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第1話:伝染する悪意の大喜利

次回は明日の19時更新です!

 学園に復帰した日、私は覚悟を決めていた。

(婚約者に罵られて倒れた令嬢…向けられるのは、同情か、好奇の視線か。どちらにせよ、元OLの鉄の心で乗り切ってみせる!)


 そう思っていたのに…

 私を待ち受けていたのは、もっと理解不能で、悪質な遊戯だった。

 通りすがりに、チラチラ見られ、女生徒から聞こえるか聞こえないかの声で

「ドブス令嬢」

 と言われたのだ。何人かまとまっていたので、誰が言ったのかはわからない。


 え!?婚約者にそう言われた令嬢だから、自分たちも言っていいとか思っちゃったの?

 いやいや、こちとら公爵令嬢よ?ダメでしょ!


 次は、廊下を歩いていると、前方の男子生徒たちが、チラチラとわたしの方を見ながらする会話が、耳に飛び込んでくる。

「おい、聞いたか?今度の法学の課題、『ドブス』ごい難しいらしいぜ!」

「ああ、『ドブス』ごいよな!」


 ドブスごい…?ものすごい、のダジャレ?

 冗談でしょ…?私への当てつけ…?


 ザワリ、と肌に嫌な粟が立つ。

 その予感は、私の教室で確信に変わった。


「ごきげんよう、アンジェーヌ様。お加減はいかが?」

 取り巻きのリーダー格であるベアトリーチェが、ねっとりとした笑みで近づいてくる。

「ええ、もう大丈夫ですわ」

「それはようございました。私たち、とても心配してましたのよ!あんなことがあって、アンジェーヌ様のお心が『ドッブス』って刺されたようにお辛かったのではないかと思って…」


『どッブス』!?なんじゃ、そりゃ!?

「あなた、今、なんて…!」

 私が問い詰めると、彼女は扇子で口元を隠し、心底楽しそうに目を細めた。

「あら、心配してたのですよ?皆様もそうでしょう?」

「「ええ、そうですわ!」」

 他の取り巻きたちは、心配そうにわたしを見てくる者、ベアトリーチェにへつらう者と様々だ。


 私が何も言えずに立ち尽くしていると、ベアトリーチェは満足したようにさっと離れていった。

 あの、ベアトリーチェの勝ち誇ったような顔…

 そもそも、彼女はわたしのことを慕って取り巻きにいたわけではないことは薄々感じてはいた。ユリウスを慕っていると聞いたこともある。そのユリウスがわたしに『どブス』と言ったことが嬉しくて堪らないのだろう…

 もしかして、この、幼稚な嫌がらせの首謀者なのかしら?


「アンジェーヌ、大丈夫…?」

 駆け寄ってきた親友のサミエラが、心配そうに私の顔を覗き込む。

「ちょっと!今の聞いた?なんなのあの子たち!」

「…え?ええ…彼女たちなりに心配してたのかも…」

 心配ですって?心配されるたび『どブス』なんて言われてたら、たまったもんじゃないわよ!


「…ベアトリーチェはどうゆうつもりだと思う?」

「…あの子は、ユリウス様に傾倒しているところがあるから…」

「やっぱり、そうよね!だからあんなこと…」

「…アンジェ…本当に大丈夫なの?体調は戻ったの?」

「大丈夫よ!…わたしは、絶対、負けないわ!」

「…??」


 私への攻撃はエスカレートしていく…

 すれ違いざまに『どブス令嬢』と囁かれのはまだしも。いやよくないけど!


「この肉はじっくり『ドブス』(燻す)と美味しい」

「やべー!あの本に出てきた盗賊、『ドブス』(脅す)タイプだよ」

「夜の街灯を『ドブス』(灯す)仕事がしたい」

「落ち葉を集めて火を『ドブス』(熾す)と暖かいよ」

「次の休みに『ドブス』園(動物園)に行きたいわ」


 って、大喜利大会か!

 その度に、真意を問いただすも、曖昧にヘラヘラ笑うだけでらちがあかないし、しまいには、あまりにもしつこく「どういうことなの?」と聞いて回ったら、周りから、『精神錯乱している狂人』を見るような目で見られはじめた。


 数日経つと、最初は心配そうにしていた取り巻きの子達も、段々と近寄らなくなってきた。

「…アンジェーヌ様…やはり、お体の調子が悪いのではないかしら…」

「すぐに、怒鳴り出したりして、精神的に参ってらっしゃるよきっと…」

「…近くにいて、急に『何がおっしゃりたいの!』って怒鳴りつけられると、私も精神を病んでしまいそうだわ…」

 そう、話し合っていると噂で聞いた。


 いやいや、あなた達も『どブス』なんて、わざとらしく聞かされたら、怒りませんか!?

 わたしがおかしいの??


 そしてついに、私は限界を迎えてしまった…

 中庭でランチを取っていると、

「『ドブス令嬢』が錯乱して『ドブッ(サ)ス(ぶっ刺す)』ように迫ってきた!」

 などと、見えないところから、聞こえるように言い放ってきた輩がいたのだ。

「…あなたたち、いい加減になさいッ!!公爵家への不敬罪で訴えるわよ!」

 と、怒鳴りつけると、中庭は一瞬で静まり返る。

 全ての視線が、面白い見世物を見るように私に集中していた。

「アンジェーヌ、落ち着いて!」

 サミエラが必死に私を止めようとしてくれる。でも、その彼女の瞳の奥にも、拭いきれない戸惑いの色が浮かんでいるのが、私には痛いほどわかった。


 そして、より一層、このイジメのような状況は悪化していくのだった…


 ◇


 自室に戻った私は、鍵をかけると同時にベッドへ倒れ込んだ。

 サミエラが最後まで心配して家までついてきてくれたけど、「一人にさせて」とお願いして、なんとか帰ってもらった。

(なんなのよ、一体…!)

