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やがて少女に至る病  作者: 沼米 さくら


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1/1

少女病の彼岸にて


 ——わたしには、過去がない。


「ねぇ、少女病って知ってるー?」

 教室。誰かの話し声に、わたしは背筋を震わせた。

「なんでも、どんな大人でも一度かかれば小さな女の子になっちゃうんだってー」

「え? 骨格とかどうなるの?」

「要らない骨は溶けちゃうんだってー」

「なにそれ怖っ」


 わたしはそれを聞きながら、教室の外の青空を睨み、ほうっと息を吐いた。

 ——少女病。わたしの過去を奪った病気。

 中学校の制服。少し大きめのブレザーの下に着込んだジャンパースカート。ブラウスとその下につけた些か幼い下着は、蒸れて僅かに濡れている。

「もしかすると、この中に少女病の子がいたりするんかな」

 栗色の髪が、少し肩から垂れた。

「えー? そんなわけないでしょ」

「でももしいたとしたら面白くない?」

 クラスメイトの誰かの言葉に、わたしはただ目をそらすばかりで。

 ……面白くなんてないよ。

 言いたかったけれど、言っても意味はないので黙りこくるしかない。


 チャイムが鳴った。これから朝の学活だ。何人かに分かれて話していた生徒たちは、いそいそと着席していく。

 転校生として入学した中学校。顔なじみになった担任教師とは別に、一人の男が教室に入ってくる。

 見かけは二十代と言ったところか。あまりぱっとする感じではないものの整った外見は、まさしく三枚目といった言葉がふさわしいような感じがする。

 ざわつく教室。「静かに。静かにー」と担任の中年女性は声を張り上げた。

「えー、今日から教育実習生が赴任してきます。自己紹介してください」

「教育実習に来ました。山科(やましな)です。よろしくっす」

「……言葉遣いには気をつけてくださいね?」

「あ、はい」

 会釈をする青年。女子同士がヒソヒソと話す声が聞こえる中、こころなしか彼はわたしのほうを見ているような気がして。


 背筋がゾクリとするのを感じた。

 別に、見知らぬ男の人に見つめられたからとかではない。わたしはそういう事を気にするような性格ではない。

 感じたのは、もう少し生理的な事象。即ち、尿意で。

 ほんの十数秒。「あ、あの」そう手を上げようとする刹那、下着があったかくなった。

 ……また、やってしまったらしい。

 温かくなるのは下着の中だけ。なぜなら、その下着は特別なものだから。

「…………トイレ、いってきます」

 きっと何人かには察されてしまっているかもしれない秘密。それを『交換』するために、わたしは教室を出た。


 向かう先は、トイレではなく保健室。

 白いドアを開けると、養護教諭は「どうしましたかー……あー、宮津さんかぁ」と軽く伸びをした。

 室内の洗面台についている鏡に写った姿。

 肩の少し下くらいの長さで切り揃えられた栗色の髪。顔は幼めながらも整っている。僅かな膨らみが見られる胸部と、少し大きめの尻。全体的に小柄で、少し地味めな女の子。

 それが、身体年齢十三歳と判定されたわたしの姿だ。……十三歳にしてはいささか幼い気もするが。


 いつも通り保健室の脇においてあるベッドに腰掛け、カーテンを閉める。しばらくすると、養護教諭の先生がカーテンを小さく開けて、『それ』を持ってきて。

「ちょっと休んだら、早く教室に戻りなよ?」

「……うん」

 一言づつ言葉を掛け合ってから、それを受け取った。

 ——換えの下着にしては、分厚くて不思議な感触がする白基調の物体。

 ピンクのハートなどのやたらとガーリーな柄がちりばめられたそれは、幼児用で一番大きなサイズの紙おむつ。

 地味にお高めなそれは、乳幼児の柔らかくて弱い肌にも優しいサラサラで蒸れにくい素材。もちろん布のショーツよりかは圧倒的に蒸れるが、それでも他のブランドのものよりかはマシなのだろう。

