エピローグ:それぞれの幸せ
読んでいただきありがとうございます!ただいま第3章を構想中です。次回更新は、しばらくお待ちください♩
その後、両国の関係は、かつてないほど、急速に、そして良好に深まっていった。
アストリア王国では、エリアス王子が正式に王太子となった。彼の、王太子としての最初の仕事は、もちろん、和平の架け橋となった姉、ソフィアの幸せを祝福することだ。
「姉上、リヒルト殿。お二人の結婚を、アストリア王国、王太子エリアスの名において、心より祝福いたします!」
王宮で開かれた盛大な祝賀会で、新王太子は高らかにそう宣言した。
そして、わたしたちは、ヴァインベルク王国へ堂々と帰還した。
愛するソフィアと結ばれることが決まった兄リヒルトは、まるで子犬のように喜びを爆発させ、父である公爵に
「喜んで家督を相続します!いえ、相続させてください!」
と、今までの拒否が嘘のように相続おねだりを始めた。まあ、王女が嫁いでくるんだから、兄が相続するより選択肢はないんだけれども…
しかし、これにより、アンジェーヌ・フォン・クライネルトが、クライネルト公爵家の跡を継ぐ、という未来は、完全に消滅したのだ!
…そう、わたしとアレクシス殿下の結婚を阻む、唯一にして最大の障害が、なくなったのだ!
後日、わたしたちは、アランディール王太子殿下の御前に呼ばれた。
「やあ、二人とも。今回の働き、見事だったよ。特にアンジェーヌ嬢、君の度胸には感服した」
いつもの胡散臭い、いや、完璧な笑みを浮かべた王太子殿下は、隣に立つアレクシス殿下に向かって、意地悪く片目をつぶった。
「まあ、アレクシスも頑張ったしねー。婚約くらい、認めてあげないと割に合わないだろう」
「…兄上、感謝いたします」
「良かったじゃないか、アレクシス。これでようやく、この『餌』は、君だけのものになるよ!」
餌っていうな!この兄弟は、ちょこちょこ失礼なのよ!
「これで、アレクシスは僕のそばを離れないし!アレクシスは好きな女と結婚できる!おまけに、僕の大事な側近の嫁は、元王太子の勉強済みで領地のおまかせが出来る!いやー、ほんと(僕にとって)万々歳だねー!うんうん、完璧な作戦だったな!」
すごーく、アランディール王太子殿下にとって都合のいい展開になったのは…気のせいかしら…
ともかく、わたしたちの婚約は、両国、両王家、そしてクライネルト公爵家、その全てから祝福される形で、正式に承認されたのだった。
◇
アストリアを発つ、最後の日。お兄様は、護衛も連れず、一人で、あの食堂『金の麦亭』を訪れていた。
カラン、とドアベルが鳴る。
「いらっしゃ…あら、リヒト!?」
「え、リヒトさん!?」
店にいた女将さんとリナちゃんが、目を丸くして駆け寄ってくる。その姿は、高価な貴族の仕立て服を着ていた。厨房から顔を出した、頑固親父のガンツさんも、あんぐりと口を開けている。
「ごめんなさい、女将さん、親父さん、リナちゃん。ずっと黙ってて」
お兄様は、少しだけバツが悪そうに、でも、いつもの人懐っこい笑顔で頭を下げた。
「僕、本当はリヒトじゃなくて…リヒルト・フォン・クライネルトって言います」
「「「…はぁぁぁ!?」」」
三人の絶叫が、店中に響き渡った。
「どこの馬の骨かと思ったら、とんでもない若様だったんじゃないか!」
女将さんに背中をバシバシ叩かれ、ガンツさんには
「とっとと帰んな、このお坊ちゃんが!」
と、照れ隠しのように怒鳴られながらも、その場は、温かい笑いに包まれた。
お兄様は、最後に、リナを店の外へと呼び出した。
「リナちゃん、ごめん。僕は、君を利用した」
「…うん、知ってた」
リナちゃんは、少しだけ寂しそうに、でも、もう涙は流さなかった。
「でも、いいの。リヒトさん…ううん、リヒルト様のおかげで、目が覚めたから。わたし、自分の足で、ちゃんと幸せになる」
そう言って、彼女は、悪戯っぽく笑った。
「それに、最近、お店に来てくれる、別の素敵な人がいてね」
その視線の先には、以前、店で噂話をしていた、リナちゃんに想いを寄せる青年が、顔を真っ赤にして立っていた。
「あなたも、好きな人と、お幸せにね!」
「…うん。ありがとう、リナちゃん」
お兄様は、心からの笑顔で彼女に手を振ると、温かい思い出が詰まった食堂を、後にした。
◇
季節は巡り、クライネルト公爵家の薔薇が、美しく咲き誇る、ある晴れた日の午後。
庭園のガゼボでは、四人の男女が、穏やかなティータイムを楽しんでいた。
「ソフィア、あーん」
「リヒルト、可愛いな…ほら、もっと口を大きく開けてごらん…」
ソフィア様が差し出すケーキを頬張るお兄様…なんだろう…ソフィア様に言われると、あの天然兄貴が可愛く見えてくるから、不思議だ。すっかりバカップルね、この二人は。
そんな二人を微笑ましく見ていると、隣に座っていたアレクシス殿下が、わたしの手をそっと握った。
「アンジェ…もう、俺の側から離れるなよ…」
真剣な眼差しでそう言われて、ドキッとする。これは、怒ってるんだろう…でも、なんだか愛に溢れている気がして、ドキドキしてしまうのだ。
「…わかってます…でも、あなたが離さなければいいだけです!」
あー、この後に及んで、なんて可愛くない返答をしてしまうわたし…
「わかった…」
アレクシスは立ち上がり、後ろから抱え込むように抱きしめる。
「絶対に、離さない…」
心臓がキュッとなり、彼の手を包むことしかできなかった。
「…本当に、離すとどこに飛んでいくかわからんからな。怒ると、さらに手がつけられない。まるで、野生の小猿のようだな!」
ーーー小猿ですって!この、『クライネルトの宝石』を小猿!
「ちょっと!もっとロマンチックな表現はないの!?」
「…まあ、そんなところも可愛いということだ…ロマンチックは、次回に、だろ?」
そう言われて、あの時のことを思い出し、真っ赤になった顔を両手で覆うしかない…
少し、障害はあったけど、二人で壁を乗り越えて、着実に前へ進んでいく。そう、わたしたちはもう、主と餌ではなくて、共に横を並び歩く人生の相棒なのだ!
これからも、どんな壁も、二人で乗り越えていくわよ!
ここまで読んでいただき、ありがとうございます♩
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