?」
「もちろんいいですよ。キングさんになら、安心して教えられます」
教えてくれるなんて…そこまで俺を信用してくれているとは思わなかった。
ただ俺も彼女を気付かないうちに信用していた。この話を信じてみよう、そう思ったのだ。
「どこにあるんだ?」
「ここから、南西に約二十キロメートルほど進んだ所にあります。この地図のここら辺ですね」
彼女は地図を取り出してきて、指を指しながら場所を示した。地名はアクシスと書かれており、周りには何もなさそうな場所で少し驚いた。
「こんなとこに住んでいるとはな…」
「私も驚きましたよ。ですが、ホエールさんは狙われる身なので、なるべく人が少ないとこが良いらしいです」
よく考えたらそうなのか。少女はこの国を支配するブリディスの敵なのだから、こんな場所にいるのも頷ける。
「ありがとう、サリー。お陰で探す必要がなくなった」
「お礼は結構ですよ。私はキングさんを信用していますから」と彼女は微笑みながらも言った。
俺はこの宿に泊まり、サリーと話したことである目的を見つけた気がする。
ブリディスを倒すという目的を…
「ごちそうさま、美味しかった」
「そう言ってもらえると嬉しくなります、もうお別れなんて寂しいです」
「俺も同じだよ、けど安心してくれ、ホエールに話をつけたら、またここへ戻ってくるさ。泊まるとこも他にないしな」
「本当ですか?それは嬉しいです。またいらしてくださいね」
俺は彼女の嬉しそうな言葉を聞き、そのまま荷物をまとめ、出発する支度を済ませた。
扉の前でサリーにお別れを告げた。
「半日ほどだったが、世話になった」
「いえいえ、私の方こそキングさんと話せて楽しかったです」と彼女は別れを惜しみながらも、楽しげな声で言った。
もしかしたらこれが最後になるかもしれない。俺は自身の戒めの意味も込めて、サリーに背を向けながらも、真剣な口調で言った。
「サリー、俺は破壊神ホエールと協力して、ブリディスを倒す」
「え?」と彼女は驚いたような声で言った。その場で少しの間、沈黙が流れる。
しかし俺はサリーに背中を向けたまま宿から出ようとする。
「ま、待って…」と彼女は遅れて叫ぶ。その声はいつもより高く、不安の気持ちがそのまま音に乗っていた。
「……」
俺は無言のまま、その場から離れた。すると後ろでサリーの声が響いた。
「頑張って!」
その声には不安や感謝の気持ちが乗った落ち着きのない音をしていた。しかしその声は、俺自身を奮い立たせるような力強い音だった。
俺はその言葉で、胸が高鳴るような高揚感を覚えつつ、彼女の期待に応えようと胸を膨らませた。
* * *
あれから数時間は経っただろうか。俺は手渡された地図を元に、ひたすらに森の中を彷徨っていた。
あたり一面は、草木が生い茂っており、本当にこんな場所に家があるのかという不安が襲った。
(ここら辺のはずなんだが…)
俺は地図に示された場所の近くで、探り探りに草をかき分けながらも進んだ。
すると、途端に開けた小草原に辿り着いた。中央には石垣の上に城のような建物が立っており、近くには神社のような建物もあった。
(ようやく着いたか…ありがとうサリー)
俺は感謝の言葉を心の中で呟いた。
どこから入ればよいのかと考えながらも、俺はその城の門を叩いた。
「私はフィンと申します。なんのご用ようですか?」
門が開き、中から出てきたのは、フィンと名乗る綺麗な黒髪にツインテールをした幼なげのある少女だった。
「俺はキングだ。ホエールに用があって来た」
「キング…?ホエールさんが前言ってた人か」と少女は小声で呟いた。
「少し待っていてください」と少女は言い、俺を門の前に残して、小走りで城へと入っていった。
しばらくすると、少女はこちらに戻ってきた。
「案内します。こちらへどうぞ」
俺はそのまま少女の後をついていった。
すると、少女はある部屋の襖を開けて、俺を中へと案内する。そこには顔見知りの少女が畳の上で胡座をかいていた。
「キング、来てくれたのか。とりあえずここに座ってくれよ」
座っている青髪の少女はそう言った。
そう、その少女は、一年前、俺が敗れた破壊神ホエールだったのだ。
「失礼する」と俺は言い放ち、畳の上に座り、ホエールと顔を合わせる。
(こうして座ると、威圧感が段違いだ…)
しかし、俺もこの日のために修行を積んできたのだ。ここで、少女に借りを返さなければならない。
「どうして今更ここに来たんだ?」と少女は柔らかな口調で言ったが、威圧感で気押されそうになる。
俺は息を大きく吸う。そして少女の目を見て言う。
「一年前の借りを返しに来た。あの日、俺はお前に情けをかけられた。俺はそれが悔しかったんだ。だからこそ、俺は勝手ながらホエール、お前と協力がしたい」
俺はその場で、少女の返事を待った。長い間、沈黙が流れる。
「情けをかけたつもりはないんだけど…でもその頼み、断るわけにはいかないね」
「協力してくれるのか?」
「うん、もちろんだよ。キング、これからは仲間同士だ」
少女は柔らかな表情を浮かべながら、その場で立ち、俺に手を差し伸べた。
「ああ」
俺はそう言いながら、少女の期待に応えるように、強く手を握った。