 少女病の後遺症。尿道が以前より短くなったがゆえの、非認知記憶——無意識が覚えていた感覚とのズレ。それが尿失禁という形で現れる。そう医者は推察していた。

 スカートを捲り、中に穿いていた体操着のズボンを脱ぐと、内側が黄色く膨らんだ下着が顔を出す。周囲を濡らさないように慎重に脱ぎ、ベッドの上に仮置き。

 そして、新しい下着を両手で広げて、片方づつ足を通す——そのときだった。


宮津(みやつ)ッ、大丈夫か——あっ」

 カーテンを開ける音。目の前には、青年。

 わたしは固まっていた。——いままさに、おむつに片足を突っ込んだ状態で。

 なにをしているのかは明白だったであろう。


 ——見られた。教育実習生とはいえ。見られちゃった。


 数秒後、そっと閉じられるカーテン。

「……っ」

 顔面が沸騰した。


 さいあくだ。

 これが、山科 (みつる)という男に対するファーストコンタクトにして、ワーストコンタクトであった。


 少し経って。

「さっきは申し訳ありませんでしたッ!」

 山科先生は平謝りしていた。

 いそいそと下着を交換して短パンも穿いたわたしが、カーテンを開けたと同時のことである。きっと養護教諭の先生に思いっきり叱られたのだろう。少ししおれたように見える。

「……いいですって、せんせー」

 そう控えめに口にすると、彼は気まずそうに目を逸らしながら、わたしの隣に少し間隔を開けて座った。

「えと、戻らなくていいんですか?」

「ああ、うん。一応、担任の先生に君の様子を見に行くように頼まれてるから。あと、生徒のことももっと知っておかなきゃいけないし」

「言い訳がましいですよ?」

「ぐぅ……」

 コミカルにコロコロ表情を変える彼に、わたしは辟易する。ちょっとでも仕事をサボりたいという願望が見え透けてるぞ。

「まあいいですけど」

 小さくため息をついたわたし。彼の顔は少し明るくなったように見えた。


「そういえば……名前、一応聞いておいてもいいかな」

 山科先生はわたしに訊く。

「……名前を聞くなら、先に名乗るのが礼儀じゃないです?」

 指摘すると、彼は少し目を見開き、それから細めた。

「山科 満。そっちは?」

「……宮津 (ほたる)。名簿で見てるとは思うんですけど」

「いやぁ、まだ顔と名前が一致してなくてさ」

「あと敬語、抜けてますよ?」

「あっ、やべ」

 彼は後頭部を掻いてひょうきんに笑った。


 少し笑ってから、彼は少し優しい声で告げた。

「なっつかしいなぁ。昔、君と同じ名前の友達がいたんだよ」

「……え?」

 今度はわたしが目を見開く番だった。

「友達って言っても、結構仲のいいやつでさ。いわゆる、親友ってやつ。中学生ん頃に仲良くなってさ、たまに家に遊びに行ったりもしたんだ。大人になってからもたまに飲みに行ったりしてたよ」

「…………」

「懐かしいなぁ……ほんと。いまどうしてんだろ。……宮津?」

 呼びかけられ、わたしの頭は再起動した。

「あっ、なんでもない! なんでもない、です。……ただ」

 ぽつりと息をついたわたしを、彼は怪訝な目で見た。


「わたしには、昔の記憶とかないので。なんか、羨ましいなって」


 そう告げると、彼は笑うのをやめ、少しだけ目をパチパチさせ。

「……話、聞かせてもらっていいか?」

 やがて真剣な顔をしてそう告げた。


 少しだけ、予感がした。

「あの……わたし、少女病にかかってたらしくて」

 チリチリと、火花が飛ぶような予感が。

「あるところからの記憶が思い出せないんです」

 告白するわたしの顔を。

「それで——わたしのもとの年齢は、せんせーとおんなじくらいだった、らしい、です」

 彼は少し呆けたように見つめていた。


「……そういえば、宮津は最近転校してきたって聞いた。それって——」

「うん。確か、戸籍が身体年齢に準拠して修正されるって、役所の人が言ってたから」

「てことは……お前」

 ようやく、彼も状況を察したらしい。

 絶対そうだとは言わない。けれど、状況証拠がそれを証言している。


 ——わたしは彼の、親友だったと。


 呆気にとられたように口をパクパクさせる彼に、わたしは目を細めた。

「……あの、宮津。元の記憶って、どうなってんの?」

「ない、です。思い出そうとしても、モヤモヤがかかって全然思い出せないんです」

「の割には博識そうだけど」

「知識とか常識は消えなかったみたいだから……」

「あー、意味記憶は残ってるんだ」

「そうみたい、です」

 そこまで話すと、彼は。

「……はは」

 少しだけ、渇いた笑い声を発して。

 それから、俯いて、黙った。


「……人の『死』って、案外あっけないものなんだな」

 やがて彼は、俯いたまま、笑みを忘れ、告げた。

「わたしはまだ、生きてますよ?」

「十三歳になった『少女としての宮津 蛍』は、な。肉体も変化してなお生きていると言っていいだろう。……けど、二十二歳の『宮津 蛍という男』はきっと、死んでしまったんだと思う」

