第四話 旅立ち
俺は目が覚めた。辺りはすっかり暗くなっていて、夜空には輝くたくさんの星が目に映る。
その時、俺はあの破壊神との熾烈な戦いが脳裏を駆け巡り、思い出した。
(そうか、負けたんだったな…)
俺はあの少女との戦いで敗れたのだ。策を講じながらも戦ったが、少女にとっては小細工にしか映らなかったのだろう。
そして負けたら、少女と協力して、一緒にブリディスを倒すという約束を俺は断ったのだ。
少女は情けをかけて、仕方なくその断りを承諾した。俺は情けをかけられたことが悔しかった。
俺は少女に借りができたのだ。返さないと、俺のプライドが許さない。
都セントラルに行ったら、直接会って借りを返そうと思う。そのためにも今は鍛錬を続けるべきだと思い、俺の体は考えるよりも先に動いていた。
* * *
そうして月日は流れた。あれから一年ほどは経っただろうか。
俺はあの日の情けをかけられた悔しさをバネにして、鍛錬を欠かさず続けていた。
あの少女に一刻も早く借りを返さなければいけないのだ。俺は既に出発する計画の算段はついている。
(そろそろ出発するか…俺の仮説が正しければ、都でもやっていけるはずだ)
俺はあの日の戦いで得られた情報から都について分析した。
まず神力が覚醒する前に、俺を襲ってきたGODハンターという組織はブリディスも含む神全員を狙っているはずだ。
つまりブリディスとGODハンターは敵対組織ということになり、ブリディスは俺と敵対関係にないということにもなる。
GODハンターと同盟を組んでいないという確証は無いが、組んでいる可能性は低いだろう。
よって俺の現状の敵はGODハンターだけということになる。俺は敵となるGODハンターの実力を推定した。
クーガーという大男は、俺を倒せば幹部候補になれるというような発言をしていたため、組織の中でも中堅以上の実力者だと考えられる。
俺はあの大男を倒したので、これから送り込まれてくる刺客は、GODハンターの中でも上層の者、幹部以上の実力者ということだ。
まあこの推論はあくまで仮説でしかないので、正しいかどうかはわからない。しかしいつまでも都に怯えて、ここで過ごすのはダメだ。
仮説でもなんでもいいから、ここから早く出発して、あの少女に借りを返さなければならないのだから。
(そろそろ行くか)
そして俺は仮想敵となるGODハンターの幹部より、体感で少し上の力を身につけた。
俺はその修行の過程で、神の力についても応用を効かせた。
まず大地に手を翳し、永久逆変を使うことで、植物などの成長を遅くしたり、枯れる前の状態にまで巻き戻しをすることができるようになった。
俺はこの能力のおかげで、食糧に困ることは特になかった。今ではこの家の周りは大農場となっている。
そして武術面では、拳を相手に叩き込んだ瞬間に、時間を操ることで、再びその拳の衝撃が入るという技、重時拳を編み出した。
これによって一度の拳で二倍のダメージを与えることができるようになったのだ。
俺は修行を重ねて、この重時拳を連発できるようになり、少女との戦いの時と比べて、大幅な成長を遂げた。
そして遂に俺は今日の夜、この家から出発する。
なぜ夜に出発するのかということだが、朝に出るよりも、夜に出たほうが修行の一環としても効果がある。
それに、夜の暗闇の環境でも対応できなければ、この先やっていけないと思ったからだ。
俺は日が暮れるその時まで、鍛錬を続けた。
(そろそろ暗くなってきたな)
辺りはすっかりと暗くなり、日はすでに沈んでいる。俺は鞄に荷物をまとめて、出発する準備を整える。
「行ってきます」
誰もいない中、この家からの別れを告げる声が暗闇の中で響いた。
あれから三十分ほど経っただろうか。俺は家の中にあった地図を見ながらも、セントラルへと歩みを進めていた。
(もうそろそろ着くはずなんだが…)
暗いせいで視界が悪く、懐中電灯などの光源も無いため、進むべき道が分かりづらい。
俺はなんとか人々が集まる街の付近までたどり着く。
朝からの鍛錬で魔力を激しく消費しており、肉体が疲弊していた。
どこかで身を休められそうな場所がないかと辺りを見回してみると、木々の中に一つの灯りがついた家がある。
(家なのか?それとも宿か?)