 悔し涙がじわりと滲む。


 どうして?私が何をしたっていうの?

 ユリウス様にあの言葉を言われてから、たった数日で、学園中が私の敵になったみたいだ。

 まるで、みんなが私のことを「どブス」だと、本気でそう思っているみたいに。

 今まで私を慕ってくれていたはずの令嬢たちまで、あんな残酷なダジャレで私を笑い者にするなんて!


 しかも、ユリウス様に会って真実を問い質したいのに、一向に捕まらないし!


 イライラと怒りで疲れ切ってしまった…ふと鏡をみると、涙の後を残してベッドに横たわる自分がいる…

 鏡に映る自分は、確かに美しいはずだ。『クライネルトの宝石』。それが、今の私の評価のはず。なのに、なぜ。なぜ、皆に『どブス』と罵られなければいけないの?


「どブス!?…ふざけるな」

 鏡の中の自分を、睨みつける。

「ふざけるんじゃないわよ!」

 前世では、あんな理不尽な言葉で死んだ。今世では、こんな陰湿ないじめで心を殺してたまるものか。

 そうだ。思い出せ、前世の私。理不尽なクレーマー、無能な上司、嫉妬深い同僚。私は、もっとタフだったはずだ。

「――ビークール、私!」

 パンッ、と自分の頬を軽く叩く。


 冷静に、状況を分析するのよ。

(…おかしい。絶対におかしいわ)

 ガバッと、私はベッドから跳ね起きた。

 そうだ、これは、ただのいじめじゃない!

 たった一人の婚約者が言った悪口が、ここまで完璧に、伝染病みたいに学園中に広まるなんて、ありえない!だとすれば、誰かが裏で糸を引いて、全員を操っているとしか考えられない!

 首謀者は誰?

 ユリウス様?

 ベアトリーチェ?


 でも、私の心を的確に抉る、あの言葉だけを使って、ここまで、嫌がらせをさせることが可能なのかしら?腐っても公爵令嬢なのよ。不敬罪にされてもおかしくない。

 それでも、わざわざ、あんな大喜利までして言ってくるということは、何かしらの力が働いている?だとしたら…


 ――導き出される結論は、一つ。

「これは『呪い』よ!」

 そう口にした瞬間、目の前の霧が晴れるような感覚があった。

 そうよ!きっとそうに違いないわ!

 私を妬む誰かが、私を社会的に抹殺するために、「誰もが私を『どブス』と罵る呪い」をかけたんだ!

 相手が人ではなく『呪い』なら、やることは一つ!

 呪いを解く方法を探す。

 そのためには、普通の書物じゃダメ。禁忌とされるような、特別な知識が必要だわ。

 目指すは、学園の図書室のさらに奥。特別な許可証がなければ入れない、『禁書庫』!


「お兄様!」

 私は、王太子の側近として王宮に出仕している兄、リヒルトの部屋へ突撃した。

「おお、アンジェーヌ!どうしたんだ、そんなに慌てて」

「お願いがあるの!学園の禁書庫を使いたいから、申請書を一枚、融通してくださらない!?」


 私が単刀直入に切り出すと、兄は、困ったように眉を下げた。

「禁書庫?また何を言い出すんだ…。それより、おまえ、学園で大変なんだって?精神が疲弊してるって噂になってるけど、大丈夫か?」

「失礼ね!この私が、そんなことで疲弊するわけないでしょ?それより申請書!」

 私がいつもの調子でまくし立てると、お兄様はほっとしたように笑った。

「ははっ、だよな!おまえは、『外面、儚げ、内面、心臓に毛が生えたガキ大将』の見た目詐欺だもんな!噂は嘘だってわかって安心したよ!」


 そう言って私の頭をわしゃわしゃと撫た後、真剣な顔つきになる。

「だが、申請書類はダメだ。あれは王家から預かっている大事な物なんだ。俺の独断では、絶対に渡せない」

「なっ…!けち!」

「けちじゃない。公私の別はきっちりつけないと、アランディール殿下に叱られるからな!大体、禁書庫で一体何をするつもりなんだ?」

「…今回の件、呪いなんじゃないかなって…ダメ元でも調べてみたいのよ!」

「ダメモト??うーーん呪いかぁ…それじゃあ、僕の方で少し調べて見るから、アンジェは少し大人しくしてなさい?」

「ーーーぶぅ」

 けんもほろろに断られ、不貞腐ながらも、私は自室に引き返した。


(っち、言いたい放題言ってくれたクセに協力してくれないなんて!…いいわよ。正攻法がダメなら、別の手を使えばいいだけ)

 元OL、なめんな!ルールは破るためにあるんじゃない、潜り抜けるためにあるのよ!


 翌日、私はクローゼットの奥から、ほとんど着たことのない地味なワンピースを引っ張り出し、お兄様が王宮へ出仕するのを見計らって、そっと彼の部屋に忍び込む。

 書斎の机の引き出しから、目当ての羊皮紙と、兄の印章を見つけ出した私は、不敵な笑みを浮かべた。

(お兄様、ごめんなさい!あなたの可愛い妹の、人生がかかっているのです!)


 待ってなさい、黒幕さん。

 この呪いをぶち破って、絶対にあなたに辿り着いてみせる!

 さあ、公爵令嬢(元OL)の、逆襲を始めるわよ。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます♩

短編版より、大喜利大会や、ベアトリーチェとのやりとり、兄リヒルトとのやりとりなどを加筆しております♩


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