第二話 破壊神の思惑
家族を殺した日、俺は時空神キングとして生まれ変わった。
退屈な日々も終わり、これからは毎日が充実した生活を送れるのだと気分が高揚していた。
しかしあの日以降、俺の生活が一変したことは特に無かった。
なぜなら俺はこの世界の社会情勢などが全く分かっていない。そのためやりたい事も特に見つからず、再び退屈な毎日を過ごす他なかったのだ。
俺は本を読みながらも、退屈しきって、その場で寝転ぶ。このまま目的も何も無しに一生を終えるのかという不安で頭がいっぱいになる。
しかし俺はその時、ある疑問が頭の中に浮かぶ。
(そもそも神って、寿命の終わりはあるのか…?)
神になったということは、年老いて老衰するのこともないのかもしれない。俺はこの退屈が無限に続くのかもしれないと思って、恐怖を感じた。
(何か目的を見つけないと…)
俺は目的を見つけるために、この国を離れ、遠く異国にある都セントラルに行くことを決意した。
しかしいきなり出るのは危険だ。あのような手強い砂使いが、無数にいるかもしれない。そしていつ襲ってくるのかも分からないのだ。
俺は神の力や武術を極めて、いつ襲われても、対処できるよう対策すると決め、その日から鍛錬を始めた。
* * *
そしてその日から、およそ二ヶ月ほど経っただろうか。
俺は毎日毎日、日が暮れるまで、鍛錬に励んだ。時折、武術の本からの学びも得て、俺はより一層強くなった。
そして俺は武術だけではなく、神の力を使いこなす特訓にも精を出した。
俺は遂に神の力を応用させて、新しい技を編み出すことに成功した。
(これは便利だ…これならいつでも回復できる)
俺は砂使いと戦った時に使った永久逆行の技を応用させた。自身の体に手を翳し、その技を発動することによって、体の一部が巻き戻されて、回復するという技だ。
そのお陰で、負傷しては回復してを繰り返し、自給自足的に鍛錬を続けられるようになった。
俺は今日も、意気揚々といつものように鍛錬に励んでいこうと意気込む。
しかし森の奥から何やら一人の人影がうっすらと浮かんできた。
(誰だ?)
森の奥から現れたのは、一人の少女だった。中性的な顔立ち、そして青髪の長髪で、瞳からは何か使命を感じるさせるような赤色。腰には刀を携えており、明らかに只者ではない。すると少女はこちらに来て、突然口を開いた。
「僕はホエール、君はタケルだと伺っている。会いたかったぞ」
少女は少し澄んだ声でそう言った。
なぜか俺に会いたかったと訳のわからないこと言ったので、俺は咄嗟に言葉を吐き出す。
「俺は時空神キングだ…なぜ俺の元の名を知っている?」
「キング…?そうか、神の力に目覚めた人間はこうなるのか」
少女は呆気ない声で言い、俺に対して近づいてきた。俺はすぐに警戒心を強める。
「な、何をする気だ…」
「安心してくれ、何もしないよ。僕はキング、君に話があって来たんだ」
俺はその言葉に少し警戒心を解く。どんな要件かくらいは聞いてやってもいいと思った。
「なんの要があって来たんだ?普通、こんな辺境の地に人が来るはずないだろ」
「人ではないよ、僕は破壊神だ。君と同じ神だよ」
俺はその言葉に衝撃を受ける。
(こいつも俺と同じ神…まさか、俺を殺しに来たのか?)
俺はその言葉で戦闘体制に入る。しかし少女は全く動じず、むしろ少女の魔力から邪気や殺気のような物は感知できない。
俺は少女のその態度で、戦闘体制を解いた。
「怖いなぁ、急に殺気を感じたから驚いたよ」
「破壊神だから警戒して当然だろ。俺はてっきりあの日のように殺されるのかと思ったぜ」
「あぁ、ゴッドハンターのことね。やっぱり噂は本当だったのか」
少女は平然とした様子で喋り、GODハンターについて知っているような事を言った。俺は気になって、そのことについて尋ねた。
「ゴッドハンターについて知っているのか?」
「もちろん知っているよ。神を狙う謎の組織。目的は分からないけど、僕たちの敵って訳だ。ゴッドハンターの刺客が消息不明みたいだから、キングは今重要指名手配にされているよ。僕はその噂からここにやって来たんだ」
少女はそう答えた。重要指名手配になっていると言うのも驚いたが、俺はそのGODハンターという組織がなぜ急に俺のことを狙って来たのか疑問に思ったので尋ねた。
「なぜ神の力に目覚めていない俺を急に狙って来たんだ?普通は神の力に目覚めた後に狩るはずだろ?」
俺はその疑問を少女にぶつけた。すると、少女はそのことについて詳しく話し始めた。
「それは力が目覚める予兆があったということだよ。キング、神の力に目覚める前に普通の人間とは違う特徴は無かったか?」
俺は少女の解いに心当たりがあった。俺は生まれた時から異常に五感が優れていたのだ。もしかしたらと思い、少女に説明した。
