第5話 正義の意味は未知なる答え 前半
犯罪への対処、危機への対応、エーテルの管理、弱き者の庇護──
それらを理念とし、世都で最も誇るべき組織、群星協会には、今年に入って、すでに百名以上のヒーローたちが登録されており、その中で『天才』と呼ばれる者も決して少なくはない。
だが、まるで昇りゆく新星のごとく、わずか一年足らずでAランクのトップにまで上り詰めた逸材となれば……
それは、ただ一人―
これは世都の平凡なある日に、ある少女の身に起きた、ある物語——
※フィレーナ視点※
「……正義とは何だ?」
「ひっ、ひいっ……知るかよ!来るなっ!」
人通りや車の喧騒から遠く離れた路地裏で、息を切らし、逃げ場を失った二人の男が、周囲を緊張した様子で見回しながら、必死に手にしたナイフを振り回し、あいつらに徐々に近づいていく私を追い払おうとしていた。
「……」
——ネズミ。
あいつらのみっともない姿も、この汚れきった周囲の空気も、すべてがその一言を脳裏に浮かばせた。
たとえどれほど科学が日進月歩の進化を遂げようと、
たとえ人類がどれほど過酷な戦争を乗り越えてきたとしても――
秩序を再構築し、「未来」と「希望」の象徴と謳われるこの世都において、
それらの影は、決して滅びることはなかった。
いや、それどころか、
天を突くほどに積み上げられた高層ビルの裏には、比例するように、濃く深い影が生まれていたのだ。
闇はより深い罪を呼び、罪はさらなる闇を育む。
光の届かぬ裏側に蠢く穢れは、いくら狩られても、いくら消し去られても――
まるで何事もなかったかのように、次から次へと現れてくる。
やがてそれらは、まるで霧のように一体となって広がり、手で払えば一瞬だけ視界は開けるが、手を離せばすぐにまた『濃霧』が覆い尽くす。
誰もがそれを知っていながら、誰もが目を背ける。
そんな世界だ。
……だが、目の前の二人は残念ながら、私が探している『標的』ではない。
あいつらはただの――視界を遮る『濃霧』とすら呼べない。
いずれ空に散る霧となることを夢見ながら、地べたでキィキィと喚くだけの──
「ネズミ」に過ぎない。
「じゃあ……質問を変えよう。そのナイフ、見覚えがある、確か『セイモン』から預かったものだよね?今回の任務の詳細と、あいつがどうやって倒されたか知ってる?」
「それならこっちが聞きたいよ!くそっ、やっぱりボスは貴様らにやられたのか……あと一歩だったのに、あれさえ届けられれば、俺たちは無事に陣線に入れたのに!」
「い、今、俺たちこれからどうすればいいんだよ?兄貴」
ナイフを握りしめながらも後ずさりする男の後ろで、ずっとアタッシュケースを抱えていた仲間が、手の甲で何度も額の汗を拭っていた。
……へたくそな演技?いや、こんな率直な反応を見るに、この二人は本当に何も知らないようだ。自分たちが使い捨ての道具として扱われていることにさえ気づいておらず、たとえ『セイモン』に無事にあれを届けられたとしても、待っているのは『用済み』になった後の惨たる結末だけだというのに……。
「……おい、ヒーローさんよ、取引をしようじゃないか?残りのエーテル結晶と苦労して手に入れた『アレ』を全部渡すから、俺たちを見逃してくれないか?」
おそらくは、自分たちと私との間にある圧倒的な実力差をようやく理解したのだろう。男は不安げに仲間を庇うように後ろへとかばいながら、ナイフを強く握り直し、こちらを警戒した眼で睨みつけていた。
「……見逃す?すでに体が異変化している以上、これからは陣線の指示に従って、より多くのエーテルを得る以外に……お前たちに残された道が他にあるとでも?
「……うっ」
私に見抜かれたと気づき、男は逃げる途中で引き裂かれた袖口を緊張して押さえた。服の裂け目から、あいつの腕の上部にクモの巣のように広がる黒い血管がはっきりと見えた……それは間違いなく、過剰なエーテルを勝手に使用した後、体が異変化した証拠だ。
「で、でもそれは仕方なかったんだ!そもそも貴様ら、群星協会が正義を行うならば、俺たちだって——」
「……正義とは何だ?」
「うぅ、それは……」
私の質問に一瞬言葉に詰まり、男の顔色はどんどん悪くなっていった……おそらく、心の奥底であいつはわかっているのだろう。異常な力を使って他人の無実の命を奪う行為が、決して『正義』とは呼べない。
「……それはお前らヒーローが考えるべきことだろ!」
「なるほど、だから自分の正義を捨て、危険を冒して異変者たちの誘惑を受け入れることを選んだのか……哀れだな」
——パチン。
もうこれ以上時間を無駄にする必要はないと感じた。軽い音を立てて指を鳴らすと、まるであの陰鬱な闇を完全に切り裂くかのように、舞い上がる羽根と共に銀色の輝きを集めた光刃が、まるで天界から下された裁きのごとく瞬時に私の隣に浮かんだ。
「……な、何だ!?」
目の前の突然の出来事に驚き、呆然とした男は何かを思い出したかのように自嘲的な苦笑いを浮かべた。
「そういえば、前に先輩から聞いたことがある……チーム行動をせず、いつも一人であちこち異変者を狩る浮かぶ光刃を操り女騎士がいるって……その人、もしかして貴様のことか?」
「へぇ、意外だな。このあたりにもまだ生き残りがいたとは……どれだけ『ネズミ』を掃除しても、やっぱり取りこぼしはあるってことか……ということは、お前は私のことを知っているのね?」
「はっ、やっぱり……そうか、あんたが……それにしても、この世のものとは思えないほど綺麗な顔してるくせに……やることは徹底的な冷酷非情。残酷な騎士様、いや……埋葬の悪魔と呼んだ方がいいかもな」
「……」
埋葬の悪魔……今またそんな風に呼ばれるようになったのか。
どうやらいつの間にか、異変者たちの間でヒーローたちに対して、何か暗号のようなあだ名がつけられるのが習慣になっていた。
私のあだ名はどうしても、死神や悪魔、さらには屠殺者のような恐ろしい印象に結びつくことが多い。
あいつらが私に大きな敵意と恐怖を抱いていることは理解できるが、せめて選べるなら—
「もう少しかわいいものがいいんだけどな……」
——バン!プシュ!
