第6話 正義の意味は未知なる答え 後半
仲間に早く離れるよう叱ったのも、できるだけ巻き込まれないようにするのため。
その勇気には、どこか賞賛の言葉をかけてやりたい気持ちもあった。だけど、私が最初に思い浮かべたのは——
「……愚かだ」
目を閉じて深く息を吸い、心に一切の動揺もなく、むしろいつもより冷静な私は、ただ過去に何度も繰り返してきたように、ごく自然に手を腰へと動かす——その手が包み込むのは、光刃とは異なる、質感と重みを持つ剣の柄。
「ハッ!もう遅いんだよ!今さら何をしようと、たとえさっきの何でも貫く光刃でも!こんな至近距離での爆発を止められるわけがない!!」
「……」
何でも貫く、か……歯ぎしりするような男の叫びと、空中で破裂し始めたボール、そのすべてが過去の記憶と重なってゆく。
たとえ、今の私はまだ、この剣の本来の持ち主にはまだ遠く及ばずとも――
「見ていてください、霜の型、鏡花水月——」
「なっ……?!」
耳元には、剣が鞘から抜ける音しか聞こえない。視線は剣の刃先を追いきれず、周りの空気は一瞬で静寂に包まれた。息が止まり、色彩は抜け落ち、さらには水面に広がる波紋すらも進まなくなった。時間の流れが、まるで一時停止されたかのように感じられた、けれどその直後――
瞬時に閃光が剣に収束し、剣は鞘へと戻る。遠くで車の音が再び鮮明に聞こえ、地面の水溜りは後から気づいて跳ね返り、片隅の落ち葉がきれいに真っ二つに分かれていった。目の前で、爆発することなく消え去った復讐の炎は、まるで卵の殻が割れるように四散し、遅れてきた強風に過去の塵となって吹き散らされた。
状況を理解できないまま、男は足元の砕けた残骸を、酔ったように呟いた。
「そんな……まさか……貴様……エーテルを斬ったってのか……?」
「……ふぅ」
私は答えず、ただゆっくりと息を吐き――そのまま、剣を鞘へと納める。
「……ごめんなさい、またあなたの剣を汚してしまった、姉さん」
純白の剣身と精巧な模様が彫られた鞘がぴったりと合わさり、澄んだ収まる音を立てると同時に、男の朽ち木のように傷だらけの体も、最後にぐらつきながら泥の中に頭から倒れ込み、もう二度と起き上がる気配はなかった。
男が完全に崩れ落ちた。その瞬間、私は視線を路地の反対側へと向けた……そこには、あいつが死の間際まで必死に逃がそうとしていた仲間がいた、少し離れた場所で、アタッシュケースを抱きしめながら全身が震え、涙を流し続けていた。
「……見ているだけなのか?逃げることを選ばない?せっかくあいつが少しの時間を稼いでくれたのに」
「俺は自分だけで逃げるわけねぇだろうか!」
「……なぜ?」
「てめぇだけは許さねぇ!忌々しい埋葬の悪魔め!」
「……そう」
絶えず投げつけてくる石を無視し、足元の死体を踏み越えて、私は静かに歩みを進めた。
「でも……でも俺が一番許せないのは……無力な自分なんだ……!せっかく異変者になれたのに、ずっとこの変化を怖がって、拒んで……だから兄貴を……兄貴を死なせちまったんだ!」
「……そんなことで、自分を責める必要なんてないと思うよ」
「え……? な、なにを――」
涙に濡れたその顔が、不思議そうに俺の言葉へと顔を上げた瞬間だった。彼の目の前に浮かんでいたのは――
まばゆく光を放つ、一本の刃だった。
「たとえ君が加わっても、状況は変わらない。『ネズミ』がどれだけ増えても、何も変わらないんだ」
「——」
口を大きく開けたあいつはまだ何か言いたげだったが、その前に光刃が喉を貫いた——
もう一人の姿が冷たい地面に倒れ、先ほどの男と向き合うように、二人の体から流れる血が少しずつ泥の中で一つに集まっていく。これも運命の不思議というやつかもしれない……だが、少し意外だったのは、あいつが生前に投げつけた無数の石をかわした私が、あいつの死の瞬間に飛び散った血に数滴、顔をぬらされたことだった。
「……」
もしこれが毒だったら、今頃私はもう死んでいただろう。
敵があまりにも弱いから、少し気を緩めすぎてしまったかもしれない……これは帰ったら反省すべきことだ。
どんなに些細なことでも、常に刃の上を歩くような日々を生きる自分にとって、一度の油断やミスも許されはしない。
だからこそ、私は今も強く在り続けられるのだ。
