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第19話 朝の陽ざしは、昨日の残像

確かに声はアンフィールそのものだが、この上から目線な喋り方……よくまあ、俺の貧弱な想像力がここまで捏造できたもんだ。

「つーか、まさか能力を酷使しすぎた結果、こんな幻聴まで現れる副作用があるのか?」

『副作用出てんのはあんたの脳みそでしょーーーーがァ!!!』

「うわっ!? な、なんだよ!? 熱っ、熱っ、アッツゥゥゥーー!!」

突然、手首から走った灼熱の痛みに、自責と後悔の沼にどっぷり浸っていた俺も慌てて跳ね起きる。

だが──視界が再び明るさを取り戻した、その瞬間。

手首の端末が、変身時にしか見られないようなハート型バブルを、ぶわっと派手に吹き出し始めた。

それらは空中に浮かび、重なり、波打ち……やがて渦を描くように、空へと螺旋状に伸びていく。

そして、その幻想的な階段の先に──まるでステンドグラスのような羽を広げた一匹の蝶?

いや……違う。それは蝶のようなサイズの──少女?


まるで漫画やアニメから飛び出してきた妖精のように、優雅にふわりと舞い降りると、俺の手の甲にちょこんと着地し、偉そうに足を組んで見せた。

「お、お前は……?」

「ふん、唖然としてるその顔、まさかビビって固まっちゃった?愚民め。でもまあ無理もないか。なにせ余は――」

「どこの虫だ」

──パァンッ!

「ま、待てぇぇ!? 話の途中で叩くなバカァッ!? あんたってやつ、どんだけ野蛮なのよ!」

……チッ、避けられたか。なかなか反応早いじゃねーか。

「それと今、誰を『虫』って呼んだ?! 失礼にも程がある! 目は飾りなの!? よく聞け、余は──」

──パァンッ!

「最後まで聞けぇぇッ!!無礼者め!!」

その瞬間、手首の端末がまたもや灼けるように熱くなる…… やっぱり、全部このチビの仕業か!

「うるさい! AIだかなんだか知らねぇけど、今こちとらお前にかまってる暇なんかねぇんだよ……どうせ『本当の持ち主』を失ったお前なんか、もう使い物にならな――ん?」

「なにジーッと見てんのよ、キモ…… 庶民ってほんと、何考えてんだかさっぱりわかんないわね」

「お、お前……一体誰なんだ!?どうしてアンフィールとそっくりなんだよっ!?」

呆然とする俺の顔を見た途端、小さな妖精は不機嫌そうだった表情から得意げな笑みに変わった。


声だけじゃない、顔立ちまでまるで同じ型から作られた双子みたいで……

いや、もしあいつの体が蝶ほどの大きさじゃなくて、明らかに人間とは異なる尖った耳とグラデーションのかかった長い髪がなければ……表情だけではアンフィールとの違いなんて、ほとんど見分けがつかない。

「アンフィール? 知らない名前だね……どこの研究員?識別コードは?」

「とぼけるな、このクソ虫がっ!」

そんなのが偶然で済むはずがない。怒りで勢い任せに掴みかかろうとした俺だったが……またしても、あの悪質なフェイントで華麗にかわされた。

「言葉に気をつけたまえ、庶民!今、誰と話してると思ってる?余が本気を出せば、この都市ごと跡形もなく吹き飛ばすことなど──あ、ちょっ、それ投げないで!くっさ、靴の匂い最悪ッ!」

鼻をつまみながら逃げたクソ妖精は、明らかに不機嫌そうな顔で、嫌そうに俺を睨みつけ、仕方なさそうに、口を開いた。

「まず言っておくけど、価値のない庶民相手に、嘘をつく理由なんてないわ。お前が言ってる『アンフィール』って名前には、確かに聞き覚えがないけど……さっきの一連の反応を見れば、だいたい事情は察しがつく……お前、余の『宿殻(タバナクル)』に会ったんでしょう?」

「……『宿殻(タバナクル)』?それ、何だよ」

「はぁ?余がこうして目覚めたってことは、『計画』がもう『最終段階(ラストステージ)』に入ったってことじゃない?!それなのに、腕輪をつけてるあんたがまるで事情を知らないってどういうことよ!」