「俺は生まれた時から、五感が異常に優れていた…これは関係あるのか?」
「それも目覚める前の予兆の一つだよ。それ以外にもあっただろうけど、キングの親はそれらを察知し、欲に負けて、報酬の為にゴッドハンターに差し出したんだと思うよ」
俺はそれを聞いて納得したと同時に再び親に失望した。やはり俺を愛してくれてはいなかったんだと。
「ホエール…お前もゴッドハンターに狙われているのか?神の力が目覚める前になぜ殺されなかったんだ?」
「もちろん狙われてるよ。でも、僕は元々破壊神一族から生まれて来たんだ。だから一族の加護もあって、幼少期に殺される事もなかったよ」
そこで俺は破壊神一族という存在を初めて知った。俺のように運良く神の力に目覚める事以外にも神の力を授かる方法があるのだと分かった。
俺は気になって、神の力について詳しく尋ねてみた。
「神の力って、一体なんなんだ?」
「神の力っていうのは、この世界が誕生する時に発生した世界の根源の力のような物だよ。神々はその力を授かって、その時から今まで受け継いできたって訳だ」
少女は続ける。
「そうやって僕は破壊神一族として生まれて、神の力を継承した。君のように既に一族が途絶えたはずなのに、再び神の力が目覚めるケースは極めて稀なんだけどね」
俺はその話で、神の力という存在について理解した。まだまだ聞きたいことはあったが、その話に聞き入りすぎて、少女が何の目的で来たかを聞く事を忘れていた。すると先に少女から話し始めた。
「ここまで丁寧に話したんだから少しは信用してもらえたかな?もう忘れてるみたいだけど、ここに来た要件を話させてもらうよ」
「そうだったな。その要件とはなんだ?」
すると少女は急に瞳の色を変えて、戦々恐々とした様子で話す。
「僕が住んでいる都には、ブリディスという絶対的な存在がいるんだ。奴はこの世界を支配している神だ。幸いにもキングの土地は辺境に位置するから、支配は及んでいないけど、僕たちの住む場所は奴の支配を受けているんだ」
「それがどうかしたのか?国には統治する王がいるのは当然じゃないのか?」
俺はそのブリディスという神の存在について、少女が怪訝そうに説明をするのに疑念に感じた。普通の国では、支配する王がいるのは当然だと思ったからだ。
しかし少女は少し怒ったような顔で必死に話し始める。
「ブリディス、あいつは悪魔だ…やりたい放題に戦闘をする戦闘狂…その被害は民にまで及んでいる。僕はそれを止めたいんだ…キング、僕と協力してくれないか?」
少女は必死に俺に説得してきたが、初対面の者を簡単に信用するほど、俺も甘くはない。そもそも俺は別の者の方針に従うつもりはないのだ。
「悪いが…お前に協力するつもりはない」
「なぜだ?理由を聞かせてくれ」
「理由か?ただ自分のやる事は自分で決めたいだけだ」
俺ははっきりと断った。しかし少女は、俺が断ることを、分かりきっていたような顔で話し始める。
「まあそう言うと思ったよ。じゃあ一つ条件を提示してもいいか?」
「条件?なんだそれは?」
「この場で僕とキングの一対一の戦闘を行い、もし僕が勝てば、素直にブリディス討伐に向けて協力してもらう。もし君が勝てば、言うことをなんでも聞こう」
なんと少女はいきなり戦闘での勝敗で、協力するかしないかを決めるという提案をしてきたのだ。
確かに、この社会を知らない俺にとって、ホエールを自分の手駒に出来るという面ではメリットのある条件なのかもしれない。
しかしまだ顔を合わせて五分ほどの相手が提示してきた条件なので、全く信用できない。尚且つ戦闘という暴力的な提案だったので、俺は慌てて反論した。
「いや、ちょっと待て…仮に俺が勝ったとしても、お前が素直に言うことを聞くとは思えない…」
「信じてもらえないかぁ…まあその時は僕を殺しでもなんでもしてくれればいい。勝てば関係ないんだからさ」
俺は少女の真っ直ぐな姿勢と、先ほどの神について話してくれた親切さも相まって、その話に偽りは無いと直感的に思った。
まあ仮に条件を守らなかった場合でも、少女を力づくで抑えられるということなので、問題は無いか…
しかし一番の問題は少女の戦闘力だ。破壊神一族の生まれもあり、俺よりも神の力の使い方については熟知しているはずだ。
ただこのまま引き下がるわけにもいかない。今まで特訓してきた成果をここで発揮し、少女を手駒にできれば、今後ここを出る際にも、かなり動きやすくなるだろう。
気付けば俺は、流れるようにその条件を承諾していた。
「その条件、飲んでやってもいい…ただし後悔するなよ?負けるのはホエール、お前の方だ」
「それはこっちのセリフだよキング、じゃあ早速、戦闘開始といこうか」
少女の戦闘開始の合図とともに、俺と少女の協力を賭けた戦いは始まったのだ。