目を凝らしてみると、そこには看板があり、Heel your heartと書かれている。
おそらくここは体を休めるための宿泊施設なのだろう。俺は警戒しながらも、ここで休むことにした。
木造建築の和風な家の扉の前に立ち、ゆっくりと声を上げる。
「すみません、ここに泊まりたいのですが…」
すると扉の向こう側から何やら足音が聞こえる。
扉がゆっくりと開く。扉から出てきたのは、清楚で美しく、気品があるボブカットの女性だった。背丈は低く、服装は着物を着ていて、年齢は俺と同じくらいだろうか。どこか心に惹かれるものを感じる。
「私はサリーと申します、サリーって呼んでください」
「俺はキングという者だ。ここはどんな場所なんだ?」
「キングさんですね、ここは旅などで疲れた人たちを癒す宿です。私はこの宿の管理人で、私の回復魔法を使って、心も体も癒すことができますよ」
どうやらこのサリーと名乗る女性は、回復魔法が使えるらしい。そして俺に向けた殺意はなく、清らかな雰囲気だったので、俺はここに身を委ねることにした。
彼女は俺を宿の中へと案内している。
「キングさんはどこから来たんですか?」
「俺はここから遠くにある山奥の荒樔山から来たよ」
「そんなに遠くから…疲れていますよね?後で私の回復魔法で癒して差し上げます」
彼女は俺を気遣って、回復魔法を使ってくれるようだ。これは有難いなと思いながらも、俺はリビングの席に着く。
彼女はお茶をコップに注ぎ、前に座る。俺は彼女から、ブリディスの支配するこの地についての情報が得られると思い、彼女に問いかけた。
「サリー、俺はこの地について知らないことだらけなんだ。詳しく聞かせてもらってもいいか?」
「いいですよ、分かる範囲でなら答えます」
彼女はふわっとそう答えた。俺は最初にGODハンターについて尋ねた。
「そうだな…まずゴッドハンターは何人ぐらいの組織構成なんだ?俺は時空神として、今奴らに狙われているんだ」
「時空神?まさかあの伝説の…」
彼女は驚いた様子で俺を見つめた。俺は自身が神であるということを口走ってしまったのだ。
彼女が時空神はここにいるという情報を、GODハンターに売りつける可能性もあるはずだったのに。
しかし彼女になら話しても良いと直感的に思ってしまったのだろう。
「すまん、驚かせてしまったか?」
「とても驚きました…まさか神の力を持っているだなんて」
「それでゴッドハンターの人数は何人程度なんだ?」
「すみません、話が逸れましたね。私でもゴッドハンターの詳しい人数は分からないのです…」
彼女は申し訳なさそうにそう言った。まあ俺にとっても、GODハンターの詳細な人数はさほど重要では無い。
問題はそのGODハンターとブリディスが同盟を組んでいるのかどうなのかということだ。
「ゴッドハンターとブリディスは協力関係にあるのか?それとも敵対しているのか?」
すると彼女は少し憎悪のようなものを瞳に宿しながら答えた。
「ブリディス…そうですね、今は敵対していますよ」
彼女はブリディスが憎いということなのだろうか。俺は気になって、聞いてみた。
「サリー、ブリディスについて何か恨みがあるのか?」
すると彼女は少しの間沈黙して、怒りを抑えているような声で言った。
「私はブリディスの率いる四天王の一柱に家族全員を皆殺しにされました…」
なんと彼女は家族を皆殺しにされていたのだ。俺は良く無いことを聞いてしまった思って、彼女に謝った。
「そ、それは悪いことを聞いてしまった…すまんな」
「大丈夫ですよ。今はもう気にしていませんから」
彼女は平然を装って答えているように見えた。やはり心の奥ではまだ憎悪の感情が残っているのだろう。
そして俺はブリディスが従える四天王という存在については初めて知った。その存在について詳しく聞きたかったが、流石に申し訳ないと思った。
しかし俺はこの地についてもっと知っておかなければならないのだ。俺は悪い事だと思いながらも、彼女に四天王という存在について尋ねた。
