第7話:アンジェーヌの作戦
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数日後、リヒルト兄様が、なんと、堂々とアストリア王宮にやってきた!
「アンジェーヌの兄でーす!訪問団の一員です!遅くなってすいませーん!」
と言って、なんか普通に通してもらったという…
この兄はいつもそうだ…人の懐に入り込むのがうまく、ラッキーボーイ。これはもう天性としか言いようがない…そんな兄でも、顔を見ると心細かった心に、勇気が沸いてきた。
「お兄様、それで、情報は掴めましたの?」
「当然だよー!つかんでなかったら、のこのこ王宮になんて来ないよー」
「お兄様!さすがです!で、どんな情報ですの?」
話を聞くと、持ち前の天然たらし能力を発揮し、なんと、市井の食堂で働いているらしい!
しかも、そこで働いている看板娘が、ヴァレリウス公爵の息子・マリウスが懇意にしていて、一緒に働いている間に仲良くなって、その娘から、マリウスが
「いずれ、父上がこの国を乗っ取る。そうしたら、おまえを愛人として王宮に迎えてやろう」
と、とんでもないことを口走っていた、という情報を引き出していた。
「王家の、乗っ取り計画…!?」
「やっぱり、アンジェーヌもそう思うだろ?」
「…ヴァレリウス公爵の狙いは、やはり王家そのもの。そして、彼が『ソフィア派閥』『エリアス派閥』の両方を裏で煽り、内乱を誘発させようとしているってことね」
しかし、だとしたら、この縁談は、一体、その計画の中で何を意味するというの…?
「…お兄様…何か、一歩足らない気がするの…」
「ちょっと整理してみよう。ヴァレリウス公爵はソフィアを女王にして、息子を王配にして、国を乗っ取りたいと思っている」
「そうね。でも、だとしたら、なぜ、派閥の対立を煽る必要があるのかしら…」
「内乱があれば、王家は疲弊する。そこに優しい言葉でもかけて、操って愚窟にしてやろうって魂胆じゃないか?」
「だとしたら、今回のこの縁談はなんのため?」
「うーん…考えられるのは、1つ、僕とソフィアを引き離すため。2つ、エリアス王子を国から追い出すため。」
「でも、エリアス王子を追い出しちゃったら、内乱にならないじゃない。担ぐ者がいなくなっちゃうんだから。」
「そうか…そうすると、なんで派閥を煽ってるのかに戻ってきちゃうね…」
二人で考えても、謎は深まるばかり。命の危険も、刻一刻と迫っている。
手っ取り早く、全ての答えを知るには…。
もう、奥の手を使うしかない!
「お兄様!作戦を考えたので、お伝えします!」
「了解!」
◇
作戦は、数日かけて、水面下で慎重に進められた。
わたしは、マリウスが出席する夜会に、毎日のように出席し、接触をはかる。
「ヴァレリウス公爵子息!やっとお会いできましたわ!」
わたしは儚げな公爵令嬢『クライネルトの宝石』として、マリウスに挨拶した。『やっと会えて嬉しい!でも少し恥ずかしい…』感を出して、マリウス好みの少女を装う。
「はじめまして。クライネルト公爵令嬢。噂に違わぬ美しさですね。」
ねっとりと全身を見回す目付きに、全身がゾワっとする。がんばれ、わたし!
「そんな…お恥ずかしいですわ。ヴァレリウス公爵子息こそ噂に違わぬ、素敵な方で…」
俯いてから、上目遣いにマリウスを見ると、明らかに、『自分に惚れたな、この女』とまんまと騙されているようだった。
「ありがとうございます…アンジェーヌ嬢とお呼びしても?」
「もちろんですわ!…わたしも…マリウス様とお呼びしてもよろしいかしら?」
「もちろんです…それでは、わたしはソフィア王女の元へ行かないと…」
次の夜会からは、マリウスには話かけずに、わざと、目線だけで追うようにした。あくまでも、マリウス本人だけが気づくように…あたかも、憧れの人に声をかけられない、内気な少女のように。
そして…
◇
今、わたしは、セシリア様と、ソフィア親衛隊隊長である、ラインハルト伯爵令嬢のブリギッテ様と3人で、王宮の一室を借りて秘密のお茶会をしている…
「先日は、申し訳ございませんでした」
「一体、どういう風の吹き回しですの?」
「お二方にお願いがあって…」
わたしは、恋人がいること。エリアス王子と結婚するつもりがないこと。今回の縁談は、ヴァレリウス公爵の画策によるものであること。そして、派閥争いを煽り、内乱を起こそうとしていること…
「そんなお話をされて、あなたを信じられるとでも?」
「お気持ちはわかります、セシリア様。しかし、こればかりは信じていただくしか、ございません」
「それで、私達に何をさせようと?」
「大したことではございません。マリウス様に、『アンジェーヌ嬢は、マリウス様に気があるらしい』と、マリウス様の耳にだけ入るようにしていただきたいのです。噂になるのは困るので、あくまでも、マリウス様の耳にだけ入るように…」
「あの、女狂い!?」
やはり、ブリギッテ様は、マリウスのことがお嫌いらしい。さすが親衛隊長
「なるほど…今回の件に、ヴァレリウス公爵だけではなく、ご子息も絡んでいると思われているのね?」
意外に、セシリア様は飲み込みが早かった。
「でも、わたくし達が裏切らないとでも?そもそも、そんなにあなたとは良い関係とは言い難いのでは?」
「…わたくし、王宮で命を狙われまして…」
「「っっな!?」」
「正直、あなた方を疑ったのですが、ある方々にご相談をしたところ、あなた方ではないと結論に至りました…その方々にも、こちらに参加いただいてよろしいでしょうか?」
「「???」」
話の展開に、ついてこれていない二人を置き去りに、侍女に頼んで、お二方を呼んでもらう。
「ブリギッテ嬢」
「ソフィア様!!」
「セシリア!」
「エリアス殿下!」
もう、二人とも、大好きな人に会えて、テンション爆上がりだ。
先ほどまでの、冷たーい空気は一体なんだったのかというくらいに…
「ブリギッテ嬢、セシリア嬢。アンジェーヌ嬢から話は聞いたと思うが、この話は本当だ。わたしたちは誰もこのような縁談は望んでいないし、ヴァレリウス公爵の目論見を詳らかにしたいと思っている。」
「僕たちは、二人が、暗殺などと卑怯なマネをすることはないと、アンジェーヌ嬢にはきちんとお話をした。誰が聞いてるかもわからないお茶会では、我々も、表向きは、縁談に前向きである振りをするしかないんだ。二人も、アンジェーヌ嬢を、そして、僕たちを信じてほしいんだ!」
「「信じます!!」」
即答!え?最初から、この二人に話をして貰えばよかったのでは??
こうして、セシリア嬢の派閥女子、ソフィア親衛隊の力を借りて、マリウスを罠にはめる準備が整った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます♩
とうとう、作戦開始しましたー。次回は兄、暗躍します。
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