第4話:散々なお茶会
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秘密のお茶会から数日後。
わたしは、アストリア王国の貴族社会の情報を集めるため、とある中立派の伯爵が主催するお茶会に参加していた。
会場である伯爵家の庭園は、色とりどりの秋薔薇が咲き誇り、優雅な弦楽の音色が響いている。令嬢たちは、扇子を片手に、楽しげに談笑している。一見、どこにでもある平和な光景。
だが、その実、四方八方から、探るような、値踏みするような視線が、わたしに突き刺さっているのがわかった。
(…さて、と。お手並み拝見といきましょうか)
わたしが、一人で紅茶を飲んでいると、案の定、数人の令嬢たちが、示し合わせたようにわたしの元へとやってきた。彼女たちのドレスは、メーカーこそ違うものの、どこか雰囲気が似通っている。…なるほど、これが派閥というやつね。
「あなたが、クライネルト公爵令嬢ですの…」
「噂通りの、美しい方ですこと。エリアス殿下がお気に召すのも、無理はございませんわね」
口では褒めながらも、その瞳は全く笑っていない。
「よくも、まぁ、この国の地を踏むことが出来ましたわね!」
「王族と縁戚になれると、はしゃぎすぎではなくて?」
次々と小声で浴びせられる、棘のある言葉。
なぜに、こんなにわたしは嫌われているの?
わたしが反論しようと口を開いた、その時だった。
「みなさん。およしなさい。腐ってもこの方はリヒルト様の妹君ですのよ」
凛とした声と共に、一人の令嬢が、群衆を割って現れた。腰まで届く、ウェーブのかかった栗色の髪。他の令嬢たちとは一線を画す、強い意志を宿した瞳。
…この人が、ボスね。『腐っても』って、あなたも大概、失礼ですけど!
「クライネルト公爵令嬢。わたくしは、ブリギッテ・フォン・イェーガーと申します。我々は、ソフィア王女親衛隊。ソフィア様の幸せを一番に願う者の集まりですの」
この方達が、噂の親衛隊!え?じゃあ、同志じゃないの!
「我々の願いは、ソフィア王女とリヒルト様がご一緒になられること。その一点のみ。そのためには、エリアス王子とあなた様の婚約は、邪魔なのですよ」
なるほど…親衛隊の方々は、リヒルト兄様を王配に迎えたいと。そして、『エリアス王子との婚姻を前向きに』考えるためにきたわたしは邪魔者だということね。そうね、エリアス王子とわたしが結婚したら、兄様とソフィア王女は結婚出来なくなっちゃうもんね。
「ですので、早急に、この縁談を断り、母国に帰られた方がよろしくてよ。それが、あなた様にとっても、賢明な判断かと」
そう出来るならやっとるわ!
しかし、表面上は、エリアス王子との婚姻を肯定的にしていないと、ヴァレリウス公爵に怪しまれる…!
「この縁談は『和平の証』として、アストリア王国より正式に持ち込まれたもの。一介の令嬢の意向で、軽々しくお断りなど、恐れ多いことですわ」
ちょっとだけ、「おたくの国が言ってきたんでしょうが!」を込めて、優雅に反論してみる。
「それでは、断る気はないと言うことね!…どれだけ我が国の王族との繋がりが欲しいのやら…淺ましい!」
ーーーカッチーン!前世のOL魂に、火がついた。売られたケンカは、きっちり買わせていただきますよ?
「……あらあら、わざわざ、他国に婿入りを希望されるだなんて。エリアス王子も、自国の良いご縁談が無くて、さぞかしご苦労されたのかしら…」
自国にあんたたちみたいな令嬢しかいないから、他国に婿入りするしかなかったようね!と、最大限の皮肉を込めて、にっこりと微笑んでやった!ブリギッテ様の顔が、怒りでサッと赤く染まる。
場の空気が、一触即発の緊張感に包まれた。
ーーーってちがーう!同志にケンカ売ってどうするのわたし!いや買ったんだった!まずい、まずいわ!
これは完全に、わたしの悪癖…!