「…………」

 慰めようにも、なにも言えることはなかった。

 その言葉は間違ったものじゃない気がした。なにより、なにを言ったところで彼の心の慰めにはならないだろう。

 わたしはただ目を細めて俯くばかりで——しかし彼は深呼吸して、それからパンと一つ頬を叩いて立ち上がった。


「宮津。今日、お前んち行ってもいいか」

「……せんせーは生徒に手を出すロリコンの淫行教師なんですか?」

 茶化しながら訪ねてみると、彼は少し目を丸くして。

「違うから。——墓、作ろうぜ」

 そんなことを提案した。


    *


 わたしたちは、家に向かって歩いた。

 帰宅部なのに放課後の遅い時間まで教室に居座って、わたしは山科先生を待った。

 夕方六時ごろに教室に来た先生といっしょに、通学路を歩く。途中にホームセンターに寄って。


「……これ、重くないんですか?」

「重いよ。結構重い。持ってみるか?」

「遠慮します……」

 ホームセンターで買ったのは、わたしの中学生にしては低めな身長の、だいたい三分の二くらいある大きめな木の板。厚さはだいたい一センチであまり幅もないとはいっても、結構重くて持ちにくいはずだ。それを、山科先生は担いでいた。

「もうすぐ家だろ?」

 尋ねられると、わたしはコクリと頷く。彼は、何かの確信を得たように頷き返した。


 さて。

「なっつかしいなぁ……少し女の子っぽく改造されてるけど、まさしくけーちゃんの家だ」

 わたしの部屋にあぐらで座った先生。

「けーちゃん?」

 だれ? と尋ねようとすると、彼は笑って。

「あいつ……前の宮津にそう呼んでくれって言われてたんだ。ほら、『蛍』って字は『けい』とも読めるだろ?」

「ほんとだ……。でもなんでです?」

「『ほたる』って名前が女々しくて苦手だったらしいぜ。実際そんなことないとは思うんだけどな」

「そうなんだ……」

 なにかを誤魔化すように笑う彼に、わたしは訊く。


「それで、お墓ってどう作るんですか?」

「ここの庭に土を盛って、この木を立てる。それだけ」

「それだけ?」

「遺体がないから埋めるものもないし、なにより厳密に死んだわけでもないから正式な墓は建てられない。だから、こうして墓標だけ立てておくのが、一番手っ取り早くて最適なんだ」