「ところで、その四天王は何者なんだ?すまんが教えてくれないか」
「…四天王はブリディスに仕える四人の神です。私は四天王の一柱である雷神に家族を殺されたんです…」
彼女は憎しみを堪えながらもそう言う。整理すると、ブリディスとそれに従う四天王、それがこの都会の絶対的な支配者ということになるのだろう。
俺はこれ以上彼女に辛い記憶を思い出させるのは申し訳ないと思ったので、これ以上の追求はしなかった。
「そろそろ休憩したいところなんだけど、回復魔法で癒してくれないか?」
「もちろんです。こちらの部屋に案内しますよ」
俺は彼女に二階へと案内された。そこは寝室であり、彼女はそこに俺を寝かせる。
そして彼女は背中にマッサージをし始めた。回復魔法を使用しながらのマッサージだったので、体の疲労が瞬時に消え去るような感覚だ。
「どうですか?私のマッサージ痛くないですか?」
「大丈夫だ。サリーのマッサージ、すごく癒されるよ」
「ふふ、ありがとございます」
彼女は少し喜んだような表情で、マッサージを続けている。俺は彼女の表情に少しだけ心温まる。
その間にふと疑問に思った。ブリディスが憎いということは、それに敵対するGODハンターのことはどう思っているのだろうか。
仮にGODハンターの味方ならば、俺にも危険が及ぶ。念の為、彼女にそのことを尋ねた。
「サリーはゴッドハンターの味方なのか?」
「私はゴッドハンターなどという組織は大嫌いです。ただ神の力を持っているという理由だけで、無実の者を殺すなどあり得ません」
「そうなのか、それは良かった…」
彼女は嘘偽りのない真っ直ぐな瞳で答えた。俺は直感的に彼女の言葉に嘘はないのだろうと思い、安心した。
そしてそのまま俺はマッサージをされながらも、気がつけば深い眠りについていた…
* * *
キングが宿で深い眠りについていた頃、ある場所で、ブリディスとそのブリディス率いる四天王が集まっていた…
「みなさん、これから四天王会議を始めます」
スーツ姿の男は乾いた声でそう言った。すると、四天王の一人が早々と言った。
「僕はもうこの先話す内容を理解できたのでね。もう帰らせてもらうよ」
その発言を聞いていた四天王の一人が声を荒げた。
「おいおい!もう帰るのかよ?お前、調子に乗ってるんじゃねぇだろうな?」
「では…」
巨体の大男の言葉を無視し、その男はそこを後にした。その場には四人だけが残った。
「では話を始めます。つい先日、四天王の一柱のライゾウがやられてしまいました、新たな四天王を迎え入れるべきではないですか?」
すると大男は笑いながらも言った。
「ブハハハハ!人員補充ってわけか!前にライゾウの雑魚がホエールとかいう奴にやられて、今の四天王は三人だもんなぁ」
その言葉を聞いて、ガタイの良い野太い声の男が反論する。
「それは大丈夫なのか…まだまだ発展途上の神を迎え入れたところで、戦力にならない気がするのだが…」
「ブハハハハ!リュウシ、まさかお前、四天王から落ちることにビビってるんじゃねぇだろうな?」
「そ、そんなことはない…」
「まあお前の実力だと、新しく入ってきた奴に抜かされ、その後に他の神と交代っていうのもあり得なくはないけどなぁ!ブハハハハ!」
大男はリュウシと呼ばれる男を煽るように言った。するとブリディスはその場を収めるように話した。
「まあまあ落ち着きましょう、私は近々新たな四天王を迎え入れたいと思います。異論はないですか?」
「特にないぜ!まあ入ってきたら、俺が可愛がってやらねぇとなぁ、ブハハハハ!」
「異論はないが…」
大男は声を荒げながらも納得している様子だった。しかしリュウシと呼ばれる男は、そのことについて不満の様子だ。
「ではこれにて四天王会議を終了にいたします…」
スーツ姿の男、ブリディスはそう言ってこの会議を締め括った。
この先のキングの身に不穏な空気が立ち込めていたのだった…