……今はまだまだ足りない。私がどれほど努力しても、記憶の中の『彼女』の背中には追いつけない。
顔についていた血を拭い、私は地面のアタッシュケースを拾い上げた……幸い、丈夫なケースには何の損傷も見られないようだった。
「思ったより軽い……陣線がこれをそんなに欲しがる目的は一体何だろう……」
いろいろな可能性を考えている間に、突然髪の先の耳飾り端末から通信連絡の知らせが届いた。
「……師匠?」
視界のAR投影に表示された連絡先に少し驚いた。常に忙しい彼が、こうして任務中の私に自ら連絡してくるなんて、最近ではほとんどなかったから……。
急いで気持ちを引き締め、少し興奮しながらも緊張して通話ボタンを押した——
「ご無沙汰しております、師匠……はい、元気にしてます。あ、さっきのアレはもう回収済みです……え?直接師匠のところへ持っていくのですか……でも通常の手順では……わかりました、問題ありません……ん?私、何か悩み事があるように見えますか?彼氏ができた?あんまからかわないでください、今は何も問題ないですから……もし本当に暇なら、ドローンを送って後片付けをしてください。座標はクラウン通りA5X——」
もう少し話し合った後、師匠との通信はあっさり終わった。何かを思い出した私は、端末に表示された×印だらけのリストから、端末に表示された×印だらけのリストから、一番下にあった先ほどの二人の写真を消した。
「……もう行き止まり、か。これだけ探しても、何一つ手がかりも掴めないなんて――」
私は悔しそうに手のアタッシュケースを握りしめた。師匠から任された任務は無事完了したけれど……自分の目標については、まだ何の手がかりも見つかっていない。
「仕方ない、こうなったら、最後の手段で……直接『本人』に聞いてみよう」
私は目の前のリストを閉じ、代わりに別のファイルを開いた。群星協会において、Aランク以上の権限を持つ者だけが閲覧可能なデータアーカイブの一部だ。
その中に、あらかじめマーキングされた資料を選び出し、右上に貼られた写真を見つけた。
それは、自然な笑顔を浮かべた、可愛らしさを強調した白いセーラー服を着た少女だった。彼女の外見からは、猫のようにしなやかでおとなしく見える印象が伝わってくる。
……今の自分が着ているこの堅苦しい鎧よりも、時々彼女のような可愛くておしゃれな服装を一度試してみたいと思うことがある。
「ウィングス・スターライト……Cランク399位の……魔法少女」
この子が、私がずっと追っていた『セイモン』を、さらにもう一人の主教クラスの陣線幹部も倒したのか……。
信じられない。正直言って、Aランク中でもトップの私でさえ、支援がなければ、二人の幹部異変者に同時に立ち向かうのは難しい。
まして、Cランクの末尾あたりをさまよっている者ならなおさらだ。
「報告書によれば、敵同士が内紛を起こしたおかげで、彼女が漁夫の利を得たということか……でも私の考えでは、これは外向けの言い訳にすぎない」
……なぜなら、私が『セイモン』と一度対戦した際、あいつがどんな人物かをよく理解していたからだ。
見た目は無謀な狂人のようだが、陣線への忠誠心は非常に強く、仲間同士で内紛を起こすような愚かなことをするはずがない。
もし魔法少女が何か隠しているのなら、実際に『セイモン』を倒したのは別の人物だろう。
そして、その正体不明の人物こそが、私の重要な『目標』を奪った元凶に違いない。
……真実がどうであれ、直接本人に確認しなければわからない。
群星協会ではヒーロー同士の私闘は禁止されているが、今回はもう他に方法がない。
……最悪の事態にならなければいいが。
「……」
ふと振り返って、あの薄暗い路地をもう一度見た。……来たときよりも、なお一層、醜く見えた気がする。日差しが届かないその隅っこは、たとえ誰かが時折掃除しようとも――決して、本当の意味で『光』を迎えることはできないのだ。
……すぐにまた新たな闇が芽生えるのだろうか?
だとしても、今日はこの街から二匹のネズミが永遠に消えた。
「……待ってろ、魔法少女」
乾いた血痕を足で擦りながら、無表情でアタッシュケースを持ち直し、背を向けて歩き出した。
……正義とは何だ?
初めて剣を振るった日、師匠に聞かれたその問いは、今でも答えは見つかっていない。
※フィレーナ視点 完※