「……」

「……ったく、面倒くさいわね。まぁいいわ。どうせ余は端末さえ認識すれば相手が誰かなんて気にしないし。説明は一度しか言わないから、よーく聞いてなさいよ……『宿殻(タバナクル)』ってのはね、簡単に言えば……余のエーテルを宿すための『器』のことよ。あんたの知ってる誰かにそっくりな顔や声をしてるのも――全部、余のエーテルがその子の身体から育てられたものだからってだけ……これで満足?」

「待って……今、なんて言った……?」

その一言が耳元で雷鳴のように炸裂した。一瞬、脳が白くなる。今まで信じてきた常識が、音を立てて崩れ落ちるのを感じた。

「ふ、ふざけるな……!人体を使ってエーテルを培養するなんて、正気の沙汰じゃない!そんな非人道的な方法、許されるわけがないだろ!お前、頭がどうかしてる……」

「許されない?ふん、それじゃあ……お前自身はどうなのかしら、庶民。他人のエーテルを好き勝手に操れるその力の源こそ、まさしく余と同じような『存在』から来ているのでは?くすくす……ほんっと、素晴らしい傑作じゃない。あんたって」

「な……!」

初対面のはずのこいつに、俺の『隠していた力』をあっさりと言い当てた……背筋に氷が張るような冷たい感覚が走った。

「……お前、『(ギフト)』のことを知っているのか……?」

(ギフト)?ああ、なるほど。今どきの庶民は、『あれ』をそう呼ぶのね?ふふ、なんとも皮肉が利いてるわ──(ギフト)、ね……開けてはいけない扉を開ける、最悪の(ギフト)……実に相応しいわ」

「答えろ!」

「焦らない焦らない。『それ』の話になると、すぐ感情的になるのねぇ。やっぱり庶民って、どこまでも未熟だわ〜」

にやりと口角を吊り上げたその瞬間。目の前にいたはずのクソ妖精の姿が、突如として目の前から姿を消した。


これまで、たとえ陣線(パラダイス)の連中が振るったナイフであれ、ヒーローの騎士が放った光刃であれ――どれほど目にも止まらぬ速さだったとしても、俺の視界から完全に外れることは一度もなかった。

だが、次の瞬間。どこか懐かしくも異質なクチナシの香りが鼻腔をくすぐり、空中にふわりと舞う無数の蛍光の中から、まるで時空を飛び越えてきたかのように、あいつは一瞬のうちに、俺の胸元へと現れた。

「お……お前っ?」

口を開いた瞬間、喉まで出かかった言葉がピタリと止まった。驚愕で体は硬直し、まるで石になったかのように一切動けない。

本能が警鐘を鳴らしていた──命の急所、心臓の位置をあいつの指先が、寸分の狂いもなく正確に狙っている、と。

「やっぱり、思った通りだ……完全に一体化すること、それこそが『あれ』の最も完成された形ってわけね。そうそう、さっき余に聞いてたでしょ?『(ギフト)』ってやつを知ってるかどうかって──答えは、ノーよ。なぜなら……余こそが、あんたの言う『(ギフト)』なんだから!」

「……な、に……?」

意地悪な笑みを浮かべたまま、俺の絶句する様子を満足そうに眺めるあいつは、意外にも何もせず、ゆっくりと俺の胸に指で円を描くと──そのまますっと距離を取った。

「とはいえ、余が完成まであといくつもの段階を残している。そしてお前は――この端末の現在の所有者という、まあ多少の縁もあるわけだ。ふふっ、特別にこの余の計画に参加する栄誉を与えてあげるわ。感謝しなさい!」

……はぁ?この図々しいクソ妖精、勝手に何言ってやがる。自分の目的のために、無関係だったアンフィールを平気で利用しておいて――今度は俺まで巻き込むつもりか?

「ふざけるな。さっきの話を聞いた後で、お前のやり方を認めるとでも思ってるのか?」

「余が決めたことに、お前の意思など関係ない――だが、あの『宿殻(タバナクル)』のことをそこまで気にしているなら……もう一度、会いたいとは思わないか?」

「待て……それ、どういう意味だ?アンフィール……彼女はもう……」

「死んだんでしょ?想定内のことよ。何もおかしくないじゃない。むしろ、それこそが『宿殻(タバナクル)』としての役目だったんじゃない?」

……役目?……想定内、だと?



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