「うああっ!」
言葉が終わらないうちに、男は一声悲鳴を上げ、光刃に貫かれた脇腹を押さえて地面に倒れた。暗褐色の液体があいつの蜘蛛の巣状の血管から絶え間なく流れ出し、あいつが私が目を閉じて溜息をついている隙に、突き刺そうとしていたナイフは、とうに遠くへ弾き飛ばされていた。
「正面から自分より遥かに強い相手を奇襲するのは、賢明な選択とは言えない。余計な動きが多すぎだ……たとえ異変化の体が常識外れの爆発力を持っていても、エーテルの使い方をもっと学ぶべきだった」
「げほっ……やっぱり、先輩の言ってた通りだな……げほ、げほっ……俺たちみたいな非適応体のただの人間にとっては……身体を異変させるほどの過剰なエーテルですら……貴様にとっては、身の回りの一振りの剣にも劣る価値しかないってわけか……くっ、陣線の手を借りなきゃ、決して超えられない壁なんだな……」
「……なぜルールを越えようとするの?弱き者を守るのは強き者の責務、強き者に従うのは弱き者の義務……ん?」
私は軽く指を動かし、あいつの苦しみを早く終わらせようと刃を体から抜こうとしたが、刃が男に強く押さえつけられていることに気づいた。そのためあいつの服や皮膚までもが、光刃の熱で焼け焦げ始めていた。
「……残念だが、それは弱き者の痛みを理解できない貴様には、一生わからない難問さ、騎士様よ……げほっ、おい!お前なにボーっとしてるんだ?早く逃げろ!」
血だまりに倒れた男は、必死に身を翻し、血を吐きながらのどで、精一杯遠くにいる仲間に向かって叫んだ。
「で、でも兄貴を一人置いていくわけにはいかない!俺たち、二人で一緒に陣線に入ることを約束したじゃないか!」
泣き叫びながら、小さな石ころが次々と私の耳元を通り過ぎていった。その程度の邪魔は足を止めることさえできない……あいつがそうする意味が一体どこにあるのか理解できない。怯えて震える足でまともに立つこともできないのに、まだ私を撃退しようという思いを捨てないのか?
「……げほっ、バカ野郎……それはデスフラグだぞ、ハッキングしかできねぇのお前には、ここじゃ何の役にも立たねぇ……いいから、さっさと逃げろってんだ!」
再び仲間を叱った後、男は毅然と私に向き直り、血の跡を引きながら這って私の足元まで来たあいつの目には、再び臆せぬ挑発の光が宿っていた。
「まだ終わりじゃないぜ……騎士様よ……」
「自分を犠牲にして私を引き留めるつもりか?その覚悟は感心するけど、この状況下で、あいつが無事に逃げられる可能性があると思う?」
言い終わるや否や、私の横に現れた二本目の光刃が、瞬時に青い光を放ち、地面に沈み、すでに泥と血で汚れたあいつの顔を照らした。
「げほっ……もちろん分かってる、この程度の抵抗で貴様を引き留められるなんて……夢にも思わなかったさ」
「分かっていながら、あえて苦しみを延ばすのか?」
「ああ……だってそれじゃあ、つまらないだろ?貴様のような高みにいる奴らが、冷淡な眼差しのもと、虫みたいに無様に死んでいくより……一瞬でもいい、高慢な貴様が噛みつかれたときに、どんな表情をするのか見てみたかったんだよ!」
「……」
男はそう言いながら、どこからその崩れかけた体に力が湧いてきたのか、再びゆっくりと立ち上がり、血に染まった服の中から、意外にも表面が真っ黒な小さなボールを取り出した。底部を押すと、黒いボールはたちまち膨張し始め、危険な電流が火花を散らしながら、不吉な赤い光を漏らし始める。
「軍用レベルのエーテルグレネードか……まさかこんなものまで手に入れていたとは」
「ふん、あんな大事な『アレ』を持って……必死に治安官から逃げ出してきたんだ、それくらいの保険はしっかり用意しているさ。さあ、騎士様よ……今度は貴様が死に際の足掻きが始まるの番だ」
満足げな冷笑いを浮かべた男は得意げに手を放し、赤い光の点滅する頻度がだんだん速くなるボールが、あいつの緩んだ指の間からゆっくりと地面に落ちていく——
……なるほど、最初からあいつは、死ぬ覚悟で私を道連れにするつもりだったのか。