「まあまあ、皆様、どうか穏便に…!」
その険悪な様子に気づいた主催者の伯爵夫人が、慌ててわたしたちの間に割って入ってきた。
「クライネルト公爵令嬢、少し気分が優れないのではなくて?どうか、お部屋で少し、お休みになって…」
その、あまりにわざとらしい気遣いは、まさに地獄に仏!わたしは、伯爵夫人の助け舟に乗り、そそくさとその場を退散。そのまま、半ば強制的に馬車に押し込まれて、王宮へと送り返されたのだった…。
馬車の中で、わたしは、一人、頭を抱えた。
(最悪よ…!敵を増やすだけ増やして、どうするのよ、わたし…!)
わたしの、アストリア王国での前途は、暗雲立ち込めるばかりだった。
◇
そのまた数日後…わたしは、セシリア・フォン・アルンスベルク侯爵令嬢からのお茶会に招かれ、アルンスベルク侯爵家の、薔薇が咲き誇る美しい庭園を訪れていた。
ーーーなんだこれ…
招待状には、確かに「秋薔薇を愛でるお茶会」とあったはず。なのに、案内された庭園のガゼボには、セシリア様が、一人きりでわたしを待っていた。テーブルの上には、二人分のティーセットだけが、やけに寂しげに置かれている。
お茶会?いやいや、これって、尋問会と言うのでは?
「……クライネルト公爵令嬢、騙し討ちのような形でお呼びだてして申し訳ございません…」
ガゼボの椅子に腰掛けるなり、目の前に座るセシリア様が、静かに口火を切った。その表情は、噂に聞く「おっとりした」ものではなく、硬く、強張っている。
「……いえ…少し、驚きましたけれど…」
「単刀直入に申し上げます。今回の縁談をお断りして、国へお帰りいただけませんか?」
そうよねー。やっぱ、そうなるわよねー。
「私と、エリアス様は…幼馴染なのです…」
なんだか、昔話が始まった…
「私、昔から病弱で…。5歳の頃の王宮の狩猟会でも、一人、輪に入れずにおりました。皆が、活発なソフィア王女殿下の周りに集まる中、エリアス様だけが、私のことを見つけてくださったのです」
彼女の瞳が、遠い過去を懐かしむように、ふっと和らいだ。
「エリアス様は、森で羽の折れた小鳥を見つけ、誰にも見つからないように、必死に介抱していらっしゃいました。『強いだけが、本当の強さじゃない』と、そう仰って…。本当に、お優しい方で…」
…この話、長くなるのかしら…
「一緒にいるうちに、どんどん、お優しいエリアス様に惹かれていって、恋心が芽生え…そして、最近になりやっと、エリアス様に女性として意識してもらえて、恋人になったのです…」
「…そうですの…」
「それを…今回の仕打ち…正直に申しますと、クライネルト公爵令嬢は思い合う二人を引き裂く、邪魔者なのです…」
え?はっきり言うわね、この娘…母性どこ行った?
「それに……クライネルト公爵令嬢は…エリアス様のお好きなタイプではないかと…」
え?今、ちらっとわたしの胸元見たわよね?何?ケンカなら買いますけど!
「さようですか。ですが、今回のお話は『和平の証』としての縁談ですわ。やはり、女性としての肉体的な魅力よりも、クライネルト公爵家が持つ、知性と交渉力の方が好ましいと、国王陛下もご判断されたのかもしれませんわね!」
わたしの、痛烈な皮肉を込めた言葉に、セシリア様の顔から血の気が引いていく。ワナワナと震えるその唇が、さらに追い打ちをかけるように言葉を紡いだ。
「…な、なんですの…!ヴァインベルクの次期公爵ともあろう方が、他国の王子を婿に迎えるとは…。なんと貪欲な。ご自分の爵位も、我が国の王家の権威も、両方手に入れようとお考えで?」
「あら、ご心配なく。わたくし、前世では企業の管理職でしたので、公爵領の経営と、王家の姻戚としての務め、その両方を完璧にこなすことなど、わけもありませんわ!」
「か、管理職…?」
ーーーってちがーう!またしても買ってしまった!しかも、転生者であることまで匂わせるような、余計な一言まで!
何なの、この国はケンカのバーゲンセールでもやってるの!?
だいたいね、人の身体的特徴をあげつらうなんて、人として最低だと思います!
こうして、またしてもいらない敵を作ってしまったわたしは、セシリア様の「お引き取りください!」という金切り声を背中に浴びながら、スゴスゴと王宮に帰ったのだった…。
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