「へぇ……だれから教えてもらったのです?」

「昔のけーちゃん……って、侮られてないか俺」

「侮ってなんかないですよぉ」


 そんな事を話しつつ、彼はわたしが出してきた習字セットの毛筆で、丁寧に字を描いていく。

 ——『宮津 蛍、ここに眠る』


「眠ってないんだけどね」

 茶化しながら告げると、彼は少し笑った。


 下に降りて、母親に許可を取って、庭に出る。

 借りてきたスコップで、彼は穴を掘り始めた。

「……なんで掘ってるんですか?」

「ある程度埋めないと、こんなデカいの立てられないだろ?」

「それもそっか」

 ザクザクと土を掘っていく彼の様子を見ながら、わたしはなんとなく尋ねる。


「……ねぇ、なんでお墓なんて作ろうと思ったんですか?」

 聞かれると彼は、一瞬手を止めた。

「なんでって言われてもなぁ」

「言ったら悪いかもですけど……こんなので、前のわたしが浮かばれるなんて、思えないんです。手を合わせられたところで、なんにも変わんないような気がして——」

 そう口走ると、被せるように「わかってるよ」と返された。

「……わたしには、これが自分勝手なエゴにしか思えないです」

 疑問を呈するように言うと、彼は皮肉げに笑って。

「ああ、そうだよ。これは遺された側のエゴなのさ」

 開き直るかのように告げた。


「……これは他でもないけーちゃんの受け売りなんだけどな」

 山科先生は、ふうっと息をついて、オレンジの空に向かって軽く伸びをした。

「葬式や墓っていうのはさ、実は遺された人のためのものなんだよ」

「死んじゃった人の供養、じゃないんですか?」

「そういう意味もある。だけど、違う意味もある。——そういうのは、遺された人々が前を向くための儀式なんだよ」

「…………」

「いなくなってしまった人のことを思い、手を合わせる。そうすることで、別れを実感する。

 死者と、訣別するんだ。もうその意志に縛られないように。

 そうすることで、遺された人々は前を向くことができる。——そう、あいつは言っていたよ」

 なにも言えずに、わたしは彼の話を聞いていた。


「さて。このくらいでいいかな」

 言いながら彼は穴を掘ることをやめ、木の墓標を担いでくる。

「そっち、支えててくれ」

「あっ、うん」

「せーのッ!」


 こうして、庭に墓標が立った。

 なにも埋められていない、小さな墓標だ。

「……手、合わせようか」

 山科先生の提案に、わたしはわずかに頷いた。


 静寂が満ちる。

 鳥の声。徐々に暗くなる空。どこかの子供の笑う声。風の凪ぐ音。——様々な日常の音が響く住宅街。

 小さな墓標は、何処かわたしたちに微笑むように、一つの影を落とす。

 ——これできっと、わたしたちは前を向ける。


「じゃあ、行こうか」

「そうだね、せんせー」

 さよなら、過去のわたし。

 小さく深呼吸して、わたしは墓標に背を向けた。


    *


 ——そんな日から、二年近くが経った。


「みーくん。起きて」

 布団に横になっている彼——山科 満をゆさゆさと揺り動かすと、彼は「うーん……あとごふん……」と口を動かした。

「そうやってもう三十分も寝てるの、よくないよ?」

「んあ……え? いま何時?」

「七時半」

「うわああああありがとうほたるちゃん!」

 飛び起きた満に、わたしはがんっと頭をぶつけた。

「あっ、大丈夫!?」

「うん。……ちょっともれた」

「ごめん!」


 慌ただしい朝。狭いアパート。てんやわんやで準備をする彼を横目に、わたしはトーストをかじる。

「みーくんのパンはここね?」

「ありがと! ほたるちゃんは学校大丈夫!?」

「うん。八時に出ればもーまんたい」

「それはよかった!」


「そういえば、宿題進んだ?」

 ようやく食卓について小さく手を合わせた彼に、ふと尋ねられる。

「うん」

 頷くと、彼は「よかった」と息をついて答える。しかしわたしは軽く嘆息した。

「……あれ、結構簡単だったよ? 生徒の勉強にはならなくない?」

「それはほたるちゃんの頭がよすぎるだけだから。そういうのは自分を基準にしちゃダメだから」

「そーなんだ……」


 彼はかりかりと音を立てながらトーストをかじる。わたしはそんな様子をうっとり眺めていた。

「ほたるちゃんも飯食いなよ」

「わたしが用意したんだよ? いつ食べてもいいじゃん」

「それで学校遅刻するの良くないだろ? まして今年は受験なんだから」

 小言がうるさい彼に、わたしはフーっと息をつく。

「じゃあご飯作りに来なくていい?」

「え、それは困るんだけど。俺、家事とか苦手だから」

 彼は困惑した。……毎晩、宿題や勉強をしにやってきたという体のわたしに頼り切りなの、よくないよ? その設定を使ってノリノリで通い妻やってるわたしもわたしだけど。

「じゃあもっと相応に扱ってよ。生徒の女子中学生にご飯作らせてよろこんでるロリコンの淫行教師さんっ」

 茶化してみると、彼はトーストを落としそうになった。

「おおお、俺はロリコンじゃないし? ましてや淫行教師でも——」

「あー、すっごい困惑してる。ご飯、作りに来なくていいのかな?」

「ちげーよ! 俺はロリコンじゃねえって!」

「冗談だって」

 言いながら、わたしは笑う。


「……ほたるちゃん、最近よく笑ってるよな」

 言われて、わたしは少し目を丸くした。

「そう、かなぁ」

「うん。……やっぱ、いまのほたるちゃんは笑ってる方が似合うよ」

 きっと彼にとっては何気ない言葉だったのだろう。しかし、わたしの頬は薄ら赤く染まった。

「おーい、ほたるちゃん?」

「はっ、へ……?」

 少し、上の空になっていたようだった。

「大丈夫? なんだかぼーっとしてるように見えたけど」

「ああ、うん。大丈夫、だいじょうぶ……」

 下着の中が熱くなったのを感じた。替えなきゃ。

 ……緊張すると失禁する体質、どうにかなんないかなぁ。


「ってか、みーくんせんせー」

 わたしは照れを誤魔化すように彼を愛称で呼んで。

「なに?」

「時間大丈夫?」

「へ? ……うわあぁぁぁあ新任一ヶ月で遅刻とかマジで洒落になんねえ! ありがとほたるちゃん! 行ってくる!」

 ダダっと急いでスーツのジャケットを着込んで革靴を履いた彼に、わたしは手を振る。

「また学校で!」

「いってらっしゃーい」


 さて、わたしも時間があるわけではない。

 少し硬くなったトーストをかじり終わると、少し急ぎ気味に制服を着込む。もちろんおむつも替えておく。

 ——あの頃からほとんど変わらない体格。三年生になっても少し大きめのブレザーに腕を通し、それから思い出したように、髪を梳いた。

 セミロングで栗色の髪。……山科先生(みーくん)はよくきれいだって言ってくれるのが、少し嬉しい。

 洗面台の少し汚れた鏡を使って前髪を整える。ヘアピンを使って、ちょっと可愛い感じに。

 スマホのアラームが八時ちょうどを告げる。意味もなく垂れ流した朝の情報番組。天気予報は見逃したけど、外の明るさ的に雨は降らなさそうだ。

 リモコンでテレビを消し、カバンを持って、玄関に向かう。


 ——わたしには、過去がない。

 けれど、未来はある。あの日、そう教えてくれた。


 ——進もう。君のいない道の上へ。


 だれもいなくなった部屋に、わたしは「いってきます」と小さく呟き、玄関のドアを開けた。


Fin.